「あなたにとって***は何ですか?」

2006-09-17 07:43:09 | Weblog
前にも取り上げたことのあるテーマである。NHKのインタビュアーに多いことだが、インタビューしている相手に「あなたにとって***は何ですか?」と質問するのである。相撲取りに向かって「あなたにとって相撲とは何ですか?」とか、ピアニストに向かって「あなたにとってピアノとは何ですか?」などと平気で質問する。「あなたにとって***は何ですか?」というのは答えるのが大変難かしいし、場合によっては殆ど不可能な質問である。
はっきり言うと、この質問はインタビュアーである質問者の怠惰に根がある。本来であれば質問者の方でよく相手のことを勉強して具体的に質問すべきところなのに、面倒くさいから質問の相手に考えることを預けてしまうのである。または、もう少し好意的な見方をすれば、これがインタビューの一つの定型化した語彙になっているのかもしれない。しかしいただけませんね。質問された人も、ここら辺はよく心得ているようで、きまりきった答え方をするか、またはその質問そのものは無視して、周辺的な事についてしゃべって終る、ということも多いようだ。たとえば、「相撲は私の生きがいです」「ピアノは私の魂です」などと、無内容な答え方をするか、または、「あなたにとって相撲とは何ですか?」と問われたら、「先日モンゴルに帰国してきましたが、そこで日本の相撲がどれほどモンゴルの人々の関心を集めているかを知りました」などと別の方面から「答え」たりする。「あなたにとって***は何ですか?」はたしかに質問された人の頭の回転の良さ悪さを示すバロメーターにはなるようだ。しかし、インタビュアーとしてはあまりに無責任ではないだろうか?
立花隆がある本に書いていたけれども、自分が人々からインタビューされるときに、相手があまりに自分(立花)について不勉強なので腹が立つことが多いそうだ。ろくに自分の書いた本を読んでもいない、というのだ。こういう不勉強がマスコミのインタビューにも多く見られるのである。英語雑誌「アルク」には英語を話す人々どうしのインタビューを毎月(今もそうだろうと思う)載せているが、その中で,"What is *** for you?"などという種類の質問を見かけたことは一度もない。ABC放送のインタビューなどを聞いていたも同じだ。インタビューアーはプロとしてインタビュー相手について実によく勉強しており、必ず具体的な質問に終始する。インタビューアーがかなり長々と相手の分野についての薀蓄を傾けて、しかる後に「あなたはこのことについてどう思うか?」と攻めるのもよく見られる。これはオトナの会話である。ロクに相手について勉強もせずに、いきなり「あなたにとって***は何ですか?」とは恐れ入るしかない。