子供の数が減り続けている。これは既に日本社会に於ける見慣れた風景となっているが、あるいは既に当たり前の風景となっているが、そのような報道に接すると、改めて政治の社会構成能力というものを考えさせられる。政治に於ける社会的構成は主として社会保障政策にかかっている。雇用政策にしても、広い意味で社会保障に関係していく。
《15歳未満の子ども33年 連続減》(NHK NEWS WEB /2014年5月4日 17時06分)
総務省の推計による4 月1日 現在の15歳未満の子どもの数の統計である。
男子が836万人、女子797万人、合計1633万人。
この1633万人は比較可能な昭和25年(1950年)以降で、最も少なかった去年より16万人少なく、昭和57年から33年連続の減少だそうだ。
33年前と言うと、1980年に当たる。1980年は自民党大平内閣の時代である。
総人口に占める子どもの割合にしても、去年を0.1ポイント下回る最低の12.8%となり、昭和50年から40年連続の低下。
2012年と比較の2013年10月1日現在の都道府県別の子どもの数はプラスは東京都と沖縄県のみ、その他は横ばいか減少 、最多減の大阪府は1万4000人の減少となっている。
都道府県別の子どもの割合の最高は沖縄県の17.6%、最低は秋田県の10.9%。
記事は総務相の発言を伝えている。
総務省「出産適齢期の女性の数が減り続けているため、1人の女性が産む子どもの数が大幅に増えないかぎり、今後も子どもの数の減少に歯止めはかからない見通しだ」――
当たり前のことを言っている。
出産適齢期女性の減少は子供の数が減り続けていることの因果関係としてある現象であって、相互関連し合った政治的・社会的課題であるはずだ。15歳未満の子どもの数が昭和57年から33年連続の減少ということは、33年前とそれ以降の10年間前後に生まれた子どもは出産適齢期にかかっているはずで、そのような元となる子どもの減少傾向につながっている出産適齢期女性の減少ということであろう。
また、出産適齢期の女性であっても、結婚しない女性の増加、あるいは結婚していても子どもを産まない女性の増加という社会的傾向、産んだとしても、子供の数を制限する女性の増加がという社会的現象が子どもの減少へとつながって、最終的に出産適齢期女性の減少と子ども人口の減少を相互連鎖することになっているということであろう。
現在の若者が置かれている所得が低くなるに従って未婚率が高くなるという社会的環境も子ども人口の減少に影響しているはずだ。
この記事は触れていないが、総人口に占める子どもの割合12.8%は比較可能な昭和25年(1950年)以降から計算すると、1300万人以上の減少を示していて、人口4千万人以上の30カ国の中でも最低水準だと、「MSN産経」記事 は伝えている。
子ども人口減が先進国に関しては世界的傾向ということなら、先進国の政治が子ども人口に関しておしなべて無力ということになるが、だからと言っ て、日本の政治の無力が許されるわけではない。無力という事実を事実として受け止め、自覚していなければ無力に流されることになるし、実際にも流されてきたということを示しているはずだ。
小泉内閣で総務相を務めていた竹中平蔵が2005年12月22日閣 議後記者会見で日本の政治の無力に言及している。
竹中平蔵「日本が人口減少社会になっていくのは実は30年前に分かっていた。残念ながら30年間、我々の社会は有効な手段を準備できなかった。
(有効な手を打てなかった理由)要因は多岐に亘る。経済、住居、所得の環境、教育のあり方、男女共同参画の問題」(朝日新聞/2005年12月22日 朝刊『人口減 産めぬ現実』)
政治が無力だったのは30年間だけではなかった。発言から約8年半近く、現在も引き続いて無力であった。
記事解説。〈合計特殊出生率は1970年半ば以降、人口を維持するのに必要とされる2・1を割り続けている。これが続けば自然減を迎えることは百も承知だったわけだ。
・・・・・・・
35年と半生を縛る多額の住宅ローン、仕事と子育てを両立しにくい社会。それに年金や医療などの将来不安がのしかかる・・・・・。とても安心して子どもを産める環境にはない。〉――
政治が色々と手を打っているにも関わらず、竹中平蔵が指摘している取り巻く環境は2005年当時と殆ど変わっていない。変わらない環境下での貧困の広範囲化と進行、非婚率の上昇、子ども人口の現象、この現象を受けた全体人口の減少等々、社会の内実は悪化方向に向かっている。
このような社会の内実にも関わらず、安倍晋三は日本の自然風景と社会制度を日本が誇ることのできる日本人の優れた文化として掲げている。
2013年3月15日のTPP交渉参加決定記者会見。
安倍晋三「最も大切な国益とは何か。日本には世界に誇るべき国柄があります。息を飲むほど美しい田園風景。日本には、朝早く起きて、汗を流して田畑を耕し、水を分かち合いながら五穀豊穣を祈る伝統があります。自助自立を基本としながら、不幸にして誰かが病に倒れれば村の人たちがみんなで助け合う農村文化。その中から生まれた世界に誇る国民皆 保険制度を基礎とした社会保障制度。これらの国柄を私は断固として守ります」――
2日後3月17日 の自民党大会。
安倍晋三「国益とは麗しい日本の国柄だ。日本は古代より朝早く起きて田畑を耕し、病気の人が出ればみんなでコメを持ち寄って助け合った。ここから生まれた国民皆保険制度は断固として守る」――
いくら日本の国柄が麗しく、それを守ることが国益であり、「麗しい日本の国柄」から生まれた「世界に誇る国民皆保険制度」を日本の優れた制度として断固守ると国民に約束したとしても、 経済的格差とか貧困化、子ども人口減少、高齢化、若者の非婚化等々、矛盾した内実を日本の社会が抱えている以上、日本の国柄を麗しいとする、その実態は麗しいと言っていることとは程遠く、遥かに貧弱な国柄となっているはずで、「麗しい日本の国柄」 は日本という国を美しく表装する単なる表紙に過ぎないことになる。
いわば内容の貧弱さを隠して書物の表紙だけを美しく見せて、「素晴らしい書物」だ、「素晴らしい書物だ」と宣伝するようなことを安倍晋三は言っていることになる。
言っていることと中身の違いは国民皆保険制度についても言うことができる。
制度自体は皆保険制度となっているが、保険料が支払うことができずに無保険者となり、病気治療の際には資格証明証を発行して貰う世帯数が 2006年で約35所帯、一所帯平均の人数は2人弱であることから、約70万人が無保険者状態となっているということ、支払遅延を含めた保険料滞納世帯は480万世帯で、1千万人近くにのぼって、市町村国保の被保険者数約4800万人に対して約2割が無保険者予備軍だという記述をインターネット上で見つけたが、若者の貧困化が進行状況にあることから無保険者や保険料滞納者はさらに増えていると見なければならない。
皆保険の内実がこのように綻んだ状態にあるということは、「世界に誇る国民皆保険制度を基礎とした社会保障制度」だと誇ること自体、綻びある発言ということになる。
安倍晋三は他にも機会あるごとに日本の皆保険を誇っている。
消費税増税決定発表記者会見(2013年10月1日)
安倍晋三「半世紀ほど前の本日、10月1日、東海道新幹線は開業しました。そして、その10日後、東京オリンピックが開会されました。頑張る人は報われる、皆がそう信じていた時代です。その少し前、国民皆保険、皆年金が実現をしました。今に 続く世界に冠たる社会保障制度の礎が築かれた時代であります」――
第186回国会施政方針演説(2014年1月24日)
安倍晋三「消費税率引上げによる税収は、全額、社会保障の充実・安定化に充てます。世界に冠たる国民皆保険、皆年金をしっかり次世代に引き渡してまいります」――
2015年度予算成立記者会見(2014年3月20日)
安倍晋三 「消費税率の引上げ分を年金財政の安定のために使います。お年寄りが住み慣れた地域で生活できるよう、医療・介護を充実します。子供たちを始め、難病で苦しむ人たちへの対策を強化します。待機児童をなくし、安心して子育てできる日本をつくってまいります。私たちの社会保障を充実し、そして安定する。そして世界に冠たる国民皆保険、皆年金をしっかり次世代に引き渡していく」――
要するに国民皆保険制度とそれを基礎とした日本の社会保障制度保障を完全無欠と看做すことで、それらの制度を「麗しい日本の国柄」として包み込み、そのことを前提とした発言となっていて、社会が矛盾した内実を曝している事実が制度の綻びを伝えているにも関わらず、そのような側面は一切度外視して、「世界に誇る」、あるいは「世界に冠たる」と表紙だけを美しく見せている。
社会保障制度政策に問題があるからこそ、あるいは政策に無力であるからこその社会の諸矛盾として噴き出し、存在することになっている様々な内実であるはずである。
だが、社会の内実を直視する本心を持たないためにそれを無視して、「日本の世界に冠たる社会保障制度」と表紙だけ美しく見せることができるということは、明らかにウソの情報のタレ流しに当たるはずだ。
あるいは逆に社会の内実を直視する本心を持っていたとしても、持っていながら「日本の世界に冠たる社会保障制度」と誇大宣伝できるとしたら、意図的に社会の矛盾した内実を隠していることになって、やはり同じくウソの情報を国民に垂れ流していることになる。
どちらにしても、安倍晋三は自身に都合のいい情報のみを発信し、都合の悪い情報は気づかないか無視するかするご都合主義者にできているようだ。
騙されてはいけない。
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