泰阜村の森のようちえん。
「まめぼっち」と呼ばれる活動だ。
ここは、泰阜村の元学校林。
2010年3月に廃校となった泰阜北小学校の旧学校林である。
1940年代、まだ薪ストーブが主流だったころは、燃料を調達する薪炭林として利用されていたという。
時代が変わり学校から薪ストーブが消えるとともに、子どもたちの声が森林から消えた。やがて手入れのされない木が増え、暗い森になって放置されていたのだ。
それが今では、森のようちえん「まめぼっち」や、村のこどもたちの体験活動「あんじゃね自然学校」の活動場所として再生されている。
もう10年ほど昔の話。
森林に子どもたちの声を取り戻そうという願いから、私たちはツリーハウスづくりを計画した。
村の製材所や林業士、プロのツリーハウスビルダー、グリーンウッドのスタッフ、そして村の子どもたちが4回にわたってワークショップを行なった。
もちろん子どもたちのアイディアをもとに設計する。
高さ5m、床面積6畳、窓やドア、ロフトまでついた立派な小屋だ。
この学校林の思い出を村の古老に聞いたことがある。
「いやだったのはな、薪を背負板にたねる(束ねる)ことが上手くできんかったことだな」
どうやら学校林に薪集めに行くのは楽しいことばかりではなかったようだ。
なんせ学校まで、ズルズルと変な格好で薪を背負わなければならなかったからだ。
「そうしたらな、上級生が見かねて背負板にたねる(束ねる)のをやってくれたもんだ」
当時の子ども同士で助け合っている。
ツリーハウスを建てるときも同じだ。
小6の子が小1の子に手を添えて作業を行なった。
昔と今では旧学校林の使い方、活動内容は違う。
しかし、大事なことは受け継がれている。
それは、この林に埋め込まれている教育力だ。
「2人で行動すること。1人っきりにはならないこと」
かつて山師だったおじいま(おじい様の意味の方言)は、夕暮れ迫るころ、何頭も熊をしとめたこと、熊と出会ったら逃げるのは容易ではないことを、子どもたちに伝えた。学校林の周りの木には熊の爪跡がある。
森林はどんどん暗くなっていく。
子どもたちは、ゴクリとのど鳴らしながらおじいまの話を聞いている。
その後、あれだけ言うことを聞かなかった子どもが、勝手に1人では行動しなくなった。
子どもたちは学んだ。
この森林で過ごすには、助け合うことが必要なこと、人の言うことを聞くことが必要なことを。
ツリーハウスが完成し、戻ってきたのは子どもの声だけではない。
この林に内在していた教育力も戻ってきた。
今ではこの森は、子どもたちの一番人気の場所になりつつある。
それは、この森林が村の歴史や村人の存在と切り離されないための大切なことを学べる場であることを、子どもたち自身が自覚しているからなのだ。
今日も、幼児たちが縦横無尽に森を駆け抜ける。
とても気持ちよさそうだ。
この森が、こどもたちの育ちと学びを支えている。
だから、この森に来ると、私まで心地よくなる。
代表 辻だいち