kouheiのへそ曲がり日記

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要領のいいエゴイスト(34)

2015-05-14 08:55:38 | 日記
S館長は、館内のいろいろな部署のさまざまな雑事を、我々警備員を酷使してこなし、「館長、ありがとうございました」と感謝されるのを生きがいとしていた。

K会館の3階に子供服に関する事務所があったのだが、そこでは毎年夏に展示会が開催されるのが恒例であった。
展示会が開催されている間は事務所を空にしなければならない。
そのため、事務所の机や椅子、キャビネットなどを体育館まで運び、その片隅に保管しておくのだ。

「おい、K島、Cコーラのねえちゃんにスタッフ・ジャンパーをもってくるように言え。それを着て作業をやれば服が汚れんやろ」
「さすが館長、目のつけどころがちゃいまんな、すぐ電話します」
「それからT、作業が終わったら風呂入るから、ボイラーを点火しとけ」
「はい」

風呂など入りたくないのだが、入って「気持ちいい」と言わなければ首になってしまうのだから仕方がない。

僕はその日勤務日だったからいいが、アケの者たちは居残りをさせられ、気の毒であった。
約3時間かけて3階の事務所と6階の体育館を台車とエレベーターで何度も往復し、子供服の部屋はきれいに片付いた。

「館長、本当にありがとうございました」と、子供服の女の子が館長に深々と礼をしたが、僕ら警備員にはなんの挨拶も差し入れもなかった。
この娘は30手前であった――いつも神社仏閣を訪れては、結婚できますようにと祈っているという噂であった――が、僕らは「あんな無神経な女、結婚できるか!」と陰口をたたいたものだった。

僕は転職して半年ごろまでは無我夢中で、館長の異常性にまで気がまわらなかったが、だんだん慣れてくると、なぜ警備員がこんなことをしなきゃならないのか? と深刻に悩むようになった。
いろいろな雑事をさせられる。
そして飯を食ったり――館長の命令で夕食は昼食の残り物を食べるように決まっていた、晩飯の弁当をつくる奥さんやお母さんの負担を減らすためだそうだ――、先述のとおり風呂に入ったりすることまで強制される。
僕は自分が奴隷であるような気がしてきた。

S館長陛下の赤子、K島隊長のおべっか使いも僕の神経を刺激した。
俺もやがてこうなっていくのか・・・?
僕はついには、館長の声を聞いているだけで胸が締めつけられ苦しくなるのを感じようになった。

「隊長、僕を異動させてください、このままだと館長を刺してしまいます」
「・・・分かった、なんとかするから、館長にはいっさい言わんといてや」
「はい、よろしく願いします」

せっかく隊員が次々に首になるという異常事態が収まっていたのに、と本社では舌打ちする人もいたそうだが、館長にいっさい辞意を悟られないようにしたため、またM部長の絶妙のとりはからいもあって、僕は表立っては円満にK会館から本店の保安部付警備隊に転属することとなった。(つづく)