――積極平和主義の宣言や中国に対して「常に対話のドアを開けている」の言葉をウソにする中国に対する挑発の言葉となる。――
軍国主義者と呼ぶも呼ばないも、安倍晋三のその本質は国家主義者であり、軍国主義者そのものである。時代が許さないから、その本質をじっと抑えているに過ぎない。
「侵略戦争の定義は定かでない」と戦前の日本の侵略戦争を否定し、国民よりも国家を優先させた戦前の国家主義的国家日本を、あるいは軍国主義国家日本を肯定していること一つ取っても、国家主義者・軍国主義者であることの証明しかならない。
安倍晋三は現在、強い国家・強い軍隊を望んでいる。強い経済を支えとした強い国家・強い軍隊への目論見であろう。当然、強い経済、強い軍隊、強い国家という順序を取る。
国民は強い経済をつくり出す人材に過ぎない。このことは安倍晋三の人権意識の希薄さが証明している。
確かに人権を尊重する発言を繰返しているが、単なる言葉に過ぎない。2013年4月28日主権回復の日の安倍式辞から人権発言を見てみる。
安倍晋三「戦後の日本がそうであったように、わが国の行く手にも容易な課題などどこにもないかもしれません。しかし、今61年を振り返り、汲むべきは、焼け野が原から立ち上がり、普遍的自由と民主主義と人権を重んじる国柄を育て、貧しい中で次の世代の教育に意を注ぐことを忘れなかった先人たちの決意であります。勇気であります。その粘り強い営みであろうと思います」(MSN産経)
「普遍的自由と民主主義と人権を重んじる国柄」だと言っているが、これが安倍晋三の本質的な人間性から出た言葉ではなく、時代の要請によってそう見せなければならない単なる言葉に過ぎないことは2012年4月28日の自民党主催の「主権回復の日」に送った安倍晋三のビデオメッセージの発言が証明することになる。
安倍晋三ビデオメッセージ「本来であれば、この日(主権回復の日)を以って、日本は独立を回復した国でありますから、占領時代に占領軍によって行われたこと、日本がどのように改造されたのか、日本人の精神にどのような影響を及ぼしたのか、もう一度検証し、それをきっちりと区切りをつけて、日本は新しスタートを切るべきでした」――
要するに「普遍的自由と民主主義と人権を重んじる国柄」は日本国憲法を占領軍がつくった憲法だからと否定し、「占領時代に占領軍によって行われたこと、日本がどのように改造されたのか、日本人の精神にどのような影響を及ぼしたのか」と否定している占領軍による占領時代の日本に対する国家統治・国民統治が育む素地を与えた「国柄」であって、日本人自身の手によって獲得できなかった「国柄」であるのは戦後の幣原内閣が目論んだ「日本国憲法改正松本私案」の大日本帝国憲法と殆ど変わらない復古主義が証明していることであって、占領軍の施政を否定していること自体が人権意識の希薄さを物語ることになる。
言葉を替えて説明すると、日本国民は安倍晋三が占領軍がつくったとしている日本国憲法によって戦後初めて基本的人権の自由――思想・信教の自由、表現の自由、言論の自由等々を手に入れることができ、今日の「国柄」に至ったのであり、そのような変遷に対して安倍晋三は「日本がどのように改造されたのか」と否定的文脈で語っているのである。
以って人権意識の程度を知るべしである。
もし人権意識が濃密なら、自国民の人権のみならず、他国の人権状況にも黙っていられないだろう。だが、中国やロシアで人権が無視されていても、直接声を上げたところを見たことがない。
「私を右翼の軍国主義者と呼びたいのであれば、どうぞ呼んで頂きたい」の発言は国連総会出席のためアメリカを訪問していた安倍晋三が日本時間の9月26日未明、保守系のシンクタンク「ハドソン研究所」で英語で演説した中で口から飛び出させたという。
演説のテーマは集団的自衛権行使容認のための憲法解釈見直しへの理解と、アメリカと連携して世界の平和と安定に貢献していく「積極的平和主義」の姿勢提示等となっている。
《首相 「積極的平和主義」で世界に貢献》(「NHK NEWS WEB」/2013年9月26日 4時59分)
安倍晋三「日本はアメリカが主たる役割を務める安全保障の枠組みにおいて鎖の強さを決定づけてしまう弱い環であってはならない。積極的平和主義のための旗の誇らしい担い手になる。
・・・・・・・
日本のすぐそばに軍事支出が少なくとも日本の2倍で毎年10%以上の伸びを20年以上続けている国がある。日本は11年ぶりに防衛費を増額したが、たった0.8%に過ぎない。私を右翼の軍国主義者と呼びたいのであれば、そう呼んで頂きたいものだ」――
この発言の順序が、《米研究所での安倍首相演説要旨》(時事ドットコム/2013/09/26-03:42)記事では前後逆となっている。
集団的自衛権の行使を真剣に検討していることを訴えてから。
安倍晋三「本年、わが政府は11年ぶりに防衛費を増額した。すぐそばの隣国に、軍事支出が少なくとも日本の2倍で、米国に次いで世界2位という国がある。毎年10%以上の伸びを20年以上続けている。私の政府が防衛予算をいくら増額したかというと、たったの0.8%にすぎない。従って、もし私を右翼の軍国主義者と呼びたいのであれば、どうぞ呼んで頂きたい。
日本は地域、世界の平和と安定に今までにも増してより積極的に貢献していく国になる。私は愛する国を積極的平和主義の国にしようと決意している。私に与えられた歴史的使命は、日本に再び活力を与えることによって、積極的平和主義の旗の誇らしい担い手となるよう促していくことだ」――
相変わらず合理的認識性ゼロの発言をしている。たったの0.8%防衛予算増額一つを取って、「右翼の軍国主義者」としているわけではない。政治姿勢自体に国家主義・軍国主義を隠していることから、そう呼ぶのであって、それを日本の防衛予算増額を理由として呼ぶなら呼べと、愚かしくも中国を挑発したのである。
中国を挑発したことに本人が気づいているかどうかは分からない。単細胞にできているから、挑発したとは思っていないかもしれない。
中国の防衛予算について、「軍事支出が少なくとも日本の2倍で、米国に次いで世界2位という国がある。毎年10%以上の伸びを20年以上続けている」と言っているが、確かに中国の防衛予算の著しい不透明性と共産党一党独裁体制は問題だし、両者は相互関係にあるが、中国の国土面積は960万k㎡で日本の約26倍、人口は日本の10倍の13億3千万人余であることと、日本の軍事支出が中国の2分の1であったとしても、日米安保条約で軍事的一体組織となっている在日米軍能力を防衛予算に換算して加算した場合、2分の1の軍事支出では済まない、実態以上の軍事支出になるはずだ。
残念ながら、「在日米軍能力 防衛予算 換算額」で検索したものの、望む情報に巡り合うことができなかったが、全体を見ずに防衛予算額だけで判断して発言するところにも非合理的認識性を否応もなしに見ることになる。
また、ある国との関係を決定づける軍事力はあくまでも最終手段であって、政治的関係は国の指導者の姿勢や外交によって、経済的関係は技術に裏付けされた製品や技術そのものの輸出入によって決まっていく。
前提としなければならない後者の関係性を無視して、集団的自衛権行使の検討を言い、中国の軍事支出の突出を批判する、軍事力を問題とした文脈の中で、「もし私を右翼の軍国主義者と呼びたいのであれば、どうぞ呼んでいただきたい」と中国を挑発した。
これでは「積極的平和主義のための旗の誇らしい担い手になる」との宣言をウソにするばかりか、中国向けに言っている「常に対話のドアは開けている」という言葉自体もウソにすることになる。
このように言葉をウソにしている自体が、安倍晋三が平和主義者でも何でもなく、対極にある国家主義者・軍国主義者を正体としていることの証明ともなるはずだ。
演説している時の顔は自信たっぷりで、得意げな笑みを見せていたが、発言そのものからは愚かしさばかりを感じ取ることしかできなかった。
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