防災ブログ Let's Design with Nature

北風より太陽 ソフトなブログを目指します。

ポメラ - 知的生産の技術

2009年11月19日 | 技術動向
先日「野帳」の記事を書いていて思い出したのが「知的生産の技術」という言葉です。私の生まれる前に出版された本ですが、古典的名著として読まれ続けているようです。

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梅棹 忠夫 「知的生産の技術}
http://www.amazon.co.jp/%E7%9F%A5%E7%9A%84%E7%94%9F%E7%94%A3%E3%81%AE%E6%8A%80%E8%A1%93-%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E6%A2%85%E6%A3%B9-%E5%BF%A0%E5%A4%AB/dp/4004150930

私たちが「手帳」に書いたのは、「発見」である。毎日の経験のなかで、なにかの意味で、これはおもしろいとおもった現象を記述するのである。あるいは、自分の着想を記録するのである。それも、心覚えのために、短い単語やフレーズを書いておくというのではなく、ちゃんとした文章で書くのである。そのような豆論文を、毎日、いろいろな現象をとらえて、つぎつぎと書いてゆくのである。たまってみると、それは、私の日常生活における知的活動の記録というようなものになっていた。私はこの手帳に、自分で「発見の手帳」という名をつけていた。

「発見の手帳」には、なにごとも、徹底的に文章にして、書いてしまうのである。小さな発見、かすかなひらめきをも、逃がさないで、きちんと文字にしてしまおうというやりかたである。「発見の手帳」をたゆまずつけつづけたことは、観察を正確にし、思考を精密にするうえに、非常によい訓練法であったと、私は思っている。
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現在はポメラという機械があり、デジタル版「発見の手帳」というべきでしょうか。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091126-00000005-rbb-sci


コインポリッシャー

2009年11月02日 | 技術動向
付加価値の低い仕事を必要以上にこだわってやることを揶揄した言葉に、”コインポリッシャー”という言葉があるそうです。999枚の一円玉をピッカピカに磨いても、しわくちゃの1000円札一枚の価値はない。最近はなり苦なりましたが”黒表紙”の報告書は、コインポリッシャ的仕事が多かったように思います。基本的には地表地質踏査で得られると仮説とその検証、それに関するレポートと地質図だけで事足りるのですが、そこから"値段に見合う”装飾がついていきます。我が業界では”あんこ”と呼んでいましたが、最近はそのことを考える人も少なくなっているように感じます。

防災は切りがありませんから - ”防災の公共事業は減らない”は正常化バイアス!?

2009年10月31日 | 技術動向
防災は切りがありませんから。やりだすとずっと続けなければなりませんから。

”やりだすとずっと続けなければなりませんから”って、禁煙や麻薬?のキャッチコピーのようなこの言葉。実は前原大臣の言葉です(日経コンストラクションより)。建設業界は、一部で公共事業削減はやめてくれという悲鳴にも似た主張があります。また一方で、防災関係など人命・財産を守る仕事は減らされないはずだと楽観論を言う人もいます。でも、後者は”自分の限っては大丈夫だろう、、、”災害時の正常性バイアスに似ているかもしれません。

論文-応用地質と市民生活

2009年10月25日 | 技術動向

今日は現在登校中の論文について、査読者の方の指摘事項について修正しておりました。大変興味深く読んでいただいて、うれしい評価も頂いておりました。いわゆる”てにをは”の修正も多かったので、なかなか時間がかかりました。

市民にとっての地質技術のアウトリーチという内容ですが、いわゆる”わかりやすい表現”は具体的にどんなことか、ということを考えさせられる指摘事項がありました。

地質学は直接見えない部分を仮説をたてて推測し、問題解決の筋道を立てる学問ですので、調査者、技術者が、何をみたかイメージを共有しやすいということが、わかりやすいということだと思います。だから表現は定性的なものになります。

ところが、(あえて残念なことにと言いますが)定量的な解析をしなければ”ハク”がつかないという風潮が確かに存在します。実際は、斜面問題に関する定量的解析とは、”ラク”をするという側面が多分にあります。数値入れれば答えが出で来るのですから。定性的なモデリングは、いくつも表現方法があって確かにとりとめもない部分もあります。しかし、そこにやりがいがあります。一昨日の地すべりの発達段階を示した画像は、私が以前論文に出した図面ですが”定量的な解析をすれば、報告から論文になったのに”という(ある意味定番のコメントですが)指摘を頂きました。太田さんのブログに”パソコンの中の計算しやすく加工されたモデルを自然そのものだと思いこんでしまうと多々弊害が発生します”とありますが、実際そのとおりです。


宣伝 - 2冊セットで

2009年10月15日 | 技術動向

先日の記事で『家族を守る斜面の知識 ~ あなたの家は大丈夫? ~ 』を紹介しました。新書本でポケットに入れやすいサイズです。斜面防災のオールスターというべきメンバーで、945円はお得です。2006年に出版された『知っておきたい斜面のはなし』とあわせてどうぞ。

知っておきたい斜面のはなし http://www.jsce.or.jp/publication/detail/detail2007.htm
家族を守る斜面の知識 ~ あなたの家は大丈夫? ~ http://www.jsce.or.jp/publication/detail/detail2386.htm

両方あわせて 2,415円 やすいです。


今年は忙しい

2009年10月06日 | 技術動向

すっかり秋めいてきましたが、それとは裏腹に砂防関係を中心に忙しくなってきました。巨大な補正予算に始まり、豪雨災害、政権交代と、砂防関連の仕事を一気呵成に発注する理由が、今年はそろってしまっています。

ただ、このミニバブルというべき現象は今年限りだと思っています。心配なことは仕事の数が多い割には、新鮮さに欠けることです。2~3年前の計画の焼き直しや、思い出したような維持管理業務です。そこに防災に対する使命感というよりは、事務所の維持に躍起になっていることが、いつにもまして見えてしまうわけです。

来年以降、民主党改革が本格化するでしょう。ムダを省くというのはいいことですが、その現場をよく知る技術者が入札時にちょっと高く応札してしまったがゆえ、初心者的な技術者にまわってしまうような制度も変わってほしいものです。


政権交代論議は五十歩百歩

2009年09月30日 | 技術動向
ある大手同業者の部長さんが、選挙前に「自民党に投票しようぜ」と言ったという話をききました。まあ酒飲み話程度での話だということですが、私はどっちでも大勢は変わらなかったのではないかとみています。ハードランディングかソフトランディングかの違いであって、いずれにせよ公共事業縮小、地方分権の流れは変えられず、それこそ5年で縮小・廃止されるようなものが10年程度になるに過ぎなかったのではないでしょうか。いずれにせよ、自立した業界ではないことが如実に現れています。

防災に関しては、暮らしの安全・安心に関わる事業だから縮小・廃止には向かわないだろうという、自然災害の正常性バイアスに似たムードがあります。

政治献金も業者から個人のネット献金へシフトしているようです。防災業界も、一般市民向け、個人でできる防災対策をうまくビジネスにしていくため、種をまき続ける必要があります。

この時勢に出版された本 - 土木地質達人の知恵

2009年09月28日 | 技術動向

政権交代選挙が終わり、ダム事業見直しの議論が喧々諤々のなか、『土木地質達人の知恵』という本が9月10日に発刊されました。

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土木地質の達人編集委員会

http://ssl.ohmsha.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?ISBN=978-4-274-20765-5#shosai
 土木構造物の施工や設計にとって必要な地質情報を真に理解するためには、地盤の良し悪しや強度といった情報の背後にある地質学の知見、地質技術者の経験や視点が必要である。
 本書は、経験豊富な複数の地質技術者が、安全で経済的な土木構造物をつくるために欠かせない土木地質についての知識を提供する実務書である。調査現場のスケッチや図写真を適宜盛り込み、理解を助ける各種の工夫をしている。
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この本の編纂にあたった達人17名の方々のうち半分ぐらいの方と、議論を交わしたことがあります。そして、この本の内容に用いられた事例は、ほとんどがダム造成に関わる地質技術でした。

ダム地質は、堤体基礎の岩盤だけでなく貯水池の地すべり、緑化対策も含め生態系にも精通していることが求められるため、地質技術の集大成ともいえるものです。例えば、掘削して現れた除荷節理と弛み(ゆるみ)や断層と破砕帯の違い、CM級岩盤は全国共通か、といった話題はいかにもダム現場出身でとても勉強になります。

しかし、あとがきにこのような事が書かれていました。

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少し前から若手技術者との話題に、地質技術者をはじめとするコンサルタントの社会的な地位の低さが話題に上るようになった。日々の仕事を通じて住民の安全,社会資本の整備に貢献しているはずなのに、新聞やテレビでは「公共事業イコール悪」という論調で、世間の目が厳しいことは確かであろう。また、公共事業に携わるには、技術士という国家資格が不可欠だが、同じ「士」のつく職業、例えば弁護士、公認会計士などに比べ、目立たない地味な資格、職業なのだいう。私たちの仕事が縁の下の力持ち的な存在であるのは、わかりきったことだが、もう少し社会に認知されたいものである。
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違和感を持ったのは、『少し前から若手技術者との話題』であるということ。私はずっと前から社会的認知度の低さは感じておりました。それはなぜかというと、縁の下の力持ちはよいとして、その縁側の上に座っているのは誰かという視点が欠けていたように思うわけです。弁護士も公認会計士も一般市民社会に直接していますし、目立とうという努力をしています。地質業界の場合、この目立とう、一般市民に直接訴えようという発想がなかったのです。

政権交代によって143のダムを見直そうという機運があります。これまでとは正反対の『造らないための見直し』です。もうダムマーケットが拡大することはありません。

先月の地すべり学会で、「ブログ読んでますよ、刺激になりますね、面白いですね」というほめ言葉を見ず知らずの方から頂きました。私ごときのこんなブログひとつでもそういう効果があるのです。ダムに関わってこられた地質技術者の方は、自然環境を科学的に語るスペシャリストです。その技術力は、私は足元にも及びません。だからこそ”秘伝”にしないで、縁の下から出てきていただきたいと思うわけです。職人気質な方が多くて、自分の技術力を積極的にアピール、プライドが高いために抵抗を感じたりしていたのではないでしょうか?


土石流フェンス

2009年09月26日 | 技術動向

月に一度ぐらい国立国会図書館で知恵の収集をすることにしています。マニュアル、カルテ仕事にどっぷり使ったままでは、脳みそは運動不足になるからです。今回は、こんな論文(砂防学会誌の技術ノート)を見つけました。

水山高久・和田 浩・吉田一雄(2009):下流に流路が準備できないゼロ次谷等の土石流対策-土石流フェンスの提案-,砂防学会誌,Vol62,№1. pp.74~76

・0次谷の出口のごく近くに家が立ち、土砂・水の量は多くはないが、家が全壊するような被害が出る。
地形解析のためのルールである谷の定義を土石流危険渓流の抽出に持ち込んだのは適当ではなかったが、現在は0次谷からも抽出している。
・0次谷の防災対策は、現象的にも対策的にも急傾斜地対策と土石流対策との中間にあり、このような渓流に従来の概念で砂防堰堤を建設しようとすると、充分に断面が確保できない。
・このための対策は基準に基づく砂防堰堤ではなく、土石流フェンスとか土石流バリアとでも呼ぶ。
・対策費用は基礎コンクリートも含め3000万円程度か?

概要はこんな感じです。

別に基準書にあることだけが防災ではありません。このようなことは、技術者は薄々考えていたと思いますが、今になって表に出てきました。


手段の目的化

2009年09月25日 | 技術動向
武田先生のブログに『手段の目的化はやめたいものだ』という記事がありました。
例えば砂防調査にもありえます。人々の生活圏に入ってくる恐れのある土砂が、どこにどれだけあるか、土砂移動履歴、地形発達史的背景を念頭において歩き回るのがシンプルで確実な調査方法なのですが、GISや数値解析を成り立たせるための現地視察になっている感は否めません。

政権交代の影響で、国の出先機関が存続の意義をアピールするために、調査のための調査が始まったという声が、水面下でまことしやかに聞こえてきました。もうお上に頼らず、自立した防災産業を目指すべきなんですが、、、

矢守克也先生の著作 - 文系の防災学 -

2009年09月20日 | 技術動向
矢守克也先生が新しい著作を出版されたようです。明日にでも買いにいこうと思います。秋の夜長にいい読書ができそうです。

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防災人間科学(東京大学出版会)
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-011126-3.html

被災者の心のケア,破壊されたコミュニティの再建,ボランティアの活躍など,自然巨大災害の「すぐれて人間的な面」を浮き彫りにしたのが,阪神・淡路大震災でした.建物の免震化や効果的な予知,治水などにも匹敵する“文系の防災学”がありうるとしたら,それは何をすることなのか,著者の真摯な探求と実践は,いつしか人の輪をつくり,あるうねりを作ってゆきます
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ここで”文系の防災学”という言葉が印象に残りました。防災の主語は・目的語は、もともと地域社会や人、命・財産といった”人文系”であり、最近話題になっている”ムダのない”という言葉は「費用対効果」という”経済系”であったからです。安定計算や不安定土砂量などは本来力学的解析なのですが、目指す数値はいろんあ”都合”で動きます。むしろ、自然を正直に解析した結果を素直に防災に生かした事例はすくないといえるでしょう。そのためには、真に理系の防災学を確立する必要もあるでしょう。そのあたりは、本をしっかり読んで考えてみたいとおもいます。

空中写真判読

2009年09月15日 | 技術動向
最近久しぶりに「空中写真を見ただけで地すべりの存在がわかるのか」という質問を受けました。

空中写真判読は、地表地質踏査と並んで地域の自然条件、土地の成り立ちを明らかにするために、最もベーシックで重要な技術であり、その割にはインセンティブの低い技術です。最近ではレーザー計測技術や空中電磁波技術などの発達により、膨大なデータをすばやく解析できるようになりましたが、結局空中写真判読と地表・地質踏査で得られた結論・仮説を超えることは殆どありません。

技術者の経験値というものは”値”という文字こそついてはいますが定量化できないものです。数百~数千万円かけて、定性的考察の域を超えない解析機器に投資するよりは、人を育てる方が、安くて正確です。

専門の技術者は県境の壁を越えられるか - ますます民需喚起が重要 -

2009年09月10日 | 技術動向
民主党のマニフェストに、以下のような一節があります。

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2.特別会計、独立行政法人、公益法人をゼロベースで見直す
【政策目的】
○財政を透明にして、国民の政治に対する信頼を高める。
○税金のムダづかいを根絶する。
【具体策】
○特別会計をゼロベースで見直し、必要不可欠なもの以外は廃止する。
○独立行政法人の実施する事業について、不要な事業や民間で可能な事業は廃止し、国が責任を負うべき事業は国が直接実施することとして、法人のあり方は全廃を含めて抜本的な見直しを進める。
○実質的に霞が関の天下り団体となっている公益法人は原則として廃止する。公益法人との契約関係を全面的に見直す。



28.国の出先機関、直轄事業に対する地方の負担金は廃止する
【政策目的】
○国と地方の二重行政は排し、地方にできることは地方に委ねる。
○地方が自由に使えるお金を増やし、自治体が地域のニーズに適切に応えられるようにする。
【具体策】
○国の出先機関を原則廃止する。
○道路・河川・ダム等の全ての国直轄事業における負担金制度を廃止し、地方の約1兆円の負担をなくす。それに伴う地方交付税の減額は行わない。
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私が以前勤めたことがある会社は、国の出先機関と法人からの仕事が100%というスタイルで何年も着ています。同じようなコンサル会社はいくつもあるでしょう。

もし、このマニフェストが実行されたら、地方の河川・砂防・国道などの事務所の仕事は県に移譲されることになります。そうなると、おそらく県外のコンサルには仕事を出さない可能性大です。しかし、問題解決に当たって高度な知識・経験を持つ技術者は首都圏・関西圏などの大都市圏に偏っているような印象があります。

えらいことです。47都道府県(かそれに近い)支店網を持つ大企業か、少数精鋭の会社しか残らないのではないでしょうか。

医療だと高度な技術を求めて、場合によっては海外まで行くのですが、これはマーケット主体が民間や個人にあるからです。我々もそのようなマーケットインを目指すことが急務です。

勘とは経験の集積

2009年09月06日 | 技術動向
民主党のマニフェストには、やたらと数字が出てきます。私の周りにも公共事業が減るのではないかと不安に思っている人がいます。

数字というのは、世界共通の言語であり、かつ絶対的・圧倒的な説得力を持っています。しかし、それは木であって、それを支える根や土、さらには循環する大気ではないように思います。数値を与えるべき問題点を見つける能力は"勘”ピューターです。

勘とは経験の集積という言葉があります。経験の集積とはつまり、長年様々な事例にあたって意識の底にたまったデータが事に当たって力を発揮する、それが勘の正体、ということだ。とは、野球評論家の豊田泰光さんの言葉です。野球も観察からすべてが始まり、傾向と対策があるように、地質技術も同じなのかもしれません。