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「電子政府・電子自治体」に代わる、民主党政権のIT政策は?

2009年12月01日 10時37分02秒 | 情報化・IT化
朝日新聞が「電子申請、19府県で休止・縮小 財政難が背景に」と報じている。

電子申請、19府県で休止・縮小 財政難が背景に
http://www.asahi.com/politics/update/1129/TKY200911290203.html?ref=goo

地方自治体が構築した電子申請システムの多くが、費用がかさむにも関わらず利用が増えないことから、休止・縮小の方向で検討に入っているとのこと。申請1件あたりに要する費用が1万円を超える県が「22」もあるなど、行政手続きの電子化が所期の目的を達成していないことが明らかになった。
この記事には書かれていないが、住民にとって、行政手続きが電子化されたことのメリットを必ずしも享受できないことも、この事態を招いた原因の一つである。インターネットを使ってできる手続きが全体の一部に留まり、書類を持って窓口まで行かなければならなかったり、わからないことを聞けなかったりということでは、使っても使わなくても一緒である。窓口まで行けば、その場で確認や修正できるし、年に何度もないことなのだから直接行ったほうが早いということになる。
1件あたりの費用を大幅に引き下げている愛知県や滋賀県などでは、電子認証を不要するなど手続きの簡素化に取り組んでいる。行政手続きを繰り返す仕事をしている人たちは別にして、それほど頻繁に手続きをしない一般の住民にとって、特別なハードウェア(公的個人認証用のICカードや、リーダ・ライタなど)や専用のソフトウェアを必要とせず、インターネットにつながったパソコンさえあれば、いつでも、どこでも、誰でもできるということでもない限り、電子申請システムを利用してみようとは思わないだろう。行政手続きの電子化を推進したいならば、手続きそのものを見直して「ブラウザを使って、手続きの最初ら最後まですべてできる」とすべきだろう(手続きの見直しまで踏み込まないと、利便性を向上させることはできない)。

電子政府・電子自治体の実態が明らかになるにつれて、これまで十分な検証がなされることなく積み上げられ、推進されてきた電子政府・電子自治体の構想(国のIT戦略)の見直しは不可避となる。現政権は、行政手続きの電子化=IT化にそれほど熱心でないように見えるので、「IT投資効果が小さい電子申請システムは無駄であり、改善できなければ、休止・縮小」と仕分けられることになるだろう。
しかし、投資対効果を評価して既存のITシステムの整理を続けていくと、2000年の「IT革命」前=電子政府・電子自治体に取り組む前の行政のあり方に戻ってしまうのではないかとの懸念も生まれる。朝日新聞が報じているように、過去の非効率なものを整理するとともに、行政手続きの電子化=IT化に代わる「新たな考え方」を導き出し、提示すべきだろう。


最近、注目を集めている技術が「クラウド」である。
経済産業省の「電子経済産業省アイデアボックス」は、セールスフォース・ドットコムが2週間で構築。同様に「エコポイント インターネット申請フォーム」は3週間で構築するなど、自治体・省庁ごとの要件を積み上げて一つひとつ手づくりをしてきたITシステムの「常識」が覆されようとしている。構築に要する期間も費用も、従来の方法と比べて、1桁から2桁ほど小さくなっている。
行政手続きの簡素化と標準化を進めて、「業務に合わせてITシステムを構築する」から「構築されたITシステムやサービスに業務を合わせる」ようにする、「独自仕様のITシステムの所有」から「ITサービスとして利用する」ようにすることが求められるだろう。
「インターネットの先のどこで情報が管理されているかわからない。これでは不安で使えない」ならば、クラウドの技術を活用した専用のデータセンタを構築してはどうだろうか。「そのまま使う(運用でカバーする)」「所有から利用へ」という「考え方=発想の転換」さえできれば、ITシステムの投資対効果は飛躍的に向上する。参加自治体が少しずつ資金と業務ノウハウを出し合えば、国に頼らなくてもできることである(下手に頼ると「実証事業」のオンパレードになり、参加自治体の「考え方=発想の転換」が遅れてしまう。切羽詰ったところまで追い込まれないと、なかなか「考え方=発想の転換」はできないし、「ウチはヨソとは違う」と言いたがる職員を説得できない。補助金を絞ったほうが早く進むかもしれない)。

この2つの「考え方=発想の転換」が必要とされているのは、遅れている「医療のIT化」も同様である。
これまでのIT政策の最初から最後まで「重点分野」に挙げ続けられていたことは、本当に不名誉なことだと思う。切羽詰った状況に陥っているのだから、早めに「高価な独自仕様のITシステムの所有」から「安価で標準的なITサービスの利用」へと舵を切るべきだろう。