「kouheiさん! いままで何人の女と寝ました!?」
今度はクリスチャンの女の子(音楽の実習生、名前は失念)が立ち上がった。
「!? お前は何を言うとるんだ? なんでそんなことこんなところで言わなきゃならないんだ!?」
「ヌード写真もそうですけれど、女の裸見て喜んでるような人間は、人前で偉そうに言う資格はないと思うからです!」
「女の裸の何が悪いんだ? きれいな女性の肉体は美しいやないか!」
すると彼女は論理的脈絡を無視して、ヒステリックに叫んだ。
「だってkouheiさん、授業で『人殺せ』なんて言ったんでしょう!?」
教頭が僕をじろっと見て、下卑た笑みを浮かべた。
「お前はアホか! そんなこと言うはずないやろ! 常識で考えろ!!」
「だってkouheiさんは常識が通用しない人だから・・・」
僕は高校時代、前衛芸術に心血を注いでおり、高校一の変人と呼ばれていたのだ。
「じゃあお前は、俺が朝にはこんばんは、夜にはおはようございますと挨拶しているとでも思っとんのか!? 『僕は性的暴行するやつのことをニュースで見たりすると、腹が立って身体を切り刻んでやりたくなります、もちろんそんなことはしないけどね』と言っただけじゃ!!」
すると僕の左どなりに座っていたI鍵さん(政治・経済の実習生、社会人経験のある人で年上)が「その通りです、僕は授業を見学していました、kouheiさんは確かにそう言ったんです」と言ってくれた。
「当たり前やろが! しんどい思いして教職課程をとって、教育実習で『人殺せ』なんて言ったら、苦労がすべて水の泡やないか!」
「だって先生が嘘言うはずないと思うのが普通でしょ」
「教師なんてほとんどが嘘つきやないか! この世間知らずが!! お前、俺の言ってることが全部本当だったら大学やめなさいな、その『人殺せ』が嘘だと分かったら退学しなさいな! ええな! この約束が守れなかったら、お前はクリスチャン失格どころか、人間失格だからな!!」
のちにこの娘は実際に音楽大学を中退した。
先ほどから、『先生』という言葉が何度かでたことにお気づきであろう。
ご明察のとおり、これはすべてI教諭のことなのだ。
彼が僕を陥れるために罠を仕込んでいたのだ。
まぁ、そのことに気づいたのは、ずっとあとのことであるが。
さて、教頭が自暴自棄に陥ったかのような態度で「お前、大学にジーパンはいて行ってるんやろが!」と叫んだ。
「よく知ってますね」と僕は同じ大学のふたりの女の子の方をにらみ「・・・誰が言いふらしたのかな?」とわざと静かに言うと、ふたりの女の子は泣き声をあげた。
僕は「大学にジーパンはいて行ったらあかんのか! お前今どきジーパンが反抗の象徴だとでも思っているんちゃうやろな? ジーパンなんて今や普通のファッションですよ、この世間知らずのアホが!」と怒鳴ってやった。
教頭は今度は「お前、夜中に散歩しているんやろう! この嘘つきが!!」と喚いた。
「夜中の散歩なんてしてへんわい!」と僕が返すと、T井が「お前、文化祭のときウチへ来て、夜中に散歩していると言うてたやないか!」と大声を出した。
「は~、T井、お前か、俺が嘘つきだと告げ口したのは、高校時代俺がどんな嘘ついた? 言うてみい!」
「・・・本人の前では言えません」
「本人がええ言うてるんやからええやないか、俺はどんな小さな嘘もついたことないなんて、そんなアホなことは言いませんよ、俺も人並みに小さな嘘はついてきたよ、でも、とんでもない大嘘つきだなんて言われるような嘘はついた覚えがないんだよ、高校時代・・・って、その前もその後もやけれど」
「お前、高校時代、わけが分らん芝居やってたやないか!」
「なんや!? これは実際にあった話ですと言って芝居してたわけちゃうやろが! これは自由××団の創作した芝居ですと言ってやってたんやろが!」
芸術のげの字も分からない低俗な凡人というものは、芝居をやっている人間は嘘つきであると考える、一種の心理的法則のようなものがあるようだ。
とりわけ、僕のような前衛的芝居をやっていたような人間については。
「まぁ、結婚詐欺師に3回連続でだまされた女性が男というものを一切信じられなくなったという気持ちは理解できるわな、論理的にはすべての男が信用できない存在だということにはならないよ、でも心理的には、そんな目にあわされたらすっかり男性不信に陥ったとしても同情できるわな、おいT井! お前、前衛的な芝居をやっている人間からだまされたことあるんか?」
「・・・」
「どや、あるんか、ないんか?」
「もうええわ!」
「よくないわ! お前、I先生にkouheiはとんでもない嘘つきですと言ったんやろが! そしたらI先生は俺が具体的にどんな嘘をついたか、お訊きになったはずや、抽象的に嘘つきですと言われ、それを信じ込むなんて小学生や、I先生は大学でてはんねんから、お前はそれに対してどう答えたんや?」
「・・・」
「だいたい俺はとんでもない嘘つきで、俺の言うことはすべて嘘ちゃうんか? だったら夜中に散歩していると言った俺は散歩していないということになるやないか? なんでその言葉だけ信じるんや?」
「・・・」
T井はそれ以上言うべき言葉を失ってしまった。
さて、今まで静観の構えをみせていた校長がやおら口を開き、僕に問いかけた。
「(老若男女と板書して)これ何と読みます?」
「ろうにゃくなんにょですね」
するとN大学のSが大声で嗤った。
「わははは、舌まわらないでやんの、それはろうじゃくだんじょと読むんじゃ!」
「ただ今校長先生が老人の老と若い、そして男女と書いて何と読むとおっしゃったので、不肖私めが『ろうにゃくなんにょですね』とお答えしましたところ、N大学前衛国語研究所主任研究員S助教授が『それはろうじゃくだんじょと読むんじゃ』とおっしゃいました(笑)」
ここから、校長主催の国語クイズ番組が幕を開けたのである。(つづく)
今度はクリスチャンの女の子(音楽の実習生、名前は失念)が立ち上がった。
「!? お前は何を言うとるんだ? なんでそんなことこんなところで言わなきゃならないんだ!?」
「ヌード写真もそうですけれど、女の裸見て喜んでるような人間は、人前で偉そうに言う資格はないと思うからです!」
「女の裸の何が悪いんだ? きれいな女性の肉体は美しいやないか!」
すると彼女は論理的脈絡を無視して、ヒステリックに叫んだ。
「だってkouheiさん、授業で『人殺せ』なんて言ったんでしょう!?」
教頭が僕をじろっと見て、下卑た笑みを浮かべた。
「お前はアホか! そんなこと言うはずないやろ! 常識で考えろ!!」
「だってkouheiさんは常識が通用しない人だから・・・」
僕は高校時代、前衛芸術に心血を注いでおり、高校一の変人と呼ばれていたのだ。
「じゃあお前は、俺が朝にはこんばんは、夜にはおはようございますと挨拶しているとでも思っとんのか!? 『僕は性的暴行するやつのことをニュースで見たりすると、腹が立って身体を切り刻んでやりたくなります、もちろんそんなことはしないけどね』と言っただけじゃ!!」
すると僕の左どなりに座っていたI鍵さん(政治・経済の実習生、社会人経験のある人で年上)が「その通りです、僕は授業を見学していました、kouheiさんは確かにそう言ったんです」と言ってくれた。
「当たり前やろが! しんどい思いして教職課程をとって、教育実習で『人殺せ』なんて言ったら、苦労がすべて水の泡やないか!」
「だって先生が嘘言うはずないと思うのが普通でしょ」
「教師なんてほとんどが嘘つきやないか! この世間知らずが!! お前、俺の言ってることが全部本当だったら大学やめなさいな、その『人殺せ』が嘘だと分かったら退学しなさいな! ええな! この約束が守れなかったら、お前はクリスチャン失格どころか、人間失格だからな!!」
のちにこの娘は実際に音楽大学を中退した。
先ほどから、『先生』という言葉が何度かでたことにお気づきであろう。
ご明察のとおり、これはすべてI教諭のことなのだ。
彼が僕を陥れるために罠を仕込んでいたのだ。
まぁ、そのことに気づいたのは、ずっとあとのことであるが。
さて、教頭が自暴自棄に陥ったかのような態度で「お前、大学にジーパンはいて行ってるんやろが!」と叫んだ。
「よく知ってますね」と僕は同じ大学のふたりの女の子の方をにらみ「・・・誰が言いふらしたのかな?」とわざと静かに言うと、ふたりの女の子は泣き声をあげた。
僕は「大学にジーパンはいて行ったらあかんのか! お前今どきジーパンが反抗の象徴だとでも思っているんちゃうやろな? ジーパンなんて今や普通のファッションですよ、この世間知らずのアホが!」と怒鳴ってやった。
教頭は今度は「お前、夜中に散歩しているんやろう! この嘘つきが!!」と喚いた。
「夜中の散歩なんてしてへんわい!」と僕が返すと、T井が「お前、文化祭のときウチへ来て、夜中に散歩していると言うてたやないか!」と大声を出した。
「は~、T井、お前か、俺が嘘つきだと告げ口したのは、高校時代俺がどんな嘘ついた? 言うてみい!」
「・・・本人の前では言えません」
「本人がええ言うてるんやからええやないか、俺はどんな小さな嘘もついたことないなんて、そんなアホなことは言いませんよ、俺も人並みに小さな嘘はついてきたよ、でも、とんでもない大嘘つきだなんて言われるような嘘はついた覚えがないんだよ、高校時代・・・って、その前もその後もやけれど」
「お前、高校時代、わけが分らん芝居やってたやないか!」
「なんや!? これは実際にあった話ですと言って芝居してたわけちゃうやろが! これは自由××団の創作した芝居ですと言ってやってたんやろが!」
芸術のげの字も分からない低俗な凡人というものは、芝居をやっている人間は嘘つきであると考える、一種の心理的法則のようなものがあるようだ。
とりわけ、僕のような前衛的芝居をやっていたような人間については。
「まぁ、結婚詐欺師に3回連続でだまされた女性が男というものを一切信じられなくなったという気持ちは理解できるわな、論理的にはすべての男が信用できない存在だということにはならないよ、でも心理的には、そんな目にあわされたらすっかり男性不信に陥ったとしても同情できるわな、おいT井! お前、前衛的な芝居をやっている人間からだまされたことあるんか?」
「・・・」
「どや、あるんか、ないんか?」
「もうええわ!」
「よくないわ! お前、I先生にkouheiはとんでもない嘘つきですと言ったんやろが! そしたらI先生は俺が具体的にどんな嘘をついたか、お訊きになったはずや、抽象的に嘘つきですと言われ、それを信じ込むなんて小学生や、I先生は大学でてはんねんから、お前はそれに対してどう答えたんや?」
「・・・」
「だいたい俺はとんでもない嘘つきで、俺の言うことはすべて嘘ちゃうんか? だったら夜中に散歩していると言った俺は散歩していないということになるやないか? なんでその言葉だけ信じるんや?」
「・・・」
T井はそれ以上言うべき言葉を失ってしまった。
さて、今まで静観の構えをみせていた校長がやおら口を開き、僕に問いかけた。
「(老若男女と板書して)これ何と読みます?」
「ろうにゃくなんにょですね」
するとN大学のSが大声で嗤った。
「わははは、舌まわらないでやんの、それはろうじゃくだんじょと読むんじゃ!」
「ただ今校長先生が老人の老と若い、そして男女と書いて何と読むとおっしゃったので、不肖私めが『ろうにゃくなんにょですね』とお答えしましたところ、N大学前衛国語研究所主任研究員S助教授が『それはろうじゃくだんじょと読むんじゃ』とおっしゃいました(笑)」
ここから、校長主催の国語クイズ番組が幕を開けたのである。(つづく)