朝が来ると外はガスっていた。今日は景色を楽しめないか?とやや不安になる。
急いでテントをしまい、出発だ。今日は奥穂へ向かってから白出沢を下る。
前日のキレット超えの影響で色々な事に対してビビッている自分がいた。
北穂から下って涸沢岳に登るルートはナカナカのダイナミックスリリングコースである。
高度感は大キレットと変わらない。飛騨側からの強風も同じような物であった。
足場が濡れていないのでまだ前日よりは、まだマシであったが、いつもの鎖場より大事に大事に気をつけて通過した。
途中、飛騨側を見下ろすと深い深い崖が切れ落ちている。槍平小屋の小さく赤い屋根が見えた。
なんとか涸沢岳に登頂すると、岩場の難所は終わりである。
通常ならここでホッとする所だ。が、まだ心の中で引っかかる事があった。
テクテク歩きで穂高山荘に降りる。ザックをデポして奥穂ピークへ往復した。残念ながら景色は無し。
奥穂を降りてくると、涸沢岳以降、心に引っかかる恐怖&緊張がドンドン大きくなっていた。
何故なら北穂小屋で『白出沢を下るのは相当危険だ』という情報を聞いていたのだ。
涸沢岳から白出沢をずーっと観察していたのだが、誰も降りていかないのですね。つーかドコを降りるんだよ!て言う位の急斜面であった。
山荘の従業員のネーサンに聞いてみた
俺 『白出沢は降りていけますかね?』
即答で返って来た答えはこうだ。
ネーサン 『あーよく降りていく人が居るのですが、相当危ないので止めた方がイイです。イヤ止めて下さい(キッパリ)』
俺 『大キレットより危ないのですか?』
ネーサン 『鎖場のような危険ではなく、雪渓が滑るのと、道に迷う事が危ないようですヨ』
俺 『・・・・・』
危険だ!と言うのはマジ情報であった。しかし、新穂高温泉に止めてある車はどうしましょ。
この状況で次の選択肢があった。
①上高地に降りてタクシーで新穂高まで行く
→ウーン安全だね。でもそんなお金無いよ。
②西穂に向かってロープウェーで降りる
→大キレットで恐怖を感じた俺みたいなヒヨッコが行けるルートではないネ。
③大キレットを戻り南岳から降りる
→そんな体力ないよ。逆にアブネーヨ。
④白出沢をブッチギル
→雪渓で滑ったら数百m転げ落ちるかも・・・
朝からドンヨリ心に引っかかっていたのは①と④のどちらを取るかであった。
迷っている所へネーサンのキツイ一言。50%くらい上高地に降りる気持ちになった。
が!自分で行ってどれくらい危ないか?確かめないと気が済まない。
決断は④
岩のゴロゴロ道を降りるのだが、モノスンゴイ急斜面をジグザグに歩く。スントの高度計がみるみるウチに下がっていく。
下から登ってくる人が見えて、チョットホッとしたが、すれ違う時に愕然とした。
皆、ゾンビ面で苦しそうなのだ。声をかけても返事がツレナイ。
地図で見ると駐車場から9時間かかるコースなんで、そりゃ半端じゃなく辛いはずである。
更に歩いていると、雪渓が見えてきた。不安が大きくなる。
何人かとすれ違った時にヒロミがおばちゃんに声をかけられた。
おばちゃん 『アイゼン持ってますか?無いと雪渓で危ないらしいですよ』と言う。
ヒロミ 『持っていません』
俺 『そんなに危ないんですか?』
おばちゃん 『私もここを降りようと思ったのですが、あの方に危険だ!と止められたのですよ滑ったら下の方まで一気に落ちるかも・・・』
俺 『・・・・そんなに危ないのかぁ』
ここで一気にブルーな気持ちになった。上高地に下りるかな。と80%傾いた。
俺は、あの方を見上げた。
俺 『雪渓は、どの位の長さですか?1キロ位続きますかね?』
あの方 『そんなには無いけど、500m位はありますよ。気をつけて行きなさい。キックしながらステップしてゆっくり降りて下さいね』
俺 『分かりました。ゆっくりと蹴りながら足場を作って降ります!』
なぁんて言ったもの途方も無く不安になった。
『雪で滑ったら数百メートル滑り落ちる』て事が非常に怖かった。
少なくとも今までの山行で一番ビビッタ時であった。
しかし心の中でこう思った。
『人に言われただけ判断してはイカン。自分の目で確かめて判断しよう!』
と自分の信念を貫きたいと思ったのだ。
更に更に下っていくと何人かにすれ違う。一人のおじさんと挨拶をした。
おじさんは辛そうであったが、フレンドリーに話しかけてくれた。
おじさん 『小屋からここまでどれくらい時間かかりました?』
俺 『30分位ですかね。しかしここのコースを登るのは苦しいでしょう?』
おじさん 『そうだね。ここの急登はすごいネ。この先、雪渓があるけど、気をつけてね』
俺 『やっぱ、雪渓が危ないですかね?』
おじさん 『ウーン。危ないけど、雪が柔らかいから下の方まで滑る事はないと思うよ。ステップを踏んで時間かけて降りると良いよ』
俺 『そうですか。ありがとうございます!!!』
このおじさんに俺は、スンゴイ勇気をもらった。
雪渓の上端に到着した。ざっと3~400m位あるだろうか。思ったより短かそうだ。
とにかくゆっくりと時間をかけて、ステップをガシガシと踏みながら下る事にした。
最初の数分は恐怖があった。
『滑らないように滑らないように!!!』と祈りながら降りる。
が、ズズズーーーーっと滑るのですね。
『滑らないように滑らないように』てぇのが余計危険なんだ。
逆に滑ってしまえ!とストックをピッケル代わりに偽グリセードを行ってみた。
したらば、ズズズー---っと15m位進んだ。ストックのブレーキもなんとか作動したぜ。
ストックのブレーキ制動が利けばこれは下まで行けるぞ!と希望が出た。
ヒロミもトライしてみたが、上手に滑れている。おーヨシヨシ!希望が出てきた。
滑ったり、キックしたりで、150m位進むと、自信も出てきた。これは死なずに降りれるぞ!
しかし考えが甘かった。丁度雪渓の半分位の所まで進んだのだが、ここから斜度が急になっている。
チョイと実験がてらにシリセードをした。これがヤバかった。
滑り方がズズズーではなく、スイースイーーーーーンという感じで速度が違うのだ。よーしここは得意のストックブレーキだぁ!
ガシ!ギュギュギューーーと斜面に突き刺すが止まらないのですね。脚をブレーキに使うのは、それこそ危険だ。
しかしそうこう言ってもスピードが増して行く。ヤバい!ヤバいぞ!!仕方ないのでカカトでチョンチョンと斜面を蹴った。
スピードが落ちたぞ!もう一度カカトをチョンチョン、ガシガシー!と斜面を蹴ってやっとこさで停止できた。
上部を見るとヒロミが50m位上に居た。。。。
『ここではシリセード,グリセードは止めた方がイイ!ゆっくり降りよう!』
50mの距離を稼いだが、そこからは慎重に慎重にキックステップで降りた。途中、雪を避けてガレ場を進んだが、崩落が激しくて歩くのを中止した。
再び雪渓に戻り、ラスト30m位を必死でステップした時!ヒロミが滑ったのだ。俺の後ろから20m程滑り停止した。雪渓下部で雪が少なく危ない所だ。
俺は焦ってヒロミの所まで滑って向かった。ケツに石が当たったのでナカナカ進まなかったが、ヒロミの怪我が無い事を確認してストックを差し出して岩場に誘導した。これはかなり肝を冷やした。
最後にアクシデントがあったが、なんとか雪渓をクリヤした。この山行での難所を大きな怪我無く通過でき心底嬉しかった。
『止めた方が良い!』と忠告してくれた人や励ましてくれた人に『無事通過できました』と報告したかった。
この先はガラガラの岩場を通過し沢を巻いて樹林帯を急降下した。樹林帯が終わると滝の横の水場に出た。毎年思うのだが、アルプスでは水が貴重であり、水場で飲む水は抜群にウマい。すっかりゴワゴワになった頭をジャブジャブ洗った。
都会に帰ると思う。蛇口をひねるとジャーっと出る水に『贅沢な環境だな』とね。
その先はチョットした急峻なルートを通過して、重太郎橋を渡った。この先は緩やかに下る樹林帯だ。危険は無いが、二人とも疲労が蓄積してナカナカ辛い歩きであった。いい加減樹林帯の歩きが飽きてきた頃、水場と小屋を発見した。ついに白出沢出会に到着したのだ。これで無事に車に帰れる!と心底ホッとした。夜のビールまで我慢したかったが、水場でグビグビ水を飲んだ。最高にウマい水であった。
ラストの1.5時間は林道歩きだ。緊張が解けたせいか、脚の豆が急に痛くなった。駐車場に着くと親指の豆が潰れており名誉の負傷となったのであった。
今回の登山は非常に印象に残り、得る物が多かった。
念願の危険ルートの踏破出来た事、雪渓の怖さを知れた事、北穂からの絶景を楽しめた事、
ナゼ上記のような事を得る事が出来たのか?
それは二人で協力しながら、目の前の困難から逃げずに立ち向かえたからだと思う。
一人だったら達成出来なかったかもしれない。
ヒロミを始めとして、山で出会った色々な人に『ありがとう』と言いたい。
急いでテントをしまい、出発だ。今日は奥穂へ向かってから白出沢を下る。
前日のキレット超えの影響で色々な事に対してビビッている自分がいた。
北穂から下って涸沢岳に登るルートはナカナカのダイナミックスリリングコースである。
高度感は大キレットと変わらない。飛騨側からの強風も同じような物であった。
足場が濡れていないのでまだ前日よりは、まだマシであったが、いつもの鎖場より大事に大事に気をつけて通過した。
途中、飛騨側を見下ろすと深い深い崖が切れ落ちている。槍平小屋の小さく赤い屋根が見えた。
なんとか涸沢岳に登頂すると、岩場の難所は終わりである。
通常ならここでホッとする所だ。が、まだ心の中で引っかかる事があった。
テクテク歩きで穂高山荘に降りる。ザックをデポして奥穂ピークへ往復した。残念ながら景色は無し。
奥穂を降りてくると、涸沢岳以降、心に引っかかる恐怖&緊張がドンドン大きくなっていた。
何故なら北穂小屋で『白出沢を下るのは相当危険だ』という情報を聞いていたのだ。
涸沢岳から白出沢をずーっと観察していたのだが、誰も降りていかないのですね。つーかドコを降りるんだよ!て言う位の急斜面であった。
山荘の従業員のネーサンに聞いてみた
俺 『白出沢は降りていけますかね?』
即答で返って来た答えはこうだ。
ネーサン 『あーよく降りていく人が居るのですが、相当危ないので止めた方がイイです。イヤ止めて下さい(キッパリ)』
俺 『大キレットより危ないのですか?』
ネーサン 『鎖場のような危険ではなく、雪渓が滑るのと、道に迷う事が危ないようですヨ』
俺 『・・・・・』
危険だ!と言うのはマジ情報であった。しかし、新穂高温泉に止めてある車はどうしましょ。
この状況で次の選択肢があった。
①上高地に降りてタクシーで新穂高まで行く
→ウーン安全だね。でもそんなお金無いよ。
②西穂に向かってロープウェーで降りる
→大キレットで恐怖を感じた俺みたいなヒヨッコが行けるルートではないネ。
③大キレットを戻り南岳から降りる
→そんな体力ないよ。逆にアブネーヨ。
④白出沢をブッチギル
→雪渓で滑ったら数百m転げ落ちるかも・・・
朝からドンヨリ心に引っかかっていたのは①と④のどちらを取るかであった。
迷っている所へネーサンのキツイ一言。50%くらい上高地に降りる気持ちになった。
が!自分で行ってどれくらい危ないか?確かめないと気が済まない。
決断は④
岩のゴロゴロ道を降りるのだが、モノスンゴイ急斜面をジグザグに歩く。スントの高度計がみるみるウチに下がっていく。
下から登ってくる人が見えて、チョットホッとしたが、すれ違う時に愕然とした。
皆、ゾンビ面で苦しそうなのだ。声をかけても返事がツレナイ。
地図で見ると駐車場から9時間かかるコースなんで、そりゃ半端じゃなく辛いはずである。
更に歩いていると、雪渓が見えてきた。不安が大きくなる。
何人かとすれ違った時にヒロミがおばちゃんに声をかけられた。
おばちゃん 『アイゼン持ってますか?無いと雪渓で危ないらしいですよ』と言う。
ヒロミ 『持っていません』
俺 『そんなに危ないんですか?』
おばちゃん 『私もここを降りようと思ったのですが、あの方に危険だ!と止められたのですよ滑ったら下の方まで一気に落ちるかも・・・』
俺 『・・・・そんなに危ないのかぁ』
ここで一気にブルーな気持ちになった。上高地に下りるかな。と80%傾いた。
俺は、あの方を見上げた。
俺 『雪渓は、どの位の長さですか?1キロ位続きますかね?』
あの方 『そんなには無いけど、500m位はありますよ。気をつけて行きなさい。キックしながらステップしてゆっくり降りて下さいね』
俺 『分かりました。ゆっくりと蹴りながら足場を作って降ります!』
なぁんて言ったもの途方も無く不安になった。
『雪で滑ったら数百メートル滑り落ちる』て事が非常に怖かった。
少なくとも今までの山行で一番ビビッタ時であった。
しかし心の中でこう思った。
『人に言われただけ判断してはイカン。自分の目で確かめて判断しよう!』
と自分の信念を貫きたいと思ったのだ。
更に更に下っていくと何人かにすれ違う。一人のおじさんと挨拶をした。
おじさんは辛そうであったが、フレンドリーに話しかけてくれた。
おじさん 『小屋からここまでどれくらい時間かかりました?』
俺 『30分位ですかね。しかしここのコースを登るのは苦しいでしょう?』
おじさん 『そうだね。ここの急登はすごいネ。この先、雪渓があるけど、気をつけてね』
俺 『やっぱ、雪渓が危ないですかね?』
おじさん 『ウーン。危ないけど、雪が柔らかいから下の方まで滑る事はないと思うよ。ステップを踏んで時間かけて降りると良いよ』
俺 『そうですか。ありがとうございます!!!』
このおじさんに俺は、スンゴイ勇気をもらった。
雪渓の上端に到着した。ざっと3~400m位あるだろうか。思ったより短かそうだ。
とにかくゆっくりと時間をかけて、ステップをガシガシと踏みながら下る事にした。
最初の数分は恐怖があった。
『滑らないように滑らないように!!!』と祈りながら降りる。
が、ズズズーーーーっと滑るのですね。
『滑らないように滑らないように』てぇのが余計危険なんだ。
逆に滑ってしまえ!とストックをピッケル代わりに偽グリセードを行ってみた。
したらば、ズズズー---っと15m位進んだ。ストックのブレーキもなんとか作動したぜ。
ストックのブレーキ制動が利けばこれは下まで行けるぞ!と希望が出た。
ヒロミもトライしてみたが、上手に滑れている。おーヨシヨシ!希望が出てきた。
滑ったり、キックしたりで、150m位進むと、自信も出てきた。これは死なずに降りれるぞ!
しかし考えが甘かった。丁度雪渓の半分位の所まで進んだのだが、ここから斜度が急になっている。
チョイと実験がてらにシリセードをした。これがヤバかった。
滑り方がズズズーではなく、スイースイーーーーーンという感じで速度が違うのだ。よーしここは得意のストックブレーキだぁ!
ガシ!ギュギュギューーーと斜面に突き刺すが止まらないのですね。脚をブレーキに使うのは、それこそ危険だ。
しかしそうこう言ってもスピードが増して行く。ヤバい!ヤバいぞ!!仕方ないのでカカトでチョンチョンと斜面を蹴った。
スピードが落ちたぞ!もう一度カカトをチョンチョン、ガシガシー!と斜面を蹴ってやっとこさで停止できた。
上部を見るとヒロミが50m位上に居た。。。。
『ここではシリセード,グリセードは止めた方がイイ!ゆっくり降りよう!』
50mの距離を稼いだが、そこからは慎重に慎重にキックステップで降りた。途中、雪を避けてガレ場を進んだが、崩落が激しくて歩くのを中止した。
再び雪渓に戻り、ラスト30m位を必死でステップした時!ヒロミが滑ったのだ。俺の後ろから20m程滑り停止した。雪渓下部で雪が少なく危ない所だ。
俺は焦ってヒロミの所まで滑って向かった。ケツに石が当たったのでナカナカ進まなかったが、ヒロミの怪我が無い事を確認してストックを差し出して岩場に誘導した。これはかなり肝を冷やした。
最後にアクシデントがあったが、なんとか雪渓をクリヤした。この山行での難所を大きな怪我無く通過でき心底嬉しかった。
『止めた方が良い!』と忠告してくれた人や励ましてくれた人に『無事通過できました』と報告したかった。
この先はガラガラの岩場を通過し沢を巻いて樹林帯を急降下した。樹林帯が終わると滝の横の水場に出た。毎年思うのだが、アルプスでは水が貴重であり、水場で飲む水は抜群にウマい。すっかりゴワゴワになった頭をジャブジャブ洗った。
都会に帰ると思う。蛇口をひねるとジャーっと出る水に『贅沢な環境だな』とね。
その先はチョットした急峻なルートを通過して、重太郎橋を渡った。この先は緩やかに下る樹林帯だ。危険は無いが、二人とも疲労が蓄積してナカナカ辛い歩きであった。いい加減樹林帯の歩きが飽きてきた頃、水場と小屋を発見した。ついに白出沢出会に到着したのだ。これで無事に車に帰れる!と心底ホッとした。夜のビールまで我慢したかったが、水場でグビグビ水を飲んだ。最高にウマい水であった。
ラストの1.5時間は林道歩きだ。緊張が解けたせいか、脚の豆が急に痛くなった。駐車場に着くと親指の豆が潰れており名誉の負傷となったのであった。
今回の登山は非常に印象に残り、得る物が多かった。
念願の危険ルートの踏破出来た事、雪渓の怖さを知れた事、北穂からの絶景を楽しめた事、
ナゼ上記のような事を得る事が出来たのか?
それは二人で協力しながら、目の前の困難から逃げずに立ち向かえたからだと思う。
一人だったら達成出来なかったかもしれない。
ヒロミを始めとして、山で出会った色々な人に『ありがとう』と言いたい。