トゥルー・グリット / イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン
110 min USA
True Grit (2010)
Written, directed and edited by Ethan and Joel Coen based on a novel by Charles Portis. Cinematography by Roger Deakins. Performed by Jeff Bridges (Rooster Cogburn), Matt Damon (LaBoeuf), Josh Brolin (Tom Chaney) and Hailee Steinfeld (Mattie Ross).
コーエンの作品では、多くの俳優がまるで別人になる。ここではジェフ・ブリッジズもマット・デイモンもそうで、それまでの役づくりの鋳型が消えて一気に表現が広がってみえた。いかに演出指示が凄いかと思う。脚本も編集も監督自身。とことん「絵が見える」ひとたちなのだろう、さりげないアングルの独創性に何度もはっとさせられる点ではスピルバーグと同水準かもしれない。このひとたちの作品は、一瞬がこわいのだ。ここぞという重い刃の切れ味は比類がない。
物語はかつて晩年のジョン・ウェインが主演した『勇気ある追跡』(1969)のリメーク。父を殺された少女が、保安官をやとって犯人を追跡する。展開はほぼ踏襲されていて、空気はあたたかい。それでもあの楽天的な旧作とは洞察の深さがちがった(くらべるほうが不当ですね)。
しっかりした視覚記号を、きびきびした短めのカット割りで重ねて娯楽作品のリズムを作っていく。ときどきにじむ悪夢のようなユーモアはコーエンならでは。38億円という低予算で、総収入245億円をあげた。アカデミー賞では11部門にノミネートされながら受賞はゼロで、作品賞などは『英国王のスピーチ』が得ている。賞など問題ではない。
少女の表情は完璧。なにより父の遺品の大きな外套をまとわせたことで、彼女の存在理由を観客にいつも意識させている。つまりこの子は「ずっと父親を負っていて」「身の丈に合わない状況にある」。そのけなげさが、的確に表現されている。
主役は人間だけれどクライマックスの鍵は美しい黒馬におかれた。脚がよろめいて力つきていく、その馬の体をえぐる酷い刃先のカットが強烈な臨場感を叩きつけてくる*。劇的必然からいえば最後は老保安官も命が尽きるのがふさわしいと思うけれど、後日譚のゆったりした余韻で終わった。カメラは今回もロジャー・ディーキンス。品のある映像です。
*Imdbの投稿欄によれば、映像は「馬の訓練と巧みな編集によるフェーク」だそう。
メモリータグ■高い木の枝に登った少女をさらに背中から俯瞰でとらえる。死体の縄を切って枝から落とすと、太い枝が反発でおおきくしなう。こういう細部が新鮮。