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民主党が政府に18項目の重点要望、子ども手当に所得制限か

2009年12月17日 10時06分22秒 | 子ども手当・子育て
16日に民主党の小沢幹事長らが首相官邸を訪れ、18項目の重点要望を申し入れた。
子ども手当は、マニフェストに掲げられているにも関わらず、財源が確保できていないために実現の目処が立っていない。民主党としての申し入れによって事態を打開しようとの狙いか、子ども手当に関しては、所得制限を設けること、地方に新たな負担を求めないこと、所得制限の方法や具体的な数値は政府・与党で調整して決定することなどが盛り込まれている。
子ども手当に所得制限を設けると、現行の児童手当に近くなる。地方の財政負担がなくなったとはいえ、事務の負担はかなり重くなる。さらに、扶養控除を廃止すると、高所得層は結果として「増税」になると思われる。実現の目処が立たないぐらいならば、現実的な解として、利害関係者のバランスをみながら妥協点を探るタイミングなのではないか、そうしないと年内に固められないという「助け船」とも受けとめられる。
「政治主導と言いながら、本当に政治主導じゃないじゃないか」「政治主導でこうした要望について実現するよう最大限の努力をしてもらいたい」などと、「官僚主導」のままの動きを続ける役人を牽制するなど、揺らぎ始めた政権の立て直しも図っているようにも受けとめられる。

予算18項目重点要望、民主が首相に申し入れ
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20091216-567-OYT1T01313.html

この申し入れに前後して、鳩山首相が「国民の世論も所得制限があってしかるべきだという思いが強いと思う」と述べるなど、政府・与党間での調整が本格化していると思われる。なお、議論と説明が十分でないと、これまで「所得制限を設けないというのが基本理念だ」や「裕福だとか、裕福ではないという発想ではない」、「マニフェストでは所得制限は付けないという方向で一応決まっている」などのこれまでの発言との整合性を問われるおそれもある。

子ども手当、所得制限を検討=「世論見極め判断」-首相
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/business/jiji-091216X732.html

政府・与党、子ども手当に所得制限で調整
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20091216-567-OYT1T00638.html

このブログでも書いたが、子ども手当に所得制限を設けるか否かは、財源を確保できるか否かによって決めるものではない。所得によって差をつける「選別主義」的な考え方に基づく政策にするのか、所得などに関わらず子育て支援に必要=差をつけない「普遍主義」的な考え方に基づく政策にするかという「理念=基本的な考え方」に関わる問題だからである。しかしながら、現実をみると「裕福だとか、裕福ではないという発想ではない」とは言っていられないのも事実だし、普遍主義的な考え方を述べてきた鳩山首相が何もないのに前言を撤回して逆方向に走り始めるわけにはいかない(民主党からの申し入れは、方向を転換する理由として使える)。

長妻大臣は、「わたしとしては所得制限なしで要求しているので、ご理解いただく努力をしたい」「最終的には内閣全体で決すべきことだ」と述べるに留まっている。また、所得制限を設けるにあたっては、申請と相談の窓口となる市町村の事務負担を軽減する方法を考えなければならないとも述べている。

「所得制限なし」へ努力=子ども手当-長妻厚労相
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-091216X908.html

なお、所得制限を設けるか否かで市町村の事務処理を支援するITシステムの仕様が異なる。今回の申し入れのインパクトは大きい。
来年の参議院選挙の前には支給を始めたいとの思惑があることから、法案の提出から成立、施行までの期間がかなり短くなるおそれがある。
支給対象者の抽出から通知まで、申請の受理から手当の支給までの全ての業務は、ITシステムの助けなしにできなくなっている。調整の結果、所得制限の方法が複雑になれば、構築と移行が間に合わなくなるおそれもある。
そのため、制度と事務の詳細を検討するにあたっては、業務に必須の「道具」を提供するITシステム業界にも声をかけ、全国の市町村が対応できるように積極的に情報提供すべきだろう。また、このブログでも書いてきたように、事務負担が重くなるため、経費120億円への上乗せが必要になるだろう。