まっ白な紙に
詩を書こうとしたのは
午後から雨になるという
天気予報を
ひとりきりの部屋で聞いたためだ
それなのに
わたしは詩のかわりに
一滴(ひとしずく)の雨を書き
それよりも大きく
あなたの顔を書いてしまった
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
わたしがサボテンを好きなのは
夜の街に孤り
酒を飲むことが好きだからだ
目をとじたまま
風のなかにも揺れることもない表情は
緑の皮ふを持っているだけに
過去をひきずっている女(ひと)を思い起こさせるのだ
それが棘の間から花を咲かせた時は
そんな女がひと時のものと知りながら
愛に身をまかせる時の声を聞くのだ
わたしは時折
棘に唇を寄せてみるのだが
その感触は
触れ合うことの出来ない心の奥底に
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全てのひとびとを裏切って
全ての時間を裏切って
誰もいない砂浜に孤り
古い時代の酒を飲んで
飽きてきたら
海鳥を枕にねころんで
一言も言葉を交わさなかった
少女と語る夢をみて
やがて潮が満ちて
わたしは海の底から太陽をみつめて
ブクブクと泡を吐いて
死んでゆく
全てのひとびとを裏切って
それはなんと清々しい
終止符だろう
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
突然
一本の木が立っているだけの
風景に出会うと
わたしの心は
あたりかまわず駆けまわって
行きつくところのないままに
疲れきってしまう
一本の木が
過ごしてきた歳月に
語りつづけた孤りの言葉を
考えすぎてしまうのだ
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
酒に酔ったあとの
冷えきった荒野を歩くために
酒を飲む
ほめられたあとの
孤りきりの足音を聞くために
BARで飲む
明日の朝は白いだろうかと
指で肋骨を辿りながら
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
そう思うのならば
わたしの胸に
刃を突き刺してもらおう
わたしの胸の中に最早海は無い
汚れ切って重たいものが
腐臭を放って揺れているだけだ
言葉は時間を携えて沈殿してしまい
濁りを恐れるものは
白蝋化した太古の巻貝の中に手をついたまま
息絶えてしまった
だから胸深く
突き刺さった刃の先が
青く光る魚の影に触れることが
奇跡的にあったとしたら
わたしは満足して
両手を伸ばし切って仰向けに倒れる . . . Read more
ひとが泣いている
わたしだ
ひとが黙ってそれをみている
わたしだ
スポットライトのなかで
真夜中に朝がうつしだされて
枯れたつたの葉がゆれている窓が
たったひとつの背景
一羽の鳥が赤い目をしばたたいて
のぞきこんでいる
羽根をすこしばかりふるわせている
赤い目はわたしの目だ
ヨシッと指をならして
泣いているわたしに近づく
わたしを
みあげる目に涙はなく
鳥にむかって笑いかけながら
合体が終わっ . . . Read more
さらけ出すことのない
会話のあとに
ひとつの
青い実がおちていた
思い切り抛りあげると
わたしの好きな言葉ばかりが
はじけた実のなかから
とび散って
ひとりきり
遠い日に降りそそいだ
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
あちらからひとり
こちらからひとり
集まってきた仲間たち
数年の歳月を背負って
ほんのわずかな緊張の後
目が握手しあって
心がいたずらっぽく微笑しあって
「やあ」と短い言葉
時を流れる河を
笹舟に乗った仲間たちが
たあいないお喋りを積みこんで遡って
遠い湖にたどりついて
釣り糸をたれると
次々に釣り上げられる
緑色の魚たち
飽くこともなく 飽くこともなく
突然笹舟は走りはじめ
緑の魚達を水 . . . Read more
あなたは酔うと
少し上手に歌を歌う
わたしは その間に
心の中で青い鉛筆を研(と)いでいる
歌い終ったあなたの心に
しかめつらをして
零点を書くために
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
雨の夕暮れどきに
待つ気持ちを
告げる言葉がみつからなかった
というだけで
あなたと過ごす時間に
押し花を挟むような気がする
雨の中を駆けてくるあなたは
春を覗きこむような
顔をしているのに
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
わたしのなかで
追いつめられたものが
それでもまだ目を輝かせて
夢のなかにとびこもうとしている
わたしがいつも
時を駆け抜けたい心を抱いて
遠い青春を
馬鹿馬鹿しいほど近くに感じるのは
そのためだ
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
揺り籠のなかにおいてきてしまったものが
ススキの穂のゆれるにまかせて
光っている
ススキのなかにねころんでいると
想い出が
銀色の雨のむこうを一列に並んで
通りすぎていって
円く佇む山のあたりで
風にのってまい上がってゆく
取残された影が
わたしを探し求めている足音が
ススキの穂のゆれる音を
奇妙な明るさに彩っている
塚原将『消せない時間』より . . . Read more
清冽な風のなかに
死ななかったというこで
白いままに生きる時は失われた
ひとけのない森でみた
花の染まりゆく過程は
氷塊のなかに浮遊して
意味もなく紙を刻んでいった
鋏の音は
まるく型を変えてしまった
豊穣な孤独が
わたしを満たしきってしまったので
透きとおった死は
笑いころげて位置を変え
蒼い影を引きずって遠く振りむいたところで
白いままに生きる時は甦ることもなく
偽悪者ぶった顔をし . . . Read more