目をとじると
浮かび上がるものがある──
目をあけると
消え去ってしまうものがある
なんであるか
わかりきっているのに
知らん顔して
半分目をとじて
微笑っている
塚原将「たったひとつの季節に』より . . . Read more
今日
紅色の花がいちりん
はいっているだけの
手紙がとどいた
結婚したりですね
かすかな風のある夕暮れに
ひとり
燃やすことにします
約束どおりに
塚原将「たったひとつの季節に』より
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一番遠いところでいえば
わたしとわたしのあいだだ
ラクダにのって幾日わたっていったとしても
熱しきった砂の上に
月ははずんでしまって
沈むことのできない
風を失った
厖大なところなのだ
塚原将「たったひとつの季節に』より . . . Read more
友に山ぐみの枝をもらった
深閑とした山あいの路が
山ぐみの枝をつたって
わたしの胸深く通じた
電車にゆられているあいだに
いくつかの実がこぼれた
闇のなかを
淋しさがころがっていって
わたしが本当に帰るべきところは
深い谷底に沈みこんだ
塚原将「たったひとつの季節に』より . . . Read more
掌でつかんだものは
真実でなくてはならない
たとえそれが
何らの思考もなくつかんだものでも
それは確かな真実で
なくてはならない
掌のなかが
ただまっくらな夜であったとしても
それを疑うことは
ささえきれないほどの
罪悪になる
塚原将「たったひとつの季節に』より . . . Read more
小さな魚の抱く
哀しみを秘めて
雨が降っている
ふくらみを失った影が
舗道深く倒立して
朝は
眠ったままで掌をひらいた
深く湾曲した街にそって
赤い傘をさしたひとりぼっちの女が
逃がしてしまった
小さな魚を
探しつづけてゆく
塚原将「たったひとつの季節に』より . . . Read more
目を伏せて
自分の影深く
思考をおとすと
一輪の花をのぞいて
すべてが急激に遠ざかった
花の上に
思考は眠りきった蝶のように
淡い色彩をおとして
流れてきた蝶のように
花は
ひとかけらの重さも喪失して
かすかにまわりながら
浮き上がった
塚原将「たったひとつの季節に』より . . . Read more
路をよぎった
いたちがひきずってきた夜は
つややかな肌さわりがして
どこまでもどこまでも
際限なく森の深い茂みから流れでる
山鳩の声が眠ると
夜はたわわに実って
村は静寂を抱きしめて
とっぷりと沈みこんだ
点在する家の灯は
掌の先にあるようにも
何光年も離れてあるようにも思えて
わたしは途絶したものの上にいる
わたしをつきぬけてとんでいった
かなぶんぶんの軌跡が
縫い合わさって消えたのは
灯 . . . Read more
人気ない山あいの
小さな畑を
老夫婦が耕している
流れのふちに腰をおろして
みつめていると
平和なのか不幸なのか
思考はおぼろげに
深刻ぶって
人口流出問題などを
蝶のように軽やかに
澄みきった流れのなかに
流れるままにうつったわたしの影は
ビルの窓
塚原将「たったひとつの季節に』より . . . Read more
風のむこうに
村は清々としている
ひとりの女が
歩いてゆく
足音を影が深くすいこんでいて
静けさがゆっくりと移っていく
緑におおわれた畑を
つらぬいて平らに光る川が
村をよけいに
清々とみせている
何の音もない村を
この山の上から
一握りの時間のなかで
リュックを肩に眺めているので
村はこのうえもなく
清々としている
塚原将「たったひとつの季節に』より . . . Read more
夕暮れの光が沈んでゆく
暗い隙間をみせて流れる河に
ひとり少年は石を投げつづける
投げつづける 投げつづける
心のなかにはねる
しぶきが
みえなくなり
心のなかが からっぽになるという
途方もない夢をみながら
投げつづける 投げつづける
塚原将「たったひとつの季節に』より . . . Read more