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e-Tetsuによる「アート」と「釣り」の生活誌

『ソフトウェアビジネスの競争力』 & 『ソフトウェア最前線』

2005-05-06 | ◆読んでみた
クスマノと違って、いずれも日本のソフトウェア・ビジネスを取り上げた本である。それぞれの概要は以下の通り。

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『ソフトウェアビジネスの競争力』 ソフトウェア産業研究会

日本におけるソフトウェア・ビジネスの問題点とその原因を分析し、どのようなビジネス・モデルが可能であるかの提唱を行っている。巻末にある独自アンケートによる集計結果も興味深い。

本書は、日本のソフトウェア業界の中心的ビジネスモデルである受託開発型が、品質、コスト、国際競争力の全てにおいて限界にきていることを指摘し、パッケージ型を目指すべきだと提唱する。パッケージ型が日本で根付かない理由として以下を挙げる。

・ユーザーが受託開発を好むため、結果としてパッケージ市場が小さい
・ソフトウェアの価値が人月をベースに測定されている
・政府調達が新規パッケージ開発を促す仕組みとなっていない
・ソフトウェア開発における知的財産権への意識が低い

その上で、ソフトウェア・ビジネスとして可能性のあるモデルとして、

・ASP型によるソフトウェアの提供
・日本が強いとされる組み込みソフト分野

を挙げる。また、ソフトウェア・ビジネスを受託型からパッケージ型へ転換するに際して、ベンダー企業は戦略的決断を行うべきであり、ユーザー企業・業界団体・政府が一体となってそれを支援するべきであるとしている。

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『ソフトウェア最前線―日本の情報サービス産業界に革新をもたらす7つの真実』 前川徹 

こちらはソフトウェア業界のビジネス・モデルという観点よりも、社会のインフラであるソフトウェアの品質と生産性を向上させるにはどうすべきか、という観点から書かれている。

まず現状認識として、社会がソフトウェアに依存していること、そして日本のソフトウェア開発の生産性は必ずしも高くないことを指摘する。以降、以下の通りに、現状の問題点を議論している。

・ソフトウェア工学よりもプロジェクトマネージメントに問題がある
・ウォーターフォール・モデルはソフトウェア開発に適しておらず、ウォーターフォールに適した日本の重層下請け構造は問題である
・優秀なソフトウェア・エンジニアを厚遇するべきであるが、人月ベースの指標がそれを困難としている
・ユーザー側もソフトウェアの品質・生産性向上への貢献を行うべきである

最後の章では、パッケージを指向することでソフトウェア開発の生産性が向上することが指摘されている。

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これらの2冊は、異なる観点から書かれているが、いずれも日本のソフトウェア業界固有の問題点を中心に議論している点、またその一つの解決策としてパッケージソフトウェアを挙げている点で共通している。

誰もが受託開発からパッケージへという議論をしているのを聞くと、そこに何か落とし穴がありそうだと勘繰ってしまう。また、その逆行のロジックもニッチな分野として成り立つだろう。

仮にパッケージへと向かうとしても、パッケージ・ビジネスはハイリスク・ハイリターンであること、受託開発モデルとパッケージ・モデルはビジネスモデルの転換を要するために痛みが伴うことは考慮すべき点である。また、これらにどうに対応するかは、個別企業の事情によって全く異なるのである。