福島原発事故メディア・ウォッチ

福島原発事故のメディアによる報道を検証します。

いつの間に?福島原発:1千ミリシーベルトの炉心の水はどこから来たか

2011-03-29 16:24:24 | 新聞
朝日新聞は、東電が「1~3号機の核燃料を入れた鋼鉄製の圧力容器が損傷して容器の外と通じた状態になっている可能性を認めた」と報じた。また、東電は「2号機のタービン建屋から外へつながるトンネルとたて坑にたまった水から、毎時1千ミリシーベルトの放射線が測定されたことを明らかにした」という。さらに、朝日は「専門家によると、・・・・燃料棒が損傷して崩れ、圧力容器下部に落下してかたまり・・・極めて高温になった燃料が圧力容器の壁を溶かして穴を開けた可能性」、いわゆる<メルトスルー>の可能性があることを指摘している。事態はきわめて深刻になった。しかし、圧力容器の損傷の可能性は、じつは11日の地震直後から予測できたことだった(原子力資料情報室田中三彦氏のレクチャー参照。「フランス放射線防護原子力安全研究所が原子炉の状況に「強い懸念」を示し始めた」の記事にリンクあり。田中氏は同じ趣旨の発言を同情報室で少なくとも12日からしている。この12日のレクチャーでは後藤政志氏が<メルトダウン><メルトスルー>に言及している。)

事態がここにいるたるまで、当局もメディアも、民間NPOがいち早く指摘した可能性をチェックしていなかったのか、それとも知っていて隠していたのか。28日19時のNHKニュースにおける水野解説委員によれば、2号機のタービン建屋にたまり(そしてトンネルに漏出した)高度放射性の水は、2号機の格納容器下部から漏れたものや「地震で」損傷した弁やポンプから漏れたものだという。上記レクチャーの田中氏の指摘のとおり、配管からの冷却水漏出は、データを確認できるかぎりでは少なくとも12日早いうちにはすでに十分疑われてしかるべきものだった。その時点こそ、冷却水の喪失が燃料棒の水上への露出を招き、その損傷・溶融(炉心溶融)から圧力容器の損傷というシナリオに対処すべきタイミングだったはずだ。圧力容器破損の可能性に当局やメディアが言及しだした27・28日まで、2週間以上が経過している。もし悪名高い東電の「隠蔽体質」を云々するなら、メディアはなぜもっとずっと前に東電・原子力保安院・原子力安全委員会そして政府を、論理的に追及して「隠蔽体質」の壁を打ち破ろうとしなかったのか。

2号機原子炉格納容器下部からタービン建屋への漏出ということが今になって云々されるのも、遅きに失している。この格納容器下部の圧力抑制プールで爆発が起り、

『東電によると、2号機で爆発音がしたのは、原子炉格納容器につながる圧力抑制プール。その後、プール内の圧力が、それまでの3気圧から外気と同じ1気圧に下がったため、経済産業省原子力安全・保安院は「プールの一部に穴が開いた可能性がある」という。』
毎日新聞 2011年3月15日 20時41分

今、試みに15日の2号機圧力プール爆発の第一報から、以後の毎日新聞で20日までのWeb版の記事を見直し、「圧力抑制プール」の一部に穴が開いた可能性(したがってそこから放射性の水・気体が漏出する可能性)についてどのような言及があるか調べてみた。総記事数149、総文字数約108,000(見出し、リンク、日付を含む)のなかで、「圧力抑制プール」の破損に言及したものは以下の8の文だけであった(末尾の数字は日付)。

1)枝野幸男官房長官は15日早朝、記者会見し、東京電力の福島第1原発2号機の圧力抑制プールに欠損が見つかったことを明らかにした。15
(2)圧力抑制室の気圧が下がっており、損傷した恐れがあるという。15
(3)圧力抑制プール付近で爆発音があり、格納容器が損傷した恐れがある。15
(4)圧力抑制プールに穴が開いて水がなくなっていれば、圧力容器内の気圧を下げるため放出している空気中の放射性物質が水に吸収されず、そのまま外部に漏れる恐れがある。15
(5)2号機の圧力抑制プールの破損を公表。15
(6)圧力抑制プールが損傷。16
(7)「圧力抑制プール」が損傷した恐れが出ている。16
(8)圧力容器から水漏れしている可能性や、内部の圧力が高すぎて外部から水を入れられない可能性に加え「水位計が正しい値を示していない可能性がある」(経済産業省原子力安全・保安院)という。
毎日新聞 2011年3月16日 22時28分(最終更新 3月17日 0時46分)(注)

そしてどの文も同じことをいっており、私たちが一番気にしていること、すなわち、はたして格納容器内の放射性物質が圧力抑制プールを通して外に出たのか、という点に関しては、答えがないばかりではなく、問いかけたり、調べたりした形跡すらない。同時に忘れてはならないのは、17日から20日まで、一つも言及もない点だ。この間、使用済み燃料プールの水なし状態が予断を許さなくなり、そのほうに対策の優先順位が上がったのは事実かもしれない。しかし、メディアは同時に、消防士たちを自分の「兵隊」と呼んでその命がけの行為に号泣する権力者の姿などをたっぷりと報じた。炉心はだいじょうぶか、格納容器の穴はどうなったのだ、という私たちの不安と恐れが、悲壮なヒロイズムの提示の前に頭をたれるのを予期し、歓迎するかのようだった。

隣接したタービン建屋から、さらにトレンチまで満たすようになった炉心由来の水は、爆発以来10日間の間どこをどう伝わってやってきたのだ。格納容器下部とタービン建屋の状況を、その間だれもチェックしていなかったのか。チェックしたのかどうか、ジャーナリストは確認もしなかったのか。後になって「隠蔽体質」というのは、ジャーナリストにとって言い訳でしかないだろう。


注:(8)の文だけ、ちょっと長めに引用しました。困難に直面したとき、「これは我々にはわからないことだ」といえば、立派な言い訳になると、テクノクラートや大学人らは思っている。彼らは自分たちが知識を独占しているから、彼らにわからないことは誰にもわからない、と思っている。したがって、自分たち専門家が「わからない」という点で、人(一般人)から責められるとはゆめゆめ思わないのである。


最新の画像もっと見る