ミル姐さんのカフェ



アニメ演出家を生業にしている兼業主婦のたわいない呟き

若手育成の意味

2011-02-13 09:35:15 | 仕事
予告通り、若手育成プロジェクトの目的についてのあくまでも私見を書きます。

今回のプロジェクトに関しては、予算配分について賛否両論出ています。
というのは、プロジェクトにおける作画の対価が、現行の一般的な報酬に比べ3倍にもあたる高額設定であるからです。
『3倍』ときくと一般の方々はもの凄い高額なものを想像されるかと思いますが、元々の価格設定が低いということは念頭に入れて頂きたい。まずその価格設定の低さが問題になっている業界なのです。
だからといって、一気に3倍に賃上げ要求するためのプロジェクトではありません。その目的に関しては後述しますので、『贅沢言うな!』とか反射的に反応しないようお願いします。

『1作品におけるそれらの対価設定を下げて、募集件数を増やすことはできないのか』・・・そういった意見がでるのも理解できます。それも一つの考え方だと思います。
しかし、私は今回のケースはこれでよかったと思っています。
このプロジェクトの目的は、貧困に喘いでいる若手アニメーターの生活を一時的に救済するだけのものではないからです。
そもそもが、一回こっきりの育成メニューで生活が安定したり、個人の技術が飛躍的に向上することは考えにくいですよね。
もちろんプラスにはなりますが(そうでなければ育成の意味がありません)、このプロジェクトを通過したらそれでもう一人前みたいなことにはなり得ません。
だからこれは、単純な技術の向上だけを目的とした価格設定でないということです。
もう一つの目的は『プロとしての意識の向上』

今の通常の作業環境ですと、前述した通り価格設定が低くスケジュールも少ないため、殆どの場合リテイクができなくなります。勿論ダメな物はダメなんで直すことはしますが、直すのは作画監督であったり演出であったり。
『リテイク』という名目でありながら、本人に戻る事が無くなってきているのが実情です。非常に残念なことですが。
『スケジュールがないから』『これを返すと当人の生活に響くから』・・・と返さなくなってしまったために、当の本人はどこが悪かったのかわからないままに、その『ダメな』レベルが当たり前だと思い込んでキャリアだけを積んで(これをキャリアとは言わないかもですが)しまいます。
これではまったく技術は向上しませんし、リテイクをする・・・先方が納得するまでのブラッシュアップをするという習慣が身に付きません。
今回のプロジェクトでは充分なスケジュールと充分な予算を確保することにより、そのブラッシュアップを可能にしました。ダメな物は10回でも20回でも書き直す。

そう考えれば3倍という価格設定は、リテイクを出す側が気兼ねなく返し続けるために必要な数字です。下手したら1カットに一ヶ月かかってしまうことを考えるとむしろ足りないかもしれませんが、ここが限界でしょう。
現実の設定価格とあまりにもギャップがですぎると通常業務に戻れなくなりますから。
育成対象である若手さんには、これによって自分の今の力量を知り、対価分の仕事を完遂する責任感を養って頂く・・・それがこのプロジェクトの一番の成果になるのではないかと私は思います。

ここまで読んで、『甘ったれんな。プロなんだからそんな意識初めから持ってて当然』と思われる方も多いでしょうが、現在において味噌を自宅で作る若い人たちが殆どいないのと同じようなことだと考えては頂けないでしょうか。
仕事初めの段階からそういう環境であったなら、そこに思い到らなくても仕方がないかな・・・と。
こういう環境になってしまったのは我々40オーバーからの世代の責任で、本当に申し訳なく思っていますが、だからこそ今の段階でプロとしての意識を芽生えさせて頂きたく、このプロジェクトに賛同している次第です。
このプロジェクトに参加された若手さんには、これが終ったからとそこで留まることなく、今回培ったものを生かしてさらに技術を伸ばして頂きたい。
単価が増えることだけに満足しないで、それによって今まで難しかったスキルアップが可能になった事を認識し、今後は自らの意志で精進して頂きたい。
お金よりも何よりも『誰にも奪えない固有の財産』になるものを得られるチャンスであると分かって欲しい。
お金を稼ぐためだけにこの業界に入った訳ではないですよね。
プロジェクトが終了した後はまた通常の仕事形態に戻ってしまうかもしれません。でも芽生えたプロ意識だけは手放さないで下さい。それこそがあなたの固有の財産です。
その財産はあなた方以外に守る事ができません。それを守る支援は他人にはできません。
自身の人生です。自身で大切にして下さい

後、『何故アニメーターだけ!?若手育成なら演出も若手にしろ』という声をききますが、それは誰が育成するのでしょう?
育成するには『育成される』人と同じだけ『育成する』人が必要です。
全てのパートを一気に若手にしてしまったら倍の人数必要になりますよね。ただ作品を作らせたら育成・・・ということにはならないので、指導役が必要ですから。
なので、今回はアニメーターに絞ったのではないでしょうか。演出育成に関してはまた次の機会に設けられるかもしれませんし、アニメーターに比べ1作品についての必要人数が少ないので、こういったプロジェクトでなくて会社単位でも育成は可能だと思います。まずは会社に掛け合ってみましょう。
自分が尊敬する監督さんのところにギュウギュウ押し掛けて行くのも一つの手段。とにかくまず動いてみる事が重要です。
王子様は待っていても現れませんよ~

次はJanicaの今後の運営について思う事を書こうかと思います
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