10月9日の「asahi.com」記事――《建設労働者の転職を支援 政府の緊急雇用対策》が〈鳩山内閣が雇用情勢悪化を受けて策定する雇用対策の概要が8日、明らかになった。〉として、その題名通りの内容を伝えていた。
〈週明けに「緊急雇用対策本部」(本部長・鳩山由紀夫首相)を設置し、「緊急雇用創造プログラム」(仮称)として、10月下旬の臨時国会開会までに最終決定する方針だ。〉という。
財源は麻生内閣の今年度補正予算に計上された「緊急人材育成・就職支援基金」(7千億円)や予備費などを活用。同基金は補正予算の執行見直しでも約3500億円を対象外として残していて、財源として一部を活用するとのこと。
柱となる3つの政策は次の通り。
(1)介護労働の雇用者数拡充
介護施設で働くための職業訓練の支援策の充実及び研修生の生活支援も検討。
(2)公共事業削減に伴う建設・土木労働者の農林業などへの転職支援
「八ツ場(やんば)ダム」の建設中止に加え、1兆円超の公共事業費の削減を打ち出してい
るため、地方を中心に建設労働者などの失業が急増する可能性に備えて農林業などへの転職
支援の仕組みを新たに設ける方向。
(3)生活保護の受給促進などの「貧困層」対策
派遣契約を打ち切られ、仕事や住まいを失った派遣労働者らが続出した昨年末の状況を踏ま
えて「貧困層」対策として、職業紹介や生活保護受給、住居確保などで利用しやすい制度の
整備。
さらに就職できない来春の高校、大学新卒者への対応も検討課題とし、年末や年度末に向けて雇用情勢がさらに悪化した場合の緊急対応をも想定。
記事は最後に鳩山政府がこのような政策を打ち出した背景を伝えている。
〈8月の完全失業率は5.5%で過去最悪の水準。年末から年明けにかけて経済情勢が悪化し、失業率が「6%」に達する懸念もあり、雇用対策で後手に回れば、政権運営に痛手となりかねない。「緊急雇用対策本部」の本部長代行には菅直人副総理が就き、各省大臣が副本部長として参加。雇用対策を早期にまとめることで、鳩山内閣として雇用問題を最優先課題としていることを示す狙いがある。 〉云々――。
上記記事から2日目の11日日曜日、朝日テレビの『サンデープロジェクト』に招かれた天下の民主党副総理菅直人が記事通りの内容を最後のコーナーで披露していた。
『失業率5・5% どうする雇用対策?』
完全失業率 8月 5.5%
求人倍率 8月 0.42倍
のフリップを出して、司会者の田原総一郎のどうするのかの質問に答えている。
菅直人副総理「今週中に総理をトップに雇用対策本部を立ち上げる。多分自分が本部長の代行に就き、事務局長は厚生労働副大臣の細川律夫さんがなることで具体的に動いている。雇用と景気は裏表(うらおもて)で、現在の大きなテーマは二つ考えている。
今有効求人倍率の高い分野は介護の関係。今7千億円の人材育成の補正予算が組まれている。ほかにもあるが、これなどをうまく活用して、例えば半年とか1年とか、そういう研修を受けたり、あるいは実習を受けた人が、介護の色んな施設で、そのまま正職員として働いてもらえるようなプログラムを今準備を始めている。
田原「介護は正社員でない職員やパートが多くて、待遇がはっきり言って、悪い」
菅直人「我が党は月収にして4万円を引き上げるということを公約にしている」
田原「今、平均どのくらいですか?」
菅直人「正確にはよく分かりません。(上目遣いになって考える様子)よく言われるのは13万とか15万ですね。
麻生内閣でも、地方もそういう(人材育成の)基金がかなり積んである。そういう介護の分野を中心にちゃんと仕事につながってくる、そういうプログラムを今準備を始めている」
田原「仕事につながるということは、やれば食える、生活できるいうね」
菅直人「つまり、研修だけ受けて、いまITとか何とかの研修が多いが、いくらエクセルができるようになったといったって、就職先がなければ、意味がない。就職先がある分野としては介護の分野が一つ大きい。
もう一つ、公共事業がこれまでのように増えることはないわけで、そういうものに携わっていた人たちの転職をしたときの新しい仕事を考えなければいけない。
最大の問題は農業・林業。漁業も若干あるが、そういう転職と農業や林業への就労の支援をプログラムでやっています。レストランをつくる。そのレストランに供給する農業をつくる。そこにまた研修の人を入れて、大変だけど、レストランが7、8軒あって、そこに供給する。
おっしゃるとおり、農地法の問題が色々な参入規制があるので、大変なことは分かっている。しかし可能性としては農業があるのに加えて、林業も実はある。民主党は林業再生プランというものを出して、直接雇用が10万、切った木を使った雇用まで含めると、一応100万というものを2年前に出している。
今の林業は切捨て間伐。つまりカネをドンと出して、そしてチェーンソーを担いで日雇いの人が山に入って、切った木は出せない。なぜかと言うと、ロウノウ(?――農道のことか)がない。ロウノウ(農道?)もつくらないで、伐って、腐らせている。
私は2年前に農水の副大臣をやっている山川さんや篠原孝さんと一緒にドイツのクロイモン(?)へ行ってきました。全国も大分見ました。例えば、日吉林業組合というのこの前NHKがやっていたが、こういういい例はいくらでもある。林業に対して土木関係から研修をしっかりして、林業の中に移るのは比較的似た業態だから、その二つの介護と農業・林業、それに加えて色々あるが、そういう形で、ある意味では景気刺激にもなるような雇用の創出です」
田原「菅さん、詳しいんですねえ」(例のヨイショ。そして菅直人は簡単に田原のヨイショに乗る。)
菅直人「林業に関しては多分、国会議員の中で10人ぐらいの1人になっていますから」
田原「今、クビになっている、職業がないの361万人いる。その失業している人、解雇された人、これに対してはどうするの?」
菅直人「今雇用調整金という形で解雇しないでくれという枠組みはしっかりと維持していかなければならない」
田原「既に解雇された人たちは?」
菅直人「私たちが言ったトランポリン法というのが、1回解雇された人を受け止めて、研修をしてもらって、新たな職業に就くという、これが実は私たちの法は去年だったから、否決されたが、7千億円の補正予算がついている。そういう人たちを3年間で30万人を訓練するというプログラムに7千億円がついているが、現場は殆んど動いていない。しかも動いているのは、例えばITなどの講習をやっているが、極端に言うと、ITの講習を受けた。そういうものは多少技能が増えたからからと言って、勤め先まで面倒見てくれる講習機関はない。その7千億円を今の厚生労働省の従来の遣り方では、殆んど回らないから、そこに現場の分かる人に入ってもらった新しいプログラムをつくり直している」
(ほんの少し中略)
菅直人「ハローワークが一般の国民には一番アプローチしやすいが、ハローワークは職業斡旋をしてくれるが、住居の斡旋とか生活保護の斡旋とかしてくれない。去年の派遣村が非常に意味があったのは、結果的にワンストップサービスになった。あそこに行けば、例えば千代田区や中央区の職員も来てくれる。あるいは東京都の職員も来てくれる。弁護士さんが一生懸命やってくれる。そういう形でハローワークと一緒に、それを今度は国の政策としてやるために準備を始めている」
田原「これからもよろしくお願いします」
介護分野への雇用創出を政策していながら、介護職員の現在の月収程度が「正確にはよく分かりません」ではちょっと困ったことだが、菅直人が言っているとおりに一般的に言われている介護職員の月収が13万~15万程度なら、4万円引き上げたとしても、合計17万~19万円。焼け石に水ではないだろうか。特に男性介護士だが、昇給率が低い、結婚を考えると、将来を描くことができないといった理由で辞めていく退職率の高さでも有名な介護職である。
麻生内閣は引き下げてきた介護報酬を今年4月から一転して3%引き上げ、介護職員の収入を月2万円程度アップさせるべく待遇改善を図ったが、介護施設の維持費に吸収されて待遇改善には向かわない可能性が指摘され、介護福祉士など有資格者を対象に税金で給与に直接補助する3年期間限定の予算規模6000億円の追加待遇改善策を2009年補正予算に盛り込む案を出していた。
支給対象が介護福祉士といった有資格者に限定したのは転職者が多く、手当だけ有難く頂いて離職するケースを想定したからだそうだが、有資格者の中にもそういったケースが推測されること自体が抜本策とはならない証明であろう。
さらに言うと、どのくらいの天下りがいるのか財団法人「介護労働安定センター」が調査した「平成20年度労働者の就業実態と就業意識調査」によると、入所、通所も含めた施設系と訪問系を合わせた正社員と非正社員の割合は正社員11371人に対して非正社員6458人と1500人程非正社員が上回る。
非正社員にしても必要戦力だから雇っているのであって(遊ばせるために非正社員を雇っている介護施設があるなら、お目にかかりたい。)、正社員との違いは施設経営上、人件費抑制を担わせている点のみであろう。いわば正社員よりも給与の低い非正社員の雇用維持には役立たない3年間限定、正社員の中でも有資格者限定の税金を使った直接補助であるなら、非正社員の離職防止の効き目に疑問符がつく上に必要戦力を従来どおりに欠くことになる追加待遇改善策をひねり出したということになる。
そして労働負担が居残った職員に皺寄せし、転職者を増やしていくという従来どおりの悪循環を繰返す。
いずれにしても将来的に介護保険料の値上げや消費税増税を予定に入れた「介護労働の雇用者数拡充」といったところだったのだろうが、介護保険料の値上げにしても消費税増税にしても、そのことによって生活に困窮を来たす者が出てくる。
菅直人が「切捨て間伐」に言及しているが、伐り出しても木材単価が外国産より高くついて赤字となるために今まで多くの場所で放置されてきた間伐作業を適宜実施して荒れた山から整備された山へ化粧直しをして健康体とした森林に地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を大いに吸収させる目的で自民党政府が「全国森林計画」(2009-23年度)を策定、国や地方自治体が補助金をつけて間伐を奨励したが、伐り出しても赤字となる状況は変わらないことと間伐面積が実績として評価されることから間伐のみを目的とすることとなった、あるいは政府の政策を消化することも目的化としていたに違いない、伐り倒してその場に放置する「切捨て間伐」が横行することになったという。
確かに地球温暖化防止のために補助金をつけて間伐を奨励したことによって「切捨て間伐」に従事する雇用を生んだとは言えるが、林業全体の問題に対する抜本的解決策とは決して言えない。菅直人が「伐って、腐らせている」と批判するのも無理はない。
だが、2年前に出したという「直接雇用が10万、切った木を使った雇用まで含めると、一応100万」という「林業再生プラン」なる政策を民主党が掲げていたとしても、国税庁の調査で2008年分の平均給与が429万6000円に対して農林水産・鉱業(310万円)、林業に限って言うと、1年365日働くわけではなく年間200日~300日の労働で、平均年収が200万~300万ということだから、菅直人がいくら「比較的似た業態」だからと言っても、土木関係からの林業への新規転職者の立場からしたら、林業の平均年収200万~300万の中で限りなく200万に近いところで我慢しなければならないのではないだろうか。
リーマンショックを受けた「100年に一度」の大不況でいとも簡単にクビを切られた非正規労働者が林業の募集に応じたが、提示された給与の低さに驚いて応募をやめる者が続出したといったニュースもある。中には「仕事がないよりはまし」と林業に従事した非正規労働者もかなりいるだろうが、景気が回復して製造現場で仕事が出てきたとき、いわば「仕事がない」という状況が解消されたとき、「カネは多いに越したことはない」の一般的な人情には打ち勝ち難く、早々に林業から元の非正規労働者に復職という現象が生じない保証はない。
そういった彼らが学習することがあるとしたら、再び不況に見舞われてクビを切られたときの用心に少しは貯蓄に励もうということだと思うが、貯蓄は逆にGDPの主要な項目である個人消費を抑えて民主党の内需拡大策に影響を与えることになりかねない。
但し公共事業の目減りは恒久的な状態で推移するだろうから、林業に転職した元土木従業員は帰る場所がなく林業にとどまざるを得ないかもしれないが、その生活を満足のいく形で維持するためには国の支援も維持しなければならない二人三脚を強いられる恐れが出てくる。民主党が雇用対策として掲げた「公共事業削減に伴う建設・土木労働者の農林業などへの転職支援」の恒久化である。
林業従事者の給与を上げるには国産材の単価を外国産材単価よりも安くして、材木に加工した段階での需要拡大を図る方法を出発点としなければならないはずだが、需要拡大はヒノキや杉の原木単価を下げなければならない逆比例の関係を強いることとなり、当然のこととして林業従事者の決定的な給与抑圧要因となって撥ね返ってくる。
菅直人は「切捨て間伐」で終わらせずに伐り出すと言っているが、外国産材と太刀打ちできる政策を示しているわけではない。伐り出してから建築材、その他の木材として需要機会を見い出せなければ、叩き売って兎に角カネに変える赤字増大の機会に変身しない保証はない。
補助金漬けにするのか、それとも外国産材に高い関税をかけて、国産材を比較低価格に持っていくのか。前者は財政の悪化要因の一つとなるし、後者は結果的に木材単価を高騰させることになって内需の重要な柱である住宅建設需要の抑圧要因となる。果して「ある意味では景気刺激にもなるような雇用の創出です」ということになるのだろうか。
菅直人は「日吉林業組合」を理想的な林業経営だとして挙げていた。それがどのようなものか知らないが、テレビが取り上げたと言うことは一般的な状況として普及していないという証明以外の何ものでもないと同時に一般的的状況として普及しない何かがあるとうことではないだろうか。
一般的的状況として普及する要素を抱えていたなら、テレビが紹介するまでもなく、その経営方法は林業の救世主として口コミで伝わっていたであろう。
林業――いわば間伐や下草狩り、伐採、原木引き出しに自衛隊を訓練の一環として投入する。訓練の一環だから、その経費は人件費も含めて防衛費から出すことになる。伐り出しには自衛隊のヘリコプターを使用。
林業側の経費はゼロだから、国産材の単価を外国産材よりも低く抑えることができる。
勿論、自衛隊の投入によって林業自体に雇用創出は生じない。だが、そのことによって柱等に製品加工した国産木材が外国産木材の単価よりも低く抑えることができたなら、関連産業に雇用創出を導く。
インドネシアやマレーシア、カナダ、その他の外国がラワン材や米松、米栂等の原木の輸出を禁止し、自国の雇用創出と原木に付加価値をつけるために製品化した加工材のみの輸出を許可する政策を採用したとき、外国産材を扱っていた日本の製材、あるいはベニヤ工場は次々と倒産していった。影響を受けなかったのは現地にベニヤ工場や製材工場を建てて現地の産業育成に貢献すると同時に原木から加工材に輸入を替えた日本の商社のみであった。
日本の林業が外国産材よりも単価の低い国産材として原木を伐り出し、住宅等の建築材として使用されるようになれば、今以上の数で製材工場が必要となり、そこに雇用が生まれる。運輸関係では、これまで外材を運搬していた分野と入れ替わることになるから、差引きの期待はそれ程ではないだろうが、外国産材より単価が低くなることによって住宅需要を刺激することは確実に望める。
住宅が現在以上に手頃な価格で手に入れることができるということになって住宅建設が今まで以上に加速された場合は運輸関係にも雇用が生まれ、住宅建設関連の産業にも雇用創出は十分に期待できる。
自衛隊員にとっては「自衛隊が国を守っているのだ、国民が平和に暮らせるのは俺たちのお陰だ」といった軍隊という狭い世界で陥りやすい危険な独善的エリート意識・特別意識を打ち砕き、社会的視野を広げる機会になるのではないだろうか。
戦争になれば軍隊が祖国の守りにつくが、平和時に於いても軍隊の存在自体が国の守りになるとの主張がある。
では、サダム・フセインのイラクはアラブ世界では相当な軍事力を誇示していたが、国の守りになっただろうか。上には上があった場合、軍隊の存在はさしたる力とはなり得ない。平和時に於ける国の守りは国家権力の国際協調姿勢の有無であり、強固な国づくりは国民の経済行為、あるいは文化行為がしっかりしているかどうかで決まる。国民の経済行為、文化行為が強固であることによって、戦争時に於いても軍隊の強固な後方支援足り得る。だからこそ、国民の経済行為にしても文化行為にしても自由な活動を保障する民主主義体制が必要条件となる。独裁体制は経済行為も文化行為も偏った抑圧状態に陥れ、北朝鮮のように軍隊だけが強力、国家は逆に弱体化するという危険な頭でっかちとなる。
田母神のような極端な独善性に囚われた存在の出現を阻止する機会としても役立てるべきである。
自衛隊がPKOで外国に出て、現地住民と触れ合うときも林業体験が生きてくるだろう。
問題点は一つ。林業現場での人件費を自衛隊予算で賄うことによって引き出された低価格の木材ということでダンピング(不当廉売)と把えられないかということ。ダンピングということなら、絵に描いた餅で終わる。
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