kouheiのへそ曲がり日記

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要領のいいエゴイスト(33)

2015-05-13 05:00:42 | 日記
結局僕の論文は雑誌に載らなかった。
僕の後輩N崎は、H教授の検閲をうけず、ノーチェックで論文――それは、統合失調症患者が書いたような、学術論文とはとうてい言えない支離滅裂なものであったのだが――を掲載してしまった。

しばらくたったある日、雑誌がでてからのゼミでN崎の論文の合評会がおこなわれた。
N崎のことを毛嫌いしていたY井助手が、彼の論文の混乱ぶりを次々に暴いていった。
H教授は何度もうなずき、ホンマそのとおりやとくりかえした。

「ウチの子の書いたもんやから読んだけど、よその子のなら、絶対こんなもの読まんわ、これからは君が何を書こうとも、名前みただけで読んでもらえんのや、そこのところ分っとるか?」
「・・・」
N崎は、かわいそうにうなだれてしまった。

その頃、没になった僕の論文のコピーがあちこちで読まれたらしい。
――あのN崎君の論文を雑誌に載せて、彼の論文を没にするとは・・・H先生、すごいイジメだねぇ――
H教授が僕をいじめているという噂がひろまったようだった。
なぜかというと、僕の論文の評判がかなりよかったからだろう。
僕の論文がH教授の評価どおり、とるにたらないものだったら、誰もイジメなどとは言わないはずだから。

「H先生が見せなくていいというところを、君がどうしてもチェックしてほしいと頼んだんであって、べつにイジメでも何でもないやんな?」
「Zさん、それはたしかにチェックを頼んだけれど、僕の論文を没にしてN崎のあの論文を載せるなんて、僕がなんぼお人よしでも――いや、僕は自分がお人よしであることを恥じてはいませんが――これがイジメ以外のなにものでもないということくらい分ってますよ」

Zさんは、非常に苦々しい表情をした。

「君がH先生をテストしたんだって言うてたやないか!」
「それは言いましたけど、あれはいわゆる負け惜しみでね、・・・でも僕はこんなイジメには負けませんよ、こんなことくらいで参ってたまるか!」

だが僕の心は、そのときすでに限界を超えていたようだ。
僕はかなり辛抱づよいほうなのだが、ひとたび心の線が切れると、バッとすべてを投げだしてしまうのである。
女心はよく分らないけれど、失恋していったん心の整理をつけてしまうと、未練もなにもなくなる女性の心理に近いのかもしれない。
僕は退学の準備を急ピッチで進めた。(つづく)