菅直人という首相として日本国家のトップに立った男が備えているべき体系だった統一的な組織構築能力が欠如していたこと、組織内の人間統率能力が欠如していたことを菅仮免の国会事故調参考人証言に於ける野村委員との次の遣り取りから見てみる。
組織内の人間統率能力を欠如させていたなら、組織外の人間に対しても同じ力学が働く。
但しその前に桜井委員が、菅が情報が上がってこないと言っていることに対して、官邸地下の情報集約中枢の緊急対策センターで自らの情報集約と発信になぜ利用しなかったのかと問うと、次のように「原子力災害対策特別措置法」の不備を訴えていることを頭に置いておかなければならない。
菅「原子力災害対策特別措置法が想定した事故というものは、今回のようなシビアアクシデントで何十万、何百万という人に影響を及ぼすということには対応できていなかったわけでしてありまして、そういう点で私が地下にいた、いないということではなくて、元々総理がじいっと、じいっとと言うか、いるという仕組みになっておりませんし、その災害対策特別措置法そのものが、言えばたくさんありますが、例えば、オフサイトセンターも地震と原子力事故が別々に起きることを前提にしているわけですよ。
地震で副大臣が入れないなんていうことは想定していなんですね。それらのすべての想定が不十分だったためにやらざるを得ないという意味で色々なことをやりました。
それで本来の姿だと思っているわけではありません。 しかしやらなければならない状況であるということは是非ご理解を頂きたいと、こう思っています」・・・・・
この程度の認識しかなかった。物事を合理的に判断する能力をそもそもから欠いていた。
法律というものは何の法律であっても、基本的な対処の仕方しか指示していないはずだ。「オフサイトセンターも地震と原子力事故が別々に起きることを前提にしているわけですよ」と尤もらしげに言っているが、今回の原子力事故の場合、地震・津波はあくまでもの直接的な主因であって、「原子力災害対策特別措置法」は何が原因であるかを問題としているのではなく、起きた原子力事故そのものに対する危機対応の方法を規定しているに過ぎない。
地震・津波でオフサイトセンターの建物が損壊した、中の機器が損壊して使用不可能となったなら、例え原災法に書いてなかったとしても、何らかの方法で代理の施設を用意し、オフサイトセンターの代わりとする臨機応変の措置を原子力災害対策本部長たる総理大臣の指示のもと行い、全般的な事故対応に不備が生じないよう、処理する役目を担っていたはずだ。
「原子力災害対策特別措置法」には次のような規定がある。
〈主務大臣は、緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンターのこと)を指定し、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、所在都道府県知事、所在市町村長及び当該緊急事態応急対策拠点施設の所在地を管轄する市町村長(所在市町村長を除く。)並びに当該緊急事態応急対策拠点施設に係る原子力事業者の意見を聴かなければならない。 〉・・・・
だが、これはあくまでも平時に於ける変更であって、災害時に於ける緊急変更に関しても規定している。
〈原子力災害現地対策本部の設置の場所は、当該原子力緊急事態に係る原子力事業所について第十二条第一項の規定により指定された緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンターのこと)(事業所外運搬に係る原子力緊急事態が発生した場合その他特別の事情がある場合にあっては、当該原子力緊急事態が発生した場所を勘案して原子力災害対策本部長が定める施設。第二十三条第四項において同じ。)とする。〉・・・・・
原子力災害現地対策本部の設置の場所は緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンターのこと)とすると規定しているが、〈事業所外運搬に係る原子力緊急事態が発生した場合その他特別の事情がある場合にあっては、当該原子力緊急事態が発生した場所を勘案して原子力災害対策本部長(総理大臣のこと)が定める施設〉とするとなっている。
要するに「オフサイトセンターも地震と原子力事故が別々に起きることを前提にしているわけですよ」といったことと関係なしにオフサイトセンターが機能不全に陥ったなら、それに代わる施設を早急に手当しなければならなかった。
満足に手当していたなら、「オフサイトセンターも地震と原子力事故が別々に起きることを前提にしているわけですよ」といった言葉は口が裂けても吐くことはなかったろう。
原災法の「想定が不十分だったためにやらざるを得ないという意味で色々なことをやりました」は原子力災害対策本部長ある以上、極々当たり前の臨機応変対応だが、それさえ満足に対応できなかった。
「原子力災害対策特別措置法」は次のように基本的なことを規定している。
(緊急事態応急対策及びその実施責任)
第二十六条 緊急事態応急対策は、次の事項について行うものとする。
一 原子力緊急事態宣言その他原子力災害に関する情報の伝達及び避難の勧告又は指示に関する
事項
二 放射線量の測定その他原子力災害に関する情報の収集に関する事項
三 被災者の救難、救助その他保護に関する事項
四 施設及び設備の整備及び点検並びに応急の復旧に関する事項
五 犯罪の予防、交通の規制その他当該原子力災害を受けた地域における社会秩序の維持に
関する事項
六 緊急輸送の確保に関する事項
七 食糧、医薬品その他の物資の確保、居住者等の被ばく放射線量の測定、放射性物質によ
る汚染の除去その他の応急措置の実施に関する事項
八 前各号に掲げるもののほか、原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防
止を図るための措置に関する事項
2 原子力緊急事態宣言があった時から原子力緊急事態解除宣言があるまでの間においては、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体の長その他の執行機関、指定公共機関及び指定地方公共機関、原子力事業者その他法令の規定により緊急事態応急対策の実施の責任を有する者は、法令、防災計画又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、緊急事態応急対策を実施しなければならない。
3 原子力事業者は、法令、防災計画又は原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長並びに地方公共団体の長その他の執行機関の実施する緊急事態応急対策が的確かつ円滑に行われるようにするため、原子力防災要員の派遣、原子力防災資機材の貸与その他必要な措置を講じなければならない。〉・・・・・
殆ど満足に実行できなかった項目を色付けした。
法律の不備を言いながら、明確に規定していることすら十分に対応できなかった。
いわば法律が基本的なことは明確に規定しているにも関わらず、不備があると勝手に決めつけて、自らの不十分な対応をその不備に責任転嫁しているに過ぎない。
いずれにしても菅仮免の認識は法律自体の不備の責任とこのことに対比させた自身の無実を前提として成り立たせていて、当然のことだが、その前提に基づいた発言が続くことになる。
次に野村委員との遣り取りに移る。
野村委員「今回の事故対応には必ずしも法律に定めのない制度や動きというものがたくさん見られるわけです。
これは元々原災法が予定していなかった事象が起こったので致し方がないんだということ、あるいはむしろそういう動きに合理性があったんだというご発言があったかというふうに思うんですが、一つ先ずお伺いしたいのは、本来安全委員会が緊急助言組織というものをつくられて、班目委員長が中心となって技術的な助言をするという、これは法律に書かれている仕組みでありまして、これ自体も大いに総理は当時ご活用されていたということは承知していることなんですが、これ以外に総理がご自分でケイタイなどを使いながら、外部の専門家と様々な情報を入手されていたという事実が時々ご指摘されるわけです。
このような事実があったということなのか、先ず教えていただければと思います」
菅仮免「先ず総理大臣として基本は原子力安全・保安院、助言である、提言である、色々ありますけれども、そこが事務局ですから、そこが軸です。
そしていわば独立性の高い原子力安全委員会が助言機関としてあり、班目委員長からは多くの点で助言をいただきました。そして今回の場合は電力事業者である東電、そこからも技術担当のフェローを送っていただきまして、話を聞きました。
中心はこの三者であります。
と同時にそうしたそれぞれの組織を持って、あるいは組織を代表して来られる方以外からも、色々な原子力事故に対する話を私自身参考のために聞きたいということで、何人かの方にお尋ねをしたり、あるいはその後参与になっていただいて相談に乗っていただきました」
野村委員「その情報については当時他の官邸に置かれた、例えば官房長官始め、その他の大臣等については情報を共有されたんでしょうか」
菅仮免「基本的にはそういう皆さんから聞いた話で、必要なことは、『こういうふうな指摘もありますが、どうですか』と、原子力安全・保安院、あるいは原子力安全委員会委員長、場合によっては東電から来ていただいた方にも戻す。
当然、殆どの場合、私一人ではありませんので、三大臣、官房長官も同席しておりますので、そういう皆さんの前でも戻す。
私も本来の、今私が言った三つの組織以外の話で、私自身がそれ以外の話でも物事を決めたりということは、これはありません。ありませんでしたし、今もありませんでした」・・・・・
原子力安全・保安院と原子力安全委員会の班目委員長、東電派遣の技術担当フェローの三者が助言の中心だが、三者以外に個人的に外部から助言を受けていた場合であっても、その情報を原子力安全・保安院や原子力安全委員会の班目委員長、東電派遣の技術担当フェロー、さらに三大臣と官房長にも伝えて、全員で情報共有を図っていたとしている。
いわば外部の助言は菅が仲介者となって正式の内部助言機関に伝達、共有を図る情報処理構造となっていた。
原子炉内の水温が何度に上昇したといった事象に関する情報伝達はいくら間接情報であっても正確さは余程のことがない限り失わないが、判断や解釈等の自身の知識や主観が入る情報の場合、間接的な伝達となると、直接的な伝達では可能な内部と外部との情報の正確さの検証の議論、事故処理や住民避難への情報活用の議論等は直接的には不可能となって、却って邪魔な情報となる場合もあり、大した情報ではなくても、首相が伝えた情報ということで、形式的に議論したり検証したりする時間を取られるケースも生じることになる。
このことは3月12日の海水注入時に菅指示による再臨界の危険性の議論にムダな時間を取られて色々と手違いが生じたことが証明している。
菅自身は再臨界の危険性を指摘して指示したことは否定しているが、国会答弁では逆となっている。
菅仮免「色々な心配をする可能性の中で、そういうこと(再臨界)も含まれていたので、そういうことに対して専門家の皆さんにご意見を聞いたわけです」(年5月23日衆院震災復興特別委員会)
正式な助言機関である三者に対する外部助言者からの情報伝達が直接的でない場合の危険性は他にもある。仲介者の菅の解釈を経て伝達されるケースも考えられることから、生の情報から微妙に変質させて伝達された情報も存在したケースと、間接情報が情報発信者とは関係しない外部に漏れて専門家ではない者の解釈や判断に触れた場合、初期の情報とは離れたものとなり、海江田大臣が言っていた伝言ゲーを経た、異質の情報となる危険性である。
5月17日海江田国会事故調参考人証言。
海江田元経産相「総理大臣官邸と、東京電力、現場の3つが、伝言ゲームをやっているような状況で、このままではいけないと思った。現場の情報共有が徹底的に不足していた」(NHK NEWS WEB)
伝言ゲームとは何人かが組んで正確な情報伝達を経た最終的な情報共有の上手下手を競うゲームであるが、殆どの場合、最初の発信者の情報が何人かを経たのちに最後の受け手の情報と全く別物となる。
菅仮免は自身が得た外部情報を原子力安全・保安院と原子力安全委員会の班目委員長、東電派遣の技術担当フェローの三者、さらに関係大臣に「戻す」という表現で情報共有を図っていたと言っているが、海江田当時経産大臣から見ると、的確な情報共有どころか、「現場の情報共有が徹底的に不足していた」と証言、伝言ゲーム状態の情報混乱の極みにあったとしている。
外国発の情報を議論・検証する場合は発信者自体同席させることできない場合の方が多いだろうが、可能な限り情報発信者が同席し合って、それぞれの情報を議論・検証する機会を設けないことには正しい情報の確立と正しい情報の共有、正しい情報の発信とその活用は常に期待できるとは限らなくなる。
例え外部情報発信者が普段は別々の場所で活動していたとしても、官邸の対策本部向けに情報を発信する場合は直接発信するよう同席する体制で組織化していなければ、発信者との直接的な議論・検証が不可能となって、発信した情報自体に対する責任を誰も取らない状況の情報を横行するに任せることになる。
だが、菅は情報処理を統一的、体系的に確立化する体制で組織化することができなかった。情報発信者自体が同席しない、それゆえに発信者自体と直接的に議論・検証が不可能な外部からの助言をやたらと持ち込んだ。
「私も本来の、今私が言った三つの組織以外の話で、私自身がそれ以外の話でも物事を決めたりということは、これはありません。ありませんでしたし、今もありませんでした」と言っているが、決める・決めないの問題以前に正しい情報の確立に時間を取らせた、あるいは正しい情報の確立に菅自身の存在が障害となっただろう事実に気づいていない。
このことの象徴的な一例が野村委員が指摘した原子力の専門家ではない、同じ東工大出身だとかの日比野なる人物を助言者として官邸に招き、最終的に参与に任命したことだろう。
菅は何だかんだと余分なことを言って、日比野を招いたことを正当化している。
野村委員「ちょっとですね、先程のちに参与になられた方のお話なんですが、かなり早い段階で日比野先生を官邸にお呼びになっていると思いますけども、これはいつの時点でお招きになられたのでしょうか」
菅仮免「確か参与にお願いをしたのは、20日頃かと思いますが、もっと早い段階で一度ちょっと、ある意味話を聞かせてもらいたい、あるいは相談に乗ってもらいたいということで、お願いをして、来てもらいました」・・・・・
野村委員が「いつの時点でお招きになられたのでしょうか」と聞いたのに対して、参与に任命した日を先に言い、実際に招いた日は曖昧に言って誤魔化している。
TBSテレビ放送の『「報道の日2011」記憶と記録そして願い』(第三部)によると、福島原発事故発生翌日の3月12日午後9時には首相官邸で対面していることになっている。
原子力安全委員会、保安院、東電の三者が助言機関の中心だと言いながら、事故発生の翌日には原子力の専門家でもない同窓生を助言者に選択している。しかも信子夫人に「東工大の名簿を持ってきてくれ」と命じ、その中から選んだという適当さである。
官邸に設けた原子力災害対策本部という組織を、そのトップとして如何に効率的・実効的に確立するかにエネルギーを注ぐ認識がなかったからこそ、外部に目を向けたはずだ。
この程度の組織確立能力であり、この程度の人間統率能力であった。
以下、質問に直接的には答えない誤魔化しの証言が続く。
野村委員「正式に参与の発令を受けてるのは20日なんですが、その前の段階の、このシビアアクシデントが起こっているときにも様々なご助言を受けられていると思うんですけども、その時の日比野先生の法的なお立場はどのようなものなんでしょうか」
菅仮免「参与になられる前に色々な意見をお聞きしたのは必ずしも日比野さんに限りません。その後参与になられなかった人も含めて、かなりの方に色々な意見を聞いております。
ですから、そういった一般の方で、私が個人的に、『どういうふうに考えますか』と意見を個人的にお聞きしたと、そういう関係であります」
野村委員「日比野先生のご専門は何でしょうか」
菅仮免「大学では電気というか、電気物理、電気通信、そういうのが専門で、ある大学の副学長をなさっております」
野村委員「いわゆるコンピューターとか、電気通信といった分野だと思いますが、原子力のご専門家という立場でアドバイスを受けられたのでしょうか」
菅仮免「必ずしもそうではありません。例えばの例を申し上げますと、原子力の専門家は東大、京都大学、東北大などにかなりおられます。私としては母校でもあります東工大の専門家、直接面識のある方はおりませんでしたので、日比野さんにお願いをして、どういう方に相談をすればいいのだろうか、あの段階では学長にもお願いをして、そういう人を推薦して貰って、その後参与になっていただいた方もいます。
その参与をサポートする体制を内部として、参与に対するサポートですから、自主的につくっていただいたこともあります。
そういったことを含めて、色々な面で私にとって色々なアドバイスをして下さったり、そういう面から大変お世話になりました」
野村委員「民間事故調の報告書の中には後の参与をたくさん任命されたことに対して当時枝野官房長官は必ずしも賛成されていなかったと、昨日もそのようにご発言されているんですけども、その他に官邸におられた方の中で、必ずしも専門性のはっきりしない人たちをたくさん集めたことが情報の混乱を招いたというご発言が出ているわけですが、そういう評価に対して総理はどのようにお考えでしょうか」
菅仮免「実は3・11前からですね、色んな経緯で参与にお願いしていた。あるいはそのまま継続でお願いをしていた方もあります。私がお願いをした3・11以降では日比野さんも広い意味では原発事故に対しての、いわば広い意味での助言でありました。
私がお願いしたのは3・11以降ではそういう原発事故以降に関連した方以外についてちょっと私はなかったんではないかと、そういう方を特にお願いをしました」
野村委員「分かりました。先程総理は福島原発に行かれて、サイトで事故を防ごうと思って取り組んでおられる方々にお会いになられて、その仕事振りにある意味の信頼を置かれたということをご発言されたわけですけども、そのサイトにおられる職員の方々が日比野さんからの電話で極めて初歩的な質問を受けたことに仕事の邪魔だったというふうにご発言されている方がいるんですが、これはサイト第一に事故対応していくっていう基本的原則から見て、やはり問題があったとうふうに考えられないでしょうか」
菅仮免「やや抽象的なお尋ねなので、私に具体的にお聞きしていいのかどうか分かりませんが、先程申し上げたようにこの事故対応に当たってはですね、直接的に原子炉の状況、原子炉の構造に詳しい方の話もあります。
あるいは色々な制度について詳しい方もあります。そういった意味でですね、私としてはそれぞれの方にそれぞれ得意とされる分野に於いて色々参考意見をお願いをしました。
そういった意味で何か、その、今のご質問にはちょっと内容がはっきりしないので、お答えようがありません」・・・・・
原子力の専門家でもない日比野が福島原発現場に直接電話して、現場スタッフに「極めて初歩的な質問」を行い、事故処理の邪魔をした。
要するに外部の人間の行動を把握できる何らかの形の組織化を行なっていなかったから、勝手な行動を許すことになっていた。
そして外部助言者を用いたのは本来の助言機関が機能していなかったからだとこじつけている。
菅仮免「本来東電の原発ですから、最も原発の状況がよく分かっているのは事業者そのものであります。その事業者からですね、必要な情報は直接、官邸に来られている方からでも結構ですし、あるいは保安院を経由してでも結構ですけども、迅速的確に私たちが何らかの判断をしなければならないことに対して的確な情報が上がってきていれば、少なくともそうした必要性は少なかったと思う。」
しかし現実には少なくとも初期の段階では保安院では原子力の中身を説明できる人は、少なくとも私の前に来た人は、初日の二日(ふつか)、三日(みっか)ぐらいからやっと一人来ましたけれども、おられませんでしたし、そういう状況でしたので」・・・・・
既にブログに書いたように、「福島第1(原発)2号機の今後のプラント状況の評価結果」を策定、3月11日22時44分頃官邸危機管理センターに提出したのは保安院であり、3月12日午後1時頃提出の「1号機において耐圧ベントができない場合に想定される事象について(案)」も保安院作成であり、当然、「原子力の中身を説明できる人」が存在していたことを証明するのだから、そういった人間を呼ぶなり、他の者が同席している場で電話で話し合うなりして、情報共有を図る方法はいくらでもあったはずだ。
要は情報管理可能な組織を確立し、運営するだけの能力を保持していなかった。
但し3月15日に東電本店に統合対策本部を設置してから情報管理がスムーズにいくようになったと、自身の組織能力を誇り、尤もらしげに早い段階からそうすれば良かったと反省を示している。
菅仮免「今考えればもっと早い段階からそういう体制がつくれればよかったと思っております。しかしご承知のようにこれも、今の原災法には予定されておりません。新たな原子力規制法を造る時の参考にしていただければと思います」
だが、既に触れたように原災法には原子力災害現地対策本部設置は緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)とするとしているが、例外として、〈その他特別の事情がある場合にあっては、当該原子力緊急事態が発生した場所を勘案して原子力災害対策本部長が定める施設。〉と規定しているのである。
「今の原災法には予定されておりません」は虚偽にも等しい無責任な事実誤認に過ぎない。
例え原災法に規定していなくても、迅速な情報共有・情報管理の体制を何らかの方法で早期に確立する責任を有していたはずだ。
だが、トップとしてどのような責任を有していたのかの認識すら持てずにいた。
菅仮免の最悪の矛盾は情報が上がってこないと保安院や東電を批判しながら、官邸内でも情報が上がってこない状況があったことであろう。
野村委員「アメリカの方(ほう)からですね、早い段階で支援の可能性が示唆されているわけですが、総理は大統領との間のホットラインでお話をされたときに、何か手伝われるものがあったらというような、そういう話を受けたというのは間違いないでしょうか」
菅仮免「その通りです」
野村委員「その言葉を受けられた後にアメリカからの支援についてどのようにそれを受けていこうとお考えになられたでしょうか」
菅仮免「既に発災当時に、特にこれは地震・津波も一緒ですけども、米国海軍のドナルド・レーガン航空母艦が福島沖に夕方には来てくれて、たしか仙台空港ですか、そういう所の色んな対応に当たってくれると、そういったこともありましたし、色々な物資の支援についても色々な提案がありました。
私としては有り難い申し出でありますし、日米間というのは同盟関係でありますし、そういう支援を戴くこともですね、有難いという感謝の意味も含めてよいことだと思いましたので、できるだけ必要なものについては行政的な提案があれば受けるという、一般的な意味ではそういうことを言いました。
特に防衛庁(防衛省の間違い)は早い段階から日常的に在日米軍との関係が非常に深いわけでありまして、そういう点では米国ないし米軍とのですね、色々な協議はかなり早い段階からしてきたと、そういうふうに認識しています」
野村委員「今のは津波対策というか、津波に対する救助とか、そういったことを含んだ発言だと思いますが、原子力に関してはアメリカとの間では連携をどのように保っていこうと考えていたのでしょうか」
菅仮免「かなり早い段階から専門家が日本に来られている。あるいは日本に着いたというような話は一般的には聞いておりました。
で、そういう皆さんと我が国のそういう機関がどういう形で協力関係をつくっていくのか、私は先程申し上げたように米国との関係は日本にとっては極めて友好的な同盟関係でありますので、元々福島原発もGEが開発したものでありますし、そういったことを含めてですね、アメリカの専門家の皆さんの知見というものは一般的には大変重要だと考えておりましたので、そういう皆さんの知見を含めて、協力していただけるものは極力協力していただくと、そういう姿勢については伝えておきました。
具体的にどの部門がどうできたというのは、そこまでは承知しておりません」
野村委員「官邸に駐在したいという、技術者を駐在させたいというご提案がアメリカからあったと、昨日枝野官房長官の方でもお尋ねをしましたら、そういう事実は確認できているんですが、そういうことは当然、ご承知されていたのでしょうか」
菅仮免「私には官房長官からその話はなかったと思います」
野村委員「国家の主権に関わるというご発言があったということを聞いたことがあるんですが、それは官房長官のご発言ということなんでしょうか」
菅仮免「昨日、私もインターネットで聞いておりましたが、枝野当時長官が自らがそうだとおっしゃっていましたので、そうだと認識しています」
野村委員「アメリカからの協力の申し出という非常に重要な局面での提案については総理にはご報告がなく、、官房長官の独断で、それはじゃあ、主権に関わるということでお断りになったと、そういう整理でよろしいでしょうか」
菅仮免「昨日の会合の、勿論おられたと思いますが、その時枝野、当時の官房長官が言われたのは協力を断ったのではないと、そこははっきりと言われたし、そう思います。
私もできるだけ協力してもらうようにと。それは指示はきちんと出しております。そうではなくて、官邸という物理的なですね、この建物の中、そこに何らかの立場の人等を常駐させるということについての官房長官が判断して、それはやはり、そこまではできないと。
私に相談があっても、多分、同じ結論だったと思っています」
野村委員「と言うことは、官邸に駐在すということについての提案をお断りになったのは枝野官房長官であったということでよろしいってことですね」
菅仮免「ま、ご本人がそう言われているんですから、私には上がってきておりませんので、ご本人が言われているとおりじゃないでしょうか」・・・・・
枝野は菅証言の前日5月27日に同じ国会事故調参考人証言で次のように証言している。
詭弁家枝野「アメリカは情報がないと苛立っていた。官邸は、我が国の国家主権の意思決定をする場所であり、国家主権としての意思決定に、外国の政府関係者が直接関わるということはありえない。『官邸の中に、常駐というのは、勘弁してほしい』と申し上げた」
このことは以前ブログに取り上げ、国民の生命・財産の保護よりも主権というメンツを優先させたと書いた。
だが、このアメリカからの支援の申し出を菅仮免と情報共有することもなく、また菅の承諾もなく独断で断った。
菅側から言うと、身内の人間からも情報が上がっていない状況があったのである。
いわば組織としての体裁を成していなかった。
田中耕一委員が菅のことを文系の首相ではなく理工系の首相であったために気負いはなかったかと質問している。
菅仮免「私自身特に理工系だからということで気負いというものはありません。それよりも今回特に原発事故についてあまりにもですね、通常大臣の所にどういう形で、まあ、いわば下からですね、官僚組織から意見が上がってくる、提案が上がってくるというのは知っています。
しかし今回の件では、その上がってくるべきことが殆ど全くといっていい程上がってこなかったと。
具体的に言えば、原子力安全委員会からですね、予測とか、そういう場合はどうしたらいいのかとか、どういうことで可能性あるとか、そういう話は上がってきませんでした。
他の所からも現場の状況の把握は上がって来ませんでした。
そのことのやっぱり怖さですね。逆に感じました。
その怖さを感じたことが私が理工系であるからか、なかったからか、影響したかどうか分かりませんが、これでは手の打ちようがないという、そういう怖さを感じました」・・・・・
自身の情報管理確立を伴った組織構築能力欠如を棚に上げた責任転嫁に過ぎない。
「通常大臣の所にどういう形で、まあ、いわば下からですね、官僚組織から意見が上がってくる、提案が上がってくるというのは知っています」と言っていることは、原発事故前は黙っていても官僚の方から意見、具申、提案が上がってきたが、原発事故以降上がってこなくなったということを意味している。
要するに平時の待ちの姿勢でいた。待ちの姿勢を維持したままでいた。何のことはない、原発事故という国家の一大事に総理大臣として、あるいは原発事故対策本部本部長として主導的姿勢を取らなかったに過ぎない。
主導的姿勢を取ったのは精々、原子力の専門家でもない学者を官邸に招いて参与に任命したことぐらいなのだろう。
実際には情報が上がってこなかったわけではない。保安院から、「福島第1(原発)2号機の今後のプラント状況の評価結果」も「1号機において耐圧ベントができない場合に想定される事象について(案)」も上がってきている。
SPEEDIの存在も知らなかった、解析結果も官邸に上がってこなかったと言っているが、2010年10月20日の菅を政府原子力災害対策本部会議本部長とした「平成22年度原子力総合防災訓練」を行ったとき、SPEEDIを用いた放射線量測定のシミュレーションをしているのだから、知らなかったでは済まされない。
しかもSPEEDI未公表の理由を細野補佐官が2011年5月2日の記者会見で、「(SPEEDIの予測結果を)公開することによって、社会全体にパニックが起きることを懸念したというのが実態であります」と発言、SPEEDIの存在を知っていたのである。
調査した結果、そういう実態であったことが判明しましたとは言っていない。
官邸の中で細野一人だけが知っていたというなら、首相にまで情報を上げなかったことになる。首相から言うと、枝野のときと同様に情報が自分のところまで上がってこなかったことになる。
かくかように菅仮免は情報を的確・適切に情報管理できる組織を構築する能力を欠如させていた。
当然、この組織構築能力の欠如は人間統率能力の欠如と表裏一体をなす。
側近以外は官邸に人が訪れなかったという事実も頷くことができる。側近にしても、類は友を呼ぶ、同じ組織構築能力と人言統率力を欠いた側近ばかりに違いない。