「おいしい」について

2006-09-05 09:12:22 | Weblog
昨日は「かわいい」が濫用されているのではないか、という旨のことを投稿しました。もう一つ濫用されている言葉といえば「おいしい」でしょうね。「うん、おいしい」でしょうか。テレビ番組ではレポーターが口に食べ物を一杯つめたままで「うん、おいしい」を発するものだから、言葉がぼやけてしまって、「うん、オイジー」と聞こえることが多いようです。何とも下品です。こんな音で発音される言葉は古来日本には無かったのではないですか。
そう、古来日本では(特に武士階級では)食べる姿を見せつけたり、食べ物について話したりするのは下品であるという了解があったために、当然のこととして味覚に関する語彙は極めてスリムで痩せております。罵言と同じくらい痩せているのではないでしょうか?これは味覚の国でありながらしかも言葉の国でもあるフランスあたりでは考えられないことのようです。甘味、苦味、辛味、渋味、臭味、その他味覚は奥が深いですよ。なにしろ紅茶に浸したマドレーヌ一切れを食べたとたんにある昔の思い出が強烈によみがえるわけですからね。古い記憶と密接に結びついている感覚らしいですよ。
そう、小学校から味覚、臭覚類に関する語彙を鍛えた方がいいのではないか、と最近しきりに思います。日本語だって味覚関連の言葉は昔はかなり豊富だったらしいですよ。なぜこんなに痩せてしまって、何から何まで「うん、おいしい」だけになってしまったのでしょうか?フランスのソムリエほどに味覚にも言語にも豊穣であることを願うわけではありませんが、味覚臭覚はともすれば「下等な」感覚と考えられがちです。その「下等な」感覚を上手な言語でまぶして語ることこそ文化なのだろうと思います。今の状況はひどすぎるので、学校あたりで味覚用語のビルドアップしてほしいですね。