「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

1万3千円+αの時代―『元素生活』

2009年10月25日 | Science
☆『元素生活』(寄藤文平・著、化学同人)☆

  寄藤文平さんの本は『死にカタログ』についで2冊目。この『元素生活』は少し前に書店で目にして気になっていた。買おうかどうしようかと思っていたところ、横山広美さんがブログで紹介されているのを見て、買うことに決めた。
  物理学や生物学に比べて化学にはいまひとつ興味が薄いのだが、元素の周期表を見るのは子どもの頃から好きだった。水素、炭素、酸素といったなじみのある元素よりも、大きな原子番号のところに並んでいる聞いたことのないカタカナの名前の元素にとくに興味があった。
  ひと昔もふた昔ももっと前の中高生だった頃は、103番のローレンシウムが周期表の最後だったと記憶している。そのローレンシウムはいったいどんな色や形をした(要するにどんな物質を作っている)元素なのだろうか。子ども心にそんなことをあれこれ空想していた。そう時を経ずして、ローレンシウムがアクチノイドと呼ばれる元素の一つで、人工元素であることを知った。物理学者のローレンスに由来した名前であることもわかった。
  三つ子の魂百までとはよくいったものだ。いまだに元素のひとつ一つについて、その性質やら、用途やら、名前の由来やらの知識をため込み、博識をどこかで披露したいという気持ちがある。いまでは歳が災いしてか、覚える端から忘れていってしまうが、この本はそんな欲望を満足させてくれる。もし子どもの頃にあったならば、毎晩床の中で眺めて、翌日学校で知ったかぶりの顔をして一人悦に入っていたかもしれない。
  多くの元素を分類するとなると豊富な色使いを考えがちだが、本書は実にシンプルだ。その分、元素をキャラクター的に捉え、ヘアースタイルや服装などで表現している。一文字による漢字表記も記されていて、これには驚かされた。見たことのない漢字ばかりだと思ったら、中国で使われているものだという。
  周期表の個別の元素の話だけでなく、元素仲間(例えば「デジタル半導体トリオ」とか)の話題や「元素の値段ランキング」なども載っている。人体を構成している元素をもとにして、人間の原価を換算すると約1万3千円になるそうである。また時系列で見ると、原始の生活ではわずか7種類の元素しか利用していなかったのに、現代では30種類以上もの元素を利用している。
  いまでは誰もが持っているケータイやパソコンには、レアメタルと呼ばれる希少な元素が使われている。地球温暖化などの環境問題も元素とは切り離して語ることはできない。元素のことなど知らないとはいっていられない時代に現代はなっている。だからといって肩肘張る必要はない。まずは元素のキャラクターに興味を持つことから始めればいい。この本はそのきっかけ作りになるだろう。
  人間の原価は1万3千円にすぎないが、「この原価にどんな付加価値をつけるかは自分次第」だと寄藤さんはいう。元素には本来価値はない。元素に値段をつけ利用するのは人間のすることだ。人間も元素から出来ているけれど、元素に彩られた生活をどのように営むかは人間次第である。いま一番問われているのは人間の「付加価値」なのかもしれない。
  

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