
このタイプのポータブル・ベースの起源は1985年にAlun Ashworth-Jones と Nigel Thornboryの二人によって開発されたアシュボリーAshbory(開発者ふたりの名前からとった)という楽器に端を発します。(上の写真中央、右は今回のカーラ・ベース・ウクレレ、左はラニカイのバリトン・ウクレレ)
その後フェンダー社からDeArmondのブランドで大々的に発売されるようになり、わが国にも入っていましたが、あまり人気がないため販売中止となり、入手希望者は現在米国から直接購入しています。
一方、ハワイ島のギターとウクレレの名工でNUAの名誉会員でもあるデイヴィッド・ゴウムス(ゴメス)がこの楽器の構造をウクレレ型の楽器に取り込んだ「ベース・ウクレレ」を開発し、その親しみやすい形状から話題を呼びました。(下の写真左。右はコアロハ・テナー・ウクレレ)
ゴウムスの製品はワース・クリエーション経由で神戸ウクレレ倶楽部主宰者でNUA会員でもある岩本さんがいちはやく購入し、各地で演奏をされるようになりました。下の写真は岩本さん・・・ホームページより転載。
ただ、アシュボリーもゴウムスの製品も弦の材料としてシリコン・ゴムを使用していたために「弦の表面摩擦が大きすぎて指を滑らせにくい」「弦表面のちょっとした傷でもすぐに切れてしまう(特に1弦)」という二つの欠点を持っていました。岩本さんは摩擦の問題に対して布製の指サックや手袋を使うなどと苦労されていました。
そこでワースの高橋さんは岩本さんから提供されたアシュボリーやゴウムス製品を使っていろいろ研究した結果、滑りがよく、しかも切れにくい「ワース・ベース弦」の開発に成功し、海外にも販売するようになりました。下の写真中央、左はアシュボリー用シリコン・ゴム弦、右はパーホエホエ弦。
この新しい弦の素材はモーターを使った機器のプーリーに掛けるベルトに用いられる「ポリウレタン」で、工業用に使われていて信頼性も高い素材です。
ただ、この素材にも欠点があります、それは「滑りやすい」ために従来のシリコン・ゴム弦のように「抜け止め」目的で弦の端末に結び目による「太い部分」を作ってもすぐにスルスルとほどけてしまうことです。
そこで高橋さんは強電分野で電線の端末を機器の端子に締め付ける目的の「圧着端子」をこの端末にかしめることで結び目にかわる「太い部分」を構成させることに成功し、ウレタン弦が実用になったのです。
この構造は後述します「パーホエホエ弦」にも使われているのですが、権利関係がどうなっているのか?までは知りえませんでした。
アシュボリーとゴウムスのベース・ウクレレ、そしてその後アキオ楽器オリジナルとしてもつくられるようになったベース・ウクレレのいずれもが「フレットレス」すなわちスチールギターのようにフレットの目印を印刷した指板はあるのですが「フレット線」がないために、その目印を頼って演奏せざるを得ない、という問題点もありました。
もともとアップライト・ベース(コントラバス)を弾く方はフレットレスでも対応できるかも知れないのですが、ウクレレやギターの世界のひとがこの楽器を弾くのはかなりの技術と「耳」が必要になります。
以前わが国でも販売されていたアシュボリーの人気がなかった理由のひとつはこのことかも知れません。
従来の「ウクレレ・ベース」にはもうひとつ「高価である」という問題点がありました。ゴウムスの製品、アキオ楽器のオリジナル、そして米国ロード・トード(Road Toad)社の製品のいずれもが10万円から20万円という価格であったこともこの形状の楽器の普及を妨げていたと思います。
・・・・ と、かなり長い前置きでしたが、今回ご紹介しますカーラ(Kala)ブランドのベース・ウクレレはなんと定価599ドルで市販されている手ごろな楽器なので、円高の現在でしたらソフトケースをつけて送料と日本での消費税を加えても6万円前後で購入できます。
カーラとは中国製の廉価版ウクレレ「ラニカイ」(ホーナー社が販売)でスタートした製品の自社ブランドで、現在でも両ブランドが併売されいるなか、カーラのほうは多彩な品揃えを誇っています。
このカーラが上記のロード・トードに乗り込んで共同開発したものが今回の製品で、いたるところにコストダウンなどの試みが施されている楽器です。
まず、いままでフレットレスしか世の中に無かったところへ「フレット付き」を導入しました(カーラでもフレットレスは製品化されていますが)。アシュボリーが「フレットレス」で登場したことで「このタイプの楽器では弦が隣のフレットにふれてビビリ音を発生させるのだろう。」と思い込んでいたのですが、今回フレット付き製品を弾いてみたところ、そのような心配は全くありませんでした。
このことはウクレレやギター等のフレット楽器に親しんできた人たちには大きな福音で、いちいち指板と耳でピッチ(音高)を確かめながら弾く必要がなくなったわけで、極端には「目をつぶって」でも弾けるようになりました。
さらにボディーのサイズも検討したようです。従来のベース・ウクレレは「どうせボディーでは共鳴しないような低い周波数だから」という判断のためかコンサートサイズのボディーを採用した楽器ばかりでしたが、カーラの製品はそれより2段階大きなバリトンサイズになっているのです。
これにより低音まで共鳴しやすくなり、アンプを通さずに演奏してもそこそこの音が聞こえるのです。このことは深夜でもベースの練習が可能、という大きなメリットに通じます。
もちろんアンプにつなげば本物のアップライト・ベースのような重量感のある音が得られますし、ピックアップがパッシブ型(増幅をしないタイプ)のためアシュボリーのように電池の消耗の心配もありません。
従来の「ベース・ウクレレ」はコア材の一枚板を使い、指板にはエボニーを使う等の高級路線だったのに対し、カーラ製品は合板でボディーを作っています。これによりボディーサイズが大きくなっても材料費は従来より大幅に下がったと思われます。
弦の交換用の窓?がボディー裏面にあり、合板のメリットを生かして1層だけ削り取り、蓋として使う設計になっています。
ただ、残りの2層に木ネジを締める構造のためネジ穴がゆるくなってしまう欠点があり、さらにこの1層の「蓋」部分に塗料が回りこんでいて、はずれにくいという欠点も見受けられました。一応この部分にヤスリをかけて解決はいたしましたが、ちょっとビクビクものでした。
この「ベース・ウクレレ」の諸元を寸法の近いラニカイのバリトン・ウクレレと比較してみました。いずれも概略値で、カッコ内数値はバリトン・ウクレレです。
出力ジャックを含む全長:756ミリ(778ミリ)、
弦長:520ミリ(512ミリ)、
出力ジャックからブリッジ中心までの距離:95ミリ(135ミリ)、
ボディー下部の幅:253ミリ(250ミリ)、
ボディー上部の幅:190ミリ(188ミリ)、
ボディーくびれ部の幅:167ミリ(157ミリ)、
テール側のボディー厚み:78ミリ(80ミリ)、
ヒール側のボディー厚み:65ミリ(67ミリ)、
12フレット付近の指板幅:56ミリ(47ミリ)、
ナット付近の指板幅:45ミリ(38ミリ)、
ブリッジ付近での4本の弦幅中心値:51ミリ(36ミリ)、
ナット付近の4本の弦幅中心値:33ミリ(29ミリ)、
ヒール手前のネック厚み:26ミリ(24ミリ)、
ナット付近のネック厚み:20ミリ(18ミリ)、
弦方向の弦巻き取り付け穴間隔:44ミリ(42ミリ)、
ナット側の弦巻き取り付け穴間隔:39ミリ(27ミリ)、
トップ側の弦巻き取り付け穴間隔:32ミリ(36ミリ)、
サドル幅:7ミリ、
サドルの指板側からのセットバック概略距離1弦:1ミリ、2弦:3ミリ、3弦:4ミリ、4弦:6ミリ、
12フレット付近での弦下面とフレットの間隔:4ミリ(3ミリ)・・・フレット高さはいずれも1ミリ・・・。
質量:844グラム(818グラム)。
これらの数字から見てこのカーラのベース・ウクレレはバリトン・ウクレレの改造でできそうな気がしませんか。自作の場合に一番大変なのは弦巻きですが、幸いこれとナット、さらにピックアップ内蔵のブリッジまでが「アシュボリー用の部品」として販売されていますので、興味あるかたは挑戦してみてください。
この場合、ナットは「部品」の幅が広いことで使えず自作する必要がありますし、弦の巻き方もいわゆる「マーチン巻き」すなわち1弦と4弦をシャフトの外側から巻きつける方法でないと実現不可能かもしれません。
ロード・トード社からは「パーホエホエ弦」という黒色ポリウレタン弦が出ています。「パーホエホエ」というのはハワイの溶岩のひとつでその縞目模様に似た感じの弦なのでそのように名づけられたようですが、黒色以外にもカラー弦も発売されているので、ワース弦とあわせて選択の範囲が広くなりました。
最近のアシュボリー用シリコン・ゴム弦は「切れやすい」ということで1弦をもう一本入れたり、滑りやすくさせるための「ベビー・パウダー」をオマケにつけたりしているようですが、ポリウレタン弦に対しては勝ち目がないでしょう。
2007年の第37回ウクレレフェスティバルのステージで、岩本さんにお借りしたベース・ウクレレを使って先輩方お二人のバックを務めさせていただきましたが、そのときのビデオを見た家内から「お二人が全身でウクレレを弾いているのに、なんでアナタは一緒になって全身で弾かないの?」との突っ込みが。でもベースをそのように弾くのはちょっと・・・・(汗)
先週、私んとこにも、ハワイの楽器屋さんから、
Kalaのベース、いかがってメールきました!!
超円高の時期、めっちゃ チャンス!!???
数ヶ月まえはものすごく欲しかったのに…なぜか
今はウクレレのほうをもっと練習しなきゃって気になってて、
結局断念しました…(^^;)てゆーか
最近マイクやパソコンのソフトを買ってしまい…
お金ないですねえ(TT)
とにかく音が気に入りました。あのボディサイズで・・・ウッドベースっぽい音が出るのがサイコーです。
あの緩いテンションでしっかりと生音が出るのが不思議。
ベースの知識も今回のこのKALAベースの詳細がわからなかったので、この記事はたいへん役立ちそうです。メーカーが出している情報の100倍、参考になりました。
これって「BASS MAGAZIN」などの記事に出来ちゃいそうですね。
あとは自分がひたすら練習あるのみです。
ギターの知識の範囲内でしか、いまのところいじれないので、初心者ベース入門などから始めてみます。
そのうち、動画をアップしてみます。
この楽器はタイトルどおり「使えそうです」ね。
持たない訳にはいかないとか言ってますので。
皆様しばらくお待ちくださいね。
先日購入したCooderのエレアコベースもあるので、
これ以上増えると大蔵省の目が怖いです。。。
がまん、ガマン。
それにしても魅力的だなぁ~~~
やはりフレットがなくては弾けないなぁと思ってましたので・・・
じつはその後NUA例会でも3台注文を頂いたので、現在はpaulさんを含めて8台です。
メーカーがそれほどの注文があると思っていなかったので、現在必死に製作中です。入荷したらご連絡しますね。
ベースを探していたところ ここにたどりつきました。
ウクレレでベースを弾けるなんてと 驚きつつ、でも嬉しい情報です。
是非 購入したいのですが、お力添えいただけますか?
よろしくお願いします。
本文にも書きましたが、以前からこの種の「ウクレレベース」は存在していたのですが、高価であることと、フレットレスであったために限られた演奏家にしかつかわれていませんでした。
今回のカーラの製品はフレットが付いていることと安価であることで当初は「本当につかえるのか?」と心配したのですが、実際弾いて見るとそれらの心配は不要であることがわかり、仲間内だけでも8台もの注文があり、驚いています。
従来ですとメーカーとしても一ヶ月に一台といったペースだったので、わずか8台とは言え、在庫がまったくありませんでした。この注文をうけてメーカーも鋭意製作中ですが完成時期は不明なのです。
でも、ちょっとお時間をいただければ間違いなく入手できるとおもいますので私のメルアドへメールを送っていただけますか。
ありがとうございました。
KALAベースで色々探してましたら、ここにたどりつきました。詳細な解説で大変参考になりました。
私は今はKALAベースの純正弦(パーホエホエ弦?)で使用していますが、ワース・ベース弦に興味があります。
KALAベースにワース・ベース弦を張られていましたら、サウンド・演奏性など純正弦との違いなどお教え頂ければ幸いです。
また、ワース・ベース弦の方が太いと思いますが、これによる影響(テンションアップ等)は如何でしょうか?
宜しくお願い致します。
手元には持っているのですが、当然ながらまだパーホエホエ弦が傷んでいないため交換していないのです。
「純正弦」にも実は3種類のゲージがありますし、バラ売りもあるようですので、時間をみて実験をしたいとは思っております・・・・
私、KALAフレッテッドベースを所有していますがハイポジションでのピッチズレが気になりまして、ワース弦に交換することで改善しないかと期待しているところなのですが・・・
このベースの場合、ベース本体と言うより、弦の品質によりこの辺のピッチの安定性というのが決まってくるのかと思っている次第です。
今後またこのKALAベースの事で色々ご教授頂きたいと考えていますが、差し支えありませんでしたらMATTさんのメールアドレスが分かる場所をお教え頂けませんでしょうか?
大変申し訳ありませんが、MATTさんのメールアドレス等のコメントにつきまして不適切でしたらコメントの削除をお願い致します。
お手数をお掛けし申し訳ありません。
一つはフレット位置自体が正しくない場合。
二つ目は弦のゲージが全長に比べて極端に太いための影響で、フレット位置が正しい場合には低音側の弦ほど高めのピッチになります。本文中にも書いたようにこの楽器では弦ごとにセットバック量を変えていますが、これでも不適切なことが考えられます。
三つめは一番の問題点ですが弦の密度が不均一であることで、昔のギター用やウクレレ用のナイロン弦はこの傾向がありました。
これは溶けた素材のかたまりをダイスという穴を持った冶具を通して引っ張って線にする際に、その速度がわずかでもバラ付くと単位長あたりの密度が不均一になり、たとえフレットが正しく打たれていてもピッチずれが発生します。
さすがにナイロン弦の場合は歴史が長いことで一定速度で引っ張る技術が向上したり、線になってからさらに外周を削ることでレベルアップを図って解決してきました。
ところがワースにせよパーホエホエにせよ、素材のポリウレタン線はもともとモータープーリーの回転伝達用のベルトとしてあったものを転用?したため、長い歴史を持つナイロン弦ほどの精度が得られていない可能性があります。
いずれにしても、まだまだ歴史の新しい弦ですのでどんどんと改良されていくことを期待します。
ワースが開発した「ウクレレ用のフロロカーボン弦」も今やたくさんのメーカーが手掛けるようになり、コアロハのようにすべての製品に採用するまでに成長しましたが、もともとは「釣り糸」だったのをワースの高橋さんが着目して開発したものです。
ところが「釣り糸」に比べてウクレレ用の使用量が圧倒的に少ないため、いろいろなゲージや成分の試作を頼むのにも大変苦労されたようです。
同様な苦労の上にベース弦を開発した高橋さんの楽器業界における功績は極めて大きいものと言えます。
あ、なにか疑問がありましたら、このコメント欄に書き込んでください。私がわからないことでもどなたかが回答してくださる可能性もありますので・・・
良く理解できました。
MATTさんが仰るように、私も一番の問題は弦にあるように思う次第です。(特殊な素材ゆえ致し方ないかなと思われますが)
今後私なりに色々試して見たいと思っております。
この度は色々コメント書き込みさせて頂き、また不躾なコメント等もあったかと思いますが、どうかお許し下さい。
それにも関わらずご丁寧なご回答・ご解説を頂き大変感謝しております。
どうも有難うございました。
もちろん昔はローコードが中心でしたから、これでもとりあえず使えたのですが、現在のようにハイポジションまで使う場合は効果がないでしょうね。
もっとも確認しようにも、最近のナイロン弦で「不均質」なものは皆無ですから・・・・
漂着ゴミで楽器を作っています。
このページを参考に
無人島で拾ってきた5リットルのポリタンクで
エコレレベースの
プロトタイプを作製しました。
ありがとうございました(^^♪
弦のテンションの影響が大きいのが問題点でしょうか。
苦労したのはペグ作成です。
道具がショボイのでアイデアで勝負です。
完成が楽しみですね!
ベースやもちろんですが、ほかの楽器も主張がしっかりと出ていて、しかも本格的に鳴っているのには驚きました。