京都童心の会

ほっこりあそぼ 京都洛西の俳句の会
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どちらの和歌が優れている?

2022-04-05 07:54:15 | 俳句
どちらの和歌が優れている?

 平安時代、同じ題で和歌を作り、右方と左方の2チームに分かれ優劣を競う「歌合(うたあわせ)」が行われました。有名な勝負として、次の話が伝わっています。「初恋」の題で、平兼盛と壬生忠見が競いました。
現代語訳を参考に読んでみましょう。

説話  沙石集  兼盛と忠見
【本文】
天徳の御歌合のとき、兼盛、忠見、ともに御随身にて左右についてけり。初恋といふ題を給はりて、忠見、名歌詠み出だしたりと思ひて、兼盛もいかでこれほどの歌詠むべきとぞ思ひける。
恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか
さて、すでに御前にて講じて、判ぜられけるに、兼盛が歌に、
つつめども色に出でにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで
判者ども、名歌なりければ判じ煩ひて、天気を伺ひけるに、帝、忠見が歌をば両三度御詠ありけり。兼盛が歌をば多反御詠ありけるとき、天気左にありとて、兼盛勝ちにけり。
忠見、心憂くおぼえて心ふさがりて、不食の病つきてけり。頼みなき由聞きて、兼盛、とぶらひければ、「別の病にあらず。御歌合のとき、名歌詠み出だしておぼえ侍りしに、殿の『ものや思ふと人の問ふまで』に、あはと思ひて、あさましくおぼえしより、胸ふさがりて、かく重り侍りぬ。」と、つひにみまかりにけり。執心こそ由なけれども、道を執する習ひ、あはれにこそ。ともに名歌にて『拾遺』に入りて侍るにや。
【現代語訳】
 天徳の歌合のとき、平兼盛と壬生忠見は、ともに随身で左方と右方についていた。「初恋」という題をいただいて、忠見は、名歌を詠み出せたと思って、「兼盛もどうしてこれほどの優れた歌を詠むことができるだろうか、いやできないだろう。」と思った。(その歌は)
  恋をしているという私の名が早くも立ってしまったなあ。人知れず思いはじめたのに。
 さて、すでに帝の前で詠みあげて、判者が判定された時に、兼盛の歌に、
  隠しているけれども顔色に出てしまったなあ。私の恋はもの思いをしているのですか
と回りの人が問うほどまでに(なっている)
 判者(審判)達は、二つとも名歌であったので判断に困って、帝のお気持ちをうかがったが、帝は忠見の歌を二~三回をお詠みになった。兼家の歌を何回もお詠みになったとき、帝のお気持ちは左にありと思って、兼家が勝ってしまった。
 負けた忠見は情けなく思われて心がふさがって、食事ができない病気になてしまった。助からないこと(重態だ)と聞いて、兼盛が見舞ったところ、「他の病気ではない。御歌合のとき、名歌を詠み出したと思われましたが、あなたの『ものや思ふと人の問ふまで』に、ああやられたと思って、情けなく思った時より、胸がふさがって、このように、このように病が重くなってしまいました。」と、ついに死んでしまった。執着する心は無駄だけれども、和歌の道に執着する習慣はしみじみと共感する。ともに名歌であって『拾遺和歌集』に入っているということです。
【解説】
・天徳の御歌合・・天徳四年(960年)三月三十日に、村上天皇が催した歌合。
・御随身(みずいじん)・・貴人が外出するときの警護などを行う近衛府の舎人。
・給はり・・謙譲語 いただく
・いかで・・反語  どうして~か、いや・・・
・てふ・・という  ・まだき・・早くも  
・にけり・・「に」完了助動詞「ぬ」連用形  「けり」詠嘆助動詞
・思ひそめ・・思いはじめる  
・こそ(係り助詞 逆接)~しか(過去助動詞「き」已然形結び) 
・御前・・帝の前 ・判ぜられ・・判者(審判)が判定される 「られ」は尊敬助動詞
・つつめ・・隠す  ・ども・・けれども  ・煩ひ・・困って ・天気・・帝のお気持ち
・多反(たへん)・・何回も ・心憂く・・情けなく  ・おぼえ・・思われ
・頼みなき・・助からない  ・由・・こと  ・侍り・・丁寧語 ます
・あは・・ああ、やられた  ・あさましく・・情けなく ・かく・・このように
・重り・・病が重くなる  ・みまかり・・死ぬ 
・執心・・執着する心 仏教では悪とされる。 ・由なけれ・・無駄だ
・あはれに・・しみじみと共感する

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