<金曜は本の紹介>
「リッツ・カールトンと日本人の流儀」の購入はコチラ
この「リッツ・カールトンと日本人の流儀」という本は、元リッツ・カールトン日本支社長である高野登氏が著者で、自分の体験を基に以下のことについて書かれています。
第1章:ホテル「リッツ・カールトン」の「歴史」や、「もてなし」・「三方よし」の心構え・クレド・自分への投資は目指す年収の5%などのリッツ・カールトンの仕事の流儀について
第2章:高野登氏が経験したヒルトンホテルやプラザホテルなど各ホテルの経営者等の素晴らしい流儀について
第3章:伊那食品工業の年輪経営、地元の客を大切にする中央タクシー、情熱あるトップのアイエスエフネット、高い志を育てる才教学園など地域で生きる会社の素晴らしい流儀について
第4章:リーダーシップやわきまえる流儀、役に立つものを提供すること、心柱に見る日本人の流儀などについて
特に会社には企業哲学と理念が必要で、それを熱き思いで社員に語り続け、実践を通して社員が実感し、そして真にお客様に役に立つモノやサービスを提供することが大切だと思いましたね。
また、絶えず目指す年収の5%は自分に投資し、人に対しては傾聴することや思いやりの気持ちを持つことが大切と改めて認識しました。
そして、「売り手より、買い手よし、世間よし」という「三方よし」の心構えが重要だと思いました。
また、今度ぜひリッツ・カールトンを訪れて、リッツ・カールトン・ミスティークを体験してみたいと思います^_^)
「リッツ・カールトンと日本人の流儀」という本は、とてもオススメです!
以下はこの本のポイント等です。
・リッツ・カールトンを成功に導いた真の理由は、トップであるシュルツィが創業時から変わらない熱き思いをスタッフに語り続けたことだと私は思っています。トップが語る確かな言葉が、人を動かします。トップが語る熱い言葉が、人の心を動かします。
・1898年、「ホテリエの王」と称されたセザール・リッツばパリにホテル・リッツを開業します。さらにその翌年、セザールはロンドンのカールトン・ホテル開業準備にも携わります。このふたつのホテルが源流となり、リッツ・カールトンが誕生したのです。1905年、セザール・リッツはアメリカにも進出。ニューヨーク、ワシントン、フィラデルフィア、そしてボストンなどの大都市にラグジュアリー・ホテルを展開していきます。ただ、文化や生活様式の違いからか、当時のアメリカでは支持を得ることができず、ヨーロッパ文化を色濃く残す街ボストンでのみ営業は続けられました。数十年のときを経た1983年、アトランタの不動産王W・B・ジョンソンが、合理性や効率よりお客様一人ひとりを大切にするホテルをつくるという理想を掲げ、「モナーク・ホテル」立ち上げを計画します。そこへ、リッツ・カールトン・ボストンが売りに出されているというニュースが飛び込んできます。ジョンソンは急遽ボストンへ飛び、リッツ・カールトン・ボストンの所有権や米国内における商標権を買い取る決心をします。こうして誕生したのが、現在の「ザ・リッツ・カルトン・ホテル・カンパニー」です。
・人はなぜ、一所懸命生き、一所懸命働くのでしょう。私は、人生は長く複雑な「あみだくじ」だと思っています。右に左に、折れ曲がりながら進んでいく「あみだくじ」です。「前に進めない、道が見えない」と悩み、もがき、あがき、耐えなければならない苦しい時期は誰にもでもあります。でも、一所懸命生きていると、不思議と出会いがやってくるものです。まるで「あみだくじ」に加えられた一本の横棒のように。その出会いが方向を変えてくれます。すると、これまでと違った景色が広がっていきます。まるで、心の霧が晴れるように。一所懸命生きて、一所懸命働いていると、必ずいい出会いがあるのです。しかし、逆もまた真なり。手を抜いて生きようとすると、出会ってはいけない人と知り合ってしまう・・・こともあります。人は、人との出会いによって行くべき方向にも、そうではない方向にも導かれてしまうものです。人は行くべき方向に導いてくれる人に出会うために、働くのではないでしょうか。豊かで本物の生き方をしている人との出会いが、人を成長させてくれます。一所懸命生きていれば、お師匠さんの方から寄ってきて引き上げてくれるものです。
・リッツ・カールトンにおける「もてなし」とは、「お客様との出会いに感謝することを以て、大切なご縁を紡ぐことをなす」ということです。「大切な時間を共有することを以て、大切な物語を紡ぎ出すお手伝いをなす」「あえて、言葉にされない要望や願望をくみ取ることを以て、小さな驚きや悦びを生み出すお手伝いをなす」ということです。元来、日本人が持つきめ細やかな心配りや心づかいは、まさにホテルのホスピタリティの原点に通じるものです。日本人のおもえなしの心は、ホテルのいろいろな場面で生かされています。
・お客様からは、いつ、どんなところからボールが飛んでくるかわかりません。スタッフ自身にとって不得意な分野や知識のない話題でも、しっかり受け止めることがホテルのスタッフにはとても大切なことなのです。コンシェルジュは、すぐにプロ野球球団の広報に電話を入れ、今日の試合について伺いました。すると、先発投手の家族に不幸があったこと、リーダー的存在の彼の思いを気遣う選手たちにも動揺があったこと、また主力選手の肩の故障が予想以上に長引いてしまっていることなどの説明を受けました。コンシェルジュがそのことをお伝えすると、お客様は納得したご様子で、とても喜んでくださいました。
・リッツ・カールトンに泊まると、驚くようなことが起こる。これが、「リッツ・カールトン・ミスティーク(神秘性)」と呼ばれるものです。ミスのないサービスでお客様に100%満足いただくのはホテルにとって当たり前のこと。プラスアルファの驚きや感動を「最高のおもてなし」だと考えて起こす「リッツ・カールトン・ミスティーク」。そして、こうしたミスティークに、スタッフ自身が一番ワクワクしています。
・自分の利だけを考えるのではなく、商いに関わるすべての人々のことを第一に心がける「売り手よし、買い手よし、世間よし」という「三方よし」の心構えは、時代は変われど変わらない商人の教えです。現在の滋賀県にあたる旧国名・近江では、かつて近江商人と呼ばれる大商人がいました。地方の物産を仕入れ、上方で売るという現在の経済と経営の先取りをする先進的な商人たちでした。他国行商をするためには、信用が第一。他国で人々から信頼を得るための心構えを説いた商人の教えが「三方よし」です。リッツ・カールトンには、お客様にとどまらず、ホテルと直接的、間接的に関わってくださるパートナーすべてを巻き込んで新たな価値を創造したいという強い願いがあります。ホテルのホスピタリティの質を高めるためには、パートナーからの信頼が欠かせません。パートナーと切磋琢磨しながら互いを高め合っていくためになにをすべきか、スタッフは常に考え行動に移しています。
・リッツ・カールトンのスタッフは、クレドと呼ばれる小さなラミネートカードを肌身離さず持っています。4つに折られたこのクレドの表面には「クレド」「エンプロイ・プロミス(従業員への約束)」「モットー」「サービスの3ステップ」、裏面には「サービス・バリューズ(スタッフのための行動指針)」が記されています。これらを総称して、「ゴールド・スタンダード」と呼んでいます。クレドはリッツ・カールトンの普遍的な価値である理念、使命、ホスピタリティの哲学を凝縮したもので、「感性の羅針盤」のようなものです。クレドは同じ感性と価値を共有して、同じものさしで行動できるように心を導くものですから、マニュアルのような細かい決まり事はありません。クレドは、スタッフが現場でさまざまな問題に直面したときのぶれない軸となり、物事を推し量るときのものさしになります。「心のおもてなし」をするための行動指針です。そのためには、クレド一語一句を身体全体に沁み込ませるまで読み解いていく必要があります。クレドに凝縮されたリッツ・カールトンの価値を、スタッフ一人ひとりが心から納得してはじめて、実践に結びつけることができるからです。
・「従業員一人一人には、自分で判断し行動する力が与えられています(エンパワーメント)。お客様の特別な問題やニーズへの対応に自分の通常業務を離れなければならない場合には、必ずそれを受け止め、解決します」という項目は決裁権という形でしっかりと残っています。エンパワーメントでスタッフが認められている権利は、以下の3つです。
①上司の判断を仰がず自分の判断で行動できること
②セクションの壁を越えて仕事を手伝うときは、自分の通常業務を離れること
③1日2000ドル(約16万円)までの決裁権
・相手に対して最高の敬意を表するとき、アメリカでは「You are the first class」と言って賛辞を呈します。リッツ・カールトンの全スタッフは「ファーストクラス・カード」というものを持っています。このカードはスタッフ同士が互いを称え合い、賛辞を贈るときに使われます。リッツ・カールトンでは、できるだけお客様に直接メッセージを書いていただくようにしています。ほとんどのお客様は快く応じてくださいます。お客様からのメッセージカードを受け取ったスタッフは、「ファーストクラス・カード」と一緒に本人に手渡します。受け取った本人は、口頭で伝えられたときとはくらべものにならないほど感激します。仕事の励みになります。一生の宝物になります。さらに、同僚からの賞賛は働く意欲に直結します。カードは本人に手渡す前にコピーをとり、人事部門にも提出します。そうすることで、人事査定の参考資料となります。これは、現場のスタッフ同士の信頼関係を強め、正当な評価のための仕組みでもあるのです。
「タカノは自分の人生の設計図を意識して仕事をしているか。成功したいのなら、自分が目指す年収の5%を自分に投資することだ。目指す年収を設定し、その5%を投資して勉強してこそ、ホテルマンとしての感性が磨かれるんだ」もし、現在の年収が500万円なら、その5%は25万円です。でも目指す年収が倍の1000万円なら、その5%は50万円です。25万円は今の自分を維持するために必要な投資額にすぎません。より高いステージを目指すのであれば、自分を磨き成長させるために50万円の投資が必要ということです。投資は自分を信じていなければできないことです。投資は、「将来必ず大きくなって戻ってくる」と自分を信じ、自らを奮い立たせるためのものです。本を読む、セミナーに参加する、いい舞台を観る、いい音楽を聴く、意識の高い人たちと積極的に会い食事をする、飛行機のファーストクラスで旅をする、ボランティアに参加する・・・。何でもいいのです。自分に合った方法で感性を磨き続ける習慣を身につけることが、とても大切です。
・普段から、お客様をもてなすにふさわしい姿勢、立ち居ふるまい、しつらえ、装い、しぐさを意識し実践することで、はじめてプロとして美しい身のこなしができるようになるのです。
・リッツ・カールトンでは、新しいホテル開業後に必ずおこなうことがあります。それは、もしも開業のスタート時点に戻って、このホテルをもう一度、開業し直すことができるとしたら、何をどう改善するかをみんなで話し合うということです。つまり、もう一度開業準備に向けて動き出した時点にまで戻り、あらゆる現場から意見や反省点、改善点を出してもらいプロセスをひとつひとつ確認していくのです。そして、それらをすべてていねいに記録に残しておきます。もちろん、万全の準備をして開業に臨むのは言うまでもありません。それでも、図面上では気づかないこと、人が働いてみて感じること、お客様を招いてはじめて気づくことは必ずあります。どんな小さなことでも見逃さず、世界一のホテルを目指す上で何が足りなかったのか、何をすべきだったのかを現場で徹底的に話し合います。そして、それを次の開業に必ず生かす。完璧を目指すためにです。すべてのスタッフから意見を聴きます。問題はすべて現場で起きます。「神は細部に宿る」と言います。小さなことを見逃してしまっては、世界一のホテルを目指すことはできないのです。
・将棋にも対局が終わったすぐあとにおこなう感想戦があります。その一局を振り返る反省会のようなものです。「どんな手が勝敗を分けたのか」「こんな別の手があったのではないか」というように、最初から駒を並べて立会人も加わって意見を交換するそうです。ただの反省会ではありません。将棋という奥深い競技に対する謙虚さと、次の勝負に向かう貪欲さ、常に勝ち続ける気概。守りに入ったとき、そこで勝負には負けてしまいます。しなやかな受け身と守りとは明らかに違うのです。だからこそ、感想戦は、反省点や次回の参考にすべき点が見つかるというだけでなく、伝統の将棋をさらに発展させ、勝負魂を研ぎ澄ます上でも有意義な慣習です。リッツ・カールトンの仕組みも、まさにこの感想戦と同じです。反省会は、必ず次に生かしていきます。感性を研ぎ澄まし、世界一を目指し続けるために。
・住居には住む人の姿勢が表れます。ホテルも同じです。居住まいを正すということは、姿勢を正すこと。生きる姿勢を正すということです。リッツ・カールトンでは、三ヶ月に一度居住まいを正すことを通して、スタッフそれぞれが仕事に対する姿勢をチェックし、整えています。
・話を聴き続けることは、人間が本来持っている可能性を引き出すことだと気づきました。人の話に耳を傾けることは、相手を尊重することです。話を聴いてくれる人がいることは自信になります。人は、誰かに話すことで気持ちの整理をし、自分で答えを見つけることができると気づいたとき、それが日本人である私の仕事の流儀になりました。プラザホテルには私より優秀な人はたくさんいました。でも、辛抱強く話を聴き続ける人は、なかなかいませんでした。「いつも、いいアドバイスをありがとう」何も言っていないのに、ただ聴き続けただけなのに、よくそんなことを言われました。傾聴。日本人は人の話に耳を傾け続けることが得意です。聴くことが苦痛ではない性格が、いつの間にかアメリカでの私の個性や強みになり、私の仕事の流儀の礎になっていきました。
・人事担当者による個別の面接は1対1です。「QSP」に則って、5人の面接官が交代で長い時間をかけておこないます。ホテルマンのキャリアや仕事への意気込みを聞かれるのかと思いきや、意外にも次のような質問が繰り返されました。「あなたは、最近家族を喜ばせるために何をしましたか」「最近どんな本を読みましたか。いつもどんな本を読んでいますか。どんな本に感動しましたか」実績や能力ではなく、人間性や感性を引き出そうとするものでした。サービスの技術や知識は時間をかけて訓練すれば習得できます。しかし、その人の人格や価値観、感性は生まれてから長い期間をかけて培われたものです。簡単には変えられません。ですから、感受性、倫理観、自立心など、人としての本質をさまざまな角度から探り出すために、長い時間をかけられます。リッツ・カールトンの理念を共有できる素質があるかどうかを見極めて判断するために。
・毎朝の「ラインナップ」も欠かしません。毎日セクションごとに15~20分おこなう朝礼のようなものですが、「ゴールド・スタンダード」のなかから選ばれたテーマをみんなで話し合うというものです。テーマは週単位で変わっていきます。大切なのは自分の頭で考え、理解し、自分のものとして受け止めるプロセスです。クレドに書かれている理念やビジョンは、毎日問いかけ続けることでスタッフの血となり肉となります。人間はどんなに大切なことも忘れてしまいます。だから、毎日続けるしかないのです。手間を惜しまず積み上げていくことで、会社の理念やビジョンが自分のものになっていきます。
・性善説でも性悪説でもない、「性弱説」。本来、人間は弱いもの。ときに誘惑に駆られることもあります。弱いからこそ、信じることで強くなる。弱いものを信じなければ、もっと弱くなってしまう。トップが人を育てるということは、弱いところもすべて受け入れる覚悟を決めることです。
・いいときも悪いときも無理をせず、遅いスピードでも毎年少しずつ確実に低成長する自然体の経営を、伊那即品工業株式会社の塚越会長は「年輪経営」と呼んでいます。身の丈に合わない急成長はつまずきの原因になる膨張につながると判断してのことです。木の生長は天候によって大きく左右されます。その結果、年輪の幅は狭い年もあれば、広い年もあります。でも、年輪は毎年確実に広がっていきます。しかも、年輪の幅が広いところは弱く、逆に狭いところは堅くて強いというのが自然の営みに学ぶべき点です。
・伊那食品工業の社員は、自動車でスーパーやホームセンターなどに行ったとき、できるだけ建物の入口から離れた駐車位置に車を停めるようにしています。商品の配達に行ったときだけではありません。プライベートで買い物に行ったときも同様です。ほかのお客様や地域の人たちが、少しでも入口の近くに車を停めることができるよう配慮して、こうした行動を心がけているのです。会社が地域社会で地域と共生しながら発展し続けたことを忘れず、地域の人たちに感謝の気持ちを示すためのおこないです。地域で生きるひとりの住民として、伊那食品工業の社員として、こうしたことを常に心がける人格に育て上げるという徹底ぶりに、会長のリーダーとしての品格を感じます。さらに励行されていることがあります。マイカー通勤の社員に対し、朝の通勤時には右折して本社敷地内の社員駐車場に入ることを禁じています。渋滞を避けるため社員は本社前を通過し、遠回りをして左折で社員駐車場に入ってくるのです。
・伊那食品工業の新人研修は、「百年カレンダー」を見せることからはじまるそうです。「この日付のどこかに君たちの命日があるはずです。ここに君たちの命日を入れて、それまでの人生をどう生きるか考えてみてください」突然切り出す塚越会長に、新入社員は面食らいます。確かに、人生は限りあるものですが、若いころには死を意識することもなく、時間は永遠にあると思って生きています。しかし、残された人生を意識することで一日一日が如何に貴重かを感じることができるのです。「やるべきことは、いまのうちにきちんとやっておこう」「人の役に立つ生き方をしよう」新入社員それぞれが人生に真剣に向き合うようになります。「自分がしあわせになりたかったら、人に喜んでもらえることをしなさい」会長は繰り返します。人生は限りあるものだと実感することで、一度きりの人生をどのように生きるべきかを考えるようになり、「利他の心」が芽生えてきます。一度しかない人生で人の役に立って感謝されることほど嬉しいことはありません。「会社に働かされているのではない。自分のしあわせのために仕事をする」納得すれば、人は動き出します。自ら進んで考え、行動します。伊那食品ファミリーであることを誇りに仕事に励みます。伊那食品工業は途中で辞める人はほとんどいないそうです。また採用に際しては、学歴は問わず「強調力」を重視します。強調力は周りを思いやり支え合う精神です。社員を能力だけではなく努力で評価しています。
・株式会社アイエスエフネットの渡邉社長もリッツ・カールトンや伊那食品工業と同様、入社試験では哲学と理念を語り、人間性を重視した面接により社員を採用しています。それは、トップとして「企業哲学と理念」、大義「環境保全と雇用の創出」を何より大切にしているからです。さらに、社員は哲学や理念を言葉として理解するのではなく、実践を通して実感すると渡邉社長は考えます。だから、社長自らが毎朝誰よりも早く出勤し、自身のデスクを拭いてから仕事に取りかかります。「私の背中を見てついてこい」という男気あふれる熱血経営者です。渡邉社長は、社員に対し①リストラはしない、②年齢に関係なく働けます、③やりがいのある環境をつくります、④ダイバシティを推進します、⑤自分の責任でない事件や事故により生活ができなくなったら全員で助けます、という「5つの宣言」をしています。「宣言」は、トップが自らを律するものであり、その約束は必ず果たさなければならないものです。必死に働いているトップの姿を見て、はじめて社員はトップを信頼します。社員の仕事への意欲はトップの背中と心で決まります。
・「木」偏に「無」でブナと書きます。かつては、木材としての「使い道がない」ことから、戦後多くのブナの木がスギの木に植え替えられました。やがてスギの花粉症が現代病になりました。大雨が降ると植林したところから山崩れが起こるようになりました。皮肉な結果です。ブナの根の保水能力は1本で5トンか7トンと言われています。いま、将来にわたり安全でおいしい水を安定供給していくために、水源かんよう林を保護していく必要に迫られています。特に、保水能力の優れているブナの保護あるいは植林は、山林に水を沁み込ませ貯える機能を向上させます。ブナの植林は、水源として安定した水量を確保するだけでなく水源汚濁の防止や水害の防止につながります。まさに、「緑のダム」になるのです。「使い道がない」と伐採されたブナの木ですが、その見えない根っこは、とてつもない能力を秘めていました。人間も同じです。根を深く張って待っていれば、きっとその能力を発揮する日はやってきます。自分を信じて、人事を尽くして待ちましょう。
・どんな組織でも、現場に配属された新人の多くが地味で単純な仕事からスタートします。職人の世界でも伝統芸能の世界でも、それは至極当然なことです。でも、そんな新人たちに完成図を見せることなく単純作業を繰り返させていらどうなるか。リッツ・カールトン初代社長のシュルツィは「企業のトップが犯す最大の罪は従業員にビジョンなき仕事をさせることだ」と、常に語っていました。たとえば、ホテルに入社してきた人も志望動機は人それぞれです。一流のコンシェルジュを目指す人、フロントで世界中からのお客様を迎えたい人、ソムリエの資格を生かしたい人・・・。でも、配属先がハウスキーピングの場合、毎日繰り返される掃除とベットメーキング、宴会部門で待っていたのは朝から晩まで什器を磨くこと・・・。夢と現実のギャップに打ちのめされます。「こんなはずではなかった」と心が折れそうになります。では、そういうときに上に立つ者がすべきことは何でしょう。それは、ジグソーパズルの完成図を見せることです。地味で単純な仕事のひとつひとつが、会社のビジョンや目的を達成するために欠かすことのできない大切なものだと伝えることです。一人ひとりの仕事に重要な役割と意味があることをきちんと伝えることです。完成図が見えることで、いま目の前にある仕事の真の意味を理解します。各自の役割や存在意義に納得できれば、そこから創意工夫や向上心が芽生えてきます。もし、ビジョンなき単純作業を十年重ねた人が管理職になってしまうと、あとに続く人に同じことをさせてしまいます。
・計画通りに進めることが仕事になってしまい、目的が何だったかを忘れている管理職がいます。そもそも、何の目的で草刈りをするのか、そこが現在刈り取るべき場所なのかどうかを考えることもせず、はじまった草刈りを止められない人です。ときどきは高い木に登り、刈りはじめた場所が、本当に刈り取るべき場所なのかを見極め、ときには刈り取ることを止める、別の場所に移るなどの判断をする。それがリーダーの仕事です。途中で止めたり別の場所に移るという決断をする勇気がある人がリーダーです。リーダーには常に先を読み、現状を見極める能力と適切な判断力が求められます。組織のなかで計画通りに物事を進めることは得意でも、勇気ある決断ができなければ、リーダーにはなれません。
・人は、心の形が言葉となり、おこないとなります。どんなに叱られても、「この人に言われたらしかたないな」と思える人と、そうでない人がいます。違いは、そこに愛があるかないかです。本気で会社と部下の成長を願っているかは、言葉とおこないを通して伝わります。本気の言葉は人を動かします。日本の組織に於いて、管理職はリーダーシップとマネジメント両方の力を備えていることを求められています。であるなら、管理職はリーダーとして「人を管理するのではなく、人の心を導き」、マネジメントとして「仕事を管理する」という責務をまっとうしなければならないでしょう。リーダーとしての気概と自覚を持って。
・服装は自分の都合に合わせるものではなく、自分が行く場所に合わせるものです。その場にふさわしい服装をすることは、その場へ敬意を表することです。ほかのお客様の目線や、他人からどう見られているのかという感覚を忘れてしまった日本人が徐々に多くなりました。
・自分の意見や考えを述べるとき、「私の意見です」「私の考えです」と言うのは勇気がいることです。「みんながそう言っています」、あるいは「○○さんがこんなことを言っていた」と、誰かの意見や考えを受け売りするのではなく、自分の発言に責任が伴うからです。付和雷同は己の行く道を閉ざします。新たに小さな一歩を踏み出すとき、「私の夢」「私の目標」「私のやるべきこと」というように、自分自身に引きつけてみることが大事です。そうすることで、勇気が湧いてきます。使う言葉を意識するだけで、行く道の情景も、歩く自分自身も変わって見えるものです。歩き始めると、どこかからフォロワーが現れ応援してくれます。
<目次>
プロローグ
第1章 リッツ・カールトンに伝わる「仕事の流儀」
リッツ・カールトンの願い
もてなすとは、「何を以て、何をなす」
リッツ・カールトン・ミスティーク
三方よしの心構え
ホスピタリティとは何か
クレドに命を吹き込む
二千ドルを自由に使えることの重み
「ワオ・ストーリー」を分かち合う
スタッフ同士が敬意を表し、称え合う
家族で一緒に受けるセミナー
自分への投資は目指す年収の5%
誰もがやっていることを、誰もがやらないレベルでやってみる
反省会と感想戦
第2章 人を動かす「トップの流儀」
自分で自分の人生を組み立てることができる国で
職場で生かした日本人のDNA
結果を出すことは信頼に応えること
卓越したリーダーの背中から学んだこと
トップの器の大きさにしびれた瞬間
傾聴とは、相手を尊重して自分を主張しすぎないこと
トップが次のステージへの背中を押してくれる
いい塩梅の粋な心づかい
リッツ・カールトン初代社長との出会い
トップが語る確かな言葉が人を動かす
リッツ・カールトンならではの面接試験
ハート・オブ・ハウス・スタッフ
性善説でも性悪説でもない「性弱説」
第3章 信頼を育てる「地域で生きる流儀」
大阪にリッツ・カールトンの種をまく
伊那谷で貫かれる年輪経営
人に迷惑をかけない日々のおこない
百年カレンダーに命日を入れる
中央タクシーが大切にした地元のお客様
雇用はすべてを救う
経営者の約束、社員の約束
世のため人のために尽くす「志教育」
「志教育」の定義、土壌、五つのプロセス
北大東島、15歳の旅立ち
戸隠の縁側で学んだこと
サッカーとホテルの共通点
第4章 グローバル時代に見直す「日本人の流儀」
人生はウェイティング・ゲーム
完成図のないジグソーパズルのピース
社長という役職はあるが、リーダーという役職はない
祭礼を取り仕切る人
心の形が言葉となり、おこないとなる
逆境の時代のリーダーたち
ふさわしいを知る、わきまえる流儀
便利さの代わりに失ったもの
グローバルで通用するために必要なこと
プロダクト・アウトからの脱却
百年塾の目指すもの
中心を貫く「心柱」
伊勢神宮で見つめ直した毎日続けることの大切さ
お伊勢さんで考えた先年先を見据える力
「私は」で話しはじめる
日本語という美しい言葉
エピローグ
面白かった本まとめ(2012年下半期)
<今日の独り言>
Twitterをご覧ください!フォローをよろしくお願いします。
「リッツ・カールトンと日本人の流儀」の購入はコチラ
この「リッツ・カールトンと日本人の流儀」という本は、元リッツ・カールトン日本支社長である高野登氏が著者で、自分の体験を基に以下のことについて書かれています。
第1章:ホテル「リッツ・カールトン」の「歴史」や、「もてなし」・「三方よし」の心構え・クレド・自分への投資は目指す年収の5%などのリッツ・カールトンの仕事の流儀について
第2章:高野登氏が経験したヒルトンホテルやプラザホテルなど各ホテルの経営者等の素晴らしい流儀について
第3章:伊那食品工業の年輪経営、地元の客を大切にする中央タクシー、情熱あるトップのアイエスエフネット、高い志を育てる才教学園など地域で生きる会社の素晴らしい流儀について
第4章:リーダーシップやわきまえる流儀、役に立つものを提供すること、心柱に見る日本人の流儀などについて
特に会社には企業哲学と理念が必要で、それを熱き思いで社員に語り続け、実践を通して社員が実感し、そして真にお客様に役に立つモノやサービスを提供することが大切だと思いましたね。
また、絶えず目指す年収の5%は自分に投資し、人に対しては傾聴することや思いやりの気持ちを持つことが大切と改めて認識しました。
そして、「売り手より、買い手よし、世間よし」という「三方よし」の心構えが重要だと思いました。
また、今度ぜひリッツ・カールトンを訪れて、リッツ・カールトン・ミスティークを体験してみたいと思います^_^)
「リッツ・カールトンと日本人の流儀」という本は、とてもオススメです!
以下はこの本のポイント等です。
・リッツ・カールトンを成功に導いた真の理由は、トップであるシュルツィが創業時から変わらない熱き思いをスタッフに語り続けたことだと私は思っています。トップが語る確かな言葉が、人を動かします。トップが語る熱い言葉が、人の心を動かします。
・1898年、「ホテリエの王」と称されたセザール・リッツばパリにホテル・リッツを開業します。さらにその翌年、セザールはロンドンのカールトン・ホテル開業準備にも携わります。このふたつのホテルが源流となり、リッツ・カールトンが誕生したのです。1905年、セザール・リッツはアメリカにも進出。ニューヨーク、ワシントン、フィラデルフィア、そしてボストンなどの大都市にラグジュアリー・ホテルを展開していきます。ただ、文化や生活様式の違いからか、当時のアメリカでは支持を得ることができず、ヨーロッパ文化を色濃く残す街ボストンでのみ営業は続けられました。数十年のときを経た1983年、アトランタの不動産王W・B・ジョンソンが、合理性や効率よりお客様一人ひとりを大切にするホテルをつくるという理想を掲げ、「モナーク・ホテル」立ち上げを計画します。そこへ、リッツ・カールトン・ボストンが売りに出されているというニュースが飛び込んできます。ジョンソンは急遽ボストンへ飛び、リッツ・カールトン・ボストンの所有権や米国内における商標権を買い取る決心をします。こうして誕生したのが、現在の「ザ・リッツ・カルトン・ホテル・カンパニー」です。
・人はなぜ、一所懸命生き、一所懸命働くのでしょう。私は、人生は長く複雑な「あみだくじ」だと思っています。右に左に、折れ曲がりながら進んでいく「あみだくじ」です。「前に進めない、道が見えない」と悩み、もがき、あがき、耐えなければならない苦しい時期は誰にもでもあります。でも、一所懸命生きていると、不思議と出会いがやってくるものです。まるで「あみだくじ」に加えられた一本の横棒のように。その出会いが方向を変えてくれます。すると、これまでと違った景色が広がっていきます。まるで、心の霧が晴れるように。一所懸命生きて、一所懸命働いていると、必ずいい出会いがあるのです。しかし、逆もまた真なり。手を抜いて生きようとすると、出会ってはいけない人と知り合ってしまう・・・こともあります。人は、人との出会いによって行くべき方向にも、そうではない方向にも導かれてしまうものです。人は行くべき方向に導いてくれる人に出会うために、働くのではないでしょうか。豊かで本物の生き方をしている人との出会いが、人を成長させてくれます。一所懸命生きていれば、お師匠さんの方から寄ってきて引き上げてくれるものです。
・リッツ・カールトンにおける「もてなし」とは、「お客様との出会いに感謝することを以て、大切なご縁を紡ぐことをなす」ということです。「大切な時間を共有することを以て、大切な物語を紡ぎ出すお手伝いをなす」「あえて、言葉にされない要望や願望をくみ取ることを以て、小さな驚きや悦びを生み出すお手伝いをなす」ということです。元来、日本人が持つきめ細やかな心配りや心づかいは、まさにホテルのホスピタリティの原点に通じるものです。日本人のおもえなしの心は、ホテルのいろいろな場面で生かされています。
・お客様からは、いつ、どんなところからボールが飛んでくるかわかりません。スタッフ自身にとって不得意な分野や知識のない話題でも、しっかり受け止めることがホテルのスタッフにはとても大切なことなのです。コンシェルジュは、すぐにプロ野球球団の広報に電話を入れ、今日の試合について伺いました。すると、先発投手の家族に不幸があったこと、リーダー的存在の彼の思いを気遣う選手たちにも動揺があったこと、また主力選手の肩の故障が予想以上に長引いてしまっていることなどの説明を受けました。コンシェルジュがそのことをお伝えすると、お客様は納得したご様子で、とても喜んでくださいました。
・リッツ・カールトンに泊まると、驚くようなことが起こる。これが、「リッツ・カールトン・ミスティーク(神秘性)」と呼ばれるものです。ミスのないサービスでお客様に100%満足いただくのはホテルにとって当たり前のこと。プラスアルファの驚きや感動を「最高のおもてなし」だと考えて起こす「リッツ・カールトン・ミスティーク」。そして、こうしたミスティークに、スタッフ自身が一番ワクワクしています。
・自分の利だけを考えるのではなく、商いに関わるすべての人々のことを第一に心がける「売り手よし、買い手よし、世間よし」という「三方よし」の心構えは、時代は変われど変わらない商人の教えです。現在の滋賀県にあたる旧国名・近江では、かつて近江商人と呼ばれる大商人がいました。地方の物産を仕入れ、上方で売るという現在の経済と経営の先取りをする先進的な商人たちでした。他国行商をするためには、信用が第一。他国で人々から信頼を得るための心構えを説いた商人の教えが「三方よし」です。リッツ・カールトンには、お客様にとどまらず、ホテルと直接的、間接的に関わってくださるパートナーすべてを巻き込んで新たな価値を創造したいという強い願いがあります。ホテルのホスピタリティの質を高めるためには、パートナーからの信頼が欠かせません。パートナーと切磋琢磨しながら互いを高め合っていくためになにをすべきか、スタッフは常に考え行動に移しています。
・リッツ・カールトンのスタッフは、クレドと呼ばれる小さなラミネートカードを肌身離さず持っています。4つに折られたこのクレドの表面には「クレド」「エンプロイ・プロミス(従業員への約束)」「モットー」「サービスの3ステップ」、裏面には「サービス・バリューズ(スタッフのための行動指針)」が記されています。これらを総称して、「ゴールド・スタンダード」と呼んでいます。クレドはリッツ・カールトンの普遍的な価値である理念、使命、ホスピタリティの哲学を凝縮したもので、「感性の羅針盤」のようなものです。クレドは同じ感性と価値を共有して、同じものさしで行動できるように心を導くものですから、マニュアルのような細かい決まり事はありません。クレドは、スタッフが現場でさまざまな問題に直面したときのぶれない軸となり、物事を推し量るときのものさしになります。「心のおもてなし」をするための行動指針です。そのためには、クレド一語一句を身体全体に沁み込ませるまで読み解いていく必要があります。クレドに凝縮されたリッツ・カールトンの価値を、スタッフ一人ひとりが心から納得してはじめて、実践に結びつけることができるからです。
・「従業員一人一人には、自分で判断し行動する力が与えられています(エンパワーメント)。お客様の特別な問題やニーズへの対応に自分の通常業務を離れなければならない場合には、必ずそれを受け止め、解決します」という項目は決裁権という形でしっかりと残っています。エンパワーメントでスタッフが認められている権利は、以下の3つです。
①上司の判断を仰がず自分の判断で行動できること
②セクションの壁を越えて仕事を手伝うときは、自分の通常業務を離れること
③1日2000ドル(約16万円)までの決裁権
・相手に対して最高の敬意を表するとき、アメリカでは「You are the first class」と言って賛辞を呈します。リッツ・カールトンの全スタッフは「ファーストクラス・カード」というものを持っています。このカードはスタッフ同士が互いを称え合い、賛辞を贈るときに使われます。リッツ・カールトンでは、できるだけお客様に直接メッセージを書いていただくようにしています。ほとんどのお客様は快く応じてくださいます。お客様からのメッセージカードを受け取ったスタッフは、「ファーストクラス・カード」と一緒に本人に手渡します。受け取った本人は、口頭で伝えられたときとはくらべものにならないほど感激します。仕事の励みになります。一生の宝物になります。さらに、同僚からの賞賛は働く意欲に直結します。カードは本人に手渡す前にコピーをとり、人事部門にも提出します。そうすることで、人事査定の参考資料となります。これは、現場のスタッフ同士の信頼関係を強め、正当な評価のための仕組みでもあるのです。
「タカノは自分の人生の設計図を意識して仕事をしているか。成功したいのなら、自分が目指す年収の5%を自分に投資することだ。目指す年収を設定し、その5%を投資して勉強してこそ、ホテルマンとしての感性が磨かれるんだ」もし、現在の年収が500万円なら、その5%は25万円です。でも目指す年収が倍の1000万円なら、その5%は50万円です。25万円は今の自分を維持するために必要な投資額にすぎません。より高いステージを目指すのであれば、自分を磨き成長させるために50万円の投資が必要ということです。投資は自分を信じていなければできないことです。投資は、「将来必ず大きくなって戻ってくる」と自分を信じ、自らを奮い立たせるためのものです。本を読む、セミナーに参加する、いい舞台を観る、いい音楽を聴く、意識の高い人たちと積極的に会い食事をする、飛行機のファーストクラスで旅をする、ボランティアに参加する・・・。何でもいいのです。自分に合った方法で感性を磨き続ける習慣を身につけることが、とても大切です。
・普段から、お客様をもてなすにふさわしい姿勢、立ち居ふるまい、しつらえ、装い、しぐさを意識し実践することで、はじめてプロとして美しい身のこなしができるようになるのです。
・リッツ・カールトンでは、新しいホテル開業後に必ずおこなうことがあります。それは、もしも開業のスタート時点に戻って、このホテルをもう一度、開業し直すことができるとしたら、何をどう改善するかをみんなで話し合うということです。つまり、もう一度開業準備に向けて動き出した時点にまで戻り、あらゆる現場から意見や反省点、改善点を出してもらいプロセスをひとつひとつ確認していくのです。そして、それらをすべてていねいに記録に残しておきます。もちろん、万全の準備をして開業に臨むのは言うまでもありません。それでも、図面上では気づかないこと、人が働いてみて感じること、お客様を招いてはじめて気づくことは必ずあります。どんな小さなことでも見逃さず、世界一のホテルを目指す上で何が足りなかったのか、何をすべきだったのかを現場で徹底的に話し合います。そして、それを次の開業に必ず生かす。完璧を目指すためにです。すべてのスタッフから意見を聴きます。問題はすべて現場で起きます。「神は細部に宿る」と言います。小さなことを見逃してしまっては、世界一のホテルを目指すことはできないのです。
・将棋にも対局が終わったすぐあとにおこなう感想戦があります。その一局を振り返る反省会のようなものです。「どんな手が勝敗を分けたのか」「こんな別の手があったのではないか」というように、最初から駒を並べて立会人も加わって意見を交換するそうです。ただの反省会ではありません。将棋という奥深い競技に対する謙虚さと、次の勝負に向かう貪欲さ、常に勝ち続ける気概。守りに入ったとき、そこで勝負には負けてしまいます。しなやかな受け身と守りとは明らかに違うのです。だからこそ、感想戦は、反省点や次回の参考にすべき点が見つかるというだけでなく、伝統の将棋をさらに発展させ、勝負魂を研ぎ澄ます上でも有意義な慣習です。リッツ・カールトンの仕組みも、まさにこの感想戦と同じです。反省会は、必ず次に生かしていきます。感性を研ぎ澄まし、世界一を目指し続けるために。
・住居には住む人の姿勢が表れます。ホテルも同じです。居住まいを正すということは、姿勢を正すこと。生きる姿勢を正すということです。リッツ・カールトンでは、三ヶ月に一度居住まいを正すことを通して、スタッフそれぞれが仕事に対する姿勢をチェックし、整えています。
・話を聴き続けることは、人間が本来持っている可能性を引き出すことだと気づきました。人の話に耳を傾けることは、相手を尊重することです。話を聴いてくれる人がいることは自信になります。人は、誰かに話すことで気持ちの整理をし、自分で答えを見つけることができると気づいたとき、それが日本人である私の仕事の流儀になりました。プラザホテルには私より優秀な人はたくさんいました。でも、辛抱強く話を聴き続ける人は、なかなかいませんでした。「いつも、いいアドバイスをありがとう」何も言っていないのに、ただ聴き続けただけなのに、よくそんなことを言われました。傾聴。日本人は人の話に耳を傾け続けることが得意です。聴くことが苦痛ではない性格が、いつの間にかアメリカでの私の個性や強みになり、私の仕事の流儀の礎になっていきました。
・人事担当者による個別の面接は1対1です。「QSP」に則って、5人の面接官が交代で長い時間をかけておこないます。ホテルマンのキャリアや仕事への意気込みを聞かれるのかと思いきや、意外にも次のような質問が繰り返されました。「あなたは、最近家族を喜ばせるために何をしましたか」「最近どんな本を読みましたか。いつもどんな本を読んでいますか。どんな本に感動しましたか」実績や能力ではなく、人間性や感性を引き出そうとするものでした。サービスの技術や知識は時間をかけて訓練すれば習得できます。しかし、その人の人格や価値観、感性は生まれてから長い期間をかけて培われたものです。簡単には変えられません。ですから、感受性、倫理観、自立心など、人としての本質をさまざまな角度から探り出すために、長い時間をかけられます。リッツ・カールトンの理念を共有できる素質があるかどうかを見極めて判断するために。
・毎朝の「ラインナップ」も欠かしません。毎日セクションごとに15~20分おこなう朝礼のようなものですが、「ゴールド・スタンダード」のなかから選ばれたテーマをみんなで話し合うというものです。テーマは週単位で変わっていきます。大切なのは自分の頭で考え、理解し、自分のものとして受け止めるプロセスです。クレドに書かれている理念やビジョンは、毎日問いかけ続けることでスタッフの血となり肉となります。人間はどんなに大切なことも忘れてしまいます。だから、毎日続けるしかないのです。手間を惜しまず積み上げていくことで、会社の理念やビジョンが自分のものになっていきます。
・性善説でも性悪説でもない、「性弱説」。本来、人間は弱いもの。ときに誘惑に駆られることもあります。弱いからこそ、信じることで強くなる。弱いものを信じなければ、もっと弱くなってしまう。トップが人を育てるということは、弱いところもすべて受け入れる覚悟を決めることです。
・いいときも悪いときも無理をせず、遅いスピードでも毎年少しずつ確実に低成長する自然体の経営を、伊那即品工業株式会社の塚越会長は「年輪経営」と呼んでいます。身の丈に合わない急成長はつまずきの原因になる膨張につながると判断してのことです。木の生長は天候によって大きく左右されます。その結果、年輪の幅は狭い年もあれば、広い年もあります。でも、年輪は毎年確実に広がっていきます。しかも、年輪の幅が広いところは弱く、逆に狭いところは堅くて強いというのが自然の営みに学ぶべき点です。
・伊那食品工業の社員は、自動車でスーパーやホームセンターなどに行ったとき、できるだけ建物の入口から離れた駐車位置に車を停めるようにしています。商品の配達に行ったときだけではありません。プライベートで買い物に行ったときも同様です。ほかのお客様や地域の人たちが、少しでも入口の近くに車を停めることができるよう配慮して、こうした行動を心がけているのです。会社が地域社会で地域と共生しながら発展し続けたことを忘れず、地域の人たちに感謝の気持ちを示すためのおこないです。地域で生きるひとりの住民として、伊那食品工業の社員として、こうしたことを常に心がける人格に育て上げるという徹底ぶりに、会長のリーダーとしての品格を感じます。さらに励行されていることがあります。マイカー通勤の社員に対し、朝の通勤時には右折して本社敷地内の社員駐車場に入ることを禁じています。渋滞を避けるため社員は本社前を通過し、遠回りをして左折で社員駐車場に入ってくるのです。
・伊那食品工業の新人研修は、「百年カレンダー」を見せることからはじまるそうです。「この日付のどこかに君たちの命日があるはずです。ここに君たちの命日を入れて、それまでの人生をどう生きるか考えてみてください」突然切り出す塚越会長に、新入社員は面食らいます。確かに、人生は限りあるものですが、若いころには死を意識することもなく、時間は永遠にあると思って生きています。しかし、残された人生を意識することで一日一日が如何に貴重かを感じることができるのです。「やるべきことは、いまのうちにきちんとやっておこう」「人の役に立つ生き方をしよう」新入社員それぞれが人生に真剣に向き合うようになります。「自分がしあわせになりたかったら、人に喜んでもらえることをしなさい」会長は繰り返します。人生は限りあるものだと実感することで、一度きりの人生をどのように生きるべきかを考えるようになり、「利他の心」が芽生えてきます。一度しかない人生で人の役に立って感謝されることほど嬉しいことはありません。「会社に働かされているのではない。自分のしあわせのために仕事をする」納得すれば、人は動き出します。自ら進んで考え、行動します。伊那食品ファミリーであることを誇りに仕事に励みます。伊那食品工業は途中で辞める人はほとんどいないそうです。また採用に際しては、学歴は問わず「強調力」を重視します。強調力は周りを思いやり支え合う精神です。社員を能力だけではなく努力で評価しています。
・株式会社アイエスエフネットの渡邉社長もリッツ・カールトンや伊那食品工業と同様、入社試験では哲学と理念を語り、人間性を重視した面接により社員を採用しています。それは、トップとして「企業哲学と理念」、大義「環境保全と雇用の創出」を何より大切にしているからです。さらに、社員は哲学や理念を言葉として理解するのではなく、実践を通して実感すると渡邉社長は考えます。だから、社長自らが毎朝誰よりも早く出勤し、自身のデスクを拭いてから仕事に取りかかります。「私の背中を見てついてこい」という男気あふれる熱血経営者です。渡邉社長は、社員に対し①リストラはしない、②年齢に関係なく働けます、③やりがいのある環境をつくります、④ダイバシティを推進します、⑤自分の責任でない事件や事故により生活ができなくなったら全員で助けます、という「5つの宣言」をしています。「宣言」は、トップが自らを律するものであり、その約束は必ず果たさなければならないものです。必死に働いているトップの姿を見て、はじめて社員はトップを信頼します。社員の仕事への意欲はトップの背中と心で決まります。
・「木」偏に「無」でブナと書きます。かつては、木材としての「使い道がない」ことから、戦後多くのブナの木がスギの木に植え替えられました。やがてスギの花粉症が現代病になりました。大雨が降ると植林したところから山崩れが起こるようになりました。皮肉な結果です。ブナの根の保水能力は1本で5トンか7トンと言われています。いま、将来にわたり安全でおいしい水を安定供給していくために、水源かんよう林を保護していく必要に迫られています。特に、保水能力の優れているブナの保護あるいは植林は、山林に水を沁み込ませ貯える機能を向上させます。ブナの植林は、水源として安定した水量を確保するだけでなく水源汚濁の防止や水害の防止につながります。まさに、「緑のダム」になるのです。「使い道がない」と伐採されたブナの木ですが、その見えない根っこは、とてつもない能力を秘めていました。人間も同じです。根を深く張って待っていれば、きっとその能力を発揮する日はやってきます。自分を信じて、人事を尽くして待ちましょう。
・どんな組織でも、現場に配属された新人の多くが地味で単純な仕事からスタートします。職人の世界でも伝統芸能の世界でも、それは至極当然なことです。でも、そんな新人たちに完成図を見せることなく単純作業を繰り返させていらどうなるか。リッツ・カールトン初代社長のシュルツィは「企業のトップが犯す最大の罪は従業員にビジョンなき仕事をさせることだ」と、常に語っていました。たとえば、ホテルに入社してきた人も志望動機は人それぞれです。一流のコンシェルジュを目指す人、フロントで世界中からのお客様を迎えたい人、ソムリエの資格を生かしたい人・・・。でも、配属先がハウスキーピングの場合、毎日繰り返される掃除とベットメーキング、宴会部門で待っていたのは朝から晩まで什器を磨くこと・・・。夢と現実のギャップに打ちのめされます。「こんなはずではなかった」と心が折れそうになります。では、そういうときに上に立つ者がすべきことは何でしょう。それは、ジグソーパズルの完成図を見せることです。地味で単純な仕事のひとつひとつが、会社のビジョンや目的を達成するために欠かすことのできない大切なものだと伝えることです。一人ひとりの仕事に重要な役割と意味があることをきちんと伝えることです。完成図が見えることで、いま目の前にある仕事の真の意味を理解します。各自の役割や存在意義に納得できれば、そこから創意工夫や向上心が芽生えてきます。もし、ビジョンなき単純作業を十年重ねた人が管理職になってしまうと、あとに続く人に同じことをさせてしまいます。
・計画通りに進めることが仕事になってしまい、目的が何だったかを忘れている管理職がいます。そもそも、何の目的で草刈りをするのか、そこが現在刈り取るべき場所なのかどうかを考えることもせず、はじまった草刈りを止められない人です。ときどきは高い木に登り、刈りはじめた場所が、本当に刈り取るべき場所なのかを見極め、ときには刈り取ることを止める、別の場所に移るなどの判断をする。それがリーダーの仕事です。途中で止めたり別の場所に移るという決断をする勇気がある人がリーダーです。リーダーには常に先を読み、現状を見極める能力と適切な判断力が求められます。組織のなかで計画通りに物事を進めることは得意でも、勇気ある決断ができなければ、リーダーにはなれません。
・人は、心の形が言葉となり、おこないとなります。どんなに叱られても、「この人に言われたらしかたないな」と思える人と、そうでない人がいます。違いは、そこに愛があるかないかです。本気で会社と部下の成長を願っているかは、言葉とおこないを通して伝わります。本気の言葉は人を動かします。日本の組織に於いて、管理職はリーダーシップとマネジメント両方の力を備えていることを求められています。であるなら、管理職はリーダーとして「人を管理するのではなく、人の心を導き」、マネジメントとして「仕事を管理する」という責務をまっとうしなければならないでしょう。リーダーとしての気概と自覚を持って。
・服装は自分の都合に合わせるものではなく、自分が行く場所に合わせるものです。その場にふさわしい服装をすることは、その場へ敬意を表することです。ほかのお客様の目線や、他人からどう見られているのかという感覚を忘れてしまった日本人が徐々に多くなりました。
・自分の意見や考えを述べるとき、「私の意見です」「私の考えです」と言うのは勇気がいることです。「みんながそう言っています」、あるいは「○○さんがこんなことを言っていた」と、誰かの意見や考えを受け売りするのではなく、自分の発言に責任が伴うからです。付和雷同は己の行く道を閉ざします。新たに小さな一歩を踏み出すとき、「私の夢」「私の目標」「私のやるべきこと」というように、自分自身に引きつけてみることが大事です。そうすることで、勇気が湧いてきます。使う言葉を意識するだけで、行く道の情景も、歩く自分自身も変わって見えるものです。歩き始めると、どこかからフォロワーが現れ応援してくれます。
<目次>
プロローグ
第1章 リッツ・カールトンに伝わる「仕事の流儀」
リッツ・カールトンの願い
もてなすとは、「何を以て、何をなす」
リッツ・カールトン・ミスティーク
三方よしの心構え
ホスピタリティとは何か
クレドに命を吹き込む
二千ドルを自由に使えることの重み
「ワオ・ストーリー」を分かち合う
スタッフ同士が敬意を表し、称え合う
家族で一緒に受けるセミナー
自分への投資は目指す年収の5%
誰もがやっていることを、誰もがやらないレベルでやってみる
反省会と感想戦
第2章 人を動かす「トップの流儀」
自分で自分の人生を組み立てることができる国で
職場で生かした日本人のDNA
結果を出すことは信頼に応えること
卓越したリーダーの背中から学んだこと
トップの器の大きさにしびれた瞬間
傾聴とは、相手を尊重して自分を主張しすぎないこと
トップが次のステージへの背中を押してくれる
いい塩梅の粋な心づかい
リッツ・カールトン初代社長との出会い
トップが語る確かな言葉が人を動かす
リッツ・カールトンならではの面接試験
ハート・オブ・ハウス・スタッフ
性善説でも性悪説でもない「性弱説」
第3章 信頼を育てる「地域で生きる流儀」
大阪にリッツ・カールトンの種をまく
伊那谷で貫かれる年輪経営
人に迷惑をかけない日々のおこない
百年カレンダーに命日を入れる
中央タクシーが大切にした地元のお客様
雇用はすべてを救う
経営者の約束、社員の約束
世のため人のために尽くす「志教育」
「志教育」の定義、土壌、五つのプロセス
北大東島、15歳の旅立ち
戸隠の縁側で学んだこと
サッカーとホテルの共通点
第4章 グローバル時代に見直す「日本人の流儀」
人生はウェイティング・ゲーム
完成図のないジグソーパズルのピース
社長という役職はあるが、リーダーという役職はない
祭礼を取り仕切る人
心の形が言葉となり、おこないとなる
逆境の時代のリーダーたち
ふさわしいを知る、わきまえる流儀
便利さの代わりに失ったもの
グローバルで通用するために必要なこと
プロダクト・アウトからの脱却
百年塾の目指すもの
中心を貫く「心柱」
伊勢神宮で見つめ直した毎日続けることの大切さ
お伊勢さんで考えた先年先を見据える力
「私は」で話しはじめる
日本語という美しい言葉
エピローグ
面白かった本まとめ(2012年下半期)
<今日の独り言>
Twitterをご覧ください!フォローをよろしくお願いします。