深キ眠リニ現ヲミル

放浪の凡人、中庸の雑記です。
SSなど綴る事アリ。

七月二十一日

2008年08月09日 | 感想

【朝の少女】M・ドリス/灰谷健次郎
 捉えることの難しい子どもの純粋な、移ろいやすい、直感的な、想像力豊かな感性が描かれている。
 自然豊かな島での本当に平穏な生活。その中での「星の子」と「朝の少女」の成長。そして最後に訪れる文明。
 
【蒲団】田山花袋
 昔からこれを読んだ人の話を聞くと、どうも評判は良くないし、文庫の後ろに所収されている解説でもなんだか辛口な雰囲気だった。
 それでも僕からしたら意外と楽しめた部分は多かった。表面上は取り繕いつつ、ひたすら執着をみせるけれども、それでも最後は一歩を踏み込むだけの勇気がない。惑溺できぬ性質で、世間的には正しい人で通っている主人公。燃えるような背徳の恋はできない。
 自分もこうして惑溺できぬままに、世間に生きていくのだろうなとしみじみ思ったのだ。

【重右衛門の最後】田山花袋
 先天的に運命づけられた一人の男の末路と、美しくのどかな自然を抱いた信州の閉鎖的な農村が描かれた作品。美しい田舎で、先天的不具を持つ重右衛門がその劣等感に諦めと自棄で遂に敗れて、村に放火騒ぎを起こす。放火騒ぎの結末はなんとも後味の悪いものであるが、最後の段にある後日談には自然に還るという重右衛門にとっては安らかな救いがあるのである。重右衛門は葬られながらも、彼の存在そのものは葬られることはなかった。

【生まれ出づる悩み】有島武郎
 漁師が出てくる作品は結構ありますね。そういえば、最近「蟹工船」がすごい売れているらしい。なんでだろう。漁師というのは、今ですら命の危険と隣り合わせになっている過酷な職業だと思う。板の向こうにすぐ死が迫っている。それでも決して稼ぎが大きいわけではない。そんな毎日を当然として生きる漁師たちの中にあって、「君」は彼らと一種交われない部分があった。仲間と昼食を食いながら談笑しているときも彼の心はどこか違う空に漂っていた。彼には絵の才があり、彼自身それを身に感じそれに心を奪われながらも、現実の苦しさとの中に懊悩している。
 語り手である私は自身も悩みを持ち、突然届いた彼の手紙と彼の姿に彼の懊悩を想像して書き綴る。最後の9段目に凝縮された、「君がただ一人で忍ばなければならない煩悶――それは痛ましい陣痛の苦しみであるとはいえ、それは君自身の苦しみ、君自身で癒さなければならぬ苦しみだ」「この地球の上のそこここに君と同じ疑いと悩みとをもって苦しんでいる人々の上に最上の道が開けとかしと祈るものだ」という祈りは語り手じしんひいては作者自身の懊悩があるからこそ沸き上がる言葉であろう。
 これを読み終わった後、少し心強くなる自分に気づくだろう。

・フランセスの顔
 フランセスが無邪気な純粋無垢な少女から、恥じらいを持った処女になっていくと言う話で、作者の留学時代のことを題材にしているらしい。解説にもかかれているような、作者の霊と肉の相克の中で霊の勝利した作品。物語自体には大きな起伏があるわけではないけれども、その中には純粋で穢れを知らぬ繊細な心を持つフランセスが、女に成長する過程が洗練された筆致で描かれている。

・クララの出家
 いつも思うけど、出家と家出って字が逆なだけで、これほど意味合いが違うのもないね。いや、行動として家をでることはそうだけども、精神的な部分では違いますよね。もしこれがクララの家出だったら、最後には家に帰ってエンドってところでしょうか。

・石にひしがれた雑草
 有島の作品は個人的には結構読みづらいのだけれども、不思議に引き込まれる魔力があると思う。浴室の紙片を拾ったあとのメラメラと燃える疑念の火など、ドロドロした要素がかなり濃厚に表現されている。そして、良い夫を演じることで妻に復讐するぞという意志とそれほどに追い詰めながらも妻を信じていたい許したいという心の矛盾がまぜこぜになって書かれている。だからこそ喉がからからに渇いても本を手放せずに最後まで読んでしまう。

【愛と死】武者小路実篤 
甘い。甘い。甘いー。そうとう甘いけれど、ミントのようにスーッとして、心を一瞬風が吹きすぎるような切なさと寂しさがある。今回は白樺特集か。

【バッカーノ!】成田良悟
こういうバカ騒ぎな話は好きだね。たまには読みたい作品だね。切なさとか甘さとか、重さとかそういうのが多かったせいか、スカッとするのも必要だね。スティーブン・セガールの映画をたまに見たくなる感覚に似てる?



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