kouheiのへそ曲がり日記

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要領のいいエゴイスト(31)

2015-05-11 05:03:11 | 日記
Z氏は現在H大学の教授であるが、もともとK大学の大学院出身である。
Aほどではないが、Z氏もまた、大学院生としては異様ともいえる知性の持ち主だった。

彼は、マルクスが「私はマルクス主義者ではない」と言ったことをまったく理解できなかった。
また、明証可能性と反証可能性とがまったく次元の異なるものであることも、N口教授にこんこんと諭されるまで気づかなかった。

それなのに、非常に奇妙なことに、Z氏は――同級生のT井氏とともに――自分にかなりの学問的才能があると信じて疑わなかった。

だが僕はZ氏が好きであった。
彼がおべっか使いとは真逆の精神構造をもっていたからである。
だがそれは、彼がH教授のおもちゃであることを意味してもいた。

「この封筒に宛名書いたんは、Z、お前やろ!」
「! は、はい」
「相手の名前は真ん中に書くんじゃ! こんなはしっこに書いて!! お前は目上の人に対する気遣いが足りない、といつも言うてるやろ!」
「すいません!」

H教授も、なんというかZさんには、心置きなく怒鳴り散らせるようであった。
彼はしかし、権威主義的パーソナリティーの持ち主でもあった。
僕にはどうにも理解ができないのだが、彼は、学問の才能は先生・先輩・同輩・後輩の順に少なくなっていくと考えているようであった。

Z氏は、僕よりも自分の方がかなり上だと思っていた。
Z氏にかぎらず、他人から観ると僕はどうも遊び人にみえるらしかった。
じつは学問や芸術に真摯に邁進していたのだが・・・。

さて僕は、雑誌に載せる論文を書き上げ、H教授に事前チェックをお願いした。
だいぶ締め切りもすぎていたし、H教授はいいからそのまま載せろとおっしゃったのだが、僕は目を通していただきたく、さらに頼みこんだ。
教授は、それならと原稿のコピーをもって帰宅した。

翌朝、僕の家に電話がかかってきた。
H教授であった。

「今日、大学へ来れるか?」
「はい」
「じゃあ、すぐ来なさい、あの論文、問題ありすぎや」(つづく)