一昨日4月15日の当ブログ記事≪「北朝鮮、聖火リレーの安全に絶対の自信」は強固な軍事独裁体制の裏返し≫で引用した「AFPBBニュース」の北朝鮮五輪委スポークスマンの言葉。頭が蛍光灯なものだから、読み直してみて気づいたことがある。
「全国民が調和ある1つの家族を形成し、労働党のもとに心を一つにしている共和国」だとするこの言葉、既に多くの人間によって北朝鮮の国家体制が戦前の日本の国家体制、いわゆる「国体」と照応し合った双子関係にあると指摘されているが、そのことを如実に示した言葉となっている。
このことは北朝鮮五輪委スポークスマンの言葉と同じ意味のことを言っている戦前日本の国体明徴の書『国体の本義』(1935年/昭和10年発行)の「第一 大日本国体 一、肇国」の冒頭の文言が見事に証明している。
「大日本帝国は、万世一系の天皇皇祖の神勅を奉じて永遠にこれを統治し給ふ。これ、我が万古不易の国体である。而してこの大義に基づき、一大家族国家として億兆一心聖旨を奉体して、克(よ)く忠孝の美徳を発揮する。これ、我が国体の精華とするところである。この国体は、我が国永遠不変の大本であり、国史を貫いて炳(へい)として輝いてゐる。而してそれは、国家の発展と共に弥々 (いよいよ)鞏(かた)く、天壌と共に窮るところがない。我等は先づ我が肇国の事事の中に、この大本が如何に生き輝いてゐるかを知らねばならぬ。」
「以下『日本史広辞典』(山川出版社)と『大辞林』(三省堂)からの意味解釈。
【皇祖の神勅】(豊葦原瑞穂国<とよあしはらのみずほのくに>は天皇の子孫が統治する国だとする天照大神の勅命)
【肇国】 「ちょうこく・建国」
【聖旨】「せいし・天皇の意見。帝王の考え。」
【忠孝一本】「君主への忠と親への孝とは、対象が異なるだけで、本来同じ真心から出たものであるという水戸学派が唱えた
考え方」
【奉体】「うけたまわって、心にとどめ行うこと」
【忠孝の美徳】「主君への忠義と、親への孝行の美しい徳」
【国体の精華】(国の体制で真価となる、最も優れているところ。国体の真髄)
【炳】「へい・疑う余地がないほど明らかなさま。」
【天壌】「てんじょう・天と地」
北朝鮮は金正日を頭に戴き、「1つの家族を形成し、労働党のもとに心を一つにしている」、実際には金正日のもとに「心を一つにしている」国家体制を採っていて、戦前の日本は天皇の統治のもと「一大家族国家として億兆一心聖旨を奉体して、克 (よ)く忠孝の美徳を発揮する」国体を「我が国永遠不変の大本」としていた。
『国体の本義』に示している国家体制「=国体」は単に言葉をおどろおどろしく大袈裟に装わせているが、北朝鮮五輪委スポークスマンが示した北朝鮮国家体制と本質のところで通じ合っている。
北朝鮮で金正日を「将軍様」、「首領様」と位置づけているのと同じ線上の天皇の位置づけ、その統治の正統性の確立・大義名分化は『国体の本義』、「第一 大日本国体 二 聖徳」が次のように記している。
【聖徳】「せいとく・天皇の徳。最高の徳」
「天皇の、億兆に限りなき愛撫を垂れさせ給ふ御事蹟は、国史を通じて常にうかがはれる。畏くも天皇は、臣民を大御宝とし、赤子と思召されて愛護し給ひ、その協翼に倚藉して皇猷を恢弘せんと思召されるのである。この大御心を以て歴代の天皇は、臣民の慶福のために御心を注がせ給ひ、ひとり正しきを勧め給ふのみならず、悪しく枉(まが)れるものをも慈しみ改めしめられるのである。
かくて天皇は、皇祖皇宗の御心のまにまに我が国を統治し給ふ現御神であらせられる。この現御神(明神)或は現人神と申し奉るのは、所謂絶対神とか、全知全能の神とかいふが如き意味の神とは異なり、皇祖皇宗がその神裔であらせられる天皇に現れまし、天皇は皇祖皇宗と御一体であらせられ、永久に臣民・国土の生成発展の本源にましまし、限りなく尊く畏き御方であることを示すのである。帝国憲法第一条に「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」とあり、又第三条に「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」とあるのは、天皇のこの御本質を明らかにし奉つたものである。従つて天皇は、外国の君主と異なり、国家統治の必要上立てられた主権者でもなく、智力・徳望をもととして臣民より選び定められた君主でもあらせられぬ。」
【大御宝】「おほみたから・人民、百姓。天皇が治める国民、臣民。」
【赤子】「せきし・天子を父母に譬えるのに対して、国民をあかごに譬えた言葉」
【皇猷】「こうゆう・帝王の道/猷―ユウ、謀」
【恢弘】「かいこう・押し広めること。広く大きくすること」
【協翼】「力を合わせて助ける、補佐する」
【倚藉】「いしゃ・頼ること、寄ること」
【神裔】「しんえい・神の子孫。天皇または皇族」
日本国民は天皇を父とし、皇后を母とし、自らを赤子とした一大家族であった。また天皇は西洋の国家支配者や彼らが信仰する絶対神と違って、神であった天皇の先祖が天皇のうちに現れ、自らも神となっている「現人神」――神を受け継いだ神だと言っているが、天皇制の実体は天皇を頭に戴き、天皇の名のもと、軍部が国民を支配下に置き、操る国家であった。天皇は名ばかりの絶対者に過ぎなかった。
その点、金正日は父親金日成の支配を受け継いで北朝鮮国民を直接支配下に置き、自らが絶対者として君臨し、国民を操っている
戦前日本は「天皇ヲ以テ現御神トシ且日本国民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ延テ世界ヲ支配スヘキ運命ヲ有ス」として無謀な戦争を仕掛け、国内外の人間の命をムダに奪い、大日本帝国を崩壊させるに至った。
金正日の北朝鮮もかつての日本が韓国併合や中国侵略によって国際関係に行き詰り先進諸国世界を敵としたように国際関係に行き詰まって戦争を仕掛ける道を選択するのか、それとも国内的に行き詰まって、金正日独裁体制がクーデター等で倒されるに至るのか。いずれにしても崩壊のシナリオを描くことは確かであろう。
崩壊のシナリオが期待不可能の場合、拉致問題も核問題も本質的な解決は連動して期待不可能に向かうに違いない。
訪韓中のパウエル元米国務長官が高麗大学の招請講演会で<“北朝鮮の政権の未来を占うのは難しいが、金正日も人であるためいつかは死亡する”と言い、“金正日には息子が数人いるが、あまりよさそうには見えない”と言った。>と「Daily NK」インターネット記事が伝えているが、これは後継能力に期待は持てないという条件付きながら、世襲を見越した「世襲容認」発言ともなる。
世襲権力継承者は権力を与えた自らの血縁者の独裁性を否定した場合、権力継承の正統性を失うことになるから、権力継承の正統性を守る自己保身上の利害からも、また権力継承が血縁者一人の力によって成り立つわけではなく、独裁権力者を取り巻く権力追随者の保証をも力として成り立たせているから、彼らとの利害関係からも独裁性をも受け継ぐことになる。戦前の軍部が天皇を利用して権力行使を自らのものとしたように将来的な北朝鮮に於いても権力追随者が世襲権力者を利用して権力行使を私することもあり得る。
金正日の軍事優先の独裁政治が世襲権力継承者によって維持された場合、金正日の悪事・悪政、人権抑圧の暴露に発展することになる拉致問題も核問題も解決は遠のくと見なければならない。
北朝鮮に対して発言力を持った外国要人の権力継承に関わる発言は「権力の世襲」を絶対拒否する発言でなければならないはずだが、パウエルは何を考えているのか。
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≪“金正日の後継者問題, よさそうには見えない”≫(Daily NK/ 08-04-13 15:50)
パウエル元国務長官"安全保障による北の変化を予想したがうまくいかず"(朴仁鎬記者)
訪韓中のコリン・パウエル元米国務省長官が、“韓国、アメリカだけでなく、周辺諸国が北朝鮮の安全を保障すれば、北朝鮮の敵対的な態度が変わると期待したが、北朝鮮は金正日独裁の維持を最優先する国家であるため、うまくいっていない”と明らかにした。
パウエル元長官は11日、高麗大学の国際関係研究院主催で開かれた招請講演会で、“朝鮮半島の緊張状況は、北朝鮮が朝鮮戦争の前から韓・米と敵対的な関係を作ってきたため”と言い、このように語った。
更に、“北朝鮮はアメリカが差しのべる手だけでなく、韓国が太陽政策で差し出した手さえ拒否したため、6カ国協議を始めた”と言い、“北朝鮮の安全保障のために6カ国協議が作られたが、北朝鮮の敵対的な態度のせいで、きちんと作動していない”と指摘した。
パウエル元長官は国務省の長官時代を回想して、“ブッシュ大統領は北朝鮮について話す時、いつも随分心配していた”と述べ、“北朝鮮政権の独裁のため、北朝鮮の住民が飢えることに対して心配していた”と語った。
また、‘韓米同盟の展望’については、“在韓米軍は、南北統一以後も韓国国民が要求する限り駐屯し続けるだろう”と予想し、“在韓米軍の駐屯は、韓・米両国の共同の利益であるだけでなく、アジアの平和に大きく寄与するだろう”と強調した。
更に、“李明博大統領は、対北朝鮮関係と韓米同盟の間で、中心をよく見いだしている”と評価し、“この数年間、韓米同盟が様々な紆余曲折を経たが、予定されている李明博大統領の訪米で、韓米同盟の堅固さが再度確認されるだろう”と予想した。
最後にパウエル元長官は、“北朝鮮の政権の未来を占うのは難しいが、金正日も人であるためいつかは死亡する”と言い、“金正日には息子が数人いるが、あまりよさそうには見えない”と言った。
この日の講演会には、300人余りの大学生と取材陣が詰めかけた。パウエル長官は1時間半、自身の20代と在韓米軍に勤務した時 のことを話しながら、参加した大学生たちに、世界化と世界の経済に関心を持ち続け、学習することを願うと語った。