環境相の丸川珠代の2月7日松本市講演での発言の適切性を2月9日の衆院予算委で民主党の緒方林太郎が「信濃毎日新聞」を情報源として取り上げ、問題視した。
東電第1原発事故周辺地の除染目標の基準を年間被爆量1ミリシーベルトとしていることについてだが、同記事が、〈国際放射線防護委員会(ICRP)は、一般人の通常時の被ばく量を年間1ミリシーベルトと勧告している。民主党政権は事故当時、この勧告を基に、国が行う除染の基準を1ミリシーベルトに定めた。〉と解説していることを最初に挙げておく。
緒方林太郎と丸川珠代の質疑は「衆議院インターネット審議中継」によった。
緒方林太郎「おとといですね、信濃毎日新聞に起きましてこのような記事が出ています。丸川環境大臣は松本市内で講演し、東京電力福島第1原子力発電所事故を受けて、国が原子力発電所周辺などで行っている除染で基準となる年間被曝量を1ミリシーベルトとしている点について、『反放射能派と言うと変ですが、どれだけ下げても心配だという人は世の中にいる。そういう人たちが騒いだ中で何の科学的根拠もなく、時の環境大臣が決めた』と述べたということが報道に出ていました。
非常に重大な発言だと思っています。丸川大臣にお伺いします。『何の根拠もない』という根拠は何ですか」
丸川珠代「先ず大変恐縮なんですが、私このとき政務でしたので、自身の秘書も連れて行かず、記録も取っておりませんので、私はこの発言をこういう言い回しをしたという記憶を自分では、申し訳ありません、持っておりませんで、あの、(民主党政権から)十分な説明がなかったのではないかという趣旨の発言をしました。
で、実際この基準を決めたこと自体に対して私が問題だと申し上げたのではなく、むしろ、私が今思っていることとしては1ミリシーベルトというのは福島の皆さんが望んでおられる、その基準に合わせて考えていくことは非常に重要だと思っているんですが、一方でその基準に対してそれがどういう趣旨の基準なのかというのは、私はいつまでも除染で1ミリシーベルトまで下げるのだというように理解されている方がおられて、除染だけでは到達できないので、総合的に見ていくのだといつも説明申し上げていまして、1ミリシーベルトという数字を出してここまで進んでくる間にそのリスクコミュニケーションが十分ではなかったのではないかという趣旨の発言をしました」
緒方林太郎「記憶にないのはダメですよ。2日(ふつか)前の話です。2日前の話しですよ。これが2カ月前だと言うなら、話は別です。2日前のことを言ったかどうか覚えていないというのは、それでは理屈になっていないと思います。
丸川大臣、誤魔化さないで下さい。答弁頂ければと思います」
丸川珠代「ですので、私の記憶によれば、私はこの言い回しはしていないという記憶なんです」
緒方林太郎「この中でどれだけ下げても心配だという人がいるような発言をしておられるんです。この『どれだけ下げても心配だという人』に被災地の方々も含まれているんですか、丸川大臣」
丸川珠代「日本中色々な所にいらっしゃると思っています」
緒方林太郎「被災地の中にはやはり放射能の問題に苦しんでいて、この問題に非常に真剣に(?)見ておられる方々がたくさんいるわけです。そういう人たちを恰も揶揄するような表現で、揶揄しているんじゃないですか、『何の根拠もなく、時の環境大臣が決めた』と、そういう揶揄することでやることが被災地の方々の気持を害しているのです。
時の環境大臣の判断に何の根拠もなく間違っていたと思いますか、丸川大臣」
丸川珠代「承知かと思いますが、ICRP(国際放射線防護委員会)が長期的な放射線量の量というのは1から20、1ミリシーベルトから20シーベルトの間で、その地域、あるいは国によって判断をしてくださいという参考値として挙げられておりますよ。
ですので、その範囲の中で決めるというのが一定の世界的な科学的見地の中で選ぶことでありまして、私は科学的根拠ないというのは、少なくとも私はこういった言い回しをしなかったと申し上げておりますけれども、ハイ、1から20の間で、なぜ1に決めたのかという、その1ミリの数字の性質というのを(民主党政権が)十分に説明しきれていなかったのではないかという趣旨のことを申し上げました」
緒方林太郎「根拠がないということではなかったということでよろしいですね。で、今、丸川大臣、言ったかどうか覚えていない。自分はこの発言をしていないということでありましたなら、仮に言っているとき、責任を取りますね、大臣」
丸川珠代「私がお伝えしたかった趣旨はそうではないので、もし誤解を与えるようであれば、お詫び申し上げます」
緒方林太郎「しかし言い方変わりましたね、言っていないというところから、その趣旨ではなかった、私の本意ではなかったという言い方に変わりましたね。どちらが真実ですか」
丸川珠代「すみません、おっしゃったとしたらという言い方をされたのか(質問が)ありまして、私申し上げたんですが、私の趣旨が正確に伝わらなかったので、聞いておられた方がそういう風に受け止められたのかというふうに思ってますので、その点については私の言葉足らずで申し訳ないことをしたと申し上げたいと思います」
緒方林太郎は引き継いで取り上げていくと言って、この件は切り上げた。
ウソつきは泥棒の始まり。
丸川珠代は新聞が報道しているような言い回しの発言をした記憶はないが、民主党政権が国が行う除染の基準を1ミリシーベルトに決めたことに「(民主党政権から)十分な説明がなかったのではないかという趣旨の発言をした」と、あるいは「1から20の間で、なぜ1に決めたのかという、その1ミリの数字の性質というのを(民主党政権が)十分に説明しきれていなかったのではないかという趣旨のことを申し上げました」と、自分が申し上げた発言の趣旨はしっかりと記憶していることになる。
発言を聞いた複数の人間のそれぞれの記憶の正確さを問題としているならいざ知らず、発言そのものを行った特定の個人の中で発言の趣旨を明確に記憶していながら、新聞が報道している発言に関してはそのような言い回しの発言をした記憶はないという正反対の記憶状況が起こるだろうか。
自身の発言の趣旨を明確に記憶しているなら、新聞が報道している発言を、「そんな発言はしていない」と否定してこそ、自然で正常な記憶であるはずである。
丸川珠代の答弁から窺うことのできる趣意は、ICRPが1ミリシーベルトから20シーベルトの間と勧告しているのに民主党政権が除染基準を1ミリシーベルトと決めてしまったから、除染がいつまで経っても完了しないと、そのことの不満と20ミリシーベルトにしたい願望である。
だったら、原子力規制委員会等に問題提起して変更を求めるべき問題であって、講演で話すべき問題ではないはずだ。
だが、問題提起したら、被災地の住民ばかりか、多くの国民の反発を買って参院選に影響するから、講演で発言することになったといったところに違いない。
丸川珠代「ICRP(国際放射線防護委員会)の長期的な放射線量の基準が1ミリシーベルトから20シーベルトの間」と言っていることが正しいことなのかどうかネットを調べてみた。《ICRP勧告(1990年)による個人の線量限度の考え》なるネット記事に次のような記述がある。文飾は当方。
〈がん、遺伝的疾患の誘発等の確率的影響に関しては、放射線作業者の場合、容認できないリスクレベルの下限値に相当する線量限度を年あたり20mSv(生涯線量1Sv)と見積もっている。公衆に関しては、低線量生涯被ばくによる年齢別死亡リスクの推定結果、並びにラドン被ばくを除く自然放射線による年間の被ばく線量1mSvを考慮し、実効線量1mSv/年を線量限度として勧告している。〉――
放射線作業者の場合は年辺り20ミリシーベルト、公衆、いわば一般人は年間の被爆線量限度を1ミリシーベルトと勧告していると書いてある。
丸川珠代は放射線作業者と一般人を区別せずに「承知かと思いますが、ICRP(国際放射線防護委員会)が長期的な放射線量の量というのは1から20、1ミリシーベルトから20シーベルトの間で、その地域、あるいは国によって判断をしてくださいという参考値として挙げられておりますよ」と答弁したことになる。
丸川珠代の除染基準線量を1ミリシーベルトから20ミリシーベルトとしたい願望は被災地の一般住民の年間被爆線量を放射線作業者と同じ20ミリシーベルトに上げても問題ないとする考えに立っていることになる。
要するに除染の効率だけを考えて、特に福島の放射能被曝に日々関係しなければならない住民の健康、その生命(いのち)を度外視しているからできる丸川珠代の発想であろう。
2月9日の衆院予算委での答弁から3日経過した2月12日夜、環境省で記者会見し、新聞が報道していた発言を認めたと「NHK NEWS WEB」が伝えている。
その発言を記事と記事添付の動画から見てみる。
丸川珠代「私が『何の科学的根拠なく、何の相談もなく』と発言したことは確認を致しました。こうした発言は事実と異なるものであり、当日の発言の内、福島に関連する発言をすべて撤回させて頂きたいと思います。
福島を始めとする被災者の皆様には誠に申し訳なく、改めて心からお詫びしたいと思います。福島の皆様の思いにしっかりとこれからも応えていくことが私の大切な責務だと思う。引き続き職責を果たしたい」――
除染基準線量を1ミリシーベルトから20ミリシーベルトとしたい抑え難い願望が「反放射能派と言うと変ですが、どれだけ下げても心配だという人は世の中にいる。そういう人たちが騒いだ中で何の科学的根拠もなく、時の環境大臣が決めた」といった何の根拠もない発言となって現れた。
このような発言をすること自体が既に「福島の皆様の思いにしっかりと応えてい」ない何よりの証明であって、いくら言葉で「これから応えていく」と言ったとしても、職務だから行い、結果としてそうなる程度のことしか期待できないと見ないわけにはいかない。
このことは除染の効率だけを考えて、住民の生命(いのち)や健康を度外視しているところにも現れている。
環境相としての資格があるとは思えない。丸川珠代には泥棒こそ相応しい職業ではないのか。
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