「一律1割削減」は2009年7月23日の当ブログエントリー記事――《事業仕分け/予算圧縮は官僚のコスト意識の観点からムダの存在を絶対前提とすべし》でも言ってきた。
7月23日に判明した、11年度予算の概算要求基準原案を伝えている記事――《11年度予算:概算要求、総額2.4兆円削減へ 各省庁「一律1割」要求》(毎日jp/2010年7月24日)
月内の閣議決定を目指しているという。基本的なテーマは「歳出の無駄の排除を徹底し、思い切った予算の組み替えを行う」としている。
原案の内容――
1.国債費などを除く歳出を10年度と同じ約71兆円に抑制。
2.このうち社会保障費と地方交付税交付金などを除いた経費約24兆円を対象に各省庁が一律で10年度比
1割(総額約2・4兆円)を削減した額を要求額とする。
3.新規国債発行額を10年度の約44兆円以下とすること。
4.一律1割削減分は成長戦略やマニフェスト(政権公約)関連の事業を盛り込み、要求とは別枠の「要
望」として財務省に提示できる。
5.1割を超えて削減した省庁には、超過分の3倍の額を要望枠に上乗せすることを認める。
記事は最後に、〈野田佳彦財務相は23日中に、各省に原案を提示することを表明していたが、調整が難航したため、この日は見送った。【坂井隆之】〉と書いていて、一律1割削減が歓迎されていないことを窺わせている。
歓迎しない急先鋒は前原国交相、山田農水相といったところを挙げることができる。
一方、民主党の政策調査会が政府の一律1割削減とは別の提言を行っている。《11年度予算:「政治主導」の編成強調 民主政調、2兆円の「日本復活枠」提言》(毎日jp/2010年7月23日)
11年度予算編成の概算要求基準に2兆円程度の「元気な日本復活特別枠」を設けるとする政府への提言である。
これは財務省検討の「一律1割削減」とは一線を画す「政治主導」の予算編成だと位置づけているらしい。財源は「無駄遣い根絶」と「総予算の組み替え」によって捻出。捻出方に関しては財務省原案と何ら変わらない。
捻出した2兆円の財源はマニフェスト(政権公約)の実現や経済成長、雇用拡大などの事業に重点配分するとしているが、この点に関しても財務省の成長戦略やマニフェスト(政権公約)関連の事業を盛り込み、要求とは別枠の「要望」として財務省に提示できるとしている「一律1割削減」の財源捻出による配分と行き着く先はほぼ同じとなっている。
2兆円程度の「元気な日本復活特別枠」提言についての党側の発言――
玄葉政調会長「実現には相当の労力が必要。既存の予算は見直さざるをえない仕組みを作った」
枝野幹事長「我々の従来の考え方を整理し、政府に要請するのは大変分かりやすい」
枝野の発言は何を言っているのか意味不明。「我々の従来の考え方」が各省庁の「考え方」と一致しなければ、政府としては要請されたとしても「大変分かり」にくいことになる。また一致を前提とするなら、同じ考え方に立っていることになり、提言する必要はなくなる。「予算編成に党の考えも反映させて貰いたいから、我々の従来の考え方を整理し、政府に要請することにした」と言うべきだろう。
「大変分かりやすい」には自分たちを絶対正とする独善的なニュアンスが立ち込めている。
大体が玄葉が「既存の予算は見直さざるをえない仕組みを作った」と言っている以上、対立する内容の構成としていることになって、「大変分かりやすい」は自分たちのみの「分かりやすい」となる。
記事は解説している。〈「提言」の形を取ったのは、党政調が政府の方針を了承する自民党政権時代の手法が「族議員」を生んだと批判してきた経緯から、政策決定を政府に一元化する民主党の主張を崩さないためだ。〉と。
その具体的な動きとして、〈玄葉氏は事前に首相官邸と緊密に調整。22日朝、提言をまとめる政調の会合に先駆けて仙谷由人官房長官と会談した。党側は「独立行政法人などへの補助金を0・5兆円削減する」など数値目標の採用も検討したが、仙谷長官らが「政府の手足を縛ってほしくない」と難色を示したため撤回。政府側への配慮を示した。〉と書いている。
だとしたら、「既存の予算は見直さざるをえない仕組み」は言葉程の力を持たない、多分に虚勢を込めた発言となる。
虚勢に近いことを記事も言葉を違えて書いている。〈具体的な財源捻出策は政府側に委ねたため、結局は財務省主導の一律1割カットがベースとなりそう。党政調で作成した提言の素案には「公共事業費は基本的に10年度予算並みの要求を認める」との記述があったが、5兆円を超える公共事業費に切り込まなければ2兆円の財源確保は難しいというのが財務省の立場。素案には公務員人件費の5%削減という数値目標も盛り込まれていたが、提言ではこれも見送られ、一律カットと矛盾しない形に落ち着いた。〉――
記事はこれを、〈見切り発車の側面も否めない。〉としている。「既存の予算は見直さざるをえない仕組み」が財務省の「一律1割カット」と「矛盾しない形」と言うことなら、後追いの性格となり、正体見たり枯れ尾花といったところではないか。
玄葉のギョロッとした目がハッタリの表現だとしたら、問題だ。
記事は既存予算の削減によって確保する財源の配分が今後の課題だと書いているが、削減の如何が決定する財源の配分である以上、財源配分以前の課題としてムダの削減が控えていることになる。その難しさを記事は指摘し、結びとしている。
〈提言は「特別会計の事業仕分け」などで無駄遣いの根絶を求めているが、昨年からの無駄削減の取り組みは思うように進んでおらず、各閣僚がどれだけ切り込めるかに成否がかかっている。〉――
財務省の「一律1割削減」にしても、党の政策調査会の「元気な日本復活特別枠」にしても、如何にムダの削減ができるかが出発点となっている。
だが、「ムダ削減」を不必要な事業(=ムダな事業)の削減、あるいはある事業に対して予算規模が大き過ぎるから、そのムダな金額部分の削減と把えて、そういった「ムダ削減」を図ることと、すべての事業にムダが存在すると把えて、その「ムダ削減」を図ることとでは違った様相を取ることになる。
事業仕分けはほぼ前者の視点から行われていた。
後者の「ムダ」とは役人の民間情報に頼った(依存した)金額の算出と事業方法の構築に存在する「ムダ」である。
民間情報に頼って金額(=予算)を算出した場合、民間は多くの利益を得るために事業方法も往々にして余分を付け加える。
民間情報に頼らない政府事業は果して存在するのだろうか。
勿論、民間情報に頼った(依存した)金額の算出と事業方法にムダが存在するとする、その必然性の正当性が問題となる。
民間情報に頼ったムダの最たるものは公共事業に於ける談合であろう。目に余る程の談合の横行を受けていわゆる「官製談合防止法」が2003年1月6日に施行されたが、それ以降も公共事業に於ける官製談合、あるいは民製談合が発覚、結果として民間情報に頼った予算算出を許している。
ムダな予算算出に併せたムダな事業方法の存在の可能性も考えなければならない。
2007年に防衛省の事務次官だった守屋武昌が防衛事務次官時代に防衛商社山田洋行等からゴルフ接待や旅行接待を受けて兵器調達に便宜を図った官製談合と商社側の水増し請求が発覚したが、兵器や装備品の選定、その価格が商社任せだったことは民間情報に頼った(依存した)金額の算出だったことを物語っている。
ムダな装備品を買わされたといったことはなかったろうか。
その後防衛省は防衛装備品の輸入調達適正化に向けた組織再編と防衛商社を通さない外国防衛産業との直接取引を図ることにしたが、果して民間情報に一切頼らない情報収集を確立できたかどうかである。
各省庁の各事業遂行上必要としている民間、あるいは公益法人等との契約に於ける随意契約も民間情報に頼った金額の算出に当たる。特例を除いて随意契約が禁止されながら、最初から入札先を決めた複数社入札・一社応札の形も随意契約と何ら変わらない形態であって、民間情報に依存した予算の高値算出を許していることになる。
こういった契約に於いて、下請をいくつも通し、中間はペーパー契約のみで利益を落としていく事業方法も当然そこにはムダが存在することを証明する。
2006年に発覚したタウンミーティング事業の民間委託も複数者入札・一社応札の形式を取った談合の疑いが濃かったが、06年11月22日の教育基本法参議院特別委質疑で現在人気の高い民主党の蓮舫議員は談合ではないかと疑いもせずに会場に於ける送迎等が4万円、アルバイトで雇った臨時従業員のエレベーター運転代金が1万5千円、エレベーターから控え室までの誘導が5千円等々、すべてに細かく仕事が分けてあって一般常識からして高い値がつけてあることのみをおかしいじゃないかと追及していたが、談合があった場合、入札を果たした会社から談合に協力した会社に謝礼を払う義務上、すべての仕事に亘って高値設定を必要とすることからの常識外れの金額ではないかとは考えなかったらしい。
このタウンミーティングの高値設定は民間情報に頼ったか、官も協力した談合か、いずれかによって生じたものとしなければ説明がつかない常識外れの価格となる。
前原国交相の財務省「一律1割削減」反対の発言を、《概算要求基準 調整が本格化へ》(NHK/10年7月25日 4時38分)が伝えている。
前原国交相「国土交通省は、マニフェストにしたがって、農林水産省とあわせて、1.3兆円の公共事業費をすでに削っている。4年でやると言ったことをすでに削っているわけだから、達成したところが、達成していないところと同じように削減努力をするのはおかしい」――
一見正当に聞こえるが、この削減が不必要な事業(=ムダな事業)の削減、あるいはある事業に対して予算規模が大き過ぎるから、そのムダな金額部分の削減なのか、緊急必要性はないとして先送りしたことによって生じた削減なのか、あるいは国交省のすべての事業に亘って民間情報に頼った(依存した)金額の算出と事業方法までを洗い出した、そこまで踏み込んだムダ削減なのかが問題となる。
民間情報に頼った(依存した)金額の算出と事業方法まで踏み込んだムダ削減なら、問題はないが、そうでないなら、削減余地を残していることになる。
これまでのムダ削減が民間情報に頼った(依存した)金額の算出と事業方法にまで厳密に踏み込んだ形式のものではないなら、財務省の「一律1割削減」は不可能ではないはずだ。
その根拠は単に民間情報に頼っている以上ムダが存在するという理由からではない。
民間企業は石油ショック時や円高時に、特に外需依存の輸出産業は国際競争力を維持するために下請け企業に対して製品コストのカットを強制した。下請け企業は生き残るために知恵を絞ってコスト削減の方向で製品の改良を行い、元請企業(親企業)の無理難題とも言えるコストカットに応えて、乗り越えてきた。このことは結果的に技術の向上・発展をもたらした。
この民間が可能とした“ムダ削減”に相当するコストカットと、官で言うと、事業運営の改良に当たる製品改良を官が可能とすることができないだろうか。
民間の情報に頼った金額の算出にしても、事業方法の構築にしても、民間の情報を断つか正確化することによって改良の余地が生じる。
いわば民間情報に頼った(依存した)金額の算出に含まれているムダの削減と事業運営の改良を併行させたなら、「一律1割削減」は不可能ではないはずだとの予測可能性から言っている。
ムダ削減によって捻出した財源を成長戦略やマニフェスト(政権公約)関連の事業に配分するとしても、成長戦略やマニフェスト(政権公約)関連の事業自体も民間情報に頼った部分のムダを削減し、事業運営の改良を図る必要がある。
そうしない以上、いつまで経っても財政の健全化に向かわない。
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