今回の台風26号の通過の際、伊豆大島の神津島・神津島村役場では、大雨が降る前に早目の避難所の設置と降雨量に応じた避難勧告伝達予定の前以ての案内を全村に行うなど住民に対して状況の段階に応じたそれなりの備えを要請していたとの報道がある。要するに危機管理を的確に機能させていた。
このことに入る前に一昨日のブログにちょっと書いたが、神津島村とは正反対に危機管理を満足に機能させることができなかった大島町長の性懲りもない根拠のない、要するに責任逃れでしかない弁解に触れたいと思う。
《「二度と過ち繰り返さぬ」=想定甘さ何度も謝罪-大島町長》(時事ドットコム/2013/10/18-18:32)
10月18日の時事通信の取材に応じた時の大島町長の発言であるが、先ず記事が伝えている気象庁の台風情報と町の対応の経緯を記してみる。
気象庁
10月15日夕、伊豆大島に大雨洪水警報を発令(他の記事によると、午後5時38分)
10月15日午後6時5分、土砂災害警戒情報発令
大島町
防災計画の規定で土砂災害警戒情報が発令された場合、町長が避難勧告の必要性を判断
町は主張中の町長に15日午後4時以降、何の連絡もしない
町長は災害発生後まで警戒情報が発令されていたことを認識することができなかったとしている
結果、避難勧告も避難指示も発令しなかった
以下町長の話
防災担当の職員らは台風に備えた未明の再集合に備えて15日午後6時半頃までに順次帰宅
役場は警備員や残業の職員のみ残る
町幹部が16日午前1時頃に町役場に顔を出すまで、担当者不在の状況が6時間以上続いた
果たして町役場の職員は誰も町長に15日午後4時以降、何の連絡もしなかったのだろうか。連絡があって、何の対応も取らなかったということなら、重大な責任問題が発生するために町職員に箝口令を敷き、情報隠蔽を謀ったということもあり得る。学校校長や学校教師、あるいは企業トップ、警察トップ等が起きた不祥事に対して認識していなかったなどと無関係を装いながら、様々な事実が出てきて、最後には認めるといったことが繰返し起きていることを教訓とすると、この疑いは必ずしも否定できない。
例えこの疑いがゲスの勘繰りに過ぎなかったとしても、町長も役場職員も、台風といった自然災害に対しては時間の進行に応じた状況の変化を見守って、変化に備えるという危機管理の初歩的な姿勢・プロセスを欠如させていたことは事実だと指摘はできる。
この姿勢・プロセスを厳格に守っていたなら、15日午後6時半頃までに順次帰宅するといったことはせず、逆に15日夕方から気象庁や上部自治体等の関係機関、その他地元からの情報収集と同時に住民に対して情報収集に応じた情報発信がいつでも可能な役場に陣取って、刻々の状況の変化に備える危機管理に当たっただろうし、土砂災害警戒情報が発令されると同時にその情報を町長に伝える手順を踏んだだろうし、町長にしても連絡を受けて避難勧告、あるいは避難指示を出す出さないの判断は行ったはずだ。
その判断が夜間であることから、「無理に避難をさせれば、さらに被害を増やしてしまう」ということであったとしても、防災責任者としての手順を踏んだ危機管理を一応は機能させることができたことになる。
大島町長「土砂災害警戒情報が出たことを知らず、避難勧告の判断ができない状況だった。想定が甘かった。連絡があっても、避難勧告を出せたか疑問。土砂災害に対する自分の認識がそもそも甘すぎた。
台風のピークが午前2時ごろと甘く考えており、情報収集にも問題があった。土砂災害警戒情報がどのように取り扱われていたかも確認する必要がある。
防災計画で自主避難をうたいながら、対応できていない。矛盾しており、反省するしかない。
(今後について)次の被害防止が最優先。いつでも避難できる環境整備や早期の注意喚起に全力で取り組む」――
「台風のピークが午前2時ごろと甘く考えて」いた――危機管理の初歩的なイロハであるにも関わらず、刻々の状況の変化を見守り、変化に対応した姿勢・プロセスを踏んでいなかったことを暴露しているが、それ以前の問題として、「ピークが午前2時ごろ」と想定していたなら、ピークになる前に何らかの手を打っていなければならなかったはずだから、あとで理解した実際の状況から当てずっぽうに口にした責任逃れの弁解に過ぎない可能性が高い。
実際にも土砂災害発生は16日朝の2時から4時の間だというから、激しい雨はそれ以前から降り続いていたことになる。
その段階で何らかの手を打っていなければならなかった危機管理であるはずだが、何らかの手を打つよう指示も出さずに、「台風のピークが午前2時ごろと甘く考えて」いたなどと言う。
また、台風に伴う記録的な集中豪雨、あるいは台風ではなくても、積乱雲の異常な発達による記録的な集中豪雨は最早珍しいことではなく、危機管理上備えなければならない常識となっている。
今年だけ例を取ったとしても、2013年9月16日朝8時前に愛知県豊橋市付近に上陸した台風18号は滋賀県、京都府、福井県に48時間雨量が200ミリから450ミリという数十年に一度しかないような記録的な大雨をもたらして大きな被害を出しているし、2013年7月28日の山口県と島根県に大きな被害を出した記録的な集中豪雨は、ビルの背後にビルが建つように連続発生・発達した積乱雲(「バックビルディング型」と言われているという。)によってもたらされたもので、2013年8月9日に秋田県と岩手県を襲って、平年の1カ月分を上回る記録的な豪雨をもたらした災害もこの「バックビルディング型」で、奥羽山脈で繰返し発生・発達した積乱雲が原因だとされている。
常識としなければならない集中豪雨、あるいは記録的な大雨への備え・危機管理は土砂災害、浸水、洪水、河川氾濫等々の想定とその備えを追加の危機管理とする次なる常識としなければならない。
危機管理上の取るべき対応を取りもせずに、他の多くのケースでも見ることだが、「想定が甘かった」とか、「土砂災害に対する自分の認識がそもそも甘すぎた」とか、「情報収集にも問題があった」などと危機管理の不備、あるいは責任の不備を言うだけで、決定的な能力欠如は決して口にしない。
性懲りもなく繰返している根拠のない、責任逃れの発言だからだ。
では、大島町と正反対の危機管理に動いた神津島・神津島町の対応を見てみる。《伊豆諸島 早めに避難呼びかけた自治体も》(NHK NEWS WEB/2013年10月18日 18時43分)
危機管理対応の時間的経緯は次のようになっている。
10月15日午後5時30分――土砂災害警戒情報が出る前に避難所を設置、防災無線を使って住民に伝える
午後8時25分――防災無線「降り始めからの雨量が110ミリを超え、土砂災害の危険が高まって
います」と崖下にある3地区の住民に避難準備を呼びかけ、高齢者等、避難に時間
が掛かる住民に対しては避難開始を要請する
と同時に「雨量が村の防災計画に規定された140ミリに達したら避難勧告を発表す
る予定です」と伝える。
10月16日午前0時20分――村内3地区に避難勧告を発令
例え夜間で強い雨が降っていても、土地カンがあり、山に向かって進むのではなく、河川やがけ崩れの恐れのある場所から道路がより整備された場所に向かうのだから(道路が整備されていない避難所というのは考えにくい)、災害が発生するまでの時間に余裕をつくりさえすれば、大島町長が言うように「無理に避難をさせれば、さらに被害を増やしてしまう」といった危険は十分に回避可能である。
神津島村役場は先手先手の危機管理に動いた。
山田多加美さん(63歳)「避難勧告が出たあと、高齢者を連れて大雨の中を動くのは難しいと考えて早めに避難しました。行政が先手を打って避難所を設け、行動を促してくれたことが判断の助けになりました」――
要するに役場が防災無線で、「雨量が村の防災計画に規定された140ミリに達したら避難勧告を発表する予定です」と、状況の変化に応じた対応を前以て知らせてくれたことが助けとなったと言っている。
彼女の発言を記事で読んだだけでも、涙が出てくる。
行政にしても、対する住民にしても、かくあるべきだろう。
記事解説。〈神津島村によりますと、防災計画には、「避難勧告の前に避難所を開設する」などの規定はありませんが、台風の進路が当初は島にまっすぐ向かってきていたことや、避難勧告を出すのが真夜中になると見込まれたことから、早めに態勢を取り準備を進めたということです。〉――
だが、大島町はこういった状況の変化を前以て読んだ対応を取らなかった。
土谷文康神津島村総務課主幹「結果的に空振りになったとしても、行政が早めに準備を進めることが大切だと考えた」――
一昨日のブログに、前以ての危機管理が〈例えムダに終わることになったとしても。危機管理がムダに終わること程、幸せなことはない〉と書いたが、この場合の「ムダに終わる」(=「空振り」で終わる)は住民全員の無事を意味する。
大島町の例を見ると、上に立つ人間の違いにあることだけは確かだ。上に立つ人間の違いによって、生命(いのち)の軽重に違いが出てくる。
このことは私から見ると、安倍晋三にも言えるはずだ。国家の発展を優先させ、その反映としての国民の幸せを考えている国家主義者であって、国民の幸せの反映としての国家の発展が頭にあるわけではない。
国家の発展を優先させているから、そのためには一部の国民が犠牲になったとしても構わないと考えているはずだ。だから経済成長の統計や雇用統計を口にしても、非正規社員の存在やその収入の少なさは口にしない。