「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

メタ「ハウツー」本―『思考の整理学』

2014年02月27日 | Life
☆『思考の整理学』(外山滋比古・著、ちくま文庫)☆

  帯に書かれた「東大・京大で5年間第1位」というキャッチコピーを見ると、逆に引いてしまう。もともと買いたいと思っていた本がベストセラーになるのは良いが、ベストセラーだと宣伝されていたりすると、なんとなく買おうと思っていた本でも、買う気が失せてしまったりする。天邪鬼である。自分は世間の評判などに流されたりしないのだという、ねじまがった自己顕示の表れなのかもしれない。
  ベストセラーであろうがなかろうが、良い本は良い本である。逆もまた然りだが。書店に平積みされていた本書を、ふと手に取ってしばらく立ち読みしてみた。これはおもしろい、けっこう役に立つかもしれないと思った。読むことや書くことについて、漠然となにか指針がほしいと思っていた。そんなこころのすき間に、すっと入ってきたような感じがした。
  「思考の整理学」というタイトルからして一見ハウツー本のように思えるが、そうではない。ハウツー本は、このやり方が最高最良、これさえやれば成功まちがいなし、といった押し付がましさを感じる。実際にそのやり方をやってみると、実践そのものに疲れてしまったり、うまくいかないとまた次のハウツーへと移っていきたくなる。自分自身に問題があるのかもしれないが、ハウツー本が役に立ったことはほとんどない。
  ハウツー本から距離をおきたい思いがあって、このタイトルでベストセラーとくれば、手に取るのを躊躇したとしてもしかたがない。しかし、やはり帯に書かれている「もっと若い時に読んでいれば…」ではないが、もっとむかしに読んでいても良かったな、というのが正直な気持ちである。
  論理的で平明な文章は、すっとあたまに入ってくる。もちろん、本書にもさまざまな方法や提案が出てくる。それに倣って試してみるのも悪くないと思うが、金科玉条のごとく守ることは、たぶん本書の主旨とはちがう。なにかの折りに触れて読み返し、自分の立ち位置を確認・反省して、また新たに進んでいく指針とするのが良いのではないかと思う。
  元本は30年も前の出版である。コンピュータのことは出てくるが、パソコンなど普及していなかった時代である。メモやノートはずっと簡単にできるようになったが、なぜメモやノートが必要であり、それをどのように活かすかといった方法論は、まったく古びていない。これこそベストセラーのベストセラーたる所以かもしれない。本書の表現を借りれば、ハウツー本の“メタ”化こそが、本書の真骨頂のように思う。
  外山滋比古さんの名前はどこかなつかしい。ずいぶんむかし、外山さんの『知的創造のヒント』を読んだ記憶がある。内容はまったく覚えていないのだが。本書の「談笑の間」にロゲルギストと、ロゲルギストの「物理の散歩道」のことが出てくる。「物理の散歩道」と『知的創造のヒント』とが相互に紹介されていて、自分の場合は、たぶん「物理の散歩道」から『知的創造のヒント』に進んだのではなかったかと思う。ここでは、専門の異なる者が雑談することで、創造性が育まれるというのが主旨である。同時に、専門が同じであっても創造的雑談はなされることがあり、その例としてロゲルギストに言及している。
  「学際的」という言葉が一人歩きしている感が強い昨今だが、学際的であろうがなかろうが、知的創造には「談笑の間」が必要である。それにもかかわらず、談笑などする時間はますます減ってきているように思う。コンピュータの発達によって、たしかに便利になった面もあるが、反面で時間はこま切れにされ、「談笑」のような、ゆったりとした時間は失われつつあるように思えてならない。『思考の整理学』の電子ブック版も出ているようだが、けっして電子ブックで読みたいとは思わないし、電子ブックで読むべき本ではないように思う。もう若くはない人間の妄言である。

追記
  本書を手に取ってみたのは、この記事を読んでいたことも関係しているかもしれない。この「気がつけば82歳」は、数年前からときどき拝見しているブログで、御年86歳になられるとは思えないみずみずしさであり、癒されたり励まされたりすることも多い。ちなみに、もうまもなく書籍化されて書店に並ぶようである。早速アマゾンで予約したので、拝読を楽しみにしている。

  

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