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この時勢に出版された本 - 土木地質達人の知恵

2009年09月28日 | 技術動向

政権交代選挙が終わり、ダム事業見直しの議論が喧々諤々のなか、『土木地質達人の知恵』という本が9月10日に発刊されました。

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土木地質の達人編集委員会

http://ssl.ohmsha.co.jp/cgi-bin/menu.cgi?ISBN=978-4-274-20765-5#shosai
 土木構造物の施工や設計にとって必要な地質情報を真に理解するためには、地盤の良し悪しや強度といった情報の背後にある地質学の知見、地質技術者の経験や視点が必要である。
 本書は、経験豊富な複数の地質技術者が、安全で経済的な土木構造物をつくるために欠かせない土木地質についての知識を提供する実務書である。調査現場のスケッチや図写真を適宜盛り込み、理解を助ける各種の工夫をしている。
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この本の編纂にあたった達人17名の方々のうち半分ぐらいの方と、議論を交わしたことがあります。そして、この本の内容に用いられた事例は、ほとんどがダム造成に関わる地質技術でした。

ダム地質は、堤体基礎の岩盤だけでなく貯水池の地すべり、緑化対策も含め生態系にも精通していることが求められるため、地質技術の集大成ともいえるものです。例えば、掘削して現れた除荷節理と弛み(ゆるみ)や断層と破砕帯の違い、CM級岩盤は全国共通か、といった話題はいかにもダム現場出身でとても勉強になります。

しかし、あとがきにこのような事が書かれていました。

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少し前から若手技術者との話題に、地質技術者をはじめとするコンサルタントの社会的な地位の低さが話題に上るようになった。日々の仕事を通じて住民の安全,社会資本の整備に貢献しているはずなのに、新聞やテレビでは「公共事業イコール悪」という論調で、世間の目が厳しいことは確かであろう。また、公共事業に携わるには、技術士という国家資格が不可欠だが、同じ「士」のつく職業、例えば弁護士、公認会計士などに比べ、目立たない地味な資格、職業なのだいう。私たちの仕事が縁の下の力持ち的な存在であるのは、わかりきったことだが、もう少し社会に認知されたいものである。
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違和感を持ったのは、『少し前から若手技術者との話題』であるということ。私はずっと前から社会的認知度の低さは感じておりました。それはなぜかというと、縁の下の力持ちはよいとして、その縁側の上に座っているのは誰かという視点が欠けていたように思うわけです。弁護士も公認会計士も一般市民社会に直接していますし、目立とうという努力をしています。地質業界の場合、この目立とう、一般市民に直接訴えようという発想がなかったのです。

政権交代によって143のダムを見直そうという機運があります。これまでとは正反対の『造らないための見直し』です。もうダムマーケットが拡大することはありません。

先月の地すべり学会で、「ブログ読んでますよ、刺激になりますね、面白いですね」というほめ言葉を見ず知らずの方から頂きました。私ごときのこんなブログひとつでもそういう効果があるのです。ダムに関わってこられた地質技術者の方は、自然環境を科学的に語るスペシャリストです。その技術力は、私は足元にも及びません。だからこそ”秘伝”にしないで、縁の下から出てきていただきたいと思うわけです。職人気質な方が多くて、自分の技術力を積極的にアピール、プライドが高いために抵抗を感じたりしていたのではないでしょうか?


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