空につなぎとめられた太陽に
伸び上がるように咲く山つつじを
美しく思うには
わたしの心は疲れすぎていて
逃れるように
林の奥深く続く路を
足早やに分け入って
うっすらともれてくる陽のなかに
地面をみつめて咲く
一群の花に出逢った
花のそばに腰を下ろすと
か細い香りが
わたしの心の一番疲れた部分から
しっとりと満ちはじめ
何時か
ささえきれずに倒れこんだ
わたしの瞳のなかに
花の回る音が . . . Read more
わたしの心は
いつも深い雪に埋もれていて
わたしは
ラッセル車を通すこともしないし
季節の移ることさえ拒んでいる
雪がとけた後の
荒れ果てた草原をみるのも嫌だし
ましてや
細い指が落していった
いちまいの桜貝を探しだす時間は
もうわたしには残されていないのだ
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
心細い花が
昼をさかさまにうつしている
実の熟するのはもっと遠い冬のようだ
意味もない秋のなかに
こわれた古い風車を握りしめて
ひとつの微笑を忘れるのは
それより遠い冬だろう
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
雪模様の海に
ひらぺったい哀しみはよく似合った
触れるには遠すぎて
忘れるには近すぎて
慣れてしまった想い起こしは
ただ漂うだけにすぎなくなっていた
一台のとても古い型の電車が
わたしの背後のつめたさを増した砂丘を
通りすぎていって
窓にみえたのは
はちきれそうにまっ青な
一日だった
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
夕日を遠く蹴とばして
夜がやってきた
木々の梢が
夜の肌深く爪をたてて
流れをとめて凍てついた空を
真横に切りさいたのは
歯をくいしばった
一枚の微笑だ
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
張りつめることもなく
淋しい音をたてて弦が切れると
ひとつ梢に残った柿のような色をして
太陽はころげおちた
うす赤い時間は
素早く折りたたまれてしまって
空は
最も哀しい伝説を秘めた
湖を抱きしめている
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
傘をつぼめる
歯切れの良い音をたてて
梢を通ってくる雨を防げるのは
勿体なさすぎる
雨は遠くまで降っていて
並木はよじれることもなく
少しずつ煙っていく
わたしはつぼめた傘の柄を肩にあて
静かに発砲する
並木をつきぬけた
遥か遠いところで
浅黄色に弾んで
燃えあがったもの
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
雨の先端から
雨が地面に着く直前に
とびたっていったものが
群れをなして
塗れ切った木の幹に
始めて浮かび上がった金環蝕に
急速にすいこまれていった後
森は
雨を弾いて爆発した
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
あなたの過去を
虫ピンで止めて
酒を飲んでいると
冷え冷えとした銃声が
いちばん暗い部分を
つらぬいていって
わたしの酔いを
遠去けてしまった
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
ポケットの中に
思いきり放りこんで
そのくせ諦めることの出来なかった
二枚の使わなかった切符
いまは机のいちばん奥深く
あたかも仕方なくというように
ていねいに
折り目ひとつないことが
遠い時間の
枯れ散ることを拒んでいるのに
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
意識よりも速く
視線が追ってしまうので
まぶしい光の継ぎ目に
凍てついた小鳥の目をみる
あれはわたしの家で飼っていて
一寸した怠け心から
とうの昔に死なせてしまった小鳥の目だ
羽は風の中にとび散って
骨は雨の中に砕け散って
目だけが
わたしの前に残っていて
飽きもせずにその日を語り続け
わたしが
流れ去った月日を彩色しようとすると
こわれかけたおしゃぶりのような音をたてて
目をしばたたかせ
. . . Read more