安倍晋三はプーチンとの首脳会談で四島返還協議進展に向けたリーダーシップを何ら発揮できなかった

2015-10-10 09:18:02 | 政治


 10月8日、ロシアのモスクワで北方領土問題と平和条約締結問題を話し合う日露外務次官級協議が開催された。各マスコミ報道を見ると、日本側はその時間の多くを領土問題に割いたと説明しているが、日露双方共に領有権に関わる法的・歴史的な根拠を主張し合い、平行線を辿ったようだ。

 いわば日本側は「北方四島は歴史的にも国際法的にも日本固有の領土である」と主張し、ロシア側は「第2次世界大戦の結果、ロシアの領土になった」と従来の主張を譲らなかった。

 但し日本側の歴史的に日本の固有の領土とする主張は歴史の歪曲、あるいは偽造そのものであろう。北方四島は歴史的にアイヌ民族固有の領土であったにも関わらず、日本が武力で専有し、日本の領土とした。返還されるべき相手はアイヌ民族である。

 第2次世界大戦以前の状態に戻すべきで、第2次対戦の結果を無関係とすることができる。

 日露外務次官級協議そのものは平和条約締結交渉前進の口実の元、継続開催が決まった。日本側が平和条約締結の前提に北方四島返還を置いていて、その前提に立ち、ロシア側が第2次大戦の結果を領有権主張の前提に置いている以上、条約締結に至るはずはないのだが、日本側は元も子も失うことを恐れて、ロシア側は日本側から経済的利益を得るために設けた「双方に受け入れ可能な解決策」の模索とか、「静かな雰囲気の中での交渉」といった言葉で吊って、双方共に中断するわけにはいかない継続交渉と言うことなのだろう。

 誰もが見ていることだが、そもそもからして日露外務次官級協議の結末は9月21日のモスクワを訪れての岸田外相とラブロフ・ロシア外相の会談が結果を予見させていたことである。

 ラブロフ外相は会談の中で、「日本が戦後の歴史の現実を受け入れて初めて、問題を前に進めることができる」と述べたと「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。

 「戦後の歴史の現実」とは勿論、記事が解説しているように「第2次大戦の結果」というやつである。

 ラブロフ外相に、いわば日本は戦後の歴史の現実を受入れよ、でなければ、問題は前に進めることはできないと最後通告のような形で言われていながら、昨年の1月以来1年8カ月に亘って中断していた日露外務次官級協議での平和条約交渉を、日露双方共に中断するわけにはいかず10月8日にロシアで再開することで合意したのである。

 そして日露外相会談に於いてロシア側が示した意思どおりの日露外務次官級協議で終わった。

 このような経緯から窺うことができることは、以前の交渉に於いてもそうだが、ロシア側が領有権の正当性としている第2次世界大戦の結果云々よりも実効支配している現実が握らせていることになっているロシア側の主導権のみが目立つという事実である。

 いわば返還に応じるも応じないもロシア側の態度一つにかかっている。

 裏を返すと、議論を進める上で日本側は主導権を握ることができず、失った従属的状況にある。

 ロシアが北方四島の開発を進め、軍隊をも駐留させているのは実効支配をより強固とし、領有を事実化するためだろう。

 9月21日の日露外相会談と10月8日の日露外務次官級協議の間の9月28日、共に国連総会出席のためにニューヨークに訪れていた安倍晋三とロシアのプーチンとの間で日露首脳会談が行われている。

 当然、安倍晋三はプーチンとの会談で日露外相会談の結果を受けて、ロシア側の主導権に対抗できる、日本側がカードとし得る何らかの有効な策を講じることができるよう、プーチンに働きかけるだけのリーダーシップ(=指導者としての能力)を発揮しなければならなかった。

 例えば領土返還交渉に何ら進展がなければ、今後の経済協力や経済進出、技術協力の後退もあり得る、あるいはロシアに進出している日本の企業のロシアからの撤退もあり得るといった警告の提示である。

 ロシアは現在、ウクライナ併合問題で欧米から経済・金融制裁を受けて、経済的困窮状態にある。プーチンの一時期89%もあった支持率も僅かながら下がっている。欧米の対ロシア経済・金融制裁に日本も加わっているが、ほんの申し訳程度の義理づき合いといった程度に過ぎない。

 日本が領土返還交渉のために経済をカードとした場合、経済悪化状況にあるロシアにとっては不都合な事実となるはずである。

 安倍晋三は10月8日の日露外務次官級協議開催4日前の10月4日、京都で開催の科学技術に関する国際会議に出席するため来日していたロシアの副首相と京都のホテルで会談している。

 マスコミは安倍晋三が副首相に対して「協議の進展を期待している」と述べたと伝えている。

 要するに協議進展を期待する希望を口にした。但し希望を口にするについては進展に対する何らかの成算がなければならない。

 成算もなしに単なる希望だけを伝えたとしたら、一国の指導者としてのリーダーシップが疑われることになる。会談も発言も形式的なものに過ぎなかったことになる。

 プーチンとの首脳会談で安倍晋三が協議進展への成算を僅かながらでも得ることのできる何らかのリーダーシップを発揮した上で副首相に対して協議進展を期待する希望を口にしたという経緯を取ったというなら、自らが担うべきリーダーシップを些かも裏切ってはいないことになる。

 ところが10月8日の日露外務次官級協議はご覧の通りの従来と変わらない結末となった。

 安倍晋三はプーチンとの首脳会談で協議進展に向けたリーダーシップを何も発揮できず、副首相に対して何ら成算もなしに協議進展を期待する希望を述べたことになる。

 プーチンは会談で平和交渉の継続では合意を示したものの、領土については何も言及はなかったと、「毎日jp」記事が伝えている。  

 と言うことは、安倍晋三は領土返還問題で何か匂わせる発言をしたが、プーチンはその発言に応じなかったか、あるいは安倍晋三が直接的な言葉で触れたものの、プーチンに無視されたか、いずれかということになる。

 どちらであったとしても、安倍晋三がプーチンとの首脳会談で領土返還に向けた交渉進展にリーダーシップを何も発揮していなかったことに変わりはない。

 安倍晋三のリーダーシップ不在がロシアに主導権を握らせていることに手をこまねく事態を招き、そういった状況のまま、外相会談が行われ、日露首脳会談が行われ、日露外務次官級協議が行われていた。

 すべてがこのような構造の話し合いでありながら、領土問題を含めた平和条約締結交渉の継続に合意し、再び同じ構造の話し合いに突き進もうとしている。

 何もかも安倍晋三のリーダーシップ不在がその原因をつくっている。

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