日露首脳会談領土問題「再活性化」話は野田首相の成果に対する演出と国民向け情報操作

2012-07-06 10:43:21 | Weblog

 6月18日(2012年)メキシコ開催の20カ国・地域(G20)首脳会議の際、野田首相がプーチン露大統領と初めてとなる日露首脳会談を行い、会談後、日本側は両首脳が領土問題の交渉を再活性化することで一致したと発表した。

 いわば領土問題解決の進展に向けて交渉をスタートさせることを確認し合ったということになる。

 当然、話し合いの第一歩となる手がかりを掴むことができたという点で野田首相の成果となる。

 ところが、昨日の各マスコミが野田首相が「再活性化」という言葉を使っていなかったと伝えた。

 会議の模様を伝えていた記事を見てみる。《北方領土交渉 再び活性化で一致》NHK NEWS WEB/2011年6月19日 7時5分)

 プーチン大統領「日ロ関係は段階的に発展している。ロシアで会談できることを楽しみにしている」

 野田首相「世界が大きく変化しているなか、国のリーダーとして、地域の安定と平和を実現するのがお互いの責務だ。同時に、柔道を愛好する同好の士として、お会いできてうれしい」

 野田首相が柔道愛好家であるプーチン大統領に柔道着のプレゼントを伝え、プーチンが日本語で「ありがとう」と礼を言う。

 いよいよ本題である最大懸案事項となっている領土問題に関して。

 ことし3月の大統領選挙の直前のプーチン領土問題発言。

 プーチン「双方が受け入れ可能な解決策で決着させ、終止符を打ちたい」

 この発言を受けた野田首相の日露首脳会談での発言だったはずだ。

 野田首相「解決しなければならない問題だ。これまでの諸合意、諸文書、法と正義の原則に照らして、実質的な協議を始めたい。『始め』の号令をかけたい」
 
 「『始め』の号令」とは何度もテレビ・新聞が取り上げていたが、柔道の試合開始の掛け声だということで、自身も柔道を経験している野田首相が相手の趣味に合わせて気の利いた言葉で話し合いの進展を促したといったところなのだろう。

 だが、国際政治は、特に領土問題となると、ちょっと気を利かした言葉を使ったからといって、相手の気持を懐柔できるほど甘いものではない。

 野田首相は気の利いた言葉の駆使にエネルギーを注ぐタイプの政治家だが、気の利いた言葉と相手を説得する言葉とは自ずと異なる。

 プーチン大統領「話し合っていく用意はある」

 記事が伝えている両者の会談の場での発言は以上である。二人共、「再活性化」などと言っていない。マスコミが伝える二人の発言は日本側が日本のマスコミに伝えた発言情報や、あるいはロシア側がロシアのマスコミに伝えた発言情報に基づいて組み立てたもので、殆どの場合、直接見聞による直接情報に基づいているわけではない。

 記事が、〈両首脳は、停滞している交渉を再び活性化させることで一致しました。〉と伝えていることは、日本側がマスコミに伝えた“再活性化一致”情報といったところなのだろう。

 会談後の記者団に対する野田首相発言は断るまでもなく直接見聞による直接情報ということになる。

 野田首相「打ち解けた雰囲気の中で、さまざま議論をした。個人的な信頼関係を作る第一歩になった。これからも頻繁に会いたい」

 野田首相自身にしても、「再活性化」といった言葉に対する言及は示していない。個人的な信頼関係構築を自らの成果としたに過ぎない。ここから領土問題解決の進展に向けて交渉をスタートさせていくということになるが、個人的な信頼関係のみであったなら、そのことが必ずしも保証する領土問題交渉とは限らない。

 領土問題交渉の“再活性化一致”情報が日本側発であるのは外務省のHP――《G20ロスカボス・サミットの際の日露首脳会談(概要)》(平成24年6月19日)が証明してくれる。(領土問題に関する言及のみ抜粋)

 〈2 領土問題
 両首脳は,領土問題に関する交渉を再活性化することで一致し,静かな環境の下で実質的な議論を進めていくよう,それぞれの外交当局に指示することとした。そして,領土問題を含め幅広い分野で両国関係の進展につき議論するため,できる限り今夏にでも玄葉大臣をモスクワに派遣することで調整することとなった。 〉・・・・・

 両首脳は領土交渉再活性化で意思を統一したということになる。外務官僚も同席していただろうから、この事実に偽りはないはずだし、大体が国民に発信した外務省情報に偽りがあろうはずはない。

 ところが、実際は野田首相からもプーチン大統領からも、「再活性化」などといった言及はなく、日本側がマスコミに提供すると同時に外務省が国民に提供した“再活性化一致”情報だったことが分かった。

 日露首脳会談での事実をねじ曲げて、異なる事実を情報として発信したということになる。これを以て野田首相の得点を上げる情報操作と言うことにならないだろうか。

 このことに関してマスコミは7月5日午前の藤村官房長官の記者会見の発言を伝えている。その動画にアクセスして、その個所のみを文字に起こした。

 記者「会談で再活性化という言葉を実際に使っていないのかという点と、その場合、政府は事実と異なる説明をしたという認識がおありなのか」

 藤村官房長官「まず言葉を、その言葉自体を使ったということでは、昨日、まあ、聞かれたので精査したところ、なかったということであります。

 日露首脳会談で野田総理から実務者レベル、あるいは外相レベルでの交渉を進めるよう、『始め』の号令掛けることを提案したと。プーチン大統領は平和条約交渉を進めるプロセスに合意したと。

 日露首脳会談の中で再活性化という言葉自体は使われてはいませんでした。しかし同会談での両首脳の遣り取りと及び事後の日露の同遣り取りに鑑みて、実質的な交渉を進めていくことについての日露間の合意が確認されたという意味で、そのことを前提として説明をする際に、これは会談ののちのブリーフィングで再活性化と言う言葉を用いたと、こういうことでありました」

 最後の方で再び記者がこの問題と取り上げる。

 記者「会談で用いなかった言葉をブリーフィングで使ったということが問題なかったと認識しているのか」

 藤村長官は先とほぼ同じ答弁を繰り返した上で、次のように締めくくっている。

 藤村官房長官再活性化とう言葉が実態と違っているということでは全くなく、使った使わなかったということはあんまり意味はないと思っています」

 藤村長官は「再活性化で一致」という言葉の持つ性質に気づいていない。

 ロシアが実効支配し、日本が返還を強く望みながら停滞していた領土問題の交渉に関わる「再活性化で一致」である。当然、この場合の「再活性化で一致」という言葉には両首脳の強い積極性・強い意思を含んでいるはずで、藤村官房長官が言うように、「日露首脳会談で野田総理から実務者レベル、あるいは外相レベルでの交渉を進めるよう、『始め』の号令掛けることを提案した」、あるいは、「実質的な交渉を進めていくことについての日露間の合意が確認された」といったこととは両首脳の強い積極性・強い意思の点でレベルが違うはずだ。

 となると、外務省の情報発信である、「両首脳は,領土問題に関する交渉を再活性化することで一致」が意味するところは、野田首相とプーチン大統領が相互に、あるいは双方向から領土問題解決の交渉に向けた意思表示を積極的に示し、そのような相互的な意思表示によって領土問題解決に向けて両者は意思を一致させたという積極性の提示があったということでなければならない。

 このことに反して藤村官房長官が言っている、「実務者レベル、あるいは外相レベル」云々はこれまでも何度も繰返されてきた実務的な提案であり、実務的な合意に過ぎない。どこにも両首脳の相互的な、あるいは双方向からの積極的な強い意思表示も強い意思の一致も窺うことはできない。

 会談の実態がそうでありながら、政府と外務省は会談で領土問題解決の交渉を積極的に推し進めていくことで両首脳は一致したと演出したのである。

 演出することによって、初会談早々にそのように仕向けることができた野田首相の成果となる。

 いわば手の込んだ、巧妙な二重の演出をした。

 当然、ありもしなかった成果をさもあったかのように国民向けに発信したのだから、戦前の大本営発表とさして変わらない政府による情報操作に当たる。

 演出で成果を誇らなければならない首相とは情けない存在だとしか言いようがない。

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