「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

信じていることを疑ってみよう―『天動説の絵本』

2012年07月07日 | Science
☆『天動説の絵本』(安野光雅・著、福音館書店)☆

  地球が丸いことや、地球が太陽の周りを回っていることは、いまでは小学生はおろか幼児でも知っている。ごく一部の狂信的な人たちを除けば、地動説を疑う日本人はいないにちがいない。世界に目を移しても、少なくとも先進諸国では、地動説は信じられているといってよいだろう。
  しかし、ほんの数百年前までは、地球が丸いことも、地球が太陽の周りを回っていることも、知っている人は誰もいなかった。正確にいえば、紀元前の古代ギリシャでは地動説が唱えられていたのだが、人々のあいだに広まることはなかった。
  ところが、コペルニクスやケプラーやガリレオといった人たちが現れて、さまざまな研究や観測などから天動説は否定され、地動説が世界へと広まっていった。天動説から地動説へと激的に変化していく歴史の歩みは、科学の方法や進歩のお手本とされている。
  たしかに太陽や星々が東から昇り西へと沈んでいく日常を送っているだけでは、地球を周回する旅にでも出ないかぎり、地動説など信じられるわけがない。われわれは数百年前の人たちの信じていたことを迷信などと笑ったり退けたりするが、当時の人たちにとっては天動説のほうがよほど信じることができたのである。
  天才たちのお陰で、われわれはいま科学的世界観の中で生活しているが、逆にわれわれが信じている地動説が、なぜ信じるにたるものなのか疑ってみようとしなくなった。科学が見た目の現象に惑わされず本質を探る試みだとするならば、現代人はいまいちど天動説の時代に戻って、地動説を疑ってみることこそ必要なのではないだろうか。
  本書は、地動説を信じて疑わない現代人を、精緻な絵で天動説の世界へと誘ってくれる。初版が1979年というロングセラーの絵本である。平坦な大地が徐々に丸みをおびて球体へと移り変わっていく演出も心憎いばかりだ。

  

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