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山下吹(17) 「かたけ物」「かたけ吹」「銀かたけ」「かたけ」とは?

2020-11-08 08:00:00 | 趣味歴史推論
 この1週間で、「かたけ」の意味について妥当と思える解釈にたどりついた。きっかけは赤穂満矩「 鉱山聞書」(1785)(あかほみつのり こうざんききがき)を見たことである。この本には山下吹(2)で書いたように「銀堅気とは、銅の気交りて色黒くなりたる」とあるので、以前から見たいと思っていたができずにいた。しかし、web検索していたら、写本が、webで見られることがわかった。1) 以下に「 鉱山聞書」から「堅気」「かたけ」が書かれた部分を示した。

銀山の山色 およそ200余品有りと云う。→図1
・粘目 ・鵜の目やに ・黄炉粕(きろかす) ・巻とふじ ・堅気(かたき) ・羽殻砒石(はから) ・留粕(るかす) ・緑青透 ・漬しやに ・小白目 ・にすみ ・鳥の返し ・ふけ透 ・黄土光 ・菜の葉 ・茶なのは ・べにから ・似たりのり目 ・六方 ・朱石 ・山鍰(からみ) ・道明地 ・雲母(きら) ・緑青菜の葉 ・のし目 ・群青羽色 ・ 以下略

銀山吹方働方 →図2
・堀荷 ・羽色吹 ・石吹 ・腐吹 ・灰吹の時
・吹湯の上、赤く曇りかかるをかたけ差しと云う。その時楢(なら)木炭を粉にして振りかければ剥げるなり。煙草の粉を振りかけてフイゴを休みて吹けば剥げるなり。

銀位の事 →図3
・銀位白く光り無きを     南鐐の上銀 と云う2)
・白く光り有るを       次とす、日の下 と云う
・赤く濁りたるを       金かたけさし と云う
・黒く濁りたるを       皺目銀 と云う
・赤はぜて光有るを      金かたけ と云う
  これを絞りて銀を除き、金を取るなり、秘法 

銀堅気を抜事 →図4
・銀堅気と云て、銅の気交りて色黒く成りたるを、銀100目に鉛10匁加えて吹き、よく鮮たる時、硫黄と(に?)塩少し入れ合粉にして、振りかけるに、右銀の上に皮かかる。これを火箸にてかき取れば、銅気皆取れるなり。一度も二度も取るべし。

検討
1.「かたけ」は「かたけ差し」「金かたけさし」「金かたけ」の3ヶ所、「堅気」は、「銀堅気」「堅気(かたき)」の2ヶ所があった。
先ず、「かたけ」から考察する。
銀が主成分であるが、「金かたけ(きんかたけ)」という。金が何%か含有されているのであろう。赤く爆(は)ぜて光る外見であるという。
銀が主成分あるが、「金かたけさし(きんかたけ差し)」という。「金かたけ」より、金の含有量が少ないのであろう。
これらの3例の「かたけ」は、「かたけ」の前に付いた金属(この場合には金)が「少し含まれている」という意味であろう。堅い(硬い)という意味はない
「かたけ」を国語辞典で探した。「日本国語大辞典」にだけに、「少し含まれている」という意味の使い方が書かれていた。3)
「かたけ 接尾語 方言 ②名詞に付いて、そのものの混じっていることを表す。」
これが「金かたけ」の場合の解釈、使い方であろう。
これに対して、「銀堅気」は、銀が主成分であり、「金かたけ」の場合と異なる言い方である。もし、「金かたけ」にならうなら、銀が主成分の「銅かたけ」というべきである。

2. 山色(やまいろ)とは、色、模様、光り具合、たとえなどの外見で識別するために名付けられた鉱石のことである。それが200余りもの品種名があるということは、結果としてその金属が得られたので、外見の特徴を探し、名付けたのであろう。
この中に「堅気(かたき)」がある。銀を含んだ鉱石を探しているのに、上記の「かたけ」の意味「すこし含まれている」では、全く名付けにならない。ということは、「堅気(かたき)」は、鉱石の外見や性質を表しているということになる。
多田銀山の重要な大口間歩の鏈の極上品は、「銀銅綴れ」といい、砕こうとしても槌にひっついて砕けないような性質のものであったという。(参照 山下吹(4))
このように堅くて粘りのある性質の銀含有銅鉱石を「堅気」と云ったのではないか。「かたき」は所・時代により「かたけ」とも云われたのではないか。
「宝の山」の多田銀山の「堅ゲ物」が「堅気(かたき)」という鉱石であると推定される。前報の「かたけ物」「堅ケ物」「かたけもの」も同様である。

3. 「銀堅気(ぎんかたけ)」も鉱石と同様に、その「物性が堅い銀」を指すと推論する。銅がかなり多く含まれるので、堅くなっている。

4. 「堅気」や「かたけ物」等の銀含有銅鉱石から銀を取り出す吹き方を「かたけ吹」と呼んだと推論する。
 
5. 山下吹(4)の天秤座・銀座で「かたけ」と呼んだのは、いつも銀を扱っているので、「銀かたけ」の「銀」を省略してもわかるからではないか。

結論
1. 「かたけ物」とは、堅くて粘りのある性質の銀含有銅鉱石をいい、「かたけ吹」とは、銀含有銅鉱石から銀を取り出す吹き方をいい、「銀かたけ」とは、銅が含まれていて堅い銀をいい、銅座の「かたけ」は、銀かたけ の省略であると結論する。
2. 「金かたけ」は、少しの金が含まれて赤爆ぜて光る銀のことをいう。


注 引用文献
1.  web. 工学史料キュレーションデータベース>鉱山聞書
巌州(福島県)耶麻郡下谷地村村長直助所蔵の本を、明治5年(1872)藤本明信が写し、それを明治15年(1882)謄写したものである。著者の赤穂満矩(あかほみつのり)は、尾去沢銅山の山師で天明5年(1785)に鉱山聞書を著した。
図1. 銀山の山色43コマ  図2. 銀山吹方働方46コマ  図3. 銀位の事64コマ  図4. 銀堅気を抜事65コマ
2. 南鐐(なんりょう)は中国の銀山の地名に由来し、純銀に近いもの(Wikipedia)。「銀位の事」の記述によると、純度の高い銀は、光らないようだ。
3. 日本国語大辞典第二版第三巻 p707(小学館 2001)
かたけ 接尾語 方言
①名詞に付けて、そのものもともに、一緒にという意を表す。ごと。ぐるみ。
(岡山県児玉郡、広島県、徳島県、美馬郡、香川県、愛媛県周桑郡)
②名詞に付いて、そのものの混じっていることを表す。
(山口県豊浦郡「砂かたけ」、愛媛県)
③名詞に付いて、もて余したり卑下する気持を表す。など。なんか。
(高知県)
図1. 鉱山聞書 「銀山の山色」の部分


図2. 鉱山聞書 「銀山吹方働方」の部分


図3. 鉱山聞書 「銀位の事」の部分


図4. 鉱山聞書 「銀堅気を抜事」の部分



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