N試作場

ジャンルにとらわれず、新しい組み合わせ、おもしろいことを考えていきます。

社員を動かす情緒とは?(その1)

2012年02月02日 | ビジネス試論
会社近くのセブンイレブンで買い物をすると、
いつもレシートの捨て場に困る。

よく探すと、カウンターに郵便ポストの投函口みたいなのがあり、
そこに捨てられると分かりましたが、

荷物を置く台に半分以上覆われていて目立たないし、
買い物をしている人の邪魔になりそうで、ちょっと利用しづらい。

レシートを持ち帰らせることに、それほどメリットはないと思われるので、
意図していることではないかもしれません。

しかし、この店舗独自の「アーキテクチャ」になっています。

ウィキペディアの「アーキテクチャ」の項目では、
「社会思想」のところで、こう解説されています。

 ある選択肢を選びやすくする・ある行動を採ることが
 不快になるようにするといった環境に変えることにより、
 社会の成員が自発的に一定の行動を選ぶように誘導し…


毎回、ちょっと不便だなあ、と小さい不満を心の片隅で感じながら
レシートを持ち帰る。

そんな小さな不満は無意識のうちに蓄積していくのかもしれない。


 *  *  *  *  *  *


これからの企業は、従業員のサービスに心がこもっていないと
顧客に見透かされてしまう。

万事に首尾一貫して配慮が行き届いていないと、合格点をもらえても、
顧客の心の中に「期待以上の価値」を生み出すことができない。

商品開発も然りです。

魂のこもった商品開発をしないと
顧客の心の中にサプライズも喜びも価値も生まれない。

「魂のこもった」などと書くと、胡散臭いと感じる方もいると思いますが、
具体的に一例を挙げれば、こういうことです。

製品を企画し、製作し、世に出すまでには、
さまざまな選択肢がでてきます。

一つひとつ、チョイスしていかなければならない。

素材は、サイズは、この機能はどうしようか、ここは何色にしようか、
パッケージのイラストはこれでいいかな…などなど、
大小さまざまな無数の選択の結果、商品が生まれる。

担当者が何かひとつのチョイスを行うたびに、
その背景にある気分や根本思想が商品に練りこまれていきます。

製品づくりに関わるスタッフや外部の人たちも、
指揮をとる開発担当の熱意や気分の影響を受けます。

商品に熱意がこもっているかどうかは、隠そうとしても、
端々に垣間見えたり、全体に漂う雰囲気、
かもしだす何かで分かる人には分かってしまう。

暗い人が担当した商品にはどこかに影がありますし、
面倒なことが嫌いな人がつくる商品には杜撰さがにじみ出ます。

本などは、その感覚が分かるという方がいるのではないでしょうか。

さて、サービスの話に戻りますと、

例えば、リッツカールトンやディズニーランド、ザッポス。

彼ら彼女ら、メンバー全員でかもしだす質の高いおもてなし感は
やはり、付け焼刃やマニュアルによる管理統制では、
すぐにボロが出てしまいます。

また、今後、ソーシャルメディアで臨機応変に顧客とつながり、
絆づくりをしていこう…という企業は増えていくと思われますが、

人材育成を考えずに、表面的にトレンドを採り入れ、
適正を吟味しないで担当を割り振ってしまうと
逆効果につながりかねません。

ここで、今回のテーマです。

企業の中で社員、スタッフが、

心を込めて働いたり、お客様をおもてなしたりする

イヤイヤでなく生き生きと仕事に打ち込む

互恵的な行動をとる、陰徳的にふるまう

…といった状態に少しでも近づけることができたら理想的です。

そのためには、会社はどんな働きかけをしていったらよいのか?

そんなテーマで考えてみたいと思います。



 *  *  *  *  *  *



会社が「人をある方向へ動かそう」と考えたとき、まず思いつくのは、
管理、強制、命令、規則、組織のモラルなどです。

もう少しマシな方法として、
理屈で説き伏せる、理論で納得、賛同させる
というものもあるでしょう。

それから、まわりの視線、会社暗黙の約束・空気、ピアプレッシャー。

「みんなが残業しているのに、自分だけ早く帰れない…」というのは
典型的なピアプレッシャー(仲間の圧力)です。

しかし、どうも表面的です。

互恵的な行動や、陰徳的なふるまい、人知れず他に益となることをする、
といったことは、上のアプローチで達成するのは難しいです。

理論、規則では「動かせない部分」にリーチする必要があります。

それは意識というよりは無意識の部分と言えるのではないでしょうか。





企業がメンバーの無意識の部分に働きかけていくということを
「贈与と返報」というスキームで考えてみたいと思います。

もし、ある働きかけが、社員の心の中に「貸し」を作っていくことになれば、
社員は「贈与」に対してバランスを取ろうと無意識に「返報」行動を起こす。

働きかけが、社員にとって益だったり心地よかったりすれば、
「返報」も互恵的なほう、陰徳的なほうへと導かれるのではないか。

仮に人目につかないところでも、会社や他のメンバーにとって
益となるほうを選択するのではないか。

会社の社員に対するイメージ戦略、ブランド戦略ともいえる働きかけ。

これが今回考えた一番目の仮説です。

そして、この仮説にたどり着いたとき、思い浮かんだのはグーグルでした。

社員食堂はドリンクだけでなくフードも無料だったはず。

確か、オフィス環境も楽しそうで、いろいろ気が配られていたな。

そう思うと、いてもたってもいられず、
会社帰りに書店で参考になる書籍を探して購入したのでした。

それが『グーグル ネット覇者の真実』(阪急コミュニケーションズ)。

そこにはこんな記述があります。

 ここで働いてほしいのは、こういう職場なら無給でもいいから働きたいと
 考えるような人たちだ。グーグルがそういう会社になるように計画してきた


 (理想的な職場とは社員だけが享受できる特典をたっぷり与え、圧倒されるほどの
 大量の知的刺激を提供してくれる場所であるべきだという創業者たちの信念の)
 その象徴となったのが食事の無料サービスだ。健康的な食事をたっぷり取りながら、
 社員同士が心を通い合わせて仕事に関する革新的なアイデアを共有する
 -そんな雰囲気づくりが重視された。


 私たちは食事について真剣に考えています。
 これほど食事にこだわる会社をほかに知りません



会社からドリンクやフードといった目に見える具体的な物を
潤沢に供与されればされるほど、無意識の「借り」意識が蓄積する。

そして、この不均衡の解消に向けてのベクトルは、

仕事へ真摯に取り組むほうへ

機会があれば互恵的行動を取るほうへ

組織や構成員にとって善となるふるまいへ

…程度の差はあれ、そういう方向に機能すると考えます。

とここまで考えをまとめたところで行き詰りました。

なんかしっくりこない。そんな単純な話だろうか。

そこで少し時間を置いて考えているうち、『グーグル ネット覇者の真実』の中の
「学生寮」という言葉にひっかかりました。

もう一度、読み返すとこんな文章があります。

 多くの社員にとってグーグルでの日常は、
 ほんの最近まで通っていた大学生活の延長でしかなかった。
 「グーグルという企業組織は、社員が学生気分のまま働くことを
 前提にして築かれている部分が大きい」



「学生寮のノリ」か…。

これは、もう少し広いスケールで従業員の情緒に訴えているな
と気づきました。

関連して思い浮かんだのはディズニーランドです。

あちらは、「学園祭のノリ」と言えそうです。

で、若いスタッフたちの情緒に訴え、善なる方向へ誘導している。

ここまできて、「働く人の情緒に訴えるノリ」とは何か?
という新たな問いを見つけることができました。

うれしい。

でも、ここから結論までは、もう少しかかりそうです。

いったん終了して続きは近日中に。