☆『四季の地球科学』(尾池和夫・著、岩波新書)、『自然災害からいのちを守る科学』(川手新一・平田大二・著、岩波ジュニア新書)☆
この8月は日本各地で連日のように真夏日・猛暑日が続いている。先日は高知県でとうとう41℃を記録し、日本の最高気温を更新した。一方でいわゆるゲリラ雷雨も多発し、雨量が「(その観測地での)観測史上第1位」などという言葉もめずらしくなくなってしまった。大雨による深層崩壊と呼ばれる深刻な土砂災害もよく耳にする。目を空から地に転じると、東日本大震災からすでに2年と5ヶ月が過ぎたが、いまだに時おり震度5以上の余震が起きている。つい先日「奈良県で震度7」との緊急地震速報(誤報)が流れたが、誤報でよかったと胸をなでおろした人も多かったのではないだろうか。こういった報道に接していると、異常気象だの、地震活動期に入っただの、はては天変地異だのという言葉を想起してしまうが、それは人の感覚から見てのことだろうと思う。東日本大震災から“すでに”2年5ヶ月と書いたが、地球の一生からすればほんの一瞬にすぎないはずだ。
自然災害にばかり目がいってしまいがちな昨今だが、われわれは地球の鼓動とでもいうべき、気候や地殻の変動のお陰でさまざまな恵みを受けていることも忘れてはならない。四季があるなどの日本の特異な気候は、日本列島がユーラシア大陸と太平洋との境に位置しているからであり(そのため台風の通り道にもなるのだが)、さらに宇宙的な視野から見れば太陽系における地球の位置や、四季の変化の原因としてよく説明される地軸の傾きは月からの引力も関係しているという。また、日本の景観を彩る山河は地殻変動の賜物であり、世界遺産となった富士山の優美な姿を愛でることができるのも噴火活動のお陰である。日本の生態系を育む生き物の多様さや、自然とさまざまな文化や生活の営みとの関係もまた、日本列島の成り立ちと切り離すことはできない。『四季の地球科学』は、サブタイトルにもあるように「日本列島の時空」を科学的視点のみならず、俳句・古典・季語なども引用しながら、われわれが受けている自然からの恩恵に主眼をおいて書かれている。コラムでは日本のジオパークが紹介されており、終章も「ジオパークの愉しみ」で結ばれていることからも本書の特徴がよくわかる。
一方で『自然災害からいのちを守る科学』は、『原子力災害からいのちを守る科学』の姉妹版であり、地学(地球科学)の知識を整理しながら、自然災害のメカニズムを学ぶことで防災や減災に結び付けることに主眼がおかれている。『四季の地球科学』と重なる部分も少なくないが、記述はより具体的・実用的であり、さまざまな提言も大いに参考になる。
『四季の地球科学』には、活断層があるために盆地や平野が発達し、その豊富な地下水や肥沃な平地を求めて人が集まり都市ができると書かれている。阪神・淡路大震災は活断層が動いたことによるものだったし、懸念されている首都圏直下型地震も活断層によって引き起こされる可能性が大きいとされている。この例一つをとっても、豊かな生活は自然の脅威の上に成り立っているといえるだろう。
『自然災害からいのちを守る科学』には、寺田寅彦の随筆「天災と国防」から引用して「気象学的地球物理学的にもまた極めて特殊な環境の支配を受けているために、その結果として特殊な天変地異に絶えず脅かされなければならない運命の下に置かれていることを一日も忘れてはならないはずである」と書かれている。その前文で「文明が進めば進むほど天然の脅威による被害がその激烈の度を増す」という一文も引用している。寺田が日本の自然について述べた「日本人の自然観」という随筆もあるが、その中で自然の脅威を「厳父」、自然の恩恵を「慈母」に例えている。われわれは常日頃「慈母」に甘えてばかりで好き放題をしているが、時おり「厳父」の怒りに触れて震え上がる。しかし、「厳父」と「慈母」とは別々の存在などではなく、表裏一体のまさしく自然な「自然」の姿というべきだろう。いままさに「厳父」であり「慈母」でもある「自然」の姿を知ったうえで、自然を愉しむとともに、自然災害からの防災意識を高めなければならない。この二冊は時機にかなった良書といえるだろう。
さて、この二冊は数ヶ月前に購入したのだが、仕事や介護に追われてなかなか読了できず、感想を記すのもさらに遅れてしまった。『四季の地球科学』は前々から目を付けていたし、『自然災害からいのちを守る科学』の表紙は、『原子力災害からいのちを守る科学』の表紙を描かれた飯箸薫さんのイラストであることがすぐわかり、書店で見つけたとき一も二もなくに手に取った。今回は「自然の精(忍者)が生きている地球と戯れている」イメージとのこと。かたい内容の本ながら、ほのぼのとした感じが伝わってくるイラストである。
この8月は日本各地で連日のように真夏日・猛暑日が続いている。先日は高知県でとうとう41℃を記録し、日本の最高気温を更新した。一方でいわゆるゲリラ雷雨も多発し、雨量が「(その観測地での)観測史上第1位」などという言葉もめずらしくなくなってしまった。大雨による深層崩壊と呼ばれる深刻な土砂災害もよく耳にする。目を空から地に転じると、東日本大震災からすでに2年と5ヶ月が過ぎたが、いまだに時おり震度5以上の余震が起きている。つい先日「奈良県で震度7」との緊急地震速報(誤報)が流れたが、誤報でよかったと胸をなでおろした人も多かったのではないだろうか。こういった報道に接していると、異常気象だの、地震活動期に入っただの、はては天変地異だのという言葉を想起してしまうが、それは人の感覚から見てのことだろうと思う。東日本大震災から“すでに”2年5ヶ月と書いたが、地球の一生からすればほんの一瞬にすぎないはずだ。
自然災害にばかり目がいってしまいがちな昨今だが、われわれは地球の鼓動とでもいうべき、気候や地殻の変動のお陰でさまざまな恵みを受けていることも忘れてはならない。四季があるなどの日本の特異な気候は、日本列島がユーラシア大陸と太平洋との境に位置しているからであり(そのため台風の通り道にもなるのだが)、さらに宇宙的な視野から見れば太陽系における地球の位置や、四季の変化の原因としてよく説明される地軸の傾きは月からの引力も関係しているという。また、日本の景観を彩る山河は地殻変動の賜物であり、世界遺産となった富士山の優美な姿を愛でることができるのも噴火活動のお陰である。日本の生態系を育む生き物の多様さや、自然とさまざまな文化や生活の営みとの関係もまた、日本列島の成り立ちと切り離すことはできない。『四季の地球科学』は、サブタイトルにもあるように「日本列島の時空」を科学的視点のみならず、俳句・古典・季語なども引用しながら、われわれが受けている自然からの恩恵に主眼をおいて書かれている。コラムでは日本のジオパークが紹介されており、終章も「ジオパークの愉しみ」で結ばれていることからも本書の特徴がよくわかる。
一方で『自然災害からいのちを守る科学』は、『原子力災害からいのちを守る科学』の姉妹版であり、地学(地球科学)の知識を整理しながら、自然災害のメカニズムを学ぶことで防災や減災に結び付けることに主眼がおかれている。『四季の地球科学』と重なる部分も少なくないが、記述はより具体的・実用的であり、さまざまな提言も大いに参考になる。
『四季の地球科学』には、活断層があるために盆地や平野が発達し、その豊富な地下水や肥沃な平地を求めて人が集まり都市ができると書かれている。阪神・淡路大震災は活断層が動いたことによるものだったし、懸念されている首都圏直下型地震も活断層によって引き起こされる可能性が大きいとされている。この例一つをとっても、豊かな生活は自然の脅威の上に成り立っているといえるだろう。
『自然災害からいのちを守る科学』には、寺田寅彦の随筆「天災と国防」から引用して「気象学的地球物理学的にもまた極めて特殊な環境の支配を受けているために、その結果として特殊な天変地異に絶えず脅かされなければならない運命の下に置かれていることを一日も忘れてはならないはずである」と書かれている。その前文で「文明が進めば進むほど天然の脅威による被害がその激烈の度を増す」という一文も引用している。寺田が日本の自然について述べた「日本人の自然観」という随筆もあるが、その中で自然の脅威を「厳父」、自然の恩恵を「慈母」に例えている。われわれは常日頃「慈母」に甘えてばかりで好き放題をしているが、時おり「厳父」の怒りに触れて震え上がる。しかし、「厳父」と「慈母」とは別々の存在などではなく、表裏一体のまさしく自然な「自然」の姿というべきだろう。いままさに「厳父」であり「慈母」でもある「自然」の姿を知ったうえで、自然を愉しむとともに、自然災害からの防災意識を高めなければならない。この二冊は時機にかなった良書といえるだろう。
さて、この二冊は数ヶ月前に購入したのだが、仕事や介護に追われてなかなか読了できず、感想を記すのもさらに遅れてしまった。『四季の地球科学』は前々から目を付けていたし、『自然災害からいのちを守る科学』の表紙は、『原子力災害からいのちを守る科学』の表紙を描かれた飯箸薫さんのイラストであることがすぐわかり、書店で見つけたとき一も二もなくに手に取った。今回は「自然の精(忍者)が生きている地球と戯れている」イメージとのこと。かたい内容の本ながら、ほのぼのとした感じが伝わってくるイラストである。
私など、編集者から内容を要約して説明してもらったり、さらっと必要な部分のゲラを読む程度で、関係者として少々恥ずかしいです。
自然とうまくつき合っていく世界、大切ですよね。
今年の夏のような暑さもその1つなのかもしれません。この熱波はもうしばらく続きそう。eulerさんもどうかお体にはお気をつけ下さい。