ミル姐さんのカフェ



アニメ演出家を生業にしている兼業主婦のたわいない呟き

守られるべきものは・・・

2010-03-16 19:43:57 | 仕事
不況です。アニメ業界ももちろん大変です。
一時は未経験者であっても仕事に困る事はない・・・という時期もありましたが、今は他の業界と平等に不況のあおりを食らっています。
倒産したり、縮小したりする会社も目立ち始め・・・報酬が未払いのまま生活に困窮しているスタッフの喘ぎ声を聞くと、どうにかならないものかと歯がゆくてなりません。
『もう生活ができないから・・・』とやめていく能力のある人たち。彼らの生活を守れなければ、業界はたちゆかなくなります。
そもそも、本来貰えるはずの報酬をもらえない・・・または突然減額されるというありえない状況を生み出す原因は実に明らかです。
何度かこのブログでも、メインページの方でもお話ししていると思いますが、アニメ業界人の半分以上(とくに原画マン、演出)は会社に所属していないフリーランスです。
我々フリーランスの生活を保障してくれる・・・守ってくれるものは全くありません。法ですら守ってはくれません
なぜなら、仕事の契約が口約束でしかないからです。

例えば仕事上不当に生活を脅かされることが起こり、それを訴えたいと思っても、その証拠となる書面、契約書は殆どの場合存在しません
ありえないことですよね。それは『契約』とは言えないことは分かっています。でも、なかなかそれをただす事が出来ない現実があります。
まず、アニメーターや演出家は、特別な契約を交わさない限り、著作権を主張することは今現在できません
これはアニメーションが集団作業によるものであり、これを全て認めてしまうと著作権保持者が多くなりすぎて、保証、管理する事が非常に難しいため、著作物(原画やコンテなど)を権利を含めて『買い取り』にするという暗黙のルールになっているからです。なので、今後も認められる事はまずないでしょう。それはやむを得ないことですし、それをどうこうしようという物でもありません。
そういった細々とした金銭のやりとりがないため、契約書を交わすことが大抵省略されてしまいます。これが命取りなんですよね。
いざ、一方的に契約を反故にされ、理不尽さを公に訴えた所で、勝ち目はないんです。弁護士の相談料5250円が無駄になってしまうだけです。
大手の会社さんでは契約書を先方から提示される事がありますが、それらは大概先方の権利を守るための物であって、個人を守ってくれるものではありません。また、作品毎に変わる労働条件を全て満たすものでもありません。
本来守られるべきは立場の弱い個人であって、その個人によって業界が支えられている事を忘れてはいけないのではないでしょうか。
契約書は作品毎に、作品の状況に応じた契約内容でその都度交わしていかなければ意味がないのでは?
しかし、そこまで発注元に要求するのは酷というもの。分量がハンパないですからね。
だから自分の生活は自分で守るしかないんです。
こういう手続きを『面倒くさい』と言って避けてしまう人、業界にはとても多いです。わかりますよ。私も面倒ですから
でも、契約書を交わすまではいかなくとも、発注表を発行させ、納品書をつけて納品し、受領書を返してもらう・・・それは今後自分たちのために必要な手続きだと思います。とにかく書類を残す
口約束でも安心だった・・・『仁義や良心』で成り立っていた業界ではもはやありません。
日本で培われた『ジャパニメーション』技術を後世に残すためにも、まず自身の生活の安定(金銭のことだけでなく休暇や労働条件も含めて)を重要視して下さい。
体を壊してまで何かをすること・・・それは美徳ではないと私は思います。せめて人としての当たり前の生活が営めなければ、いい作品は作れないと思いますから。


体を壊したり、生活がたちゆかなくなってやめていった人たちに何も出来なかった事が本当に悔やまれてなりません。
もっと早く相談してくれたら・・・というレベルでもなく、今の私にはそんな人たちを救ってあげられる力が根本的にない
いずれはどうにかしたいと思います・・・でも今現在困窮している人たちに手を差し伸べることができないのです。
今、まさにその『手』を持っている偉大なる方々・・・どうか彼らの声を聞いてください。彼らの能力を葬らないで下さい。
本当に本当にお願いします。
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4 コメント

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知りませんでした (南 久海)
2010-03-21 00:06:34
アニメ業界では「口約束」・・・というところ、知りませんでした。かなり驚いています!!今時契約書も取り交わさずに仕事をしている業界があったとは・・・っ。義理人情、仁義なんてものは本当に過去の話の中にしか出てこなくなってきてしまいましたものねぇ~。悲しいです・・・

それにしても、日本だけではなく海外にまでも普及しているアニメ業界がそんなにも不況に陥っているとは、それこそ「殿堂入り~」とか考えていたお偉い人たちにも動いて欲しいですよね。日本のアニメをもっと海外にまでアピールしたいのであれば、それなりに作り手であるみなさんの保護に注意を払って欲しいです。
返信する
そうなんです・・・ (ミル姐)
2010-03-22 15:46:10
契約書を交わしたり、賃金の保証を受けている人たちは一部の管理的職についている人たちで、殆どの人たちは常に職を失う危機感と隣り合わせで生活しています。
職を失うだけならまだ営業かけてなんとかなりもしますが、やった仕事の賃金が支払われないというのはもう、『死ね』と言われてるのと一緒です。
そもそも贅沢できる程のお金を稼ぐ事自体大変な仕事ですから、貯蓄を残すこともままならない。次の入金をあてにして細々と暮らしているところに『未払い』なんて、どんな鬼かと。
脚本家の方々は著作権の扱いがアニメーターとは違いますので、それを管理してくれる協会が存在し、徴収を代行してくれたりもしています。
しかしながらその他のアニメ業界人は前述している通り、協会を作っても権利の主張や権利料の徴収代行などまではなかなか手を出せないんですよね。
個人間で独自にそれをやろうとしても、特に原画マン(動画マンは社員さんが多いので、逆に保証されたりするんですが)は1話数につき15人と換算し、2クール(26本)のテレビシリーズで計算しても、のべ390人。これを毎度毎度繰り返すのは、会社的にも確かに厳しいんですよ。
だからある程度テンプレートが必要になってくるんですが、(本記事にある書面のやりとりみたいなこと)それも浸透させるのは骨が折れる作業です。
ものすごい影響力のある誰かの一声があればねぇ・・・
それが国を動かしてる人でももちろんいいんですが。
まずはアニメにも詳しいひまわりのバッジをつけた人が、何かいい知恵を授けてくれはしないかと、待ち望んでいます。
返信する
Unknown (う~む)
2011-02-09 19:04:30
そのためのjanicaですよね
今は少々混乱していますが強い組織になってほしい
返信する
組織と個人 (ミル姐)
2011-02-10 13:44:43
janicaの混乱に関しては、正直私は理解し難いです
私も正会員ではありますが、入会したのは去年であり、その時にはすでにこの問題は発生していたからです
なぜここまで揉めることになるのか・・・
もっと早い段階で双方が第三者の前でそれぞれの主張を公開し、第三者の判断に委ねれば、事はここまで大きくならなかったのではと思います
というのは、もともとの原因は意外に些細なというか単純な、双方の意見の取り違いにあるのではないかと思っているからです
もともとが同じ志のもとに集まった人たちなのだから、議論を尽くしてわかりあえない筈はないと思います
なので、次の総会では是非、ひとまずは相手に対しての悪印象を横において、冷静にお互いの意見を聞いて欲しいです

『強い組織』ということですが、そのためには『個人の自覚』が必要だと思います
この組織に属している自覚、何かしかの役割を担っているという自覚です
誰かが何かをしてくれるのを待っているのではなく、自分から動き出すことをそれぞれ個人で始めれば、組織自体は自然と強くなると思われます
この親記事は、それを若い人たちにして欲しいという願いから書かれた物で、全面的に誰か(組織)に助けて欲しいという類のものではありません
janicaという組織は個人では賄いきれない問題に関して手をさしのべるものであって、各個人の生活の保障を約束する性質の物ではないと個人的には考えています
前レスのラストに書いてありますが、知恵を授けて下さるだけでいい
行動するのはあくまでも個人です
だってその人の人生ですからね

だから理事になる方はベテランと若手、うまくバランスがとれるのが理想です
経験値の高いベテランの指導を受けて若い人に今の段階から自覚を持ってもらわないと、その後が続かない
後が続かなければ組織は強くならない
組織を固めるのは一朝一夕にいくものではありませんから

・・・他にも色々思う所はありますが、時間のある時に親記事の方に書かせてもらいます
ちょっとつらっと流してしまう問題ではないと思うので

問題提起ありがとうございました
言い訳ではありませんが、私もこの問題をただスルーしていた訳ではありませんのでご理解下さい
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