もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

台湾進攻作戦失敗を考える

2023年01月13日 | 憲法

 米シンクタンクの先約国際問題研究所(CSIS)のシミュレーション結果が報じられた。

 設定:「2026年に中国が台湾に武力侵攻」
 シナリオ:中国「開戦後数時間で台湾の海空軍が潰滅的被害を受ける規模の航空攻撃後に数万人の陸上兵力が着上陸・空挺降下、米「侵攻後直ちに台湾直接支援」
 戦況の推移:台湾「地上部隊の全力反撃」、米「自衛隊によって強化された潜水艦・航空機・艦艇で上陸船団を撃破」、中国「援台遮断のために在日米軍基地も攻撃」
 判定:「中国の侵攻作戦は失敗するが、日米併せて空母を含む艦艇40隻以上と航空機380機以上を喪失し、人員被害も3000人以上」
 となっている。
 国際紛争に対する政戦略を熟知しているCSICであるので、シミュレーションの設定や政治的推移は合理的であると思うと同時に考えさせられることが多い。
 1は、「自衛隊によって強化された」と云う点である。このことは、2026年においても日本が直接戦闘に加わる可能性は無いものの、海上兵力に対する間接的支援や艦艇・航空機による避難民輸送などには日本も関与せざるを得ない環境に変化しているとCSISが判断していることを示している。
 2は、台湾事変にあってはウクライナ型の間接支援では効果が無く、直接支援(介入)が無ければ台湾の存続が不可能であるとしていることである。
 3は、3000人以上としている人員被害である。これは米軍兵士の損耗であって、直接被災する台湾民や間接的支援によって生じる自衛隊員・日本国民の損耗は計上されていないと考えている。CSISには戦闘によって付随的に発生する民間人の損耗を類推・算定するノー・ハウを持っていると思うが、シミュレーションがアメリカ政府の政策決定のために行われたことを考えれば止むを得ない。残念ながら、戦後80年間も軍事行動を経験していない日本政府や自衛隊は、戦闘における物的・人的被害を算定する経験・知識を持たない。

 大東亜戦争以後に生起した武力紛争は、距離的に離れた場所でしか起きなかった。そのため、日本国民はトイレットペーパー入手や光熱費の上昇を心配する程度で済んだので、何時しか平和憲法が日本を守っているという神話を生み出してしまったが、台湾事変は日本の領土から100㌔しか離れていない、将に一衣帯水・目と鼻の先が戦場となる事態で、いつ火の粉が飛んで来てもおかしくない。
 その時、世界から何と言われようと平和憲法を盾に手をこまねいて台湾国民を見殺しにするのも自由、命を落とした自衛隊員や先島諸島や基地周辺住民を他人事と眺めるのも自由だが、日米安保を含む集団安全保障に反対するならば当然成すべきであった防衛兵力整備にも反対した人々の道義的責任は限りなく大きいと言わざるを得ないだろう。


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4 コメント

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Unknown (行雲流水の如くに)
2023-01-14 08:53:58
日曜画家さん、おはようございます。
CSISの「中国による台湾侵攻シナリオ」が、なぜ今ごろ出てきたのか不明です。
中国は、台湾が独立を宣言すれば軍事戦略をする、と明言しています。
現状では平和統一(そのためには様々な戦略を駆使すると思いますが)が基本線のはずです。

日本は台湾と軍事同盟を結んでいませんから「何ら打つ手はない」というのが実態。
米国が台湾支援に動けば日本は米国の戦争に巻き込まれるというのが、客観的な事実。
それを是とするか非とするかは日本国内の国民の意思統一は出来ていません。
ただ安倍政権以降、憲法無視の法改正や閣議決定が続いています。
問題にすべきはそちらの方ではありませんか?
ご教示願いたいものです。
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有難うございます (管理人)
2023-01-14 10:05:10
行雲 様
 コメントを有難うございます。
 習近平氏は昨年の20全総会で、「平和統一、一国二制度を基本とするが、最大の誠意と努力で平和的な統一ができない場合には、武力行使を放棄しない」と述べています。また、現在のところ中国の云う「最大の誠意と努力」とは、国際機関からの台湾排除や台湾に対する電脳戦でしかないように思えます。
 台湾有事に中国が九段線内を戦闘海空域に指定した場合、日本の船舶・航空機に被害が及ぶ事態も考慮すべきと考えます。行雲様の領海空域限定の消極的専守防衛主張は理解していますが、台湾在留邦人の安全確保を含め憲法を墨守して傍観(見殺し)することが果たして国家として正常な姿でしょうか。
 近年、憲法無視の立法や閣議決定が相次いでいるとのご意見はどの法・決定を指しているのか判りませんが、違憲立法との判断はなされていないのではないでしょうか。
 更に言えば、外国人に対する健保適用、姓の解釈、私学助成などの憲法違反が疑われる施策も行われている現状を観れば、80年前の憲法倫理を聖典・金科玉条とすることが果たして社会正義なのだろうかと疑問を感じています。
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Unknown (行雲流水の如くに)
2023-01-14 18:55:18
日曜画家さん。
ご回答いただきありがとうございます。
ただ私がどうしてもお聞きしたいのは、貴兄はどのような立場に立っているのでしょうか?米軍と行動すべきと言う立場でしょうか?
私は「専守防衛」です。
この言葉に消極的も積極的ありません。

台湾在留の邦人保護の問題は、別途議論すべき問題です。傍観するなどと言うことは一言も言っておりません。
安倍政権で行われた安保法制は、今は宙ぶらりんです。
政権が代われば変わるかもしれません。
憲法は80年前だろうが、存続している限りにおいては守るべきと言うのが国民の立場ではないでしょうか?
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遅くなりました (管理人)
2023-01-15 12:05:10
行雲 様
 コメントを有難うございます。
 自分など足元にも及ばない学識をお持ちですので、虚心に読んで頂きたいのですが、自分のスタンスは、「外交の選択肢の一つである軍事オプションを執り得る(できる)戦力と環境を整える」です。戦争(軍事オプション)が「できる」と「する」は全く違う概念で、ましてや「しかける」、中露のような異次元の政治形態が生み出す奇形児と考えます。
 このことは、国連の多国籍軍編成要請に応じ得る能力と環境と云変えても良い と思っています。
 野党は「できる」は「する」に直結するとしますが、守るべきものがあると考える各国は「できる」が「しない」のが現実です。成熟した国家では軍が「できる」を「する」に発展させないためにポリティカルコントロールという機能を整備し、国民もその機能が働いて平和が保たれていることを知っています。日本では自衛官は厳しく教育されていますが、多くの民間人は、その機能を知らない若しくは信用しないのが現実で、「自分が自衛隊の最高権力者である事すら知らない」菅直人総理すら誕生しました。
 日本の国力から集団安全保障とならざるを得ず、その場合には同様の価値観を持つアメリカが最も適していると思っています。
 以前に日米地位協定に関して「日米安保の片務性」を解消すれば改正は容易であると書いたことがありましたが、将来的には自動参戦義務を負わない双務性を持つ日米安保に改定することが必要とも考えています。
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