そう思うのならば
わたしの胸に
刃を突き刺してもらおう
わたしの胸の中に最早海は無い
汚れ切って重たいものが
腐臭を放って揺れているだけだ
言葉は時間を携えて沈殿してしまい
濁りを恐れるものは
白蝋化した太古の巻貝の中に手をついたまま
息絶えてしまった
だから胸深く
突き刺さった刃の先が
青く光る魚の影に触れることが
奇跡的にあったとしたら
わたしは満足して
両手を伸ばし切って仰向けに倒れる . . . Read more
ひとが泣いている
わたしだ
ひとが黙ってそれをみている
わたしだ
スポットライトのなかで
真夜中に朝がうつしだされて
枯れたつたの葉がゆれている窓が
たったひとつの背景
一羽の鳥が赤い目をしばたたいて
のぞきこんでいる
羽根をすこしばかりふるわせている
赤い目はわたしの目だ
ヨシッと指をならして
泣いているわたしに近づく
わたしを
みあげる目に涙はなく
鳥にむかって笑いかけながら
合体が終わっ . . . Read more
さらけ出すことのない
会話のあとに
ひとつの
青い実がおちていた
思い切り抛りあげると
わたしの好きな言葉ばかりが
はじけた実のなかから
とび散って
ひとりきり
遠い日に降りそそいだ
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
あちらからひとり
こちらからひとり
集まってきた仲間たち
数年の歳月を背負って
ほんのわずかな緊張の後
目が握手しあって
心がいたずらっぽく微笑しあって
「やあ」と短い言葉
時を流れる河を
笹舟に乗った仲間たちが
たあいないお喋りを積みこんで遡って
遠い湖にたどりついて
釣り糸をたれると
次々に釣り上げられる
緑色の魚たち
飽くこともなく 飽くこともなく
突然笹舟は走りはじめ
緑の魚達を水 . . . Read more
あなたは酔うと
少し上手に歌を歌う
わたしは その間に
心の中で青い鉛筆を研(と)いでいる
歌い終ったあなたの心に
しかめつらをして
零点を書くために
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
最近、図書館でコレ!という本に出会えない。
齋藤孝さんの本は、目に付くところは粗方借りてしまったし・・・
短歌の本は、どうも敷居が高くて読めないし・・・(そんなにないけど、敷居の低そうなのは読んでしまったし・・・)、精神世界もコレというのに出会えなくなってしまって・・・。
やっぱり、既読の作者の本を自然と選んでいる傾向はありますね。
で、ちょっと冒険して(?)、
正高信男著『考えないヒト』ケータ . . . Read more
「考えろ!」
最近、カミさんがよく使うようになった言葉。
「常識やろ」に、とって変わって出てきたようにも思う。
常識が、常識でない人間(僕)に「常識だろう」は通じないということが分かってきたのかも知れない。
「考えろ!」は、娘のピアノ練習で頻発して用いられる。
僕も、今朝(日付としては、昨日だけどまだ寝てないので)言われてしまった。
前日、洗濯機の蓋を、僕が洗濯物を入れるために開けて(くれて . . . Read more
雨の夕暮れどきに
待つ気持ちを
告げる言葉がみつからなかった
というだけで
あなたと過ごす時間に
押し花を挟むような気がする
雨の中を駆けてくるあなたは
春を覗きこむような
顔をしているのに
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
わたしのなかで
追いつめられたものが
それでもまだ目を輝かせて
夢のなかにとびこもうとしている
わたしがいつも
時を駆け抜けたい心を抱いて
遠い青春を
馬鹿馬鹿しいほど近くに感じるのは
そのためだ
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
揺り籠のなかにおいてきてしまったものが
ススキの穂のゆれるにまかせて
光っている
ススキのなかにねころんでいると
想い出が
銀色の雨のむこうを一列に並んで
通りすぎていって
円く佇む山のあたりで
風にのってまい上がってゆく
取残された影が
わたしを探し求めている足音が
ススキの穂のゆれる音を
奇妙な明るさに彩っている
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
清冽な風のなかに
死ななかったというこで
白いままに生きる時は失われた
ひとけのない森でみた
花の染まりゆく過程は
氷塊のなかに浮遊して
意味もなく紙を刻んでいった
鋏の音は
まるく型を変えてしまった
豊穣な孤独が
わたしを満たしきってしまったので
透きとおった死は
笑いころげて位置を変え
蒼い影を引きずって遠く振りむいたところで
白いままに生きる時は甦ることもなく
偽悪者ぶった顔をし . . . Read more
空につなぎとめられた太陽に
伸び上がるように咲く山つつじを
美しく思うには
わたしの心は疲れすぎていて
逃れるように
林の奥深く続く路を
足早やに分け入って
うっすらともれてくる陽のなかに
地面をみつめて咲く
一群の花に出逢った
花のそばに腰を下ろすと
か細い香りが
わたしの心の一番疲れた部分から
しっとりと満ちはじめ
何時か
ささえきれずに倒れこんだ
わたしの瞳のなかに
花の回る音が . . . Read more