気ままな推理帳

本やネット情報から推理して楽しむブログ

からみ・鍰の由来(18) 「からめる」は、奥羽の方言が源か?

2021-06-06 08:00:40 | 趣味歴史推論
1. 真崎文庫の「至宝要録」(1691)1)には「からめる」1ヶ所と「からめて吹」1ヶ所がある。
銅の石鉑に、鉑にてなき石交りたるは、打ちくだき捨て、鉑ばかりにする、是をからめると云う事、銀鉑に同じ。又土気交りたるは、水にて洗いて鉑ばかり取り、焼竈へ入れる。是は皆能なき銅山の事也。数年よかりし銅山もおとろえたる時はかくのごとし水にて洗うを洗い箔と云。
・金銀石鉑を掘出し、其のままにて吹くを石おろしと云。又吹物とも云。其の石のうちに、かねにならぬ所をば、打ちくだき捨てるを、からめて吹と云。石鉑にはあれども、石おろしには吹かれぬを、うすにてはたき、それを板に取りて、かねにならぬ物はゆり捨て、かねに成る物ばかり板にとりて吹を、はたき物鉑と云う也。土の鉑をくさり鉑と云。是は、はたかずに板に取りて吹きゆり物鉑という也。

ここで、からめて吹の定義は、 「石を打ち砕き捨ててしまって、精製した鉑を吹くことを」、からめて吹ということであろう。「精製した鉑を吹くことを」の文には欠けていると思う。吹とあるので、床でフイゴを吹いて鉑を熔かす操作のことであるから。
「からめる」「からめて吹」と「からみ」の語源は同じ可能性はないか。「からめる」は、奥羽地方で使われ始めたのか、あるいは石見から伝わってきたのか。

2. 「からめる」に対する従来の解釈は以下に代表される。
 麓三郎「尾去沢・白根鉱山史」によれば、2)
「坑内から搬出された鉱石は三沢(元山沢、田郡沢、赤沢)それぞれに設けられた金場に集められる。ここで金工の女房など金場働きの婦人の手によって鉑ごしらえをする。鉑ごしらえというのは、鉱石に交った岩石を取除いたり、粗石の部分を鉄槌で砕き取ったりして精製することで、この操作を「石鍰(から)め」」とも単に「からめる」ともいった。この時謡われる労働歌がいま民謡として伝えられる「からめ節」である。

しかし筆者は以下のような疑問を持った。
「石鍰め」と「鍰」を使ったのは、麓三郎の勇み足ではないか。「鍰」(からみ)との直接的関係はないと思うので。また「からめる」は、動詞である。それの名詞化で「石からめ」と言ったはずである。もとが「絡む」(からむ)という自動詞であれば、他動詞化して「絡める」や名詞化して「絡み」(からみ)や完了形で「絡めて」(からめて)、命令形で「からめ」の言い方はある。しかし「絡む」「絡める」には、上記のような意味はない。

3. なぜ「からめる」「からめ節」というのかを、調べていたら、その由来がわかる可能性がある記述があった。
 鹿角市文化財調査資料82集「からめ節金山踊り」(2005)
『・大正10年7月28日発行の「鹿角」(発行編輯人大里周蔵)に、次のような記述がある。
からめ節について本場というべき尾去沢元山の古老は、次のように語った。「金鉱を見出して尾去沢繁栄の基を作ったのは、慶長10年(1605)南部十左衛門という人と伝えているけれど、それ以前に元山方面において、銅を吹き出した(銅鉱を溶かして粗銅を造ること)のであった。当時、石を台として鉱石を上げ(載せ)、鎚をもって打ち砕くことを「からむ」と言った」のであった。すなわち、からめ節は、鉱石を砕くときの唄というべきであろう。因みに、物を叩きつけることを、今も(鹿角では)ブッカラムという。
秋田県あたりの方言で、①からめる=物で打つこと。「ぶつ」ことを「ぶっからむ」という。②からむ=物で打つの意で、鉱石を金槌でたたき砕くこと、である。
このように、「からむ」とは、「物を叩きつける」と解すると納得する。あるいは、鉱石鉱物と脈石鉱物とが絡み合っている鉱石を、ブッカラムことによって、鉱物鉱石のみを選り分け得ると解すれば、なお納得しやすいと思われる。』

4. はじめて「からめる」でなく、「からむ」と言う語が出てきた。「からむ」があれば、種々の変化ができる。「からむ」から名詞「からみ」、命令形「からめ」が、「からめる」から名詞「からめ」これが訛って「からみ」に変化できる。よって、「からみ」には、上記「からみ」と鉱滓の「鍰」の2系統があることになる。
 古老のいう「当時、石を台として鉱石を上げ(載せ)、鎚をもって打ち砕くことを「からむ」と言った」のは、正しい伝承であるのか。この古老説は、慶長以前の古文書に、「からむ」という動詞が「物で打つ」意味で使われていたら、ほぼ正しいと証明できる。ただなぜ「からむ」というのか、語源はわからない
また、石を砕くという意味の「からむ」「からめる」という方言ができたのは、至宝要録が書かれた時代(元禄)の鉱山でその操作が行われる以前であったのか。

注 引用文献
1. 「至宝要録」 秋田県大館市立栗盛記念図書館所蔵 真崎文庫 写真帳、落合直聴写
2. 麓三郎「尾去沢・白根鉱山史」p228(勁草書房 1964)
3. 鹿角市文化財調査資料82集 鹿角市指定無形民俗文化財「からめ節金山踊り」無形民俗文化財記録作成調査報告書三(鹿角市教育委員会発行 平成17年 2005)
・web. GLNからこんにちは>13 からめ節金山踊り>第3章芸能の歴史>第2節芸能の沿革(1)作業唱としてのからめ節金山踊り  より


最新の画像もっと見る

コメントを投稿