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伊豫軍印(12) 日本古印の重さ

2023-05-21 08:37:11 | 趣味歴史推論
 伊豫軍印が、遠賀団印・御笠団印などに比べて、外観の重厚さがないと指摘したが、古印(奈良平安時代)の重厚さを示す指標として、重さを取り上げ、多くの古印と比較しようとした。現存する古印について、木内武男「日本の古印」を基に一覧表を作ると、重さの数値が記載されていないことに気が付いた。そこで、国立歴史民俗博物館「日本古代印集成」および、インタネットや文献での個別検索で重さを調査し書き入れた。まだ空欄が多かったので、所蔵者や、広報する市町村文化財課などに、問い合わせた結果、いくつかの回答を得たのでその値を記入した。多くの方の協力を得ましたことを感謝申し上げます。

 現存古印一覧(奈良・平安時代)

No.  印文   時代   鈕の形状  印面(縦×横) 全高 印側高  重さ(g) 備考
1.  隠伎倉印  奈良   弧鈕無孔   62×60     58   5   399 1)2) 
2.  駿河倉印  奈良   弧鈕無孔   60×60     65   8   499.55 3)
3.  但馬倉印  奈良   弧鈕無孔   61×61     59   5   
4.  遠賀團印  奈良   弧鈕無孔   42.1×41.5   52   10   208.5 4)5)6) 
5.  御笠團印  奈良   弧鈕無孔   42.1×42.1   52   9   214.4 7)8)9)
6.  牟婁郡印  平安   莟鈕無孔   46×45     58   5.5  255 10)
7.  兒湯郡印  平安   弧鈕有孔   44×44     56   6   150 11)
8.  御笠郡印  平安   弧鈕無孔   50×50     48   5   212.19 12)
9.  山邊郡印  奈良   弧鈕無孔   47×47     55   8-10  229 13)
10. 伊保郷印  平安   莟鈕有孔   33×33     34   4   58.4 14)
11. 大神宮印  平安   弧鈕無孔   64.34×64.9  60.3  6-9   378 15)
12. 内宮政印  平安   莟鈕無孔   54.1×54.8   55.6  5-6.5  342 16)
13. 豊受宮印  平安   莟鈕有孔   62.8×62.3   47.2  5    312 17)鈕上部欠損
14. 静神宮印  平安   莟鈕有孔   49.4×49.1   61       268 18)      
15. 賣神祝印  平安   莟鈕有孔   50×48     36       
16. 比叡社印  平安   弧鈕有孔   43×40     47       
17. 大和社印  平安   弧鈕無孔   55×53     53       
18. 甕玉大神  平安   莟鈕有孔   52×52     50       189.37 19)
19. 法隆寺印  奈良   弧鈕無孔   60×60     73       405 20)
20. 鵤寺倉印  平安   莟鈕無孔   55×55     49
21. 尊勝院印  平安   弧鈕無孔   55×55     62
22. 造崇福印  奈良   莟鈕無孔   48×48     54   9      
23. 延暦寺印  平安   莟鈕有孔   54×54     45   4      鈕頭部欠損
24. 延暦政所  平安   莟鈕有孔   53×51     46   10
25. 鶏足寺印  平安   莟鈕有孔   55×55     62       320.2 21)
26. 四王寺印  平安   莟鈕有孔   56×56     63   12   468 22)
27. 立石倉印  平安   莟鈕無孔   48×47     55   9    236 23)

検討
1. 印面の大きさ(L×L)と重さ(W)は関係があるはずで、どのような関係式が妥当かを調べた。その結果、W=AL×L  すなわち√W=kL が良いことが分かった。図に一覧表で重さが分かっている印に就いて載せた。完全な方形でなく縦Lと横L’の長さが少し異なる場合は、Lの代りに√LL’とした。→図
図からkの値は3.3となった。
 √W=3.3×L  ここでW(g)、L(cm)
2. 公印で、最大な印面のもの中に、隠伎倉印(方2寸 399g) 駿河倉印(方2寸 500g)がある。官印の諸国印(方2寸)の1面料は549gであるので、上記倉印の1面料が同じと仮定すると、印への収率は、それぞれ73%、91%となる。
3. 数郡に一つ設置したとされる軍団の印が、郡印とほぼ同等な格を持つことが、遠賀団印4・御笠団印5と牟婁郡印6・兒湯郡印7・御笠郡印8・山邊郡印9の方寸と重さの比較で確認できる。
伊豫軍印は、団印や郡印に比べて印面が少し小さく、重さが1/5~1/3と軽い。公印の最も下の平安時代の郷印は、伊保郷印10だけであるが、方33mmと小さく、重さ58.4gである。伊豫軍印は、方36.9mmあるが、重さ50.8gと軽い。方36.9mmの印の上記式の計算値Wは、148gとなり、実物の約3倍の重さとなる。そこまでいかないとしても奈良平安古印であったら、100gはあってしかるべきであると思う。伊豫軍印が、奈良平安時代の公印でない可能性がある。

まとめ
1. 現存する奈良平安時代の古印の方Lと重さWを調べ、相関式を求めた。
 √W=3.3×L  ここでW(g)、L(cm)
2. 伊豫軍印は、団印や郡印に比べて印面が少し小さく、重さが1/3と軽すぎる。奈良平安時代の公印でない可能性がある。

 
注 引用文献
1. 億岐家宝物館測定値(2023.4.19)399g
2. 松平定信編「集古十種 印章之部 下」 デジタルコレクション3/35 重110匁=412.5g
3. 永嶋正春「非破壊手法による銅印の科学的研究」国立歴史民俗博物館研究報告第79集p647(1999)
4. 東京国立博物館測定値(2023.4.27)208.5g
5. 川上市太郎「御笠團印と遠賀團印」『福岡縣 史蹟名勝天然記念物調査報告書』第10 輯 史蹟之部 p64-73(昭和10年3月 1935)55匁6分6厘5毛(昭和10.1.21測定 福岡県標準秤器)=208.74g
6.  永嶋正春 国立歴史民俗博物館研究報告第79集p647(1999)209.00g
7.  東京国立博物館測定値(2023.4.27)214.4g
8.  川上市太郎『福岡縣 史蹟名勝天然記念物調査報告書』第10 輯 史蹟之部 p64-73(1935)57匁2分8厘5毛(昭和10.1.21測定 福岡県標準秤器)=214.82g
9.  永嶋正春 国立歴史民俗博物館研究報告第79集p647(1999)214.75g
10. 国立歴史民俗博物館「日本古代印集成」p172(1996)
11. 「西都市の文化財」p17(昭和49年 1974)
12.  国立歴史民俗博物館「日本古代印集成」p168(1996)
13.  国立歴史民俗博物館「日本古代印集成」p68(1996)
14.  国立歴史民俗博物館「日本古代印集成」p124(1996)
15.  国立歴史民俗博物館「日本古代印集成」p130(1996)
16.  国立歴史民俗博物館「日本古代印集成」p131(1996)
17.  国立歴史民俗博物館「日本古代印集成」p132(1996)
18.  那珂市歴史民俗資料館より 静神社測定値(2023.4.27)
19.  国立歴史民俗博物館「日本古代印集成」p82(1996)
20.  松平定信編「集古十種 印章之部 下」 デジタルコレクション5/35 重108銭目=405g
21.  鶏足寺より 東京国立博物館測定値(2023.5.8)320.2g
22.  国立歴史民俗博物館「日本古代印集成」p147(1996)
23.  国立歴史民俗博物館「日本古代印集成」p17(1996)

図 現存する日本古印の重さ(奈良平安時代)


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