昨日のスノーモービルのトレースもすっかり消えてしまい、シュカブラだけがアクセントをつけている。少しずつ風が強くなり、すっかり靴まで埋まったスキーの上を粉雪のショールが流れて行く。雲が流れ青い空の切れ目が見え始める。体感温度が急速に下がり、耳と鼻の先が凍り始めた頃雪原は終わりブナの森にはいる。
昨日は気がつかなかったのだが、若木はすっかり雪の下。多分数メーターは積もっているようだ。こちらは昨日から気がついていたのだが、森の中に入るにつれ風音は急速に衰え100メートルほども入るとまったく無風となった。落葉樹の森なのにとても不思議だ。スキーを止め、ゆっくりと空を見上げる。枝がゆれ、枝の先では硬い鞘が新芽を守って春を待っている。差込始めた薄日を反射して鞘の廻りの樹氷がクリスタルのように光っている。目を下に降ろすと、一面の深雪の表面もガラス粉をちりばめたように太陽を反射して光る。よく見ると大木の周りは心なしか低くなり始めている。もうすぐ春、後三月もするとブナいきりとともに一斉に鞘ははじかれ若葉は一夜にして広がり、スプーンカットの地文様の残雪の上に、タペストリーのように雪もみじがちりばめられる。そう思った瞬間に意識は暗転し、ありありとイメージが浮かんだ。
イストリア風のシャトーを背景にしたポインセチアの絨毯を敷き詰めた草原に立つ満開の桜の巨木、月光に照らされた春爛漫。
背景となる山に残る残雪もふくめ、月並みとしか言いようの無い風景の中、桜の下に緋毛氈を広げ杯を交わす。俺=ぼくと見知らぬ二人。(いや分かっているクララと爺さんだ。)ぼくに至っては、念が入った事に夜光杯など傾け、「涼洲詞」など歌っている。しかもぼくと俺は二重写しになって一人になったり二人になったりして揺らいでいる。
なんとも場違いで、異様な風景だとしかいいようがない。クララの奏でる琵琶の音に合わせて俺の口から「涼洲詞」から流れだす。
葡 萄 美 酒 夜 光 杯
欲 飲 琵 琶 馬 上 催
酔 臥 沙 場 君 莫 笑
古 来 征 戦 幾 人 回
ふと気がつくと、背中を軟らかく押され、その刺激に我に返る。振り向くと、オットーがテルモスから注いだ紅茶を指しだしていた。
「有難う。」一口ゆっくりと飲み干すと、コップ代わりのキャップを返しながら口をひらいた。「カラクリがすこしわかってきたと思う、ゆっくりすべりながら話す事にしたいけど良いかい。」
オットーはテルモスのキャップを閉めると、バックパックにしまいこんだ。
昨日は気がつかなかったのだが、若木はすっかり雪の下。多分数メーターは積もっているようだ。こちらは昨日から気がついていたのだが、森の中に入るにつれ風音は急速に衰え100メートルほども入るとまったく無風となった。落葉樹の森なのにとても不思議だ。スキーを止め、ゆっくりと空を見上げる。枝がゆれ、枝の先では硬い鞘が新芽を守って春を待っている。差込始めた薄日を反射して鞘の廻りの樹氷がクリスタルのように光っている。目を下に降ろすと、一面の深雪の表面もガラス粉をちりばめたように太陽を反射して光る。よく見ると大木の周りは心なしか低くなり始めている。もうすぐ春、後三月もするとブナいきりとともに一斉に鞘ははじかれ若葉は一夜にして広がり、スプーンカットの地文様の残雪の上に、タペストリーのように雪もみじがちりばめられる。そう思った瞬間に意識は暗転し、ありありとイメージが浮かんだ。
イストリア風のシャトーを背景にしたポインセチアの絨毯を敷き詰めた草原に立つ満開の桜の巨木、月光に照らされた春爛漫。
背景となる山に残る残雪もふくめ、月並みとしか言いようの無い風景の中、桜の下に緋毛氈を広げ杯を交わす。俺=ぼくと見知らぬ二人。(いや分かっているクララと爺さんだ。)ぼくに至っては、念が入った事に夜光杯など傾け、「涼洲詞」など歌っている。しかもぼくと俺は二重写しになって一人になったり二人になったりして揺らいでいる。
なんとも場違いで、異様な風景だとしかいいようがない。クララの奏でる琵琶の音に合わせて俺の口から「涼洲詞」から流れだす。
葡 萄 美 酒 夜 光 杯
欲 飲 琵 琶 馬 上 催
酔 臥 沙 場 君 莫 笑
古 来 征 戦 幾 人 回
ふと気がつくと、背中を軟らかく押され、その刺激に我に返る。振り向くと、オットーがテルモスから注いだ紅茶を指しだしていた。
「有難う。」一口ゆっくりと飲み干すと、コップ代わりのキャップを返しながら口をひらいた。「カラクリがすこしわかってきたと思う、ゆっくりすべりながら話す事にしたいけど良いかい。」
オットーはテルモスのキャップを閉めると、バックパックにしまいこんだ。
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