安倍晋三が4月4日、官邸で森雅子少子化担当相と会談、少子化対策について「三本の矢で進めていく」と指示したと4月4日付「MSN産経」記事が伝えていた。
少子化対策の三本の矢とは、「待機児童対策」、「女性の仕事と家庭の両立支援」、「結婚、妊娠、出産支援」の三本だそうだ。
自民党総裁に返り咲いて大胆な金融政策を打ち出して以来、なかなか抜け出すことができなかったこれまでの円高がウソのように円安に大きく振れ、株高の場面をつくり出していることに鼻高々、気をよくしたのか、三本の矢づいているが、少子化対策三本の矢の後二者を見ると、女性の人権尊重、あるいは男女平等の立場からの女性の社会参加を強く促す政策と解釈できないことはない。
女性に対してどういった価値づけの姿勢なのか、2012年12月16日投開票の総選挙で自民党が大勝し、政権を奪還、自公合わせて衆議院再可決可能な3分の2を超える325議席を獲得後の党役員人事や閣僚人事、内閣発足後の記者会見などで様々に行なっている女性についての発言から見てみる。
《安倍氏 新執行部人事で“自民変わった”》(NHK NEWS WEB/2013年12月25日 17時11分)
2013年12月25日、党の新執行部のメンバーと共に自民党総裁として記者会見。
安倍晋三「『自民党は変わった』ということを人事でも示すためと、来年の参議院選挙を勝ち抜く態勢を作るため、新執行部を作った。
(女性2人の党役員起用について)選挙戦を通して、『これからの日本は、女性の力を活用していかなければ、活力を取り戻せない』という話をしてきた。女性議員は非常に少ないが、一番難しい党執行部の役員に就任してもらった」――
どちらかと言うと、女性活力の強力な活用による国力活性化の文脈での女性尊重発言であって、経済的側面からの要請である色彩が色濃い。
但し2012年衆院選自民党公約に「社会のあらゆる分野で2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30% 以上とする目標の達成に向け努力します」と掲げている。この女性議員2人の党役員起用にしても、公約に掲げていたことの対応の一部でもあるのだろう。
この選挙公約は、そのことを2020年に向けてを順次具体化し得たとき、指導的立場に立った3割の女性は今以て日本社会に色濃く残っている男尊女卑の権威主義的風潮、あるいは男性上位・女性下位の権威主義的風潮が男女の実際に基づかない虚構に過ぎないことを男たちに教える格好の生きた教材材となるに違いない。
問題はそこまで考えて、安倍晋三が女性の活用や女性の指導的な立場云々を言っているかどうかである。
なぜなら、男尊女卑、男性上位・女性下位の社会的・文化的・意識的風潮を打破することで初めて築くことができる真の男女平等に基づいた女性活力活用、あるいは女性の指導的立場3割実現でなければ、本当の意味での社会参加とは言えないからだ。
単にその時々の労働力を変数とした女性の社会参加を答とすることになり、労働力の過不足に対応した女性の活力活用の範囲内にとどまりかねない。
2012年12月26日、閣議決定による安倍内閣基本方針。
〈政権交代が実現した。本日、「新しい日本」に向けた国づくりをスタートするに当たり、まずは、今回の選挙で示された、日本の現状に対する国民の強い危機感を共有し、内閣全体が緊張感を持って政権運営に当たることが必要である。
4.暮らしの再生
誰もが安心できる持続可能な社会保障制度の確立を目指すとともに、女性が活躍し、子供を産み育てやすい国づくりを進める。また、難病や障害など、社会的に弱い立場にある人たちが、社会で活躍できる環境を整備する。〉――
「『新しい日本』に向けた国づくりをスタート」と言いながら、女性に関する言及はこの個所以外にはない。
2012年12月26日、安倍首相就任記者会見。
安倍晋三「持続可能な社会保障制度の確立も喫緊の課題であります。三党合意に基づきまして、社会保障・税一体改革を継続してまいります。
また、女性活力・子育て支援担当大臣を設置いたしました。女性が活躍をし、子供を産み育てやすい国をつくっていくことも安倍政権の使命であります。まず、隗より始めろとの精神に基づいて、党の4役のうち2人を有能な女性にお願いをいたしました。今回の人事でも、実力本位で、積極的に女性を登用いたしました」――
2012年12月26日閣議決定による安倍内閣基本方針をその通りなぞった発言で、やはりこの個所以外に女性に関する言及は一切ない。
2013年1月1日、安倍首相年頭所感。
安倍晋三「持続可能な社会保障制度を確立するために、自民、公明、民主の『三党合意』に基づき、社会保障・税一体改革を継続します。女性が活躍し、子どもを生み、育てやすい国づくりも、前に進めてまいります」――
前の発言の繰返しに過ぎないし、女性に対する言及もこれ以外にない。
2013年1月7日、政府与党連絡会議での安倍冒頭挨拶。
安倍晋三「大胆な金融政策、そして機動的な財政政策、さらには、民間の投資を喚起する成長戦略、この「3本の矢」でもってデフレ脱却を目指していかなければなりません。
また、東日本大震災の被災地は、2度目の寒い冬を迎えることになりました。
被災地の皆様の心に寄り添う現場主義で、復興の加速化に取り組んでまいります。
また、持続可能な社会保障制度の確立も喫緊の課題でありますし、また、女性が活躍し、子どもを産み育てやすい社会を作っていくも我々の政権の使命であります。
こうした課題に、内閣で一丸となって取り組んでまいります。与党の皆様方のご協力のほど、よろしくお願い申し上げます」――
こうも立て続けに同じことを言っていると、単にスローガンとして喋っているに過ぎない疑いが濃厚となる。
この疑いは男尊女卑、あるいは男性上位・女性下位の社会的・文化的・意識的風潮の打破を意図し、その意図に基づいた女性活力活用、あるいは女性の指導的立場3割実現と言っているのかどうかという疑いへと否応もなしに跳ね返っていく。
このことの強力な証拠として、ここでも女性に関する言及にしても、やはりこの一箇所のみであることを挙げることができる。他のどのような女性に関わる発言も一切ない。
そもそもからしてスローガンの多用は身についていない思想に発することが多い。身についている思想なら、発言をスローガンのみで終わらせることはないはずだからだ。
2013年1月28日、第183回国会安倍首相所信表明演説。
安倍晋三「世界中から投資や人材を惹(ひ)きつけ、若者もお年寄りも、年齢や障害の有無にかかわらず、全ての人々が生きがいを感じ、何度でもチャンスを与えられる社会。
働く女性が自らのキャリアを築き、男女が共に仕事と子育てを容易に両立できる社会。
中小企業・小規模事業者が躍動し、農山漁村の豊かな資源が成長の糧となる、地域の魅力があふれる社会。そうした『あるべき社会像』を、確かな成長戦略に結び付けることによって、必ずや『強い経済』を取り戻してまいります」――
「若者もお年寄りも、年齢や障害の有無にかかわらず、全ての人々が生きがいを感じ、何度でもチャンスを与えられる社会」とは障害者差別なき平等社会の謳いである。
だが、アベノミクス成長戦略が功を奏して景気が大きく回復し、企業が利益を上げて、人件費に回す資金に余裕が出た。やれ雇用創出だと動いたが、人材不足で人が集まらない。余裕が出た人件費資金で健常者を1人使ってさせる仕事を障害者を2人か3人か使って対応させるからといったことからの障害者雇用なら、不景気になったとき、平等意識からの障害者活用でなければ、障害者が先に人員整理の対象となりかねない。
いわば経済的要請からの約束に過ぎないことになる。
女性に関して言うと、前の発言と同様にこの個所以外に女性に関わる言及がないことからして、「働く女性が自らのキャリアを築き、男女が共に仕事と子育てを容易に両立できる社会」の確約にしても、障害者の雇用と同様に経済的要請からのみの女性尊重と疑わなければ整合性を与えることはできない。
2013年1月16日~19日のベトナム、タイ、インドネシア3カ国訪問時、1月18日インドネシアで表明した「開かれた、海の恵み ―日本外交の新たな5原則―」
安倍晋三「いままで、育てることを怠ってきた人的資源もあります。日本女性のことですが、わたくしはこれらのポテンシャルを一気に開放し、日本を活力に満ちた、未来を信じる人々の住む国にしたいと考えています」――
女性の雇用という観点からの女性に関する言及はこの個所のみで、それ以外はインドネシアと締結したEPAで日本に来て看護師試験を受け、合格したインドネシア人女性に触れた個所のみである。
どう公平に見ても、経済的要請からのみの女性尊重としか受け取ることができない。
このことは安倍首相が訪米してオバマ大統領と会談後の2013年2月22日夕方、米国の有力シンクタンクの戦略国際問題研究所で講演した発言によってよりはっきりする。
安倍晋三「もっと重大な課題が残っています。日本の生産性を向上させる課題であります。日本の経済構造を、作り直すという課題です。女性には、もっと多くの機会が与えられるべきです。預金が多いのは主に高齢層ですが、租税負担が重くならないかたちで、若い世代に譲り渡すことができなくてはなりません。わたくしの政府は、いままさにそれを実行しています」――
「日本の生産性を向上させる課題」という要請に答を出す観点からの女性の雇用であって、女性の人権尊重、あるいは男女平等の立場からの女性の社会参加の一つの形である女性の雇用をそもそもの出発点としているわけではない。
この講演でも女性に関する言及はここ一箇所のみである。
2013年2月28日、第183回国会安倍首相施政方針演説。
安倍晋三「(女性が輝く日本)
他方、家庭に専念して、子育てや介護に尽くしている方々もいらっしゃいます。皆さんの御苦労は、経済指標だけでは測れない、かけがえのないものです。
皆さんの社会での活躍が、日本の新たな活力を生み出すと信じます。皆さんが、いつでも仕事に復帰できるよう、トライアル雇用制度を活用するなど、再就職支援を実施します。
仕事で活躍している女性も、家庭に専念している女性も、全ての女性が、その生き方に自信と誇りを持ち、輝けるような国づくりを進めます。皆さん、『女性が輝く日本』を、共に創り上げていこうではありませんか」――
あくまでも雇用の面からの“女性の輝き”となっている。勿論、女性雇用の拡大によって、安倍首相が意図していないことであったとしても、期せずして男尊女卑社会、あるいは男性上位・女性下位社会の緩和に役立つ側面を持たないわけではない。
だが、問題としている要点は安倍晋三自身に女性社会参加拡大政策を促している基本的な思想であって、男女差別の精神構造に与える間接的効果ではない。
次の記事が安倍晋三の女性の存在性に関わる思想を露わにしている。《怒れる女性11団体 男女共同参画会議 「つくる会」元副会長起用》(/2013年3月28日 朝刊)
男女共同参画社会の実現を目指す「mネット・民法改正情報ネットワーク」など11女性団体と弁護士・有識者ら33人が3月27日夜、南野(のおの)知恵子元法相と共に政府が男女共同参画会議議員に高橋史朗明星大教授を起用したことに対する抗議文を会議議長の菅義偉官房長官に提出したという内容である。
記事解説。〈高橋氏は従軍慰安婦をめぐる教科書の記述を自虐的と批判する「新しい歴史教科書をつくる会」の元副会長。男女差別の解消を進めた日本の戦後教育を連合国軍総司令部(GHQ)による「精神的武装解除」と捉え、夫婦別姓や性教育にも批判的だ。2004年に埼玉県教育委員に就任した際は、公平性に疑問があると市民団体から抗議の声が上がった。〉――
抗議文「高橋氏はジェンダーへのバッシングの急先鋒(せんぽう)として知られ、男女共同参画会議議員として極めて不適格」――
菅官房長官(27日記者会見)「知見を参考にしたいと任命している。著書で男女共同参画に反対しているのではないことも明確に述べている」――
本人が「男女共同参画に反対しているのではない」と言っていたとしても、男女差別解消推進の日本の戦後教育を連合国軍総司令部(GHQ)による「精神的武装解除」だと言って自分自身の思想としている点、夫婦別姓や性教育を批判的な思想としている点から判断すると、男女共同参画に矛盾する思想となって、単に口で言っているだけとなる。
男女差別解消推進の日本の戦後教育を「精神的武装解除」と価値づけて、どう男女共同参画を実現できるというのだろうか。夫婦別姓や性教育に批判的な立場から、男女平等思想を本質としなければならない男女共同参画をどう実現できるというのだろうか。
こういった人物を政府の男女共同参画会議議員に起用していること自体が安倍晋三の女性に対する姿勢との相互対応の証明でしかないが、安倍晋三自身も高橋教授と同様に夫婦別姓反対を明らかにしていて、両者響き合わせた思想であることが分かる。
自身が会長を務め、最高顧問に安倍晋三と同様に天皇主義者である平沼赳夫を据えた創世「日本」の2010年2月5日総会で、在住外国人地方参政権や選択的夫婦別姓制度などを問題法案として反対する運動方針を決定している。
少なくとも選択的夫婦別姓は男女平等思想に基づいているはずだ。いわば選択的夫婦別姓への反対は男女平等思想への反対と等しくし、安倍晋三が政策として掲げている「女性の仕事と家庭の両立支援」にしても、女性の力の活用にしても、2020年女性の指導的立場3割にしても、「女性が輝く日本」にしても、男尊女卑社会、あるいは男性上位・女性下位社会の打破に基づいて女性の人権尊重社会の実現、あるいは男女平等社会の実現を発意した政策ではなく、日本経済活性化のためのみの人材活用に過ぎないことになる。
このことの何よりの証拠が女性宮家反対に現れている男尊女卑思想であろう。《【安倍首相インタビュー】詳報 TPP、集団的自衛権、村山談話、憲法改正…》(MSN産経/2012.12.31 02:07)
12月30日の産経新聞のインタビュー。
皇室典範見直しに関して。
安倍晋三「皇位継承は男系男子という私の方針は変わらない。(女性宮家創設の検討など)野田佳彦政権でやったことは白紙にする。しかし、宮家がこのままいくと次々後継者がいなくなるという問題に直面するので、新たな方向性については有識者にもう一度ヒアリングを行いながら全く白紙から検討していきたい」――
皇室に関しては男子優位としているが、一般国民に関しては男女平等の立場に立っているという口実を成り立たせることもできるが、真に男女平等を思想としていたなら、その思想は皇室と言えども反映させないではいられないはずだ。何しろ天皇や皇族が自ら決める決定ではなく、政治権力が決めて、議席を獲得していさえすれば、法律(=皇室典範)として成立させることが可能な決定だから、否応もなしに政治権力側の思想の影響を受ける男子上位云々、男女平等云々ということになるからだ。
だが、野田政権が検討したことを覆す。この決定からは男女平等思想は些かも読み取ることはできない。
安倍晋三の言っている女性の活用、社会参加、指導的立場3割、女性が輝く日本等々は経済発展に必要要素としての取り扱いに過ぎず、決して女性の人権尊重や男女平等思想に発した目標ではないことを見てきた。
口では色々と言うものの、女性の人権尊重を装った女性差別主義・男女不平等主義が安倍晋三の本質だと見做さざるを得ない。