安倍晋三が9月10日、東京・北区のフリースクールを視察した。記者が追いかけていき、写真を撮り、最後に安倍晋三の周りを囲み、ICレコーダーを突き出して、話を聞くという段取りだったのだろう。
《首相がフリースクール視察 支援検討》(NHK NEWS WEB/2014年9月10日 21時34分)
視察の内容自体は週1回の音楽の講座に参加して子どもたちに交じって打楽器を使って演奏をしたほか、在校生や卒業生と意見を交わしたという。
和気藹々だったようだ。
安倍晋三「子どもたちが、いじめなどで学校に行けなくなっている状況から目を背けてはならない。不登校になっている子どもたちにとって、フリースクールのように、様々な学びの場があることや、そこでの経験も生かしながら将来に夢を持って頑張っている子どもたちがいることを多くの人に伝えていきたい。
様々な生き方、学び方があるということも受け止めながら対応していくことが大切であり、学習面において、あるいは経済面において、どういう支援ができるか検討するよう、下村文部科学大臣に指示したい」――
優れた教育観の持ち主でなければ、このような素晴らしい言葉は出てこない。
フリースクールについての記事の解説は、〈不登校になった子どもたちなどが学んだり進路相談を受けたりする民間の施設〉だと紹介している。
イジメなどで不登校になった子どもたちを受け入れ、「様々な生き方、学び方」の提供の場となっているフリースクールは確かに貴重な存在で、安倍晋三はその存在意義を十二分に理解していることになる。愛国心教育を掲げているだけあって、さすがであると言いたい。
但し、さすがであるとばかり言ってはいられない。本来は一般的な小学校・中学校・高校が「様々な生き方、学び方」を提供する場でなければならないはずだ。
そのようになっていないから、そこから弾き出されて、子どもたちはフリースクールに「様々な生き方、学び方」を求めなければならない。
このような状況は当たり前の教育という観点から言うと、実際には本末転倒であるはずだ。そうであることに気づかずにこのような発言をしているのだから、ズレているとしか言い様がない。
教育とは社会の成員としての資質を身につけていくこと――社会の成員に相応しい人間形成にあるはずである。テストの成績で計る学力のみで人間形成ができるわけではないのに、大人たちは子どもたちの主たる可能性や価値観をそのようなテストの成績で計る学力に限定、統一し、「様々な生き方、学び方」を排除している。
いわば子どもたちの主たる可能性や価値観を学力に限定していることの裏返しとしてある「様々な生き方、学び方」の排除ということであろう。
小学校・中学校・高校が「様々な生き方、学び方」を提供する場となっていないから、子どもたちは学校というものがそのような場であることを学ばず、人間の可能性や価値観というものが様々であるということも学ばず、子どもたち自体がテストの成績で計る学力でお互いの可能性や価値観を評価・判断する狭い世界に生息することになっている。
イジメにしても、子どもたちがお互いの可能性や価値観が様々であることに無知であることに原因があるはずだ。気に入らない、いい子ぶっているとイジメるのは自身の価値観に反していることのみを以って他者を評価・判断するからだろう。イジメの対象としたその子なりの可能性を評価・判断することができないからだろう。
緊急避難の場所としてフリースクールの存在意義は認めるが、「様々な生き方、学び方」の提供は一般の学校でこそ定着させなければならない課題であることをそっちのけにした安倍晋三の視察発言となっている。愛国心教育といった国家という上からの教育観に囚われているから、このようなズレた発言をすることになる。
要するに人気取りのパフォーマンスに過ぎない。教育というものに地に足を着けた視察とは決して言えない。
上記記事配信の翌日、安倍晋三の視察を、題名通りに皮肉な結果とする記事を配信している。
《【教育動向】不登校児童生徒が6年ぶり増加 懸念される今後の動向 斎藤剛史》(MSN産経/2014.9.11 15:00)
記事は《Benesse教育情報サイト》からの転用となっている。
以下主な内容を拾ってみる。
文科省は、「病気」と「経済的理由」以外の原因で「年間30日以上」の長期欠席した児童生徒を「不登校」と定義しているということ。
文部科学省の14(同26)年度「学校基本調査」(速報)によると、最近5年間は減少傾向にあった小中学校の不登校が2013(平成25)年度に6年ぶりに増加したということ。
人数的には中学校での不登校の増加が目立つが、全児童生徒に占める不登校児の割合では小学校も0.36%と過去最高水準に戻ったということ。
2013(平成25)年度中に不登校だった小中学校(中等教育学校前期課程を含む)の児童生徒は2012年度比6,928人増の11万9,617人であること。
前年度から6,928人も増えて11万9,617人も不登校児が存在する。11万9,617人もの生徒が一般の学校で「様々な生き方、学び方」を許されずに弾き出されたと解釈すべきだが、自分なりの生き方、学び方を見い出すことができず、自分の居場所がないなりに学校内に留まっている生徒もいるだろうから、「様々な生き方、学び方」を認めて貰うことができない生徒は不登校児を含めて相当な人数に登ると見なければならない。
記事に戻る。
小学校と中学校の両方で不登校が増加し、特に中学校での増加幅が大きいこと。中学校では40人学級の場合、クラスに1人は不登校の生徒がいる計算になるということ。
小学校は中学校に比べると人数・割合ともに低いものの、少子化により児童の全体数が減少していることもあって、全児童数に占める不登校の割合は、これまで最高だった2000~02(平成12~14)年度の0.36%に並んで過去最高の水準に戻ったということ。
不登校の増加については教育関係者などの間では、いじめ自殺事件や体罰自殺事件などが相次いだことにより、子どもの安全のため不登校を容認する保護者が増えたことが原因の一つと見る向きもあるということ。
このことはイジメや体罰を受けた生徒が自殺を選択しなければならない程に「様々な生き方、学び方」が許容されない閉塞した学校社会となっているということでもあるはずだ。「様々な生き方、学び方」を基盤として社会人となるべく人間形成していく教育の場とはなっていないということを示唆している。
文科省「調査は不登校の理由まで聞いていないので、なぜ増えたかはわからない」
今後発表予定の不登校の理由まで調べている「問題行動調査」の結果を持って、詳しい対策を打ち出す方針であるということ。
中学校での不登校の増加は小学校から中学校進学時の急激な変化になじめない「中1ギャップ」なども原因の一つと指摘されており、今後、学制改革の一環として検討されている「小中一貫教育学校」(仮称)の創設などの議論に大きな影響を及ぼすことが予想されるとのこと。
この「中1ギャップ」も、「様々な生き方、学び方」が許されていないことの反映としてある現象であろう。
小学校の時と違う子どもと交わることは、勿論、性格が合うかどうかの問題が絡んでくるが、子どもが違えば、その違いに応じてその子が持つ世界もそれなりに違ってくる関係から、今まで知らなかった違う世界と交わるチャンスとなり、それは自分の世界を広げる刺激やキッカケとなり得る。
違う世界とは地理的や人間関係等の生きる環境の違いも含めて、違う生き方によって形作られる。
もし小学校で十分に「様々な生き方、学び方」を認め合う訓練がなされていたなら、その流れで中学校に入って初対面の子どもであっても、相互に相手の生き方の違い、学びの違いを、それが反社会的・反道徳的でさえなければ、それ相応に受け入れることができることになる。
その子がどのような生き方、学び方をして自分とは違う世界を築いていようと、お互いの違いを認め合うことができる。
但し、交際するかどうかは別問題である。
交際する場合、違いを認め、その違いに刺激を受けて、自分の世界を広げていくことが可能となる。このような成長の過程こそが、あるいは人格形成の過程こそが、「様々な生き方、学び方」の訓練そのものとなる。
もし小学校で「様々な生き方、学び方」の訓練を受けていたなら、それを受け継いだ中学校での「様々な生き方、学び方」の反復・延長となる。
子どもたちが相互に「様々な生き方、学び方」を許容できる身についた思想となっていたなら、中1ギャップという現象は無いに等しい小さな問題となっていくはずだ。
安倍晋三は人気取りのために不登校の子どもたちにも理解があるところを見せたかったのかもしれないが、「様々な生き方、学び方」は一般の学校でこそ確立すべき教育体制であって、基本的には安倍晋三らしい履き違えた、ズレた発言としか言い様がない。
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それこそが「多様性」というものでしょうが。
あなたが左翼とは決めつけませんが、特に左翼というものはとかく多数決独裁の考え方に走る傾向が強いです。
その点一般人ほうがまだ多様性を認める傾向はある。
はき違えてるのは安倍総理ではなく、あなたのほうです。一個人の人権を守るために国家の総力を挙げるには民主国というものである以上、フリースクールは個別に支援されるべきなのです。