制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

「障がい者制度改革推進本部」が初会合、でも福祉的な理解は不十分?

2009年12月16日 10時06分06秒 | 自立支援法・障害
障害者福祉政策を見直し、障害者権利条約の締結に必要な法整備を目的とする「障がい者制度改革推進本部」の初会合が開かれた。

障がい者制度改革推進本部
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/kaikaku.html

障害者支援の法整備議論=推進本部が初会合
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-091215X574.html

位置づけとしては、全閣僚で構成する「障がい者制度改革推進本部」(本部長・鳩山由紀夫首相)があり、その下に「障がい者制度改革推進会議(仮称)」が設置されるとのこと。推進会議のメンバーの半数以上が障害者や障害者団体の幹部とすることなどとされていることから、このブログで1週間前に取り上げた「制度改革推進委員会」と思われる(まだ名称から「仮称」がとれていないようだし)。
どのような議論がなされるかをみてから評価すべきだが、最初から上滑りしそうな感がある。本部長として、鳩山首相は「推進本部の『障がい』の害はひらがなで、このこと自体意味がある」と述べ、推進本部の設置根拠の3に

「障害」の表記の在り方に関する検討等を行う。

と示されている。これは先週末に「チャレンジド」としてはどうかと報じられたこととつながる。

首相、障害者権利条約締結に努力 「チャレンジド」に変更も
http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009121101000888.html

これでは、障害をどう捉えるかという本質的な議論なしの「言葉遊び」であり、先が思いやられる。「障害」という表記の在り方を検討するならば、そもそも障害とは何なのか、キリスト教の価値観が基礎にある人たちにとって「チャレンジド=チャレンジする人」と表記することの意味を考えるべきであり、「Challenged」を「チャレンジド」とカタカナ表記にして、障害の意味を何となくごまかしてしまったり、それらしく振舞ってしまうようでは、本末転倒。障害の意味をわかったうえで「障害者」と表記して書かれた文章と、障害のことを何もわかっていない、差別的な価値観が基礎にあるけれども「チャレンジド」と表記して書かれた文章とでは、どちらが罪が重いのか。表記を変えても、その意味が理解されていないようでは「言葉遊び」に過ぎない。言葉に魂をこめるには、相当な理解が必要となる。「障害」という言葉を軽く考えてはならない。

そもそも障害とは何なのだろうか。
やはり、基本に戻って理解を深める必要があるだろう。

「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html

この文章を読んでも、真の意味を理解することは難しい(誤って理解するのは簡単だし、専門知識のない普通の人たちの腑に落ちるように説明できる人に会ったことはない)。例えば、ICFの構成要素における、心身機能の障害=disableの一つを「障害」と表記してよいのだろうかという問題である。「視力に障害がある」は機能に障害があることを表す文章だが、そのことによって社会生活をおくるうえで大きな支障がなければ、それを「障害」とは言わないだろう(眼鏡をかければよい)。視力に何らかの障害があり、そのことによって社会生活に支障が生じることこそ「障害」なのであり、視力に障害がある人に対して「障害」と表記すべきではなく、その人を取り巻く社会環境に対して「障害」と表記すべきだし、「障害」と「障害者」を区別して考えるべき(色覚異常があると、就けない職がある)。
このように考えれば、何も考えずに「障がい」と「害」をひらがなで表記することが、本質的な議論と理解を削ぐ一因になりかねないこともわかっていただけるだろう(こう書いておきながら、私も自信がない。このブログを通して、「障害学」の理解を深めていきたい)。

これだけの難しさがあるのだから、閣僚レベルではまともな議論はできないだろう。法整備に向けた考え方など実務的なことは、下部組織に期待したい。
そもそも、厚生労働省は何をしているのだろうか。事業仕分けのブログ記事にも書いたように余計なところには口を出しているにも関わらず、きちんと概念提示しなければならない場では存在感がない。

政府税制調査会、取りまとめ難航 特定扶養控除の縮減を再協議

2009年12月15日 10時03分36秒 | ベーシックインカム
政府税制調査会は、「特定扶養控除(16~22歳)」を縮減しないという方針を見直し、高校生のいる世帯(16~18歳)に限って、国税の所得税を63万円から38万円に、地方税の住民税の45万円を33万円にする案が文部科学省から出されていたことを明らかにした。8日の現行制度の維持の合意は「なくなった」として、再協議に入る模様。

特定扶養控除は、高校から大学に通う子どもがいる世帯の経済的な負担を軽減するためのもの。同じくマニフェストに掲げる高校無償化と目的が一致するために二重取りとの批判があった。また、必要な財源4500億円を確保しなければならないために、18歳で区切って控除額を縮減しようとの考えだろう。
高校無償化に所得制限を設けるべきとの意見が財務省などから出されているため、文部科学省が先手を打ってきたとも考えられる。

特定扶養控除の縮減提案 文科相、高校無償化に伴い
http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009120401000730.html

高校無償化は、公立高校に通う子どもがいる世帯には11万8800円、私立高校に通っていて所得が500万円以下の世帯には23万7600円を支給するというもの。民主党案では、手当を世帯に直接支給する方法だったが、市町村の事務負担が重くなることから、高校への間接支給に切り替える方向で検討が進んでいる。所得制限を設けるとなると、高校に親の所得を伝えなければならなくなり、プライバシーの観点からも子どもの成長の観点からも望ましくない。それならば、学生の数に応じて高校に授業料相当額を交付するようにし、私立高校に通う子どもがいる世帯で所得が500万円以下ならば、市町村窓口などに在学中であることと所得を証明するものを添えて申請すれば、約12万円が支給されるようにすればよい。このようなシンプルな仕組みにすれば、事務経費も抑えられる。

既に低所得層向けの支援制度があるため、新たに始まる高校無償化の恩恵がない。ゆえに所得制限を設けて給付にまわすべきとの意見もある。例えば、高校の授業料免除は、公立高校の10%、私立高校の18%の約43万人が対象となっている。さらに、所得が350万円以下の世帯を対象に入学金などにあてる給付型の奨学金の予算として約120億円、修学旅行費などにあてる予算として455億円が予算計上されている。つまり、低所得層の世帯においては実質的に高校無償化が実現されており、今回の政策によって恩恵がある世帯は、中所得層よりも上。それならば、裕福な世帯には、授業料を負担してもらって、その分を低所得層への給付にあてたほうがよいとも考えられる。
子ども手当にも所得制限を設けるべきとの議論があった。しかし、所得を正確かつ効率的に捕捉する方法がない現時点では、市町村の事務負担が大きくなりすぎ、事務経費が膨大になるとの理由から見送られている(現時点では。決定ではないので注意)。高校無償化に伴う低所得層への直接支給を手厚くすると、同じような問題に直面することになる。

低所得層には、授業料免除に加えて様々な目的で使えるように手当を支給する、中所得層は、授業料免除のみで、教科書代などは自己負担。高所得層は、これまでどおりに全てを自己負担していただく。このようなプラス・マイナスの傾斜をつけると「給付付き税額控除」的になる。このような意味で「所得制限」という言葉を使ってみてはいかがだろうか。

年金照合の経費789億円を減額、照合件数を約2億件に引き下げ

2009年12月14日 09時58分19秒 | 情報化・IT化
概算要求が始まるまで、「宙に浮いた年金記録問題」の解決は、年金への不安を解消するための国家プロジェクトであり、これからの2年間を集中的に取り組む期間と位置づけていた。マニフェストに掲げたことなので、これまで「聖域」のように別枠で扱われてきたが、財源確保のためにはそうも言っていられなくなったようである。

旧政権下で厚生労働省は、年金記録の照合には、「7000人を投入しても10年はかかる」と説明してきた。それに対して、長妻大臣は、これからの2年間で集中的に取り組む。4年後には全件の照合を完了する方針を打ち出し、そのために必要な予算を優先的に注ぎ込む(当初は、プロジェクト全体で2000億円)と説明してきた。
財政状況がこれだけ苦しくなると、何かに取り組むならば、別の何かを諦めなければならない。このブログにそのように書いたのは数日前のことである。

長妻大臣は、次年度の概算要求に盛り込んだ経費789億円について「減る可能性がある」と述べ、これからの2年間の照合件数の目標を6億件から2億件程度に引き下げ、年金を受給中の世代に絞り込んで実施するなどの新たな方針を打ち出した。具体的には、取り組みの初年度は、70歳以上の国民年金受給者の約4000万件。その次の年度に1億数千万件に増やして対応。残る約6億件は、3年目以降に、必要性を判断して取り組むか否かを決めるとしている。
新聞各社が「後退」と表現しているが、政権与党として「現実的」になったともいえる。照合して確認しなければならない=ミスが多いと思われるケースと、それほどミスがないと思われるケースを区別せずに全件の照合に取り組むよりも、ミスが多いと思われるケースに絞り込んで取り組むほうが、投じた予算に対する成果を出しやすい。証拠(ミスがあった件数)を積み上げ、成果(回復した年金額と国民の安心)をアピールしていかないと、これだけの予算を投じた説明がつかない。

年金「4年で全件照合」断念、半分以下に後退
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20091212-OYT1T01229.htm

厚労相、年金照合経費の減額検討 10年度予算
http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009121301000178.html


そもそも、コンピュータの記録と紙台帳の記録を照合するのは、国民の不安や不信を払拭するためである。
1件ずつ照合作業を進めると同時に、記録管理の実態を国民に知らせ、照合により回復したことを知らせる。ミスが多いと思われるケースから取り組み、国民から「予算を使って、もっと急いでほしい」という声が上がるのを待って事業=プロジェクトを拡大する。ほどほどのところでバランスをとって落ち着かせる(きちんと管理されていないのではないかという不安や不信を払拭できれば、所期の目的は達成される)のが現実的な進め方だろう。
社会保険庁や市町村の職員がコンピュータに記録を打ち込んでいた頃は、すべてにおいて「申請主義」が基本だった。コンピュータに打ち込んだデータに抜けがあったり、ミスがあったりすれば、年金受給開始の手続き時に本人が気づくだろう、本人から確認と修正の依頼=申請があれば直せばよい、という考え方である。今日でも「申請主義」は基本だが、あまりに杜撰な管理がなされていることが明らかになってからは、広く情報提供して申請があるまで待つという姿勢では駄目。社会保険庁から「ミスと思われるので確認してほしい」と情報を届け、指示を待つぐらいにしないと、国民の理解が得られないだろう。

国民年金、28万人に支給額ミスか サンプル調査
http://www.asahi.com/national/update/1211/TKY200912110476.html

市町村が国民年金の事務を行っていた頃の記録 1.4億件のうち、2159件のサンプルを抜き出して紙の台帳(市町村)と電子データ(社会保険庁)の不一致率が0.3%。単純推計すると、42万件のデータが間違えており、そのうち年金受給額が回復するのは、28万件ということになる。
これまで、市町村が管理していた国民年金よりも厚生年金のほうがミスが少ないだろうと思われてきた。サンプル調査では、不一致率は、1.4%。年金受給額が回復するのは、256万人(0.4%)と国民年金を上回るとのこと。少々意外だが、何となくわからなくもない。

ナショナルミニマム研究会が初会合

2009年12月13日 10時04分48秒 | ベーシックインカム
憲法に規定されている国が保障すべき「最低限度の生活=ナショナルミニマム」について、具体的な指標を検討する「ナショナルミニマム研究会」が発足し、11日に開催された。残念ながら研究会は非公開で、どのような議論がなされたのかは漏れ聞こえることから推測するしかない。非公開の研究会のため新聞報道もほとんどなく、国民の関心は低いまま。
ナショナルミニマムを考えることは、国民生活がどうあればよいか、国がどこまで関わるべきかを考えることであり、この研究会の運営方法では、あまりにも旧来型。積極的に情報公開していかないと、研究会で出された結論を実行に移そうとしても国民の理解を得られないだろう。非公開にすることで委員が安心して自由に発言できるメリットはある一方で、この研究会の成果を用いて制度見直しの方向性を示せないなどのデメリットもある。議論した結果が報告書として取りまとめられたとしても、その後の制度・政策の見直しにはつながらない(推進力が弱い)。これでは意味がない。このテーマに関しては、デメリットがメリットを上回ると思われる。ぜひとも、研究会の運営方針の見直しをお願いしたい。

「最低限度の生活」を議論=有識者研究会が初会合-厚労省
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2009121100959

厚労省:生活保護水準の調査、検証を確認…研究会が初会合
http://mainichi.jp/select/today/news/20091212k0000m010050000c.html


研究会の主査は、岩田正美日本女子大教授。委員は、湯浅誠内閣府参与や作家の雨宮処凛氏ら。生活保護制度のあり方なども含めて議論し、来春をめどに意見を取りまとめるとのこと。生活保護の補足率が低いことなどが問題とされてきたが、これまで実態調査がなされておらず、具体的な数値=根拠がないために政策として取り組めなかった。そのため、この研究会で議論を進めるためのサンプル調査を実施する模様。今回は、その一部(速報)が研究会で報告されたらしい。

生活保護の母子家庭、就労4割 「健康に自信がない」
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20091211AT1G1103511122009.html

生活保護の70%が健康不安 厚労省調査
http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009121101000801.html

生活保護受給中の母子家庭を調査しているのは、12月から復活した生活保護の母子加算が念頭にあるものと思われる。今年度は予備費から捻出したが、来年度は「事項要求」に留まっており、予算は0円。このまま財源を確保できないと4月から再び母子加算がなくなってしまう。そのため、財務省に生活実態を知らせて予算確保につなげたいのだろうか。財務省では、事項要求は基本的に認めない方針で、厚生労働省内で予算を積み直して対応するか、4月から予備費を狙いにいくぐらいしか打つ手がなくなっている。

厚労と財務、予算編成巡り政務三役で初の協議
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20091210AT3S1001U10122009.html


睡眠時間を削って働いていながら収入は生活保護の受給者世帯を下回ってしまう、基礎年金だけでは暮らしていけない... これが実態である。ナショナルミニマム研究会では、母子加算の予算確保や父子家庭への拡大のための根拠付けに留まることなく、雇用・労働政策を含む社会保障制度全体の見直しに取り組んでいただきたい。国が保障する「最低限度の生活」をどのように定義するかに関しては、社会福祉学で取り組まれてきたが、「貧困・生活困窮者」を取り巻く社会環境は大きく変わっている。生活保護から抜け出すことが「自立」だとし、自立に向かうレールに乗ることが良いことだとの価値観の下で制度の見直しがなされてきた(母子加算の廃止も、この文脈で決定されたこと)。どのような価値観をベースに生活扶助の仕組みを考えていくのか。ここまで遡って、国としてのあり方を議論してほしい。

「就労支援員」大幅増員へ=生活保護受給者の自立支援で-厚労相
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-091212X206.html

ハローワークのワンストップ化、第2弾が決定 14日から

2009年12月12日 10時20分29秒 | その他
11月30日に全国77ヶ所のハローワークで実施されたワンストップサービスが規模を拡大して実施される。今回は全国一斉ではなく、実施する場所と日をずらして年末まで様々な支援サービスが提供される。

まず、来週月曜からの5日間、14日から18日のうち1日を「介護就職デイ」とし、全国すべてのハローワークで介護分野の就職面接会が実施される。締めくくりとして、19日(土)の13:00から、厚生労働省の講堂(霞ヶ関)で大規模イベントが実施される。介護事業者などの出店ブース(50程度)での情報提供や介護の仕事への理解を深めるためのセミナーや相談コーナーを設けるとのこと。詳細は不明だが、事前予約などは不要と思われる。

「介護就職デイ」の実施について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000002z64.html

厚労省がハローワークで介護の面接会を開催―14日から全国で
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-25508.html

全国の有効求人倍率が0.44倍に対して、介護分野は1.33倍と、人手不足の状況が続いている。そのため、全国の事業者が説明会などを実施しているが、年々参加者が減っている(しかも、事務職の希望者ばかり)。仕事がなくて困っている人たちが介護の仕事を積極的に選べるようにしないと、成果は期待できない。あと2日間で何とかなる問題ではないが、並行して取り組まなければならないことである。

介護職目指す学生半減 福岡県内の福祉士養成校、4年間で
http://news.goo.ne.jp/article/nishinippon/region/20091211_local_FT_007-nnp.html


次に、先月末に実施した「ワンストップサービスデイ」と同様の取り組みが21日を中心に全国で実施される。現時点では、全都道府県の332市区町村(16の政令指定都市、34の中核市)が参加する予定。調整が続いている市町村もあるとのことで、さらに規模が大きくなると思われる。
なお、ハローワークごとに実施の日が異なり、市役所の会議室などハローワーク以外の場所でも実施されるとのこと。そのため、参加希望者は事前の確認が必要。先月末の試行後の振り返りで出された「当日になって知った人も多くいる。求職者への周知・情報提供が十分でなかった」などの反省を活かし、厚生労働省、全国のハローワークや参加自治体などが工夫を凝らして、地域住民への情報提供に努めてほしい。

また、年末年始(12月29日から1月3日)に、45の市町村で、生活困窮者向けの生活総合相談が実施される。このブログで、1週間ほど前に「リーマン・ショックで仕事を失った人たちの失業給付受給期間(1年間)が終わろうとしている」と書いたが、全国で約95万人にのぼるとのこと。年末年始を乗り切るためにも、全国の市区町村に展開していただきたい取り組みである。

全都道府県でワンストップ窓口=14日から第2弾-失業者支援
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/business/jiji-091211X140.html

求職・生活支援のワンストップ、21日中心に
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/nation/20091211-567-OYT1T01166.html

子ども手当の地方負担に地方6団体が緊急声明 調整が続く

2009年12月11日 09時49分52秒 | 子ども手当・子育て
子ども手当の財源確保が難航している。鳩山首相が「全額、国が負担するのは当たり前」と援護したにも関わらず、長妻大臣が全額国費が理想だが、「現行(児童手当)の範囲を超えない金額で地方負担に協力いただく選択肢もある」と発言したことから、暗雲が漂い始めた。

原口総務大臣は、児童手当の地方負担分がなくなる代わりに、子育て環境の充実にその分を充てるとの考え方をかねてから明らかにしていただけに、話し合いは平行線のままで調整はついていない。10日には、全国知事会などの地方6団体が、これまでの方針どおり、国が全額負担すべきだとの緊急声明を原口大臣と長浜副大臣(厚生労働)に提出した。全国町村会(山本添田町長)は「地方負担を求められた場合には、支給事務をボイコットする構えだ」や「事務はやらない、皆で拒否する。自分たちで配ればいい」などと述べ、全国知事会(麻生福岡県知事)も「地方負担が一方的に決められれば、国と地方の信頼関係は非常に深刻な事態に陥る」と述べるなど、事前の調整・協議なしの長妻大臣の発言への批判が高まっている。

子ども手当事務ボイコットも=一部財源負担に反発-町村会長
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-091210X828.html

子ども手当、地方負担に反対の緊急声明 全国知事会
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/politics/K2009120804190.html

子ども手当、国が全額負担を 6団体が緊急声明提出
http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009121001000543.html


ここ1~2週間ほどの長妻大臣と厚生労働省の動き方には、疑問を感じる。大臣をサポートしなければならない厚生労働省の役人は、事前の調整・協議なしに地方負担を求めると関係が拗れて、かえって調整が難しくなることぐらいわかっていたはずである。長妻大臣は厚生労働省のトップ=顔なのだから「面従腹背」と決め込まずに、四方八方に手をまわして事態の収拾を図り、多忙を極める大臣を支えるべきである(それとも、政策を実現する力がそこまで低下したのか...)。
このブログで書いたように、子ども手当の実現には財源の確保が必要であり、事業主と地方の負担なしには目処が立たない。マニフェストの実現を優先させるべきと財務省と調整して(国債を発行して)何とか来年度の予算編成を乗り切ったとしても、その翌年度からは、支給額が半額の1万3千円から2万6千円になるため、財源の確保はさらに難航することになる。子どものために借金し、その返済を子どもに付けまわすことはできない。国民の理解を得られないだろう。とはいえ、財源の確保にいくら奔走したとしても、そう簡単には「兆」の単位のお金は出てこない。

国債発行枠「44兆円」明記せず 官房長官、増発を容認
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/politics/K2009121003860.html

恒久的な財源を確保できないと制度を存続できなくなることは、支援費制度からも学んでいるはずである。マニフェストを実現したいならば、政策の優先順位を考え、何かを諦めたり手放したりしなければならなくなる。そうしないと、厚生労働省の予算は膨れる一方になってしまう。民間企業とは違い、制度・政策の「選択と集中」は簡単ではないが、いずれは批判と抵抗を覚悟の上で踏み切る勇気が必要になるだろう。

国保組合の財政状況が明らかに 「剰余金」が約874億円

2009年12月10日 10時00分36秒 | 高齢者医療・介護
「被用者保険」に対する「国民健康保険=国保」というと「市町村国保」を思い浮かべるが、それらとは別に「国民健康保険組合=国保組合」がある。国保組合の存在はそれほど知られていないが、都道府県を単位とする、医師、歯科医師、薬剤師、建築土木や芸能などの職業別の医療保険で、市町村国保とは別である。設立には都道府県知事の認可が必要であり、全国で165の組合がある。

国民健康保険法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S33/S33HO192.html

市町村国保は、第二章 市町村(第5条~第12条)、国保組合は、第三章 国民健康保険組合(第13条~第35条)で別に定められている。国民健康保険の基本は市町村国保であり、第6条(適用除外)の10で国保組合の被保険者は市町村国保の被保険者としないと定められている。


このブログでも書いてきたが、市町村国保が財政的に逼迫しているのに対して、国保組合の財政状況は健全で、朝日新聞の報道によると、多額の「剰余金」を保有しているとのこと。
国保組合の自己負担の少なさ(入院時の自己負担が実質的に0円になる国保組合もある)や医療や健康に関連づけた様々なサービスの充実ぶりへの批判があったが、全国紙が調査して詳しく報じたり、厚生労働省に見解を求めたりすることは珍しい。医療保険者を地域を単位に統合していくにあたって、財政的にかなりの余裕がある国保組合の存在を知らせようという意図、手厚すぎるともいえる国庫補助(約3000億円)を仕分けていこうという意図が感じられる。

報道によると、多くの国保組合で法で定められた額を上回って毎年の剰余金(保険料収入などから給付した額などを除いた額=黒字分)が積み立てられており、法定分を上回る積立金は、727億円(151組合)。それとは別に任意の積立金もあり、総額147億円(31組合)にのぼるとのこと。市町村国保と比べて充実した医療サービスを提供していながら、それだけの剰余金が出ているのだから、国庫補助の水準が高すぎるのではないかという問題提起なのだろう。

昭和30年代に「国民皆保険」が達成されてからは国保組合は設立されていない。国民健康保険=国保といえば市町村国保だが、上記のような既得権益があるために、今日まで解散することなく存続してきたと思われる。後期高齢者医療制度を「廃止」するにあたり、受け皿となる市町村国保の財政を支援するために、来年度から都道府県を単位とする「広域化」の動きが本格化する。その動きに、同じく都道府県を単位とする国保組合が巻き込まれることになれば、「保険料が大幅にあがるにも関わらずサービスの水準は低下する(医師の給与水準ならば、保険料は年間上限額まで上がり、自己負担は3割になる)し、これまで積み上げてきた剰余金は没収される」ことになるのだから、大変である。これまでは市町村国保の影に隠れて人知れず存続してきたが、マスコミで何度も取り上げられるようになれば、巻き込まれないようにと動かざるを得なくなる。失うものが大きいだけに、どのように動いてくるか注視していきたい。

国保組合の「剰余金」800億円以上 国庫補助手厚く
http://www.asahi.com/politics/update/1209/TKY200912080459.html?ref=goo

建設業の11国保組合、入院医療費が実質無料
http://www.asahi.com/health/news/TKY200911290208.html

東京都が高齢者見守りサービス「シルバー交番(仮称)」を2010年度から開始

2009年12月09日 10時39分27秒 | 高齢者医療・介護
このブログで、1ヶ月ほど前に、
・大都市圏の高齢化が一気に進む
・人口が集中している地域が高齢化するため、高齢者の絶対数が現在とは比較にならない
・それだけの高齢者を支える地域社会がないため、代替する何らかのサービスの開発が必要になる
と書いた。

首都圏では、近い将来、確実に65歳以上人口が1000万人を超える。ほとんどは「元気高齢者」とはいえ、高齢者だけの世帯や高齢者一人暮らしの世帯も多くなり、地域社会とのつながり・支え合い感情が希薄な地区においては、将来への不安を抱えながら暮らしていくことになる(現在は、子どもが独立して出て行った後がイメージされるが、これからは、独身のまま高齢者になる人たち=地域社会のみならず家族による支え合いも希薄な人たちが増えていく。時代に合わせて、高齢者世帯の生活イメージを置き変えていかなければならない)。
そのような「時代」を先取りしているとマスコミに取り上げられている地域は、新宿区の「戸山団地」である。取り上げ方は、「都市部に出現した限界集落」で、65歳以上人口が50%を超えている。高度成長期の「団地」なので、ドアを閉めると家のなかがどうなっているのかわからないし、もはや建て替えることもできない。住民である高齢者の引きこもりや孤立を予防するために「団地内の地域コミュニティを再生し、住民による支え合いを」といった緩やかな支援では、もはや間に合わないという状況(=直接的な支援を必要とする深刻な状況)に至っているという位置づけである。その報道の先には、「高度成長期の前後に郊外に整備が進められた集合住宅の多くは、いずれ同じような状況になる」などと、危機感をあおるものとなっている。
都市部の中心に近い地域で「人口の50%超が高齢者」と聞くとなかなか想像できないかもしれないが、あと10~20年もすれば、「人口の40%超が高齢者」となるのは、ほぼ間違いない。都市の一部に限った「特異な光景」ではなく、日本の至るところでみられるようになる「日常の光景」である。現在の六本木ヒルズやミッドタウンなどの超高級マンションは、50年後には「老朽化した超高層マンション(住民の大半を占める高齢者にとって、住みづらい環境)」などと社会問題として扱われるようになるかもしれない。今のうちに都市における「生活」を超高齢社会に適応したものに変えていかないと、都市部は、とても暮らしづらくなるだろう。

都市部において高齢化が一気に進むこともあり、東京都は、都内の区市町村と連携して「シルバー交番(仮称)」を設置しようとしている。設置は、2010年度からで、予算は1億円程度。居宅介護事業者など15ヶ所に設置して、社会福祉士ら2人ずつを配置。具体的な機能は、住民からの相談を受けて、必要な情報を提供したり介護保険サービスや様々な民間サービス・ボランティアなどにつないだりすること。本人が希望すれば、緊急通報装置や各種センサーなどを使った日頃の見守りと安否確認を行うこと。緊急時には誰かがすぐに駆けつけられるようにすることなど、昔ながらの「交番のおまわりさん」の福祉・介護版といった感じである。社会福祉士を配置するからには、シルバー交番が地域社会への働きかけも行って、「困ったことがあれば何でも相談にきてほしい」や「地域の課題を解決するために、一緒に取り組みましょう」といった「地域のつながり・支え合い感情の醸成」も合わせて実施できれば、と期待しているのだろう。
1ヶ所の担当地域は、中学校区2つ分。初年度は、15ヶ所でスタートする予定ということなので、モデル事業の色合いが強いと思われる。地区によっては、地域包括支援センターの役割と機能と一部重なるため、シルバー交番が提供するサービスの問題を洗い出し、解決方法を考えながら先に進める必要がある。

お年寄り見守りにシルバー交番 安否確認、生活援助窓口も
http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009120801000026.html

地域コミュニティが有する住民の支え合い機能・見守り機能が残っている地域においては、このような仕組みは必要としない。支え合いの機能がほとんどない都市部においては、何らかの主体が提供する「サービス」によって機能を代替させ、そのサービスを継続して提供できるような財政的な裏づけ、有償でもいいから提供してほしいと求められるサービスのあり方を考えるべきだろう。

障害者自立支援法の「廃止」に向け、「制度改革推進委員会」が発足予定

2009年12月08日 10時02分14秒 | 自立支援法・障害
高齢者医療制度の「廃止」に関する動きは、連日のように報じられているが、同じくマニフェストに「廃止」が掲げられている障害者自立支援法に関する動きは、ここしばらく何も報じられなかった。

毎日新聞が、久々に「障がい者制度改革推進本部」(本部長・鳩山由紀夫首相)の動きを報じている。「制度改革推進委員会」を設置すること、メンバー20人のうち11人を障害者や障害者団体の幹部とすること、制度・政策の議論に当事者が参加することなどを基本的な方針とするとのこと。これまで、制度・政策を検討するにあたっての障害当事者の関わりは限定的で、せいぜい「ヒアリング対象」だった(しかもアリバイづくり的に)。そのため、障害者自立支援法の成立時には何が決められたのかわからず、制度施行の直前になって抗議行動をおこさざるを得なかった。その反省から、制度設計の最初から障害当事者が参加できるようにし「政策決定のエンジン役」を担ってもらおうというものである。
この考え方は素晴らしいものだが、これから先は大変になるだろう。「障害当事者」といっても「一枚岩」ではない。制度改正の考え方に賛成の団体があると思えば、反対の団体もある。それぞれの団体がそれぞれの理念を掲げて活動しており、その理念に照らし合わせて賛成や反対の論理が組み立てられる。どちらが正しく、どちらが誤っているというものでもない(どちらも正しいというべきか)。そのため、論点によっては、妥協点を見出すことができないこともある。委員会のメンバーの意見が必ずしも「障害当事者」全員の意見を代表しているものではないということが最後の最後になってわかるかもしれない。
多くの困難は予想されるが、従前と比べれば、当事者が議論に参加できることだけでも、とても大きな前進である。この機会を逃すことなく、委員会などから示される「考え方」から何がどうなるのかを誰もがわかるように現実に照らし合わせて咀嚼し、当事者が真の意味の政策決定の「主体」となれるように支援すること(当事者のための制度・政策なのだから、当事者が決定するのは当然のこと)、委員会に賛成や反対の声、実現してほしいことなどの声を届けることが必要である。

<障害者>制度改革へ自ら政策立案 新組織のメンバーに
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091207-00000002-mai-pol

もちろん、障害当事者には、「政策決定のエンジン」の経験も知識もない。このブログでも書いているように、何かを実現しようと思うと、そのための財源を確保しなければならないし、そうするためには誰かが何かを諦めざるを得なくなる。訴えたことがそのまま通らないことも、理念的には納得できないとしても、現実解を受けいれざるを得ないこともある。これまで「障害当事者」は「厚生労働省」と何から何まで敵対したり、一方的な制度の押し付けと一方的な要求といった、良好とはいえない関係にあった。今回の「制度改正推進委員会」をきっかけに、すべての利害関係者が協力して推進できるような関係、対等に話し合えるような関係を目指していただきたい。


また、障害者自立支援法の「廃止」の考え方についても明らかになった。
具体的には、
・現行の応益負担を廃止し、所得に応じた応能負担とする
・制度利用の谷間が生じないように、対象に発達障害や難病、内部障害などを含める
・現行の障害程度区分を見直し、障害者の個々のニーズを反映する新たな認定方法とする
であり、廃止後の法律名は「障がい者総合福祉法」、合わせて「障害者虐待防止法」の成立と「障害者基本法」の改正を目指すというものである。

子ども手当の財源確保に向けて調整続く

2009年12月07日 09時49分24秒 | 子ども手当・子育て
政府税制調査会は、子ども手当の財源として「扶養控除」を廃止することで合意した。
扶養控除は、15歳以下の子供と23~69歳の扶養家族がいる人の課税対象額から一定額を差し引く仕組みで、所得税(38万円)と住民税(33万円)がある。所得税分は2011年1月から、住民税分は2012年1月から廃止の方向で調整中とされている。子ども手当の対象とならない23~69歳の扶養家族がいる世帯(障害者控除の対象者などを含む)は増税になるため、何らかの救済策が必要とされているほか、16~22歳を対象とする「特定扶養控除(63万円)」についても一部縮減を求める声が出ている。

扶養控除の廃止、成年部分は議論を継続 政府税調
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/politics/K2009120404520.html

扶養控除、来年度廃止へ 政府税調、障害者向けに新控除
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/business/K2009120304870.html

これらは、「税と社会保障の一体的な改革」や「控除から手当」といった、民主党の考え方に基づくもの。子ども手当を拡充するならば、扶養控除を廃止・縮減する、高校授業料の実質無償化(間接的な手当の支給)を実現するならば、特定扶養控除を縮減する、と同じ構図である。「控除から手当」は、「控除」には、経済的に苦しい世帯ほど支援を必要としているにも関わらず、所得が一定額を下回ると恩恵を得られくなる問題がある。その問題を解決するため、直接支給できる「手当」に切り替えていこうというもの。控除と手当のバランスをとるため、特定扶養控除を縮減しつつ、一定以上の所得がある場合には、高校授業料の負担を求めるべき(手当の縮減)との声も出てきている(財務省)。逆に、控除がなくなるにも関わらず、手当に相当するものがない人たちには何らかの支援策を設けないとバランスがとれなくなる。例えば、23~69歳の扶養家族には、働きたくても働けない人たちが含まれる。そのため、控除の対象と目的を明確にして「成年障害者等扶養控除(仮称)」を創設する方向で検討が進められている。

高校無償化の家庭、扶養控除縮小を…文科相
http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/politics/20091204-567-OYT1T01120.html

所得制限、改めて否定=高校無償化で-川端文科相
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/politics/jiji-091204X699.html


財源の確保ができなければ、子ども手当を実現することはできない。法案も提出できない。
長妻大臣は「子ども手当の全額国庫負担(2兆3345億円)」を訴えてきたが、扶養控除の廃止(所得税分で約8000億円、住民税分で約6000億円)だけでは足りない。そのため、地方自治体や企業などにも負担を求める案(現行の児童手当の地方負担分は5680億円、事業主負担分は1790億円。なお、国の負担は2690億円)も現実的な選択肢の一つとして浮かんできた。これまでは、その分を子育てを支援するために使うべきといった主張・議論がなされてきただけに、長妻大臣と原口大臣(総務)の話し合いは平行線。簡単に調整はなかなかつきそうにない(ここに挙げた額を全部足し合わせると2兆4千億円余りになることを考えれば、どうすべきかは明確だが)。

子ども手当財源 厚労相と総務相がさや当て、物別れ
http://news.goo.ne.jp/article/asahi/politics/K2009120403920.html

税と社会保障の一体的な改革が進むと、社会保障のあり方も大きく変わる。数年後には「社会保障論」の教科書も大きく変わっているだろう。研究者はこの変化に追いつけるだろうか。