日本政府がテロには絶対屈しないが基本姿勢なら、アルジェリア人質事件での安倍発言は違った意味を持つ

2013-03-14 12:17:41 | Weblog

 今年の1月16日、イスラム過激派のテロ集団がアルジェリアの天然ガス関連施設を襲撃、日本国籍を含めた複数国籍の従業員を人質に取り、立て籠もった事件で、日本政府かプラント大手「日揮」かがアルジェリア政府に人質の身代金の提供を申し出ていたと、ウルドカブリア・アルジェリア内相が3月11日、訪問先のアラブ首長国連邦(UAE)で開かれた現地在住のアルジェリア人らとの会合で発言したとマスコミが伝えている。

 10人の邦人人質がテロリストたちに殺されている。

 《アルジェリア人質:日本側、身代金打診か 内相が発言》/2013年03月13日 15時11分)

 会合への出席者による発言として伝えている。

 ウルドカブリア内相「日本側から人質解放のために必要な資金を提供するとの申し出を受けた。

 (資金提供申出者について)日本側の高位の責任者」

 記事は、〈日本政府や、施設運営に参画していたプラント大手「日揮」(本社・横浜市)の幹部を表している可能性がある。〉と解説している。

 ウルドカブリア内相「イスラム過激派による誘拐事件では身代金支払いを拒否するアルジェリアの方針に基づき、申し出を拒否した」(この発言個所のみ解説文を会話体に直す)

 但し我が日本の安倍政権菅官房長官が3月13日の記者会見でこの報道事実を否定している。《アルジェリア人質:身代金提供の打診を否定…菅官房長官》毎日jp2013年03月13日 18時36分)

 菅官房長官「「わが国として身代金の支払いを申し出た事実は全くない。テロには絶対屈しないというのが日本政府の基本姿勢だ。

 (内相が)どういう状況でそういう発言をしたかを調べてみたい」

 内心決然とした決意を持って、「テロには絶対屈しないというのが日本政府の基本姿勢だ」と述べ、身代金提供の報道を強く否定したはずだ。

 菅官房長官の発言が事実とすると、日本政府が例えテロと交渉することはあっても、相手の要求には応ぜず、こちらの要求を相手に飲ませるか、飲ませることができなければ要求を断念して初めて「テロには絶対屈しない」日本政府の姿勢が貫徹可能となる。

 逆にテロリストの要求に応じた場合、人質解放に成功したとしても、テロに屈したことになるから、その選択肢は初めから放棄していることになる。

 このことを逆説すると、テロとの戦いに屈しない過程で、人質の命を犠牲にすることもあり得ることを宣言したことになる。

 ここから読み取ることができる日本政府の姿勢は人質解放(=人質の人命優先)よりも、「テロには絶対屈しない」姿勢を絶対とするということである。

 「テロには絶対屈しない」の姿勢を絶対前提とした場合、人質解放は優先順位が相当に低位に置かれることになる。

 日本政府のテロ襲撃と人質との関係に於けるこの構造はアルジェリア政府の「テロリストとは交渉せず」の制圧優先・人質の人命非優先の姿勢とかなり響き合うことになる。

 安倍首相は日本政府を代表する一番の人として、第一番に「テロには絶対屈しない」の基本姿勢に基づいて人質邦人保護の危機管理に動いたはずである。アルジェリアのセラル首相との2度の電話会談でも、国会等の発言でも、「テロには絶対屈しない」姿勢を反映させた発言だったことになる。

 日本政府の基本姿勢と日本政府を代表する首相の基本姿勢が異なるとしたら、滑稽なことになる。

 とすると、事件に関わる安倍発言はそういった姿勢を反映させた発言でなければならなかった。そういった観点から発言を読み解き直さなければならない。なっていないとしたら、情報操作された発言と見做すことになる。

 タイ訪問中だった安倍首相は1月16日日本時間午後1時頃の事件発生から1日と11時間30分後の18日日本時間夜中の0時30分頃にアルジェリアのセラス首相と第1回目の電話会談を行なっている。

 直ちに電話せずに17日の1日を間に置いたのか不明である。既に軍事作戦は開始されていた。

 安倍首相「アルジェリア軍が軍事作戦を開始し、人質に死傷者が出ているという情報に接している。人命最優先での対応を申し入れているが、人質の生命を危険にさらす行動を強く懸念しており、厳に控えてほしい」

 セラル首相「相手は危険なテロ集団で、これが最善の方法だ。作戦は続いている」

 安倍首相「解放された人質の国籍など具体的な情報を知らせて欲しい」(この発言個所のみ解説文を会話体に直す)

 セラル首相「作戦は継続中で確認できない」

 安倍首相「とにかく日本人を含め、人質を全員無事に保護してほしい」

 セラル首相「最善の努力を尽くす。必要に応じて、アルジェリアにいる城内政務官に情報を入れるようにしたい」(以上NHK NEWS WEB記事から)――

 セラル首相は「相手は危険なテロ集団で、これが最善の方法だ」と制圧作戦を擁護、アルジェリア政府の「テロリストとは交渉せず」の姿勢を貫徹させている。

 だが、安倍首相の会話からは、アルジェリア政府の「テロリストとは交渉せず」の姿勢と響き合うはずの日本政府の「テロには絶対屈しない」の基本姿勢が見えてこない。「テロリストとは交渉せず」の姿勢に基づいて制圧作戦が開始された以上、テロリストたちが投降してくるか、全滅させる以外、もはや交渉の余地はどこにも存在しなくなったと見なければならないはずだし、既に触れたように「テロには絶対屈しない」の姿勢を絶対前提としている以上、人質解放の優先順位を相当に低位に置いているはずだが、しかも制圧の軍事作戦が開始されているにも関わらず、「とにかく日本人を含め、人質を全員無事に保護してほしい」と、「テロには絶対屈しない」の姿勢に反する、それゆえにその場にそぐわない発言を行なっている。

 逆に安倍首相が「テロには絶対屈しない」の姿勢でいたなら、アルジェリア政府の「テロリストとは交渉せず」の姿勢に基づいて人命優先を後回しにした軍事作戦を擁護してもいいはずだ。

 日本政府にしても人質解放の優先順位を相当低く置いているはずだからだ。

 果たしてマスコミが報道する通りの発言を行ったのだろうか。情報操作された発言ではなかったのだろうか。

 セラル首相との2度めの電話会談は1月20日午前0時半から15分間行われている。

 セラル首相「人質救出に向けたすべてのオペレーションが終了し、全テロリストは降伏した。現在、まだ見つかっていない人質を捜索中だ」

 安倍首相「わが国として、テロは断じて許容しない。今回の事件は極めて卑劣なものであり、強く非難する。これまでアルジェリア政府に対し、人命を最優先にするようにと申し入れてきたが、厳しい結果となったことは残念だ。

 現地の状況について、以前から情報が錯そうしている。日本および関係国に、アルジェリア政府が把握している情報を緊密に提供するよう重ねて求めたい」

 セラル首相「あらゆる指示を出して最大限の協力をしたい」

 電話会談ご記者団に――

 安倍首相「邦人の安否につい、厳しい情報に接している。今後とも、人命最優先で取り組んでいくし、邦人の安否の確認にも全力で取り組んでいく」(NHK NEWS WEB記事から)

 置かれた状況に応じた自然な会話に見えるが、安倍首相の発言からは、「テロには絶対屈しない」とする日本政府の基本姿勢を表すどのような言葉も見当たらない。

 「わが国として、テロは断じて許容しない」と言っている以上、セラル首相が「人質救出に向けたすべてのオペレーションが終了し、全テロリストは降伏した」と発言したことに対して日本政府の「テロには絶対屈しない」の基本姿勢を示す何らかの言葉で応えてもいいはずだが、何も応えていないのは不自然である。

 「我々としてもテロには絶対屈しないというのが日本政府の基本姿勢です。貴国の軍事作戦は止むを得ない対応です」とでも応えてこそ、基本姿勢にふさわしい。

 果たして安倍首相は「これまでアルジェリア政府に対し、人命を最優先にするようにと申し入れてきたが、厳しい結果となったことは残念だ」とセラル首相に面と向かった位置から言う意味となる、このような礼を失する発言を行ったのだろうか。

 但し、「厳しい結果となったことは残念ですが」と前置きした上で日本の基本姿勢を伝えてアルジェリア政府の軍事作戦を擁護する上記の言葉を続けたなら、自然な起承転結となる。

 果たして安倍、あるいは菅官房長官はセラル首相との会談に於ける安倍発言を正直に伝えているのだろうか。情報操作はないのだろうか。

 安倍首相は2月19日(2013年)の参院予算委員会で小野次郎みんなの党議員の質問に次のように答弁している。

 安倍首相「えー、我々はでき得る限りのすべての手は打った、とこのように思っております。えー、つまり、現地に於いてオペレーションを行なうのは、アルジェリア政府、であってですね、残念ながら、我々にとっては限界があると」

 日本は交渉当事国ではないから、交渉当事国のアルジェリア政府に任せるしかなかった、人質全員救出には限界があったと言って、自らの危機管理を正当化している。

 だが、安倍首相は「テロには絶対屈しない」という日本政府の基本姿勢を自らに反映させていたはずで、その姿勢が人質解放の優先順位を低位に置いている以上、交渉当事国であったとしてもアルジェリア政府とさして変わらない結果で終わる可能性は高かったはずだ。

 また交渉当事国ではなくても、交渉当事国アルジェリア政府の「テロリストとは交渉せず」の国家危機管理に近親性を持って対応してこそ、「テロには絶対屈しない」の日本政府の基本姿勢の正直な誇示となり、その誇示に対して「限界」という言葉は相対化され、言葉通りの意味を失う。

 要するに日本は交渉当事国ではないから、交渉当事国のアルジェリア政府に任せるしかなかった、人質全員救出には限界があったと言っていることは言っている通りの意味ではなく、言葉の裏でアルジェリア政府の対応を支持しながら、自らの危機管理対応を正当化するタテマエとして言っている言葉に過ぎないことになるはずだ。

 勿論、どういう危機管理の姿勢を取ろうと、政権の意志であり、選択である。ただ、今頃になって菅官房長官を通して国民に対してその姿勢を明らかにするのではなく、人質事件が発生した時点で正直に明かすべきだったろう。

 明かさないまま、安倍首相の対応は菅官房長官が言った「テロには絶対屈しない」とする日本政府の基本的姿勢が、そういう姿勢を取る以上、人質の人命優先が無視される可能性を孕んだ基本姿勢を同じ運命としていながら、それを無視して「人命優先」がさも至上命令であるかのような危機管理姿勢を演じていた。

 不正直以外の何ものでもない。

 安倍晋三は自著で「(国を)命を投げうってでも守ろうとする人がいない限り、国家は成り立ちません」(『この国を守る決意』 と言っているように国民よりも国家を優先する国家主義者である。何をどう言おうとも、国家主義の立場からの人質の人命優先順位であることに変りはないはずだ。

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