「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

不思議な出会い―『スカイツリーから目薬』

2013年04月10日 | Science
☆『スカイツリーから目薬』(関沢正躬・著、岩波書店)☆

  『上京する文學』でふれた(東京)スカイツリーがタイトルと表紙に使われている本がこれ。この本も『上京する文學』と同様ネット上で出会った。『原子力災害からいのちを守る科学』で、その表紙のイラストを描かれたイラストレーターの方について書いたが、実は本書の表紙もそのイラストレーターの方が描かれた作品であり、その方(Kaoluluこと飯箸薫さん)のブログ「ときどき日誌 sur NetVillage」で本書を発見した。『原子力災害からいのちを守る科学』では柔らかいピンク色の表紙に目を引きつけられたが、本書では赤のグラデーションに魅せられた。飯箸さんは数多くの本の表紙やイラストを手掛けていらっしゃるようで、本書のような数学や物理関係の書籍もけっして少なくない。今年の秋にはパリでグループ展も開かれるそうだ。
  さて、岩波書店のページで本書の目次を見たところ、これはむかし読んだ同じ岩波書店の『力学物語』(坪井忠二・著)とそっくりだと思った。本書を入手して「はしがき」を読んだところ、なんと著者の関沢正躬さんもこの『力学物語』のかつての読者であり、着想の大部分は『力学物語』から頂戴したと書かれていた。これまた不思議な巡り合わせである。
  具体的に比較するため、両方の目次を以下に列挙しておく。

『スカイツリーから目薬』
第1章 菓子屋のあるじの損はいくらか?―不変量
第2章 走って来てスケートボードに飛び乗ると?―運動量
第3章 転覆したボートをすばやく救うには?―運動エネルギー
第4章 木から落ちるサルの運命は?―自然落下
第5章 どこから見ようか? 打ち上げ花火―放物運動
第6章 月は地球に向かって落ちているのか?―万有引力
第7章 月ロケットに作用する引力は?―重力加速度
第8章 スカイツリーのてっぺんからの目薬の一滴はどこへ行く?―地球の自転
第9章 回る球場で野球をするために心得るべき事柄は何か?―コリオリの力
第10章 傘の縁から飛び出す水滴はどこへ行く?―遠心力
第11章 鉄一貫目と綿一貫目はどちらが重い?―浮力
第12章 振り子の振れ幅を大きくする方法は?―単振動
第13章 起き上がり小法師はどんな軌道を描くか?―ころがる円周上の点の運動
第14章 弦楽器の音を調節するにはどうする?―弦の振動
第15章 玉のれんのゆれ方を予測できますか?―基準振動
第16章 どうすればくるくると回れるだろうか?―角運動量

『力学物語』
第1話 サルも木から落ちる―自由落下
第2話 リンゴから月まで―万有引力
第3話 モノは真下に落ちない―地球の自転
第4話 まわる野球場―コリオリの力
第5話 もしエレベーターの‘つな’が切れたなら―力と座標系
第6話 鉄1貫目と綿1貫目―浮力
第7話 だるまおとし―慣性
第8話 時計は朝からカッチンカッチン―等時性
第9話 七ころび八起き―サイクロイド曲線
第10話 出るクイは打たれる―弦振動
第11話 じゅずつなぎ―基準振動
第12話 チリもつもれば―共鳴
第13話 ‘のれん’に腕押し―運動量の保存
第14話 前・途中宙返り1回半―角運動量の保存
第15話 ブランコをこぐ―パラメーター振動
第16話 オミコシわっしょい―ブラウン運動
第17話 急がばまわれ―屈折
第18話 プラス・マイナス・ゼロ―保存量

  内容(扱っている項目)といい章タイトルといい、相当似ているのが一目瞭然である。『スカイツリーから目薬』の「スカイツリー」は第8章からきている。一方『力学物語』でそれに相当するのは第3話であり、章タイトルにはないが、そこに登場するのは「東京タワー」である。『上京する文學』でも書いたが、やはり時代の移り変わりを感じてしまう。
  まだ読みはじめたばかりなので、内容の細かな点については言及を避けるが、一見してわかる大きなちがいは、その数学のレベルである。『力学物語』は文字式の四則演算どまりだが、本書では多くはないものの微積分が使われている。三角法や三角関数は両方とも使われていない。坪井さんは中学上級ならばこなせると書いているが、妥当な判断だろうと思う。一方で関沢さんは「理想化して説明するために要るとても簡単な数学を積極的につかいたいと思った」と書いているが、はたして微積分は簡単な数学といえるか、少しばかり疑問に思ってしまう。物理学者(坪井さん)と数学者(関沢さん)とのちがいもあるのかもしれない。それから、関沢さんの章タイトルは説明的でやや長いのに対して、坪井さんのほうは簡単明瞭である。
  ついつい坪井さんに肩入れしそうになるのは、先に『力学物語』を読んでいて、その懐かしさが他のことよりも勝ってしまうからなのかもしれない。もちろん『スカイツリーから目薬』も教育的で得るところの多い本であるにちがいない。数式は理解できるにこしたことはない。しかし、数式ばかりに目を奪われて、物理現象の理解をないがしろにしては元も子もない。複雑な現象が数式を用いてどのように表されるのか、そのあたりを楽しむことができれば十分であると思う。



  本書を買ってから『力学物語』をもう一度見てみたくなり、実家の押し入れから引っ張り出して持ってきてしまった。ちなみに「STORYOFDAINAMICS」は自分のイタズラ書き。表紙カバーはもともとなかったように思う(パラフィン紙がかかっていたかもしれない)。

  

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2 コメント

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Unknown (Kaolulu)
2013-04-11 09:39:09
私のブログへコメントありがとうございました。
eulerさんは、どのようなお仕事をされているのかしら、理系の本もしっかり読まれていらっしゃるのですね。私は、お恥ずかしい話、きちんど読了できたことはありません(汗)

坪井先生の本も読まれ、しかもお持ちとは!この本を元にしていて、今回は時代に合わせた改訂版と言ってもいいと打ち合わせの際にお聞きしました。まさに、culerさんのお感じになられた通りです。

今後もどれだけ続けられるかと、常に不安定な挿絵図版制作のお仕事ですが、これからもどうぞよろしくお願い致します!
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コメントありがとうございました! (euler)
2013-04-12 20:29:59
>Kaoluluさま
お忙しいところ、ご丁寧なコメントを頂きありがとうございました。一応理系(物理系)の出身なので数学や物理の本は好きです。ただ、わたしこそ恥ずかしながら、計算などは不得意ですね。雰囲気を楽しんでいるというのが本当のところかもしれません。いろいろと大変なこともおありでしょうが、今後ともご活躍を期待しております。
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